【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【26】秉燭夜遊~さよならアルクアラウンド

ホント君らは楽でいいわあ(涙)

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 時間を過ぎ、店が閉まり始めたので全員は歩いて宿泊場所へ向かった。
 確かに歩いてすぐでアクセスがかなり良い。
 伊勢のお参りに参加するために作られたという場所で、普通の何の変哲もない旅館だった。
 チェックインを済ませて部屋へ向かうが、雪充が言った。
「部屋は四部屋取ってある。まず僕、いっくんと御堀、普の四人。
 次に前原、ハル、タマ、山田。その次が周布、瑞祥、服部にヤッタ。三吉先生は一人で、部屋は全部横並びだ」
「えっ、ハル先輩と瑞祥先輩が一緒じゃないなんて」
 いつも常にべったり一緒な二人が離れるなんて珍しい、と幾久は驚く。
「でも部屋は近いし、どうせどこかに集まるだろ?」
 雪充に言われれば、それもそうだな、と思った。
「和室だし、部屋は十二畳あるから広いよ」
 十二畳はけっこうな広さだ。そこが一部屋とはなかなか贅沢な取り方をするんだなと幾久は思った。


 部屋に入ると、広い和室で、広縁にはテーブルと椅子が置いてあった。
「トイレとお風呂は共同。廊下に出たらすぐ場所は判るよ。お風呂はみんな一緒に行こう。貴重品は金庫に入れて。鍵は僕が管理するよ」
 雪充が言うので「お願いしまーす」と一年生は頷く。
「でもなんで、今回こんな分け方なんスか?」
 幾久にしてみたら、てっきり寮ごとで適当に分けると思っていたし、高杉と久坂が離れているのも珍しい。
「ぼくもそれ思いました。なんかあるんですか?」
 普が尋ねると、雪充は頷いた。
「食事の時間まで、お茶でも飲みながら話そっか」
 やっぱりなにか思惑があるんだな、と幾久と御堀、普は目を見合わせた。



 僕たちは同じ名前の違う場所を歩く

「つまりね、唐突だけど、前原は普か、山田に桜柳寮を継がせるつもりなんだよ」
 茶櫃(ちゃびつ)に入っていたお茶を御堀が丁寧に入れ、全員分を揃えると雪充は突然そう告げた。
 普は一瞬、驚いていた顔をしていたが、「そっか」と納得した様子だった。
「ひょっとしたらそうなのかなって思ってたけど、やっぱりそうなんですね」
「普、なんか予感あったの?」
 幾久の問いに普は首を横に振った。
「いや、正直桜柳寮は、ぼくよか向いてるの他に居るし。だからサブ扱いなら成程なあって」
「向いてる?」
 幾久が首を傾げると、御堀が言った。
「御空ですよね」
「えっ、そうなんだ」
 御堀が桜柳寮の跡継ぎという立場を考えて欲しい、と言われ、いろんなプレッシャーに耐え切れず逃げ出したのは秋の事だ。
 御堀が御門に来てしまったという事は、桜柳寮も別の跡継ぎが必要というのは判るのだが。
「そりゃ、御空が一番向いてると思うよ」
 きっぱりと言う御堀に幾久は「どうして?」と首を傾げた。
 ヒーロー好きで責任感も強いが、割と自信が持てなくていつも鳳から落ちるのを冷や冷やしているのに、鳳の代表格ともあろう桜柳寮を任せるなんて。
「どうしてっすか?雪ちゃん先輩」
「そうだね。まずは『許さない』って事が出来る融通のなさかな」
「寮のトップって融通いりそうな雰囲気っスけど」
 雪充を見ていても、実質高杉に任せていたとはいえ山縣も、融通がききそうなものだが。
「そう?山縣はけっこう厳しかっただろ?」
 雪充に言われ、幾久はうーん、と考えて「確かに」と思い出した。
 幾久が秋に、高杉に対して失敗してしまった時、山縣は幾久を『追い出すぞ』と告げた。
 あれは脅しでもなんでもなく、本当に幾久を追い出すつもりだった。
「僕だってタマが問題起こした時、恭王寮から追い出しただろ?あれは許さないからだよ」
 ちょっと心配そうな雰囲気になった幾久に雪充は「名目上はね」と付け加えた。
「なんだ、ちょっとびっくりした」
「寮の代表ってね、ある意味融通のきかなさがいるんだよ。特に自治領は寮の代表に采配が任されるから、寮生の言う通りにしてたらあっという間に手が付けられなくなる」
 そう言われてみれば、二年の入江は恭王寮に移ったが性格は割と頑固なところがある。
 服部もだ。
「一緒の寮だと、性格はもう判るだろ?だから今回の寮は、性格を見るわけじゃなくて引継ぎに近いかな。寮の特性を最も抱えているのが寮の代表だから、近くに居てなにか学んでほしいっていうか」
「―――――そっか、だから普は雪ちゃん先輩と一緒なんだ」
 普は雪充に尋ねた。
「じゃあ、いっくんは?いっくんも雪ちゃん先輩から」
「や、だっていっくんは僕と一緒に居たがるだろうし、言う事聞かないでしょ?」
「はいっす!」
 思い切り頷く幾久に御堀が「褒められてないよ」と呆れる。
「オレは関係ないよ。恭王寮の跡継ぎだったタマ様に、桜柳寮の跡継ぎだった誉様もいんじゃん。おまかせ。めんどい」
 そういってごろんと畳に横になる幾久に、雪充は苦笑した。
「確かに御門は人数の割に人材に恵まれたね」
「そう!だからオレはなんもしなくていっす!」
「でもいっくんは割と理解してるから、それでいいと思うよ」
「理解、とは?」
 御堀が尋ねると雪充が頷く。
「いろんな事を寮に例えられるだろ?今日だって周布が話してた建築の事を『寮みたいだ』って言ってたし」
「そういえばそうだったね。いっくん、よくああいうの思いついて凄いなって」
 山田も普もそこを感心していたが、普がはっと気づく。
「そっか。そういう考え方が出来るようになるか、前原提督は観察してるのか」
「そう。鳳なら大まかには出来てるはずだけど、二年になれば大学受験の準備も始まるし、かといって桜柳祭は二年が本腰を入れないとどうにもならない」
「早く一人前になれって事ですね。判りました」
 あっさり御堀が言うも、普は言った。
「みほりんはそりゃ出来てるけどさ、ぼくらは中々難しいよ?案外いっくんも鍛えられてるしさあ」
「そうかなあ」
「そーだよ!だから御空は高杉先輩とか、前原提督と一緒って事なんでしょ?」
 高杉の同室は、児玉、山田、前原になる。
 確かに引継ぎや教育と考えた場合、高杉から学ぶことは多いだろう。
「御空、タマちんの事大好きだもんね」
 うんうん、と頷く普に幾久はそっか、と気づく。
「確かハル先輩にあこがれてるんだよね」
 山田は高杉や児玉といった、男らしいタイプに憧れがあるようで、意識しているのが丸わかりだ。
「確かに、タマもハルも、判りやすいヒーロー気質だよね」
 雪充の言葉に幾久は、確かにな、と思った。
 高杉も児玉も、はっきり物事を言うタイプだし、困っっている事があればすぐに手を差し伸べてくれる。
 山縣曰く、高杉はそこまでお節介じゃないと言っていたが、幾久にとっては栄人の次に面倒見がいい先輩だ。
「瑞祥先輩なんか、悪の組織側ですもんね、どう見ても」
 幾久の言葉に、他の三人が噴出した。


 お喋りを続けているうちに夕食の時間になり、全員は食事の会場へ向かった。
 食事会場はテーブルが並んでいて、まるで学校の学食のようだった。
 食事は皆同じで、伊勢の名物や郷土料理が用意された。
 そこで幾久はふと気づく。
「三吉先生、お酒飲まないんですか?」
 すると三吉は物凄く不満げな表情になって言った。
「明日の参拝が終わるまで、私は禁酒です」
「えっ、辛そう」
 三吉が無類の酒好きなのは幾久もよく知っている。
 年末なんかずっと久坂家で酒を飲んでいたし、初日の出を見に行った時なんか歩きながら飲んでいたくらいだったというのに。
「―――――つらいけど、仕事だから仕方ないんだよ。今日は我慢。明日の午前中までだからね!」
「そういや明日、お参りするんでしたっけ」
 今日はあちこちの神社を巡ったが、伊勢の本骨頂と言えば内宮と呼ばれる大きな神社をお参りすることだ。
「そう。朝ごはん食べたら、全員制服に着替えて行きます」
「なんで制服なんスか?」
 一応、言われたとおりに礼服スタイルの制服は、卒業生以外全員が持ってきた。
 しかも靴も革靴で普段使わない帽子まで持って来いとあった。
「正式参拝っていうのするのと、おはらいを受けるからです。これは学校行事だからね、仕方ないの。伊勢だからちゃんとしなさいっていう命令。証拠写真も必要なんです」
 それでか、と幾久は納得した。
(やっぱり伊勢だから厳しいのかなあ)
 幾久は全く興味もないままに参加したので、ろくにパンフレットも読んでおらず、せいぜい美味しそうなものにチェックを入れたくらいだ。
「ここから内宮は近いから、制服でお参りとおはらいが終わったら、いったん帰って来てみんな着替えて、それからはずっと自由です。好きに遊んでいいし、どっかに出かけてもいいです。夕食までに帰ってくればね」
 三吉の言葉に全員がやったー!と喜ぶ。
「オレ、お土産たくさん買いたい!」
「ぼく伊勢うどん食べてみたいなー」
 盛り上がる一年生らに三吉は言った。
「なんでも好きにしなさい。君らは悪い事しないんだから」
「伊勢で悪い事って何かできます?」
 神社とお土産屋さんくらいしかないのに、一体何かできるのかと考えたのだが三吉は憎々し気な顔で言った。
「馬鹿はね、どんな状況でもますます馬鹿な状況を作り出す天才なんだよ……」
 話を聞いていた雪充と御堀が「判る」と頷いて、なんだか桜柳会は大変なんだな、と幾久は察した。
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