【完結/短編】デスパレード・サイクル

よるは ねる(準備中2月中に復活予定)

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「……」
「……」

黒いローブを被った美しい女性とまるで踊り子のような薄い生地の服を着たこれまた美しい女性が、レオルの横で縮こまっているニイナを値踏みするかのようにして睨み付けていた。

再会を邪魔されたレオルと言えば、明らかに不機嫌な表情を浮かべながらテーブル下でニイナの手をにぎにぎと弄んでいた。

それにしても婚約者とは一体どういう事なのか。ニイナはチラリとレオルの方へと視線を向ければ、甘ったるい笑顔を返されて。釣られて笑みを返せば握っていた手を解き、代わりに頬を撫でられた。
そして正面からは暗黒の空気が流れて。生きた心地がしないとはこういう事を言うのだろうか、とニイナは小さく溜息を吐いた。

「あ、の…私は婚約者では、」
「改めて紹介するね。この子は婚約者のニイナ・オークランス」

訂正しようと言葉を発したが、レオルによって遮られてしまった。

「で、この二人は魔女討伐で一緒に旅している人達」
「そ、そうなんですね」
「疚しい事は何も無いからね?俺はニイナ一筋だから」

てっきりもう少し詳しく紹介してくれると思ったのだが、以上!と言うようにレオルは口を閉ざしてしまった。
不穏な空気が室内に籠もる。部屋は広い筈なのにここだけ暗雲が立ちこめているようだ。

「で、君達はいつまで此処にいるつもり?早くニイナとイチャイチャしたいんだけど」
「レ、レオル様…!」

冷たい言い分にニイナの顔色が悪くなる。咄嗟にレオルの口を小さな手で塞ぎ、不快そうに表情を歪めている二人に頭を下げた。

「いきなりの訪問…も、申し訳ございませんでした。ニイナ・オークランスと申します。本日はギルド長の命により勇者様の元へと参じたのですが…」

普段、言葉を発する事が少ないニイナは精一杯謝罪と目的を言葉にした。レオルの口を塞いだままというおかしい姿勢だが、そこは堪忍して欲しい。

二人はニイナの言葉に言葉を、況してや反応を出す事は無かった。ずっと不快そうにしたまま。
咄嗟にニイナは気付いた。この二人が向けるレオルへの恋慕を。

再び室内が静寂に包まれる。そんな沈黙を破ったのはニイナの手をやんわりと外したレオルだった。

「…君達が出て行かないなら俺達が出て行くよ」
「レオル様っ…!」
「勇者様っ!!」

ニイナの肩を抱きながら立ち上がり、二人に背を向けるレオルの元に二人が縋るように手を伸ばした。
だが、レオルは不快そうに二人の手を跳ねる。そしてニイナが聞いた事も無いような低い声で吐き捨てるように言い放つ。ニイナが聞いているだけでも震えてしまう程の怒りが含んでいた。

「いきなり入ってきたと思えば何?君達。前から言ってるよね?俺には大切な子が居るって」
「ですがっ…!」

レオルの声に恐怖の色を見せながらも必死に自分の想いを伝えようとする美しいローブを着た女性――…この方は。

ニイナは先日号令で配っていたビラを思い出した。黒いローブを着ている方は賢者のマリア様だ。
そして白い衣装を身に纏っている方は償還術士のサラ様。もう一人騎士様が居たような気がするけれど…不在なのだろうか。

「まさか君達が俺の大切な子にこんな態度取るだなんて思ってもみなかったよ」
「も、申し訳ございません…」

ピリピリとした空気の中、レオルは言葉を吐き続ける。これ以上聞きたくなかった。レオルが人を傷付けているところも、ニイナが知らないレオルを二人に見せているところも。

ニイナは咄嗟にレオルの腕を引いた。

「駄目、ですっ…レオル、様…!」
「…ニイナ?」

紛れもなく嫉妬から来た感情だった。
ニイナの知らない表情を見ている二人に。
ニイナが側に居られないのに一緒に居られる二人に。

――とても嫌だと、思った。
例え負の感情でも、ニイナを見つめていて欲しかった。

レオルの腕を掴む手が震える。
何とも醜い感情なのだろうか。こんな私が、何も持っていない私が、世界に愛されし勇者様にこんな感情を。

「ニイナ?」

視界が揺らぐ。
世界が、揺らぐ。

意識がとぷん、と闇に堕ちると同時に誰かの悲痛な声が微かに、聞こえた。





*****






彼女は絶望に打ちひしがれていた。
己の運命に、――の宿命に、唯々涙を流していた。

手に握るは鋭利な凶器だった。今から彼女は――を――なければいけない。

凶器を握る手はガタガタと震えていて、今にも滑り落ちてしまいそうだった。
それでも、彼女は全うしなければいけなかった。

抗えない運命に、踊らされている宿命に。
彼女はスッと目を閉じ――…

――彼女は何時もの変わらぬ笑みを浮かべながら両手に凶器を握りしめた。向かうは愛する男の心臓へ。
驚愕の表情を浮かべる男の皮膚は硬かった。思い切り凶器を突き立て奥へと確実に沈めていく。

少し凶器をずらせば、鮮血が彼女の肌を濡らしていく。男の断末魔が彼女の心を掻き立てる。だが、彼女は何度も何度も男の体に穴を開けていった。

刺して。抉って。刺して。刺して。抉って。刺して。刺して。刺して。刺して。

男は死んだ。
やっと命を落としたのだ。

それを確認した彼女は狂ったように叫んだ。それは全てを呪う唄のようで。

そして彼女は血濡れた凶器を己の喉に突き立て絶命したのだった。



――そんな愚かな運命だった。輪廻なのだ。
彼女は呪われた存在だった。そして世界の終焉だった。

抗えない強い運命に彼女は涙した。

何度生まれ変わっても彼女は永遠に愛する者を殺さなければいけない。


気付いた時には遅かった。
気付いた時には手遅れだった。

雁字搦めに絡め取られた手足は凶器と狂気を握りしめている。



――…もう一度、戻りたい。幸せだった、あの頃に。
そしてやり直すの。この運命を抗う為に。


だから、私は――…


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