【全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【長編】

川端続子

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【25】芙蓉覆水~どんな一瞬の軌道すら、全部覚えて僕らは羽ばたく

先輩も、(無自覚?)たらし

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「こーやってみんなでお風呂入った方が楽しいのに」
「だよなー、おいらもそう思う」
 幾久と時山が「ねー」と顔を見合わせるのを見て、雪充が噴出した。

 シャワーブースには限りがあるので交代でシャワーを使い、幾久は雪充の背中を洗う権利をゲットした。
 といっても、誰も幾久と争うつもりはなかったが。
「恭王寮でも、こうして誰かと背中の流しっことかしたんすか?」
「したねー。タマにも洗って貰ったし、ヤッタにもしてもらったなあ」
「えっ、ズルい!タマ、黙ってたな!」
 幾久が言うと、隣のブースで体を洗っていた児玉が呆れた。
「言う程の事じゃないだろ?」
「言う程の事だよ!明日もオレが雪ちゃん先輩の背中、洗う!」
 雪充があはは、と笑った。
「凄いな、僕の背中って予約制なんだ」
「うす!予約っす!」
 そう言って幾久が雪充の背中を洗い終わると、雪充が今度は幾久の背中を洗った。
 ついでに髪も洗って貰い、シャワーを頭からかけられると、まるで子供になった気分だ。
 見ていた高杉が言った。
「まるでペットじゃのう」
 久坂も頷く。
「ほんと。雪ちゃん面倒見、いいね」
「お前らよりはよっぽどお行儀がいいよ」
 そう言ってトリートメントも済ませた。
「ほら、ぴっかぴか」
 雪充が言うも、高杉と久坂はやっぱり「濡れ狸」「ぶるぶるってしてみなー」とからかうので、幾久はわざと二人の前まで行って、びしょ濡れの髪をぶるぶるっと思いっきり振ってやった。
「うわっ!幾久、なにをする!」
「水が飛んでくるじゃん!」
 その様子を見て時山と山縣が爆笑し、御門寮の大風呂はにぎやかな時間が過ぎたのだった。


 風呂を済ませた後は、皆早めに寝ようという事になった。
「明日、ちょっとした話があるんだよね」
 それもあって、雪充は御門寮へ来たのだという。
「だから今日は疲れてるし、早く寝て、明日いっぱい話しよう」
 雪充の言葉に、皆賛成して、いつもよりは早いが寝ることになった。
 しかも、全員居間で布団を広げて寝る事になったので、部屋中布団だらけになった。
「オレ、雪ちゃん先輩の隣!」
 そういって早速雪充のそばをゲットする幾久に、雪充は「いいよ」と笑う。
「そんでガタ先輩はこっち」
 そう言ってもう片方の布団を幾久が叩く。
「は?なんで俺様がテメーの隣なんだよ」
「だってガタ先輩、誰も隣になりたがらないから。かわいそう」
「いい根性だテメー」
 そう言って山縣は幾久の頬をぐいぐい引っ張る。
 ひゃめてくだふぁいよ、と幾久が反抗するが、場所は幾久の指示通り、隣の布団を選んだ。
 一番端っこの廊下側が山縣、その隣が幾久、その隣が雪充でその隣が児玉だ。
 幾久のほうが四列、そして向かいに御堀達が五列に布団を並べ、部屋の真ん中に頭を向けた。
 幾久の向かいが御堀なので、うつぶせになって顔を上げれば御堀の顔がある。
「へへー、修学旅行みたい」
 幾久が言うと御堀が言った。
「寮で毎日似たようなものでしょ」
「うーん、オレタマと寝てるからなあ。なんかもう兄弟みたいっていうか。しかもタマ先に寝るし」
「俺は早いんだよ」
 深夜のサッカー番組を見ている事が多い幾久は、児玉より眠るのが遅い。
「今日は見なくていいの?」
 雪充の問いに、幾久は「いっす」と答えた。
「どうしても見たかったら再放送あるし、チャンピオンズリーグがあるわけでもないし」
「そう」
 じゃあいいか、という雪充に頷き、時山が言った。
「じゃあ、電気消すよ。おやすみーみんな」
 おやすみなさい、と言って御門寮の明かりが消えた。
 さっきまでの賑やかさが嘘のように静かだった。


 ぽかぽかと温かい布団の中で幾久は目を覚ました。
 ふう、と息を吐き、まだ開かない目のまま、いつものように手探りで眼鏡を探す。
 枕もとの眼鏡を掴むと、隣に誰かが眠っていて、そのせいで暖かかったのかと気づく。
 いつも児玉が隣で眠っているので、ついまた幾久が寒さのあまりに児玉の布団に侵入してしまったのかと思い、「タマごめん」と言いかけて幾久は目玉が飛び出る程驚いた。
「ゆっ……!」
 幾久と同じ布団でスヤスヤ眠っていたのは大好きな先輩の雪充で、幾久は思わず叫びそうになった声を手で慌ててふさいだ。
 幾久が動いたせいで雪充が目を覚ました。
「……あれ、いっくん起きたんだ。おはよう」
「おおおおおお、おは」
 なんで雪充が隣に居るんだ?と考えて確かに夕べ、隣で寝た事を思い出すが少なくとも同じ布団ではなかったはずだ。
 雪充が「うーん」と言いながら「何時?」と尋ねた。
 幾久はスマホを手に取り、時間を見た。
「えと、ろくじはん、っス」
「まだ早いな。もうちょっと寝てよ」
 そう言ってごそごそと布団の中へもぐりこむ。
 よくよく見ると、幾久の布団に雪充が居て、幾久が雪充の布団に入り込んでいるわけではなかった。
 ちょっとほっとしつつ、どうしようかな、と幾久が思っていると、体をがっしり掴まれて、ずるずると布団の中に引きずり込まれた。
「え、え?」
 驚く幾久を雪充はぎゅっと腕の中で抱きしめた。
「もうちょっと寝てよ。誰も起きてないし」
 そういってふわあ、とあくびをしてすやすや眠ってしまった。
 幾久は雪充に抱きしめられたまま、(ひょっとして天国なのかな?)と思いつつ、雪充に抱きしめられたまま、目を閉じた。


 再び目が覚めた時は、もう八時近くなっていた。
 皆がばたばたと起き上るざわめきで目が覚めた。
「うーん……」
 さすがに二度寝の後となると目を開いてもそこまでではない。
 あれ、眼鏡いつ外したっけ、と思っていると「はい」と渡された。
「どもっす……」
 幾久は眼鏡を受け取った後、それが隣で肘をついている雪充からだと気づくと思い切り目を覚ました。
「おはよういっくん。よく眠れた?」
「あ、あの、ハイっす」
 髪が寝ぐせでくしゃっとなっていても、やっぱり雪充はイケメンだなあ、と幾久はしみじみと思った。
「顔洗いに行くだろ?一緒に行こう」
「あ、はい」
 幾久と雪充は一緒に洗面所へと向かった。


 すでに寮の中はみんな起きていて、部屋はどこへ行っても暖かい。
 幾久と雪充が顔を洗って着替えを済ませると、すでに布団は畳まれていた。
「布団、タマ?」
「おーよ。ついでに片付けといた」
「サンキュー!助かった!」
「ありがとう、タマ」
 幾久と雪充がお礼を言うと、児玉が「いーよ」と笑う。
「栄人先輩と、時山先輩が朝飯用意してくれてるから、こっちで食おうってさ」
 人数が多いのでダイニングは使えず居間を使うので、片付けは急いだほうが良いという判断だ。
「わかった。手伝いは?」
「いま人数いるからかえって邪魔だってさ。テーブル出してこーぜ」
 児玉の言葉に幾久と雪充が頷き、先にテーブルを用意することになった。
 幾久はテーブルを運びながら雪充に尋ねた。
「あの、雪ちゃん先輩、さっきみたいなのが、赤根先輩は全部言わなかったって事っすか?」
「そう。僕もタマにお礼を伝えたし、いっくんもお礼をきちんと伝えたよね」
 幾久は頷く。
 布団を片付けてくれた児玉に、幾久は「サンキュー、助かった」と伝えたし、雪充も「ありがとう」と伝えた。
「赤根はどういう時でも『すまないな』と言うだけだった。だから、結局寮の中で微妙になっていく。どんなに小さくても、一回一回をきちんと終わらせないと、少しは誤魔化せても最後には大きな間違いになってしまうんだよ」
 数学に似ているかもね、と雪充は言った。
「最初の計算がわずかに間違っていると、長い問題で絶対にズレて間違いになるだろ?わずかだから修正きくってことはないよね」
 幾久は頷く。
「数学だけじゃないけど、なんでも最初の定義が間違うと、いろんなずれが出てしまうんだよ」
 幾久は覚えがある事に頷いた。
「オレが秋に、ハル先輩に間違えたのもそういう事だったって判ります」
 思えば微妙な事はいろいろあった。
 高杉が忙しくしているのも、久坂が珍しく面倒に自分から首を突っ込んでいるのも、ちょっと考えれはそれがなぜかと判るはずだった。
 だけど幾久は『高杉は優秀でなんでもできる』と思い込んでいたから、何を押し付けても大丈夫だと判断した。
「こういうズレって、ちっさいから自分では気づかないんスよね」
 恥ずかしいけど、幾久は久坂に叩かれてやっと、というか叩かれても気づかなかった。
 自分が何を間違えたのかそればかりで、久坂がどうしてああいう行動に出たのかを考えなかった。
 まず自分のミスを修正するために動いた。
 そもそもそれこそが間違いの始まりだった。
 ミスをしたのはなぜそれが起きたのかを考えず、間違いの真意を考えずに修正案ばかり出してしまった。
 それでは同じ失敗をするだけだと栄人にも言われた。
 あの時は判らなかったけれど、今はそれが理解できる。
 雪充が言った。
「小さいズレの時点で気づけたらそれは凄い事だけど、なかなかそれは難しいよね。そういうの山縣が得意だけど」
「雪ちゃん先輩ってガタ先輩への評価が高いっスよね」
 いつも喧嘩ばかりして幾久を奴隷扱いする山縣への高評価は幾久は不思議でならない。
 確かに評価すべき所はあるし、幾久が高杉に失礼を働いた時に一番助けてくれたのは山縣だった。
 そういう部分への感謝は確かにあるが、他の部分の余計な事が多すぎる。
 幾久がそう不満を漏らすと「まあそこは判る」と雪充も賛同してくれた。
「ただ、そういう細かいところに山縣が気づくのは事実で、それをどうやってるのか、判ってやってるのかって聞いたことはあるんだ」
「ガタ先輩は、なんて言ったんスか?」
 幾久と雪充の話を聞いていた児玉が興味深げに近づいてきて、児玉が言った。
「俺も聞いてていいっすか。聞きたいっス」
 律儀にそう尋ねる児玉に雪充は「いいよ」と頷く。
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