4 / 46
1章『転生×オメガ=あほ顔になる』
03
「たいっっっへん申し訳ございませんでした!!」
男性に助けて貰っただけでは無く、好きでもない女の身体を弄る事までさせてしまった。在昌さんには桃ちゃんが居るのに、何という事をしてしまったのだろう。
土下座する勢いで私は在昌さんに謝り通した。そんな私に焦りながら止めようとする在昌さんの優しさに涙が滲む。目の前に在昌さんという天使が居る…。
「取りあえず落ち着こう、ね」
「はぁ…はぁ…ごほっ」
大きい声を久方ぶりに出したせいか、喉がヒリヒリする。咳き込む私の背中を撫でながらソファーへと座るように促してくれる在昌さんは大天使だ…。
「ちょっと待っててね」
「はぁ…はぁ…は、はい」
落ち着かない私の頭をぽん、と叩いて、姿を消した在昌さん。
……ああ!
うわああああああ!
あああああああ!!
本当に在昌さんだよね!?あの顔も、優しい性格も、頭をぽん、とする癖も、全く以て在昌さんそのものだ。
もう、ここまで来たらこの非現実的な出来事は本当に起こっている事だと認めざるを得ない。
今流行の転生だろうか。だとしたら普通は異世界に行くのでは?チート能力を持ってさ。この手の小説はあまり読んだ事が無いけれど、電子書籍のお勧めに良く上がってくるから知っている。
よし、私がオメ蜜に転生したとしよう。だとしたら私は誰なのだろうか。もしかして桃ちゃんに転生してしまったとか…。だとしたら私はこれから在昌さんの愛をふんだんに受ける事になるのでは…!
胸が張り裂けそうな程の期待を胸に、私はちらりと窓に映る自分を確認した。そこにはにたにたと笑いながら鼻を伸ばした私が、居た。
…期待した私が馬鹿だった。
私はずぅん、と沈みながら辛うじて残ったパジャマのボタンを留め、今後の事を考える。転生でも転移でも何でもいいけど、取りあえずは私が私である事は確かで。
だとするとこの世界では私はどういう立ち位置なのだろうか。イレギュラーな存在なのか、それとも存在しているのか。
だが、考えても考えても、ここの世界の記憶は持ち合わせていない。
「うぅ…」
「大丈夫?」
頭上から声がして、ハッと我に返る。マイワールドに入りすぎて在昌さんの存在に気が付かなかった。
「はい、ココア。飲めるかな」
「は、はい。あ…ありがとう、ございます」
「いいえ」
私はおずおずと在昌さんが入れてくれたココアを頂く。そういえば、桃ちゃんも在昌さんが入れてくれたココアが好きだったよね。
暖かいマグカップに、甘い匂いが私の心を落ち着かせる。
…このココア……在昌さんが私の為に入れてくれたんだよね!?私の為に、わざわざ入れてくれたんだよね!!ポリ袋に入れて持ち帰りたい。
心を落ち着くわー、なんてロマンチックな事を言った癖に直ぐに興奮するとは如何ほどか。
恐る恐る口を付けたココアは、今まで飲んだココアの中で一番美味しかった。高級ココアなんか目では無い。ミチュランガイドに星3つもらえるレベルだ。ココア大会にだって優勝するだろう。
飲みやすいように、ミルクを足して飲みやすくしてくれているのか、体内に染みる温度が丁度良かった。
こういう所も在昌さんなんだよなぁ…。
「落ち着いた?」
「は、はい…ありがとうございました。凄く…美味しいです」
今更だけど、在昌さんは凄くいい声をしている。私は声には興味があまり無いけれど、在昌さんの声は凄く格好いいと思う。低いのだけど、芯があって落ち着きがある。まるで人柄を表しているような声だ。
「え、と、本当にありがとうございました。色々…シて頂いて…」
改めてお礼を言う。
先程は混乱したあまり、サラリーマンのような謝罪をしてしまった。名誉挽回だ。
「いや…こちらこそいきなり触れてしまってごめんね」
「いえ…!あの、…凄く助かりました」
先程の情事を思い出してしまった私は思わず赤面する。恥ずかしさの余り語尾が消えていってしまった。
「いや……ところで、君は何故、あんな格好で逃げていたのかな?」
実は、私小説の世界に転生しまして!気付いたらパジャマの姿で倒れていたのですー…だなんて言える訳がない。言ったところで頭のおかしい女の烙印を押されるだけだ。
どう言えばいいのだろうか。かと言って適当に言葉を並べてこの場をやり過ごす手立ては私には持ち合わせていない。
神妙な面持ちで黙る私に、在昌さんは何か勘違いしたのか明後日の方向の言葉を私に向けた。
「もしかして…記憶が、無いのかな。だとしたら…」
顎に長い指を当てながらぶつぶつと独りごちる在昌さんに目眩を感じる。何とも格好良い仕草だろうか…。眉を潜めながら考え込む在昌さんも素敵だ。いや、どんな在昌さんも素敵なのですが。
記憶喪失。
良い設定かもしれない。在昌さんに嘘を吐くのは気が引けるけど、頭のおかしい女と思われるよりかはマシだ。
「え、と…そうなのかも、です。実は…記憶が全然無くて……」
「そうか…。名前は覚えている?」
心配そうに私を覗き込む在昌さんに私の胸が罪悪感でちくちくと痛む。普段嘘なんて吐く事が無いから押しつぶされそうだ。まぁ、嘘を吐くような相手が居ないだけだけど。社会人になってからの友達作りは難しいのですよ。
名前くらいは言っても良いだろうか。…別に在昌さんに名前を呼ばれたいなんて疚しい気持ちを抱いた訳では無いです。
「え、と…たかせ…まお、です。身長が高いの、高いに瀬戸際の瀬に…真ん中の真に、へその緒の緒です」
おう、シットだ。こんな説明いるか?見ろ、在昌さんが肩を震わせている…。破顔している在昌さんも素敵だなぁ。
在昌さんが笑ってくれたなら、私の失態を許してあげよう、私よ。
「ふふ…。高瀬さんだね。俺は神崎在昌ってい言います。神様の神に、山崎の崎に…存在の在で、日が二つ上下に並んだ昌、です」
うわぁ…私のテンパった言葉に返してくれた…。神だ…。
在昌さんの気の利いたジョークで私の緊張は少し解れた。私が緊張しているってわかったのかな。本当に、在昌さんは在昌さんだ。小説と変わらない、私の大好きな在昌さん。
あなたにおすすめの小説
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした
こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】
伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。
しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。
そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。
運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた――
けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった――
※「小説家になろう」にも投稿しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?