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零件目【終わりで始まり】

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…危ない。本当に寝そうになった。クー様が小さな尻尾で頭を叩いてくれなかったら本気で寝てたよ…。

「てな訳で。そんなナツちゃんを巡礼の相棒に指名したいんだけど?」
『…神官が納得しないだろう。他の神獣と比べてナツは神力が低いんだ』
「え、知らないよ。ナツちゃんが駄目なら巡礼なんて行かないだけだし」
『おま…!』
「他の兄妹が行けば良いよ。神力が足りないならまた分けてあげるし」
「きゅ…」

おーい、私の意見はどうなんだーい。おーいおーい、私は行きたくないぞー、面倒臭いのは嫌だぞー。

『ナツも嫌だと言っている』
「へぇ、何で」
『……まぁ、色々あるのだろう』
「へーえ?」
『お前…まさか』
「うん?ナツちゃんの言っている事はわからないよ?可愛い声できゅうきゅう鳴いてるなぁってくらいしか、ね」

にこ、と笑いながら私にウインクを投げてくるハイネさんに、首を傾げる事しか出来ない。
それにしても本当にイケメンだ。下から覗いてもイケメンなのだもの。狡すぎる。

そんな私の負の念に気付いたのか、大きな掌が私の顔を掴み、巧妙な指使いで私の気持ち良いところを撫でてくる。

「きゅぅ…」
「気持ちぃねぇ」

あかん、この人。本気で犬の扱い分かってる。
優しい手つきに優しい声。気持ちまで犬になってしまいそうだ。

『ナツ、自我を保て』
「きゅ!?」

私の蕩け具合を危惧したクー様が助け船を出してくれた。

『ハイネよ、私はナツを気に入っておる。だから水の加護を渡した。だが、他の主はどうだ?強い神力を求める主は認めないのではないか?神官もそうだが他の主も――…』
「うん?僕がいるから大丈夫じゃない?ナツちゃんが足りない分は僕が補うよ」

さらっと凄い事を吐くハイネさんに、クー様も私も開いた口が塞がらない。

『そういう話では…』
「じゃあ行かなーい。僕はナツちゃんとじゃなきゃ絶対に行かないよ」
「きゅ…」

クー様が困った表情を浮かべる。勿論、私もだ。何故こんなにも気に入られているのだろうか…。確かに変わった個体らしいけど、ただそれだけだ。
それはクー様も思ったようで、私の代わりに聞いてくれた。

『何故、そこまで固執する?ハイネのような者なら他にももっと居るだろう』
「一目惚れだよ」
『は、』
「きゅ?」
「一目惚れだってば」

うん?と振り向く私の身体を持ち上げ、お腹に頬擦りするハイネさん。

「だってこんな可愛い子初めて見たんだもん。そりゃ惚れちゃうよねー!」
「きゅぅ!きゅ!!」
『おい、ナツが嫌がってるぞ』

クー様の言葉を無視しながら尚も続けるお腹への拷問に私は必死に抵抗する。短い手足をバタつかせ、抵抗を試みてみた。

――ぽにゅ。

お、私の必殺回し蹴りがヒットしたらしい。流石にやり過ぎたかな、と思ってハイネさんの方へと視線を向ければ、更にニヤニヤしたハイネさんが居た。

「これが前にイフリクトが言ってた肉球か…」
『うむ、気持ち良いだろう』
「きゅ!きゅ!」

私をひっくり返して膝に乗せたハイネさんが私の手を掴んでふにふにと肉球を愛撫する。自分からだと何も思わないけれど、肉球を触られると力が抜けていく。
何てこった、この身体…雑魚過ぎでは?



*****



『この通りだ、ナツ』
「きゅ…」

ハイネさんが満足するまで肉球を揉まれた私の身体はクタクタだった。転げる程擽ったくはないが、何だかもぞもぞする感覚。これは犬も猫も嫌がる訳だ。

そんなぐったりとしている私の横で、クー様が申し訳無さそうに事の顛末を話してくれた。

簡単に言えばこうだ。
私がハイネさんと巡礼に行くと言わなければ、この世界は神の怒りに触れ、どうなるかわからない。だから行くと言え、だ。

流石にこんな命令口調では言っていないけれど、ジト目でクー様を見やれば、小さく頷いた。肯定の意味だ。

そんなの、断れる訳が無い。でも、納得いかないのも確かで。まだ、転生した私に凄い力があって、世界を助ける為に巡礼に行こうではないか!なら分かる。
けれど、現実は違う。力は無いけど、面白いし可愛いから!という理由だけだ。しかもハイネさんは歴代の巫女の中でも稀を見ない強さを持っているらしい。兄妹に神力を与えても底が見えない、と。

チートだ、チート。転生した私がチートじゃなくて、現住民がチートキャラだったよ。

『駄目、か?』

クー様に頼まれて断れる?だって命の恩人だよ?世界云々以前にこっちの方が大切だ。
私はハイネさんの上で、小さく肯定の意味で頷いた。

しょうがない。本当はあのまま聖域で魔法をマスターして美味しいご飯を食べる日々を送りたかった。けれど、叶わぬ願いとなってしまったみたいだ…。

『すまぬな、ナツよ。だがハイネの傍に居る限り命は狙われないだろう。そんな愚かな者が居ったら見てみたい程だ』
「うんうん。ナツちゃん、僕に任せて君はのんびりしていてくれれば良いからね」




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