【完結/短編】デスパレード・サイクル

よるは ねる(準備中2月中に復活予定)

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「君の真面目さは娘から聞いているよ」
「は、はい。ありがとうございます」

直々にギルド長から賛辞を受け、ニイナの耳が赤く染まる。社交辞令だとは分かっているが、普段決まった人としか会話をしないニイナにとって上手く躱す事が出来なかった。

そんなニイナに意味深な笑みを貼り付けたままのギルド長が長い足を組み直し、ゆっくりと口を開いた。





*****





ギルド長の話を聞き終えたニイナは自宅に戻り、深く溜息を吐いた。

勇者の事だけど、と始まった話はニイナを驚かすには十分な内容だった。話はこうだ。勇者と共に旅に出てくれないか、と。

魔法も満足に使えず、体術や剣技も使える訳でもない。何もないニイナに何が出来る?出来るとしたらモンスターを誘き寄せる為の餌くらいのものだ。だが、勇者と共に旅に出ている者の中には探知能力の優れた者が居るから不要な筈。魔女狩りの為の布陣は完璧なのだ。
ニイナは理解出来ずに頭を抱えた。足手纏いになる事は分かりきった事なのに。勇者――レオルに恥を晒せと?
けれど、ニイナに断る権利は無い。ギルドに登録している者はギルド長に命には絶対なのだ。

「はぁ…」

何故、とギルド長に詰め寄ったが、言葉を濁すばかりだった。そして一枚の紙を渡され、部屋から去って行った。唯の紙なのにやけに重く感じた。出来る事なら破り捨ててしまいたかった。

ニイナ、とライラが心配そうに名を呼ぶが、上手く返事が出来なく、曖昧に笑みを返す。
そのまま視線をずらし、震える手で丸められた紙を開けば国王の印が大きく押されていた。勅令――法的効力がある令、と言う事だ。ギルド長だけでなく、国王直々に下す意味は何なのか。

ざわざわ、と嫌な予感が駆け巡る。
ニイナは勅書を丸め鞄に詰め込み、ライラに一礼してその場を立ち去った。





*****





――嗚呼、悪夢が始まった。
暫く見ていなかったから油断したのかも知れない。

異形のモンスターが誰かを襲っている。ぐちゅぐちゅと音を立てて啜っているのは――…レオルだった。

レオルは事切れているようで、黒目があり得ない咆哮へと向き、口からは血が溢れている。そしてその胸元を喰らうモンスター。

ニイナは悲鳴を上げた、つもりだった。けれど声は咆哮となり、肉に埋もれ何かを嚥下する。
血生臭い匂いが堪らなく甘美で、何度も何度も啜った。鋭利な歯を突き刺した。

――愛するレオルの肉に。

嫌だ。止めて。お願い。
美味しい。美味しい。もっと、もっと。

頭では否定しているのに、身体が勝手に動くのだ。歯を立てる度に亡くなっていくレオルの身体。白目が濁っていく度に、ニイナの意識は途切れそうになった。けれど、止まない惨劇に目を背けようとした。

けれど叶わなかった。モンスターと化したニイナは咆哮を上げながら愛する者を喰らい尽くす。

最後に残った頭蓋を大きな口を開け、呑み込む。まるで好物だ、と言うかのように舌で転がしゆっくりと鋭利な歯で噛み砕く。骨の砕ける音が、中身が弾ける音がニイナの腔内で響き渡った。

…と同時に目が醒めたニイナはその場で嘔吐した。まるで現実だったかのように匂いが、触感が、味が腔内に残っていた。震える足で水場に向かい、指で腔内を刺激し胃が痙攣するまで吐き出した。脂汗が額に滲む。爪が腔内を傷付ける。けれど、止められなかった。魔法で水を出し、必死に口を濯ぎ味が消えるまで何度も何度も吐き続けた。

「ふ…、レオル、様…っ…レオルさまぁ…」

身体を震わせながらニイナは涙を流す。その涙の意味は一体何なのか本人すら分からなかった。けれど、凄く嫌な予感がして堪らなかった。夢のせいなのだろうか。あんな悲惨な夢を見たからか、それとも――…

そうこうしているうちに、夜が明けた。ニイナは痙攣する胃を抑えながらゆっくりと身支度を始める。本当は直ぐに出る筈だったのだが、気付けば眠ってしまっていた。そして悪夢を見て…。
思い出すだけでも吐き気が込み上げる。朝食は摂れそうにもない。魔法で水を出し、コップに注いで喉を潤す。

鏡を見遣れば青白い顔色をしたニイナが映っていて。亡霊のような自分に思わず驚いてしまう。

「…寝不足。だもんね…」

軽く頬を叩き、自身に活を入れたニイナは振り返り自室を見返す。質素な自室だった。暫くは帰れないだろう。生物と火の気を確認し、自室から出れば眩しい日の光がニイナを照らし、目を細めた。




*****





ガタガタと悪路に揺れた車輪がニイナの身体を揺らす。
ギルド長曰く、勇者ご一行が滞在してる街まで馬車に揺られて丸一日かかるらしい。馬車という高級な足になれていないニイナは、揺れに堪えながら窓から流れゆく景色を眺めていた。

「ニイナ・オークランス様、到着致しました」
「あ、ありがとうございます」

呆けているうちに到着したらしく馭者が声を掛けてくれた。ニイナはバッグを肩に掛け、馭者に礼を言いギルド長から受け取ったずしりと重い金銭を馭者に渡した。

「確かに頂きました。勇者様ご一行はルマールという宿に泊まっているらしいです。大きな宿なので直ぐに見つかると思いますよ。宿主には連絡をしていますのでギルドカードを提示して下さい」
「わかりました、ありがとうございます」

馭者に礼を言い、街に入れば遅い時間だと言うのにわいわいと賑わっていた。勇者ご一行がいる為か、はたまた元々活気に溢れた街なのか、ニイナには知る由も無いが、不思議な気持ちを抱きながら馭者が教えてくれた宿を探せば、直ぐに見つかった。

馭者の言う通りとても大きな宿だった。大きさだけで無く立派だ。門構えからして高級な雰囲気が感じ取れる。

初めての遠出。初めての知らない街に今更になって心拍数が上がってくる。ニイナは宿の前でウロウロした後、思い切って入ろうとした、その時だった。

「――ニイナ!」

聞き覚えのある優しい声がニイナの名を呼んだ。確認しなくても分かる。この声は――…

「レオル様っ…!」

愛しいレオルの声だった。
ニイナは急いで声のした方向へと振り向いた。だが、腕を引かれてレオルの顔を見る事は叶わなかったが、懐かしい匂いが鼻腔を擽った。

「ニイナ、逢いたかった…」

呟くように熱を帯びた声で囁きながら正面からニイナを抱きしめるレオルに、周りがざわめく。だが、ニイナもレオルもざわめきが気にならない程に互いに焦がれていた。
恐る恐るレオルの背に腕を回す。前よりも逞しくなった彼の身体にニイナの鼓動が更に跳ねた。

「私も、レオル様に逢いたかったです…」

じわりと滲む涙を堪えながらレオルの胸に顔を埋める。思った以上にレオルの事を求めていた自分に驚いた。再び出逢って気付いた彼の大切さにニイナの胸は再び軋んで。
それはレオルも同じようだった。ニイナの小さな身体を抱きしめながらずっと焦がれていた存在を噛みしめた。
夢ではなく、現実なのだ。ずっと逢いたくて堪らなかった彼女が此処に、いる。ニイナの存在を感じれば感じる程募っていく恋慕にレオルの気はおかしくなってしまいそうだった。



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