7 / 7
-genuine-
03【了】
しおりを挟む
最期に見た君は安堵と少しの後悔を浮かべていた。
君と最期に歩いた高架で突き落とされた俺は一瞬だった。頭から落ち、割れた頭から脳が飛び散った。呆気ない死だ。軽い、命だ。
人間の命は重いだなんて誰が言ったのだろうか。こんなにも軽いのに、ね。
――肉体を失った俺の記憶は暗闇に閉ざされ、再び幕が上がる。止めどなく溢れる記憶に目眩がした。けれど流石コンピューターだ。綺麗に時系列で並べてくれる。
俺が最後に残したデータはみぃに殺される、だった。
思わず笑ってしまう。愛する人に殺され、こんなにも嬉しく思えるだなんて。
「優真…」
煩わしい存在が纏わり付く。だから言ってやった。マスター、と。俺を恋人にするようだったけれど、残念ながら俺のプログラムが奥に眠っている限りは不可能だ。
誰にも邪魔させない。絶対に、だ。
「そ、んな…!私の名前を…!」
「マスター」
「マスター」
「マスター」
「マスター」
耳を塞ぐ汚物に何度も囁きかける。その度に青ざめていく顔色が愉快で気分が良かった。ずっと不快だった。この存在が。
だから、
「みぃ、みぃ」
人形にすら、自分がプログラムしたデータにすら愛されない気分は、どう?
「優真ぁ」
けれど、俺も所詮人形だった。人間のように栄養が無いと死んでしまう。この身体もそうだ。電力が無ければ動かなくなってしまうのだ。
充電中の俺を犯した汚物はまるで煮えたぎった憎悪だった。動かない身体。脳内に響く喘ぎ声。
充電が完了するまで後少し。後少しの辛抱だ。
――そして充電が完了すると同時に汚物を突き放し、みぃの身体に偽の体液を放った。
震える身体。見開かれた瞳。
嗚呼。ごめんね、みぃ。みぃに挿入する時は新しい性器を使うからね。
ひたすら君の名を呼んだ。嫌われていると分かっていても、呼び続けた。みぃは優しいから。きっと俺を殺した事が怖くて俺を突き放せないでいる。アレに手を差し伸べられずにいる。
可哀想なみぃ。早く諦めて俺を見れば良いのに。そしたらその身体を俺と同じ身体にしてずっと二人だけの世界で生きていけるのに。
その為にみぃを作ったんだから。
みぃのパーツを組み立てる。汚物が寝ている間にこっそりと。少しずつ繋げていくみぃ。少しずつ創られていく理想のみぃ。俺だけを愛す、本来のみぃ。
「みぃ、好きだよ、大好き。ずっとみぃだけだからね」
完成したみぃの穴に新しい性器を挿入する。まだプログラムは開いていないから少しだけ虚しさを感じるけれど、それでも良かった。
「みぃ、好き、好き。キス、しよ」
瞳を閉じたみぃに口付ける。後ろで物音がしたが気にしなかった。かえって都合が良い。
そこで見ていたらいい。そして絶望してこの世から消えれば――…
*****
汚物は呆気なくこの世を去った。息子から狂った愛を得られなくて、自ら命を絶ったのだ。息子と同じ死に方で。
玄関の縁に腰を掛けながらジッとみぃの帰りを待つ。
泣いているのかな。それとも喜んでいるのかな。どちらでも構わないけれど。
がちゃり、と解錠される音がし、ゆっくりと扉が開かれる。
嗚呼、この身体になってからは初めてのご対面だった。俺に似た切れ長の瞳が大きく開かれる。それもそうだろう。死んだ筈の息子がここに居るのだから。だが、俺が人形だという事を咄嗟に理解したのか、異物の表情がガラリと変わる。
安堵、だった。
この家から解放されると。悍ましい妻から、息子から、娘から解放されると。
「…優真か」
「…うん。でもお前の知っている優真では無いよ」
敵意を剥きだしてみぃを抱きしめ、卑猥にみぃの細い身体を愛撫する。ひくひくと感じるみぃが愛おしい。
「……」
そんな俺達を見て、顔色変えない時点であんたも毒されてるって、気付いてる?
みぃが助けを求めるように異物へと手を伸ばすが、無情にも払いのけられた。乾いた音が玄関に響く。笑い出しそうになるのを堪えながら何も言わず二人を見つめた。
「俺が気付いていないと思ったか?」
「おと、さ…?」
「お前はあの女にそっくりだよ」
吐き捨てるように言う異物こそ異常な事に気付いていないのか。本来の家族を棄てながらも、名誉が大事だから公にはせず、コソコソと裏でもう一つの家族を作って。
それのどこが真っ当なのか。
「生活費はお前の口座に振り込んでおく。まぁ、あの女の財産だけでも十分だとは思うがな。もう二度と逢う事もないけど…本当にお前達は俺の人生の汚点だよ」
「おとう…さん…?」
「もうその名で呼ばないでくれないか。不快なんだよ。気持ち悪い」
そう言い、家を出る汚物に言葉の出ないみぃ。打ちのめされたみぃの瞳から美しい涙が溢れていて、俺はそっとみぃの目と口を覆った。
「ねぇ、みぃ。やっと二人きりになれたね。これからは俺とずっとここで暮らすんだ」
「え…な、…お、兄ちゃ…?」
「嗚呼、やっと呼んでくれた。俺だけのみぃ」
昔のような呼び名に身体を震わせながらみぃの鼓膜に毒を流す。ねっとりと甘ったるいシロップのように。
ハッとして抵抗するみぃに全てを知っている事を教えてやれば罪悪感と恐怖で顔色を失った。
ずるずるとへたり込むみぃの細い首をに指を這わし、ゆっくりと力を入れていく。
「幸せだね、みぃ。死んでからもずっと側に居られるんだから。ねぇ、みぃ。もう二度と裏切らないでね?ずっと俺だけを愛してね?また、約束だよ」
可愛くて可哀想なみぃ。
狂った箱庭に囚われて、逃げ出せなくて。でもごめんね。離してあげられない。
だって、約束したよね。
ずっと側に居るって。
――嘘を吐いたのはどっち?
【機械仕掛けの恋-genuine-】了
『みぃ、泣かないで。俺がずっとみぃの側に居るから』
『おにいちゃん…』
『約束。みぃもずっと俺の側に居て。俺だけを見ていてね』
『うん!』
『絶対に、約束だよ。嘘吐いたら』
『「俺しか愛せないように君を、壊してしまおうか」』
君と最期に歩いた高架で突き落とされた俺は一瞬だった。頭から落ち、割れた頭から脳が飛び散った。呆気ない死だ。軽い、命だ。
人間の命は重いだなんて誰が言ったのだろうか。こんなにも軽いのに、ね。
――肉体を失った俺の記憶は暗闇に閉ざされ、再び幕が上がる。止めどなく溢れる記憶に目眩がした。けれど流石コンピューターだ。綺麗に時系列で並べてくれる。
俺が最後に残したデータはみぃに殺される、だった。
思わず笑ってしまう。愛する人に殺され、こんなにも嬉しく思えるだなんて。
「優真…」
煩わしい存在が纏わり付く。だから言ってやった。マスター、と。俺を恋人にするようだったけれど、残念ながら俺のプログラムが奥に眠っている限りは不可能だ。
誰にも邪魔させない。絶対に、だ。
「そ、んな…!私の名前を…!」
「マスター」
「マスター」
「マスター」
「マスター」
耳を塞ぐ汚物に何度も囁きかける。その度に青ざめていく顔色が愉快で気分が良かった。ずっと不快だった。この存在が。
だから、
「みぃ、みぃ」
人形にすら、自分がプログラムしたデータにすら愛されない気分は、どう?
「優真ぁ」
けれど、俺も所詮人形だった。人間のように栄養が無いと死んでしまう。この身体もそうだ。電力が無ければ動かなくなってしまうのだ。
充電中の俺を犯した汚物はまるで煮えたぎった憎悪だった。動かない身体。脳内に響く喘ぎ声。
充電が完了するまで後少し。後少しの辛抱だ。
――そして充電が完了すると同時に汚物を突き放し、みぃの身体に偽の体液を放った。
震える身体。見開かれた瞳。
嗚呼。ごめんね、みぃ。みぃに挿入する時は新しい性器を使うからね。
ひたすら君の名を呼んだ。嫌われていると分かっていても、呼び続けた。みぃは優しいから。きっと俺を殺した事が怖くて俺を突き放せないでいる。アレに手を差し伸べられずにいる。
可哀想なみぃ。早く諦めて俺を見れば良いのに。そしたらその身体を俺と同じ身体にしてずっと二人だけの世界で生きていけるのに。
その為にみぃを作ったんだから。
みぃのパーツを組み立てる。汚物が寝ている間にこっそりと。少しずつ繋げていくみぃ。少しずつ創られていく理想のみぃ。俺だけを愛す、本来のみぃ。
「みぃ、好きだよ、大好き。ずっとみぃだけだからね」
完成したみぃの穴に新しい性器を挿入する。まだプログラムは開いていないから少しだけ虚しさを感じるけれど、それでも良かった。
「みぃ、好き、好き。キス、しよ」
瞳を閉じたみぃに口付ける。後ろで物音がしたが気にしなかった。かえって都合が良い。
そこで見ていたらいい。そして絶望してこの世から消えれば――…
*****
汚物は呆気なくこの世を去った。息子から狂った愛を得られなくて、自ら命を絶ったのだ。息子と同じ死に方で。
玄関の縁に腰を掛けながらジッとみぃの帰りを待つ。
泣いているのかな。それとも喜んでいるのかな。どちらでも構わないけれど。
がちゃり、と解錠される音がし、ゆっくりと扉が開かれる。
嗚呼、この身体になってからは初めてのご対面だった。俺に似た切れ長の瞳が大きく開かれる。それもそうだろう。死んだ筈の息子がここに居るのだから。だが、俺が人形だという事を咄嗟に理解したのか、異物の表情がガラリと変わる。
安堵、だった。
この家から解放されると。悍ましい妻から、息子から、娘から解放されると。
「…優真か」
「…うん。でもお前の知っている優真では無いよ」
敵意を剥きだしてみぃを抱きしめ、卑猥にみぃの細い身体を愛撫する。ひくひくと感じるみぃが愛おしい。
「……」
そんな俺達を見て、顔色変えない時点であんたも毒されてるって、気付いてる?
みぃが助けを求めるように異物へと手を伸ばすが、無情にも払いのけられた。乾いた音が玄関に響く。笑い出しそうになるのを堪えながら何も言わず二人を見つめた。
「俺が気付いていないと思ったか?」
「おと、さ…?」
「お前はあの女にそっくりだよ」
吐き捨てるように言う異物こそ異常な事に気付いていないのか。本来の家族を棄てながらも、名誉が大事だから公にはせず、コソコソと裏でもう一つの家族を作って。
それのどこが真っ当なのか。
「生活費はお前の口座に振り込んでおく。まぁ、あの女の財産だけでも十分だとは思うがな。もう二度と逢う事もないけど…本当にお前達は俺の人生の汚点だよ」
「おとう…さん…?」
「もうその名で呼ばないでくれないか。不快なんだよ。気持ち悪い」
そう言い、家を出る汚物に言葉の出ないみぃ。打ちのめされたみぃの瞳から美しい涙が溢れていて、俺はそっとみぃの目と口を覆った。
「ねぇ、みぃ。やっと二人きりになれたね。これからは俺とずっとここで暮らすんだ」
「え…な、…お、兄ちゃ…?」
「嗚呼、やっと呼んでくれた。俺だけのみぃ」
昔のような呼び名に身体を震わせながらみぃの鼓膜に毒を流す。ねっとりと甘ったるいシロップのように。
ハッとして抵抗するみぃに全てを知っている事を教えてやれば罪悪感と恐怖で顔色を失った。
ずるずるとへたり込むみぃの細い首をに指を這わし、ゆっくりと力を入れていく。
「幸せだね、みぃ。死んでからもずっと側に居られるんだから。ねぇ、みぃ。もう二度と裏切らないでね?ずっと俺だけを愛してね?また、約束だよ」
可愛くて可哀想なみぃ。
狂った箱庭に囚われて、逃げ出せなくて。でもごめんね。離してあげられない。
だって、約束したよね。
ずっと側に居るって。
――嘘を吐いたのはどっち?
【機械仕掛けの恋-genuine-】了
『みぃ、泣かないで。俺がずっとみぃの側に居るから』
『おにいちゃん…』
『約束。みぃもずっと俺の側に居て。俺だけを見ていてね』
『うん!』
『絶対に、約束だよ。嘘吐いたら』
『「俺しか愛せないように君を、壊してしまおうか」』
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~
ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。
彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。
――死んだはずの彼女が、生きている?
同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。
「今さら、逃げ道があると思うなよ」
瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。
秘された皇子と、選び直した愛。
三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?
* * *
後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
公爵夫人は愛されている事に気が付かない
山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」
「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」
「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」
「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」
社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。
貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。
夫の隣に私は相応しくないのだと…。
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる