【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【20】適材適所~愛とは君が居るということ

きみのために動いて気づく

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 青木はふんぞり返って腕を組んで話を聞いていたが、やがて真面目な顔になり、背を伸ばし言った。
「億ありゃ足りるんだろ」
 その言葉に、宮部は驚くも、御堀は全く動揺もなく頷いた。
「ええ。大丈夫です。ただ、施設のレベルと維持費にもよるので、詳しい計算はまた違いますが」
 青木はふう、とため息をつくと宮部に言った。
「宮部っち、ウンコ呼んで。これはあいつも混ぜた方がいい」
 宮部は頷くと、隣の部屋へ福原を呼びに行った。
 すぐ福原はやってきて、おちゃらけた様子で部屋に入ってきた。
「なんだよ青木君、後輩の前でウンコしろって?」
「ライヴ中にライヴでやれ。それよりもこっちだ」
 いつもなら青木の悪態がもう二十倍くらい出るのだが、それが出ないとは珍しい。
 そう思って福原もソファーに腰を下ろし、青木からファイルを受け取る。
 中身をめくって福原は少し、驚いたようだった。
 青木が言った。
「コイツがこんなの持ってきて、僕に金を出せと」
「ほーん」
 成る程ねえ、確かにこれは鳳でも首席でも、ちょっとしたお坊ちゃんでもまあ無理だわ、という計画だ。
(なんかこいつ、コエーレベルだな)
 御堀のやり口は、正しいといえばどこまでも正しい。
 だけど、この希望はなんというか、子供じみている。
 その賢さと、希望のずれが、まるで青木を見ているように思えて、福原は少し楽しくなる。
 青木は福原を指し、御堀に言った。
「さっきのいっくんの話、最初からこいつにもう一回しろ。こいつのほうが多分、話の内容は深く理解できる。元ユースだしな」
 御堀は頷き、もう一度話を繰り返す。
 福原が元ユースなら、と青木よりもかいつまんで説明できたのは良かったのだが。
 福原の表情からおちゃらけた色が消え、段々と真面目に、真剣な表情になってくる。
 そして眉を潜めると、ふーっと静かに長いため息をついた。
「……で、これって俺っちは億出せば足りるん?」
 宮部が苦笑する。
 仲が悪い二人が、こういうときは全く同じ行動と言動になるからだ。
 バンドの事意外でこうなるのは珍しい。
 御堀は頷いて言った。
「お二人にご協力頂けるのなら、一人の負担はそこまでは。ただ、ケートスを巻き込むのであれば、話は違ってくるかもしれません」
 ケートス、の名前が出て福原の目が光るのは、自身がそこに所属していたからだ。
 それに今も、福原はケートスの名誉顧問な扱いになっているし、福原の妹もケートスのカメラマンとして活動している。
 つまり、福原にとってケートスは特別な存在だ。
(なんかこの子、割とっていうか、かなり有能な子じゃね?)
 幾久の件で青木を巻き込むのは全く間違っていないし、正解とも思う。
 しかしケートスの事となると、福原も混ぜた方が当然良い。
 御堀の希望は、幾久の事だろうけれど、将来のことを考えれば、グラスエッジの為にも、ケートスのためにも、御堀の案はいいことずくめだ。
 そう、『金』の問題さえなければ。
 福原は感心と呆れ、両方を混ぜた感情で御堀に告げた。
「本当に、鳳っていうか、報国院の首席って変わらないのな。さすがっていうか、やっぱりっていうか。俺のことも調べたの?」
「そこまでは。幾にどんな先輩か、って聞いたくらいです」
「ナルホドねぇ」
 御堀が元ファイブクロスのユースだった事は福原も知っている。
 先月、御門寮に泊まった時、幾久は嬉しそうにその事を話していた。
 確かにあれだけサッカーが好きな子が、同じようにサッカーが好きで元ユースの子が寮生になるなんて嬉しいだろうとは思っていたが、これは思わぬ有能さを持っている上。
「お前さ、いっくんの事好きなんだ」
 福原が言うと、御堀は頷き、ぽつりと答えた。
「恩人です。幾がいなけりゃ、僕はこうして、毎日が楽しいなんて思えなかった。報国院の首席を取るだけの、プライドの化け物になってた」
 御堀の言葉は重く、皆が言葉を止めた。
 それは高校生がしょってる、ということではなく、それだけのものを報国院の首席が抱えているからだ。
 だから青木も、話を静かに聞いている。
 報国院は首席や、トップレベルの生徒にしか教えられないことがあって、例え鳳であっても、鳳の下位の場合は知らない鳳の掟というものもある。
 だからこそ、学校は鳳の生徒、特にトップクラスの生徒には甘い。
 それだけのものを、学校が得る事が出来るからだ。
 御堀は顔を上げて言った。
「だから、今度は僕が、幾のために出来る事はなんでもしたい。でも僕に出来るのは計画だけで、この先は何も出来ない」
 やりたい事はある。だけどできない。無力とはこういう事だ。
 夢を告げて喜んで貰うのはたやすい。きっとそれだけでも、幾久は御堀の気持ちが嬉しいと笑ってくれるだろう。
(けど、気持ちだけじゃ駄目なんだ)
 気持ちなんか一瞬の麻薬みたいなものだ。
 そんなもの、そのときが過ぎればただの慰みにしかならない。
 幾久にはまだ知らせていない内緒の野望。
 さすがに学校も、ゼロからは絶対にイエスとは言ってくれなかった。
 だからどうするか。
 力を持った人を引っ張りこんでしまうしかない。
 それも出来るだけ早く。出来るだけ大きな金額を。いますぐに。


 福原から書類を受け取った宮部は、興味を持った中岡とその計画書を読み込む。
 宮部は感心して何度も頷いていた。
「これ、君が一人で作ったの?」
「いえ、先輩の協力を得ました」
「先輩って。これだって、見積もりまで出てるよ?」
 驚く宮部に福原が説明した。
「ここに伝築ってあるだろ?これ伝統建築科の略で建築科のちょっと変わった奴。建築関係の仕事、プロ並みに請けててかなりの実力派なんだよ」
「……変な学校とは思っていたけど、本当に変な学校だな」
 宮部が驚くも福原は「そう?」と言った。
「だって報国院って神社の敷地内にあるし、城下町なんだよ。だったらそれ関連の技術持ってないと町が廃れるし、自前で出来たらこんな強いことないでしょ?実益兼ねまくりだと思うけど」
「そりゃそうだけど」
 ナルホドね、と宮部は感心している。
「―――――で、おれっちと青木君はこの案に賛成」
 福原が言うと、青木も頷く。
 御堀は驚くも、ほっとした表情になると頭を下げた。
「ありがとうございます」
 福原は手を振りながら言った。
「まー別にお前とかいっくんの為だけって訳でもねえから。こういうの、実はちょっとだけ考えてあったんだよ。ここまではっきりした形はなかったけどな」
 福原の言葉に御堀が驚き顔を上げると、宮部が頷いた。
「グラスエッジ、かなり大きくなったろ?社会貢献的なことはこれまでもやってたけど、こういう後輩の育成ってのも、実は話が出てたんだよね。特にアオらは殆どが報国院出身だし、音楽関係については学生時代からかなりのサポートを受けていたわけだし」
 だけど、と宮部が言った。
「実は音楽関係については、グラスエッジの先輩」
「神」
 福原と青木が同時に言い、中岡も頷く。
「……グラスエッジの神とも言える、ピーターアートっていうバンドが報国院の近くに音楽スタジオを作ってね。後輩への育成にも乗り出して、楽器や音響設備も寄付予定なんだよね。つまり、こっちが音楽ですると寄付が過重になるから、他にどうしようかって考えてはいたんだ」
 福原が続けて言った。
「ぶっちゃけ、神がスタジオ作るの数年後とかだったらさ、俺らが先に寄付することになったかもしれないわけで。そうなるといくらなんでもこの要求は無理だったってこと。つまり御堀君だっけ。君はラッキーボーイってわけだ。もしくはいっくんが、かな」
 福原の話を聞いて、青木はふんと鼻を鳴らした。
「いっくんがいるってなら、僕はポケットマネーで払うよ」
「そうでしょうね、青木君バカだもんね」
「ウンコに言われたくねーわ」
 子供くさい喧嘩を始めた二人だが、御堀は深々と頭を下げた。
「本当に、本当にありがとうございます。僕が言っても何のお返しにもならないのは判ってます。でも」
 青木は露骨に表情を歪めて言った。
「勘違いすんな後輩。これはお前のためにするんじゃない。僕らが報国院の為にするんだ」
 青木の肩に腕を置いた福原も、頷きながら言った。
「そーそー!これで俺らもようやく報国院に恩返しできるわけだし。だから御堀君よ、お前だってそうしな」
 福原の言葉に御堀は顔を上げた。
「出世払いって奴だよ。今返したってたいしたことできないなら、将来成功したら、そんとき返せばいいだろ。お前、出世しそうじゃん」
 高校生の分際で、これだけの事を考えて、用意して、ぶっこんでくるなんて、なかなか出来る事じゃない。
 正直、御堀の将来は期待が出来る。
 それが例え、自分のわがままでやったことだとしても。
 御堀はもう一度頭を下げた。
「将来出世して、後輩に尽くします」
「そうしろそうしろ。それでこそ報国院ってもんよ」
「……どうしても諦めるのが嫌でした。先輩達に感謝します」
 御堀の言葉に、福原は笑って言った。
「それでいいんだ。好きっていうのはそういう事だからな」
 青木も頷き言った。
「そう。諦めるもんじゃねーよ。どうすれば通るか考えろ。鳳だろ」
 鳳、というクラスに留まらない、報国院で君臨する意味。
 ただのお飾りでしかないと思っていたのに、先輩達の自信は、きっとこういうところからきているのだろうと御堀は思った。
(雪ちゃん先輩が、なんであんなに)
 自信に満ちて、堂々として、なにかあれば後輩を守る、なんて言えるのか。
 不思議に思っていたけれど、それはきっと好きだからだ。
 好きだから頑張るし、好きだから諦めきれない。
 もし幾久がここまでサッカーを好きだと知らなかったら、御堀はここまでやっただろうか。
 幾久がサッカーにかけた想いを知ったからこそ、自分もサッカーが好きだったことを思い出したんじゃないのか。
 これまでの御堀は、ユースを辞めた事を後悔したことは一度もなかった。
 やるべき事も、将来の目標も、全部決めたつもりでいて、実際その通りに動いていた。
 幾久が居たから、後悔を思い出した。
 和菓子職人になりたかったことも、サッカーをやりたかったことも、本当は騒ぐのだって遊ぶのだって大好きだって事も。
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