【全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【長編】

川端続子

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【25】芙蓉覆水~どんな一瞬の軌道すら、全部覚えて僕らは羽ばたく

雪充、お札(ふだ)をばらまく

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 テーブルを拭いたり作業の手を休めず、雪充は言った。
「山縣は、トラブルが起きて『から』対処するんじゃなく、ありとあらゆるトラブルを『妄想』しておくんだそうだ」
「妄想?」
 幾久が言うと雪充が「そう」と頷いた。
「この寮や学校の連中を漫画とかアニメみたいにキャラクター化して、こういう問題が起こりそうだな、と勝手に妄想しておくと。そうしたら、全く同じ問題が起こる事はないが、似たような事は起こりうると。それなら先に対処が出来るだろ?」
 成程、と児玉が感心した。
「幾久が前、鷹にボール投げられるような事を先に想像しておくって事か」
「そういう事。例えば、外でなにかを行う上に、外は暗くて見えない可能性が高いなら、なにかいっくんに対して行動を起こす可能性は大きい。じゃあ、そいつらが何をやってるかを常に確認しておく、もしくはその前から逆に『何もできないように』無理矢理用事を作って仕事を与えておく。あの場合なら、校内清掃とかかな。先生の目がある場所で」
「成程―!確かにそうしといたら、問題はおこんなかったっスね」
 後で確認したら、あの二人は部活動にも参加せず、クラスの出し物にも参加せず、ずっとぶらぶらしていただけだそうだ。
 それじゃあ、何も面白くなかっただろうにと話を知った幾久は思ったものだ。
「そういう連中は、周布が預かる事が多かったんだ。伝築は常に一緒に行動するし、作業が多いから協力も必要になる。桜柳祭の時だってかなり一緒の時間、あっただろ?」
 幾久は頷く。
 周布はまるで地球部の面子みたいに、舞台にずっと参加してサポートしてくれていた。
「あいつは一年の時から地球部に参加してくれてたし、なにかと手伝ってくれたんだ。器用だしな。シビアな所はあるけど、基本は面倒見のいいやつだよ」
 雪充の言葉に児玉が頷く。
「それは判ります。あの先輩いなかったら、恭王寮の連中どうなってたか」
 周布が面倒に手を挙げて、やる、と言ったからどうにかなったものの、そうでなければあの二人は、退学、もしくは自主退学しかなかっただろう。
「山縣の意見は時々、それって考えすぎじゃないかと思うんだけど、考え過ぎを判った上で計画しとけばそこまでいかないって言うんだよ。実際、山縣が考えておいたことで、『考えすぎ以上』まで行ったことは今まで一度もない」
 殆どが外すけどな、と雪充は笑う。
「けどさ、別に外してもいいんだよ。『問題がおきない、おきてもすぐ処理する』のが目的なわけであって、山縣を預言者としておきたいわけじゃないんだから。これも山縣の受け売りだけど」
「確かに、殴られたりポイント失うわけじゃないなら、別に百手打っといてもそのうちひとつの問題がおきないなら、それでいいですもんね」
 児玉の言葉に雪充が「そう」と頷く。
「山縣だって馬鹿じゃないから、あまりにも馬鹿げた事は言わないよ。でも、『ひょっとしたら、可能性があって、それが起こるととんでもなく処理に時間がかかる』ことは、事前に考えて教えてくれる。僕はそれを、協力できることは協力する。少なくとも、そのおかげかどうかは判らないけれど、大抵の事は回避できたと思ってる」
 雪充の説明を聞いて、幾久は納得することがあった。
 あんなに面倒くさがりで、横暴でオタクで暴君な山縣だけど、おかしなことも妙な事も、雪充はそれを物差しに使っていない。
 山縣の言う事をフラットに聞いて、考えて判断しているだけだ。
 赤根のように決めつけて話すことがない。
「雪ちゃん先輩って、鳳っすねえ」
 感心したように言う幾久に、雪充は笑った。
「だった、だよ」
「あ、そか」
 でも、と幾久は言った。
「なんかそういうの、鳳って感じがする」
 オレもがんばらなきゃなーと幾久が言うと、雪充が「がんばってね」と頷いた。

 テーブルのセッティングが終わり、ホットプレートが用意された。
 ホットプレートは二つ用意されて、片方はフルーツや生クリームを乗せる甘いホットケーキが作られ、もう片方はピザ風のパンケーキが作られてあった。
「うっまそー!!!」
 幾久が喜ぶと時山が「だろ?」と頷いた。
「こっちがそば粉を使った、ガレット風味のしょっぱいパンケーキ!うっまいぞー!」
 ベーコンやソーセージ、色とりどりの野菜にたっぷりチーズが乗っかっていて、見るからに食欲をそそる。
 飲み物も大量に用意され、全員で卓を囲んだ。
「いっただきまーす!」
 幾久の号令に、全員が大きな声で「いただきまーす!」とあいさつした。
 幾久は相変わらず雪充の隣についていたが、その幾久の隣に時山が座った。
 三年生は三年生で固まるから、幾久が三年の中に割り込んでいる形になるのだが、雪充の隣のポジションを確保しているので仕方がない。
 幾久の皿に雪充がホットケーキを運ぶ。
「はいいっくん、沢山食べるんだよ」
「はいっす!」
 その様子を見て久坂と高杉が呆れて言った。
「また甘やかす」
「自分でなんもできんようになるぞ」
「だからいいんだよ。一年分甘やかしてるんだから」
 雪充の言葉に幾久はなるほどな、と思った。
「存分に甘えます」
「それでいいよ」
 あはは、と雪充が言って、フォークで刺したケーキを幾久の口に運んだ。
「はいいっくん、あーん」
「あーん」
 その様子を見て、御堀がもう駄目だと噴出した。
「おい幾久、いい加減にしないと誉が笑い死ぬぞ」
 児玉が言うが幾久は首を横に振った。
「がんばって生きてくれ誉。オレは素直に甘える」
 そう言って再びあーんと口を開く幾久に、御堀はとうとうお腹を抱えて転がった。
「……もう駄目……っ、お腹、くるしい……」
「そこまで笑う事かよ」
 幾久が言うも、御堀が涙をぬぐいながら言った。
「だって、どう見ても餌付けされている狸だし」
 御堀の言葉に、今度は幾久以外の全員が爆笑して、食事はなかなか進まなかった。



「へー、だったら土日に粉ものってトッキー先輩からの伝統だったんすか」
 もぐもぐと朝食を食べながら幾久が言った。
「そう。おいらが麗子さんの飯、食えねえなら、いっそ土日は自分らでやるようにしたら麗子さん休めるじゃんってなってさ」
「え、麗子さん、土日も食事作ってたんすか?」
 麗子は基本、土日は休みになっているので、週末は自分たちで作るか、または麗子さんが作りに来てくれることもある。
 宇佐美が魚を持ってくる場合もあるし、いろいろだ。
「寮母さんだから、本来なら土日、関係ないんだけど、うちはそこまでじゃないからね」
 休みと言いながら、たまに土日に料理を作ってくれることもあるし、宇佐美が魚を持ってくることもある。
「ちなみに今夜は鍋の予定だから!おいらが作っちゃる!」
 どんっと胸を叩いて時山が言うので幾久は「楽しみっス」と答えた。


 雪充が一年生らと話をする事になり、その場には幾久と御堀、児玉が残った。
 山縣は部屋の片づけへ、時山は曰くその手伝いという名前の邪魔へ、そして栄人はバイトに出かけ、久坂と高杉は部屋に籠った。
「で、雪ちゃん先輩、話って何、スか?」
 御堀にお茶を入れて貰い、三人は居間でちゃぶ台を囲む。
「うん。実は、修学旅行の事なんだけど」
「修学旅行?」
 幾久は首を傾げる。
 というのも、報国院には修学旅行というものが、千鳥クラスにしかない。
 鳩クラス以上であれば、希望を出せば千鳥の修学旅行に参加できるのだが、行き先がスキー場とあって、滅多に行きたがる生徒はいない。
「知っての通り、報国院には修学旅行っていうシステムが、鳩以上にはないんだ。その代わり、好きな場所へ行っていい、経費は学校が支払うって言うシステムがある」
 それは幾久達も知っていた。
 勉強の為になるなら、という名目で鳳以下は希望を出して、通ればその旅費を学校が負担してくれる。
「ガタ先輩なんかそれ使ってイベントに行ってたんスよね」
「その通り」
 ダンスで儲けていたのも事実だが、山縣が学校に申請してイベントの経費を賄っていた事にも幾久は驚いた。
「あいつは申請が通りやすくなるように、経済研究部の梅屋と協力していたからな。梅屋も全く知らないジャンルの事が山縣のおかげで判るって喜んでいたし」
 俗に言う、win-winの関係だったそうだ。
「確かにああいう関係見たら、ただの友達付き合いとはちょっと違うって感じ」
 幾久が言うと児玉も頷く。
「山縣先輩、友達はいないって言ってたけど、そうでもねえじゃんって思ってたけど、実は実際そうなのかもな」
「そうだね。僕は勝手に山縣を友人の枠に入れてるけど、山縣にとってはみんな協力してるだけに過ぎないし、だらだら休み時間に無駄なお喋りをすることもないし。山縣にとってコミュニケーションは無駄って思ってるんだろうなって」
「それは判るっス」
 山縣は、高杉に似ていて無駄を嫌うのだが、その『無駄』の選択が一般人とはズレている。
 よって、赤根との雑誌事件のような事になるのだと判る。
 実際は山縣は自分に必要なものをちゃんとわかっていて、その為に必要な事はきちんと行っている。
 例えば寮の采配であるとか、桜柳祭で協力するとか。
「で、話を戻すけど、修学旅行、というものがない代わりに、寮で遊びに行くとか、クラスメイトと遊びに行く、っていうのはよくやるんだ」
 雪充も、勿論これまで、友人らと遊びに行ったりしたことはあるのだという。
「で、今回僕が御門寮に帰ってきたのは、その話をする為なんだ。いっくん、御堀、タマ」
 三人は「はい」と雪充を見据えた。

「一緒に伊勢に行こう」

 雪充の唐突な提案に、三人は驚いた。
「―――――伊勢、っすか?」
「そう。いっくん行った事ある?」
 幾久は首を横に振った。
「ないっす」
「俺も」
 児玉が言う。
「御堀は?ありそうな雰囲気だけど」
 雪充が尋ねると「あります」と頷いた。
「家族旅行?」
 幾久が尋ねると、御堀は首を横に振った。
「地元神社の関係者で団体旅行があるんだけど、そういう場合大抵神社関係に行くんだよ。伊勢は行った事があります。子供の頃ですけど」
 そっか、と雪充は頷いた。
「もし嫌じゃなければ、僕らと一緒に伊勢に行かないか?旅費の心配はないから」
「ひょっとして、報国院から出るんですか?」
 御堀の問いに雪充は頷いた。
「そう。元々、瑞祥とハルは誘ってて。で、興味ある奴に声かけたら、前原と周布も一緒に行きたいって言ってさ」
「前原先輩と、周布先輩が」
 幾久は驚く。
 前原は桜柳寮の元提督だし、周布は報国寮の代表だった。
「ほかにもちょっと声かけてみようかなって思っててさ。二泊か、三泊か、考えてるんだけど」
「そんなに長く、未成年だけで?」
 幾久が尋ねると雪充は「いや」と首を横に振った。
「三吉先生がついてきてくれることになってるよ」
 雪充が言うには、多分十五人いかないくらいの旅になるという。
「それが嫌じゃなかったら、一緒に伊勢に」
「行くっス!」
「行きます!」
「参加します」
 一年生三人は、全員即決だった。
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