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第二章、悪役令嬢

花の冠

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もう、トワイトは城から抜け出そうなどとは考えなくなった。

ロバートがいる。
彼女にとって彼はかけがえのない人。

国王や女王に否定されようと、誰とも婚約する気にはなれなかった。
あれから婚約の話は幾らか持ち掛けられたが、彼女にとってはどうでも良かった。

ルシ子爵が忘れられないわけではない。

いつも心の片隅にはロバートがいて、ロバートを裏切ってしまうような気がしてならないのだ。


「ああ、いらっしゃった。リアがどうしてもトワイト様と遊びたいと聞かなくて…お忙しいところ呼び出して申し訳ありません。」

日が段々長くなってきた初夏。
城の裏庭にトワイトを呼び出したのは姉、ロゼリアの旦那エルドレッドだ。

あの一件から二年経った今では、すっかり可愛く成長した二人の娘、リリアーナ。今年で三歳になる。

「とわいとさま!とわいとさま!おはなのかんむりのつくりかたをおしえてください!」

リリアーナは花が大好きな女の子。
ロゼリアの影響かとトワイトは思った。

幼い頃、ロゼリアは部屋に溢れんばかりの花を花瓶に摘んでは、部屋に大量に置き、花の香りが漂う部屋を見せてきた。

色々な花の香りが漂う部屋。

ごちゃごちゃしているけれど花に囲まれた部屋に佇み、にこにこと微笑んでいるロゼリアは、花の妖精のようで、美しいと思った。

リリアーナも同じ事をしたら面白いなあ。

そう、彼女は思った。


花の冠を五個作った頃、うっかり忘れていたが夕食の時間が迫っていた。

「とわいとさま!ここは?」

「ええっとね…そこは、こうするのよ。」

「ええっ??わからないです…」

どうしても一人で花の冠を作りたいリリアーナは、熱心にトワイトの話を聞いた。

「またあとでゆっくり教えてあげるから心配しないで。今日はもうお夕食の時間だから行きましょうか。」

日が長くなってくるので感覚がおかしくなってくるが、時刻はもう十八時になろうとしている。

「ああっ!そっか…じゃあまたあとでですね…」

「ええ、またあとで。じゃ、行きましょう。」

二人は手を繋いで城へと向かった。


トワイトはいつも夕食の時間が好きだった。朝も昼もお喋りは禁止だが、夕食は喋っても良い。
明るい皆の表情が見られることが、一日の何よりの喜びだった。


今日までは。
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