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一件目『イフリクト:水の聖域』
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しおりを挟むあれ。私はこの場所を知っているぞ。
「初めての巡礼は水の聖域だよ」
そりゃあそうだ。ここは私が暫くの間身を置かせて貰っていたクー様の聖域なのだから。
一件目『イフリクト:水の聖域』
ハイネさんはやっぱり凄い人だった。
森に水の聖域は森の奥底にあるらしく、森を通って行くのだけれど、道中襲われるのだ。所謂モンスターとやらに。今まで私が無事だったのはクー様が居たからだって、教えてくれた。
初めてモンスターに襲われたのは巡礼初日だった。
モンスターが出るだなんて知らなかった私は、ハイネさんのフードから顔を出してクキンを貪っていた――その時だった。
「ギェェェェェ!!」
「きゅうぅぅぅううう!?」
草むらから、一匹の何だあれ、猿みたいな姿をした生き物が出て来た。色が紫で正直気持ちが悪い。そんな猿は歯茎をがばりと見せながら殺意ビンビンに私達を見つめている。私は怖くて、必死にハイネさんの後頭部にしがみ付いた。
何だアレ。こんな生き物私は知らないよ!?まさか、所謂モンスターという奴では!?だとしたら戦わなければいけないのではないだろうか。でも、私は絶賛腰を抜かしている。
「ナツ。怖いの?」
私の腑抜け具合を察したのか、ハイネさんが私に声を掛けてくれる。怖いに決まっている。こちとら平和な世界で生きてきたんだよ!
必死に頷きながらぷるぷると身体を震わせいたら、ハイネさんが小さく笑った。
「…こんな可愛い子を泣かせるなんて…悪い子、だね?」
そう言ったハイネさんが指で銃の形を作る。そして銃口をモンスターへと向ければ――一瞬の事だった。モンスターが消えたのだ。え?手品?ってレベルで一瞬で消えたのだ。
「きゅ!?」
「無に還しただけだよ。死体残しても不味いから誰も食べないしね。それにナツはまだキツいんじゃないかな?」
ケロッと凄い事を言いながら、私への思いやりに胸が軋む。嬉しい。嬉しいけど、無に還すって簡単な事じゃ無いよね?それにモンスターって食べるの?え?何。情報が多い。
「モンスターは食べたり剥いだりするよ。無駄なところがないんだ。さっきの子はお金にならないけどねぇ」
「きゅ…」
何とも恐ろしいお話をありがとうございました。でも、それがこの世界のルールならば慣れなければいけない。でも自分にモンスターを手に掛ける事は出来るのだろうか…。虫一つ殺せないような人間だったのに…。
だが、心配は無用だった。凄い勢いでハイネさんが片付けてくれたのだ。色々なモンスターが現れる度に魔法で撃退していく。時に肉弾戦。上から襲ってきた相手に拳をめり込ませたり、横から襲ってきた相手に蹴りを食らわせたり…魔法だけで無く、全てがチートだった。
全く以て私が出る幕など無かった。ありがたいけれど、大分情けない。これでも一応は神獣だ。
一度、恥を忍んでハイネさんに魔法を教えて貰おうと聞いてみたけれど、通じなかった。普段、ハイネさんが私の心を読んで会話してるレベルで事が進むから忘れていた。
――本当、ハイネさんには驚かされてばかりだ、とふかふかの寝床で私は思った。え?どうしてふかふかな寝床に居るかって?私も驚いた。普通、一日目は野宿では?私もそのつもりだった少しは役に立てるかなって、夜更かしの心の準備もしていたのに…。
「今日はここで休もうか」
そう言って空に手をかざしたハイネさん。すると、途端に私達が居る場所が切り離された…というニュアンスであっているだろうか。時空が変わった、に近いかな。聖域に近い感じがした。
「聖域だよ。簡易だけどね。前に遠くから聖域を見た時に試してみたら作れるようになったんだ」
聖域だった。聖域に近いじゃなくて、紛うことなき聖域だった。五元の主のみが展開出来る聖域。次元をねじ曲げて、隔離する空間だ。
勿論簡単に作れる訳が無い。だって、現に五元の主しか扱えない代物なのだから。それを簡単にやってのけるハイネさんは…。
――考えるのはよそう。考えるだけ無駄だ。
ハイネさんが展開した聖域に入る。すると、そこにはハイネさんの寝室があった。無機質な、必要最低限の物しか置かれていない部屋だ。
てっきり煌びやかな石油王のようなホテルを妄想していたけれど、世界観が違うのだった。いまいち前の記憶が抜けきらない。
「流石に野宿は危ないからね。一応何かあったら困るから簡易の部屋にしておいたんだ。ごめんね。聖域を展開すると結構神力使うから、さ」
そう言って、ハイネさんはフードから私を出して、ぽむっとベッドに下ろしてくれた。ふわふわなベッドが気持ち良い。
「ナツはモンスター食べたこと無いんだよね?今日はモンスター食べてみようか」
「きゅ?」
ハイネさんがサブスペースからずるり、と大きなモンスターの塊を取り出す。…と言っても何故か既に肉塊になっていた。剥いで入れてないよね?何故…。
「不思議そうだね?加工魔法を使ってからだよ。ほら、見てて」
サブスペースから丸太を取り出したハイネさん。何故丸太が…という突っ込みは置いておいて…。取り出した丸太を再度サブスペースに入れて、ピッと指を指した。そして再びサブスペースから取り出せば…
「きゅ!!」
何故か私の木の彫り物が出て来た。
凄い。木彫り職人さんも辞職するレベルで凄い完成度だ。どの角度から見ても完璧だ。この毛並みを木で表せるなんて凄いなぁ。
「これが加工魔法だよ。作りたいものを脳内に思い描いて神力を送ると、この通り」
木彫りと私を交互に見つめながら満足げに笑みを浮かべるハイネさん。彼は簡単に言うけれど、この魔法も凄い能力なのではないだろうか。だって、この魔法さえあれば何でも出来るよ。世界征服も夢じゃない気がする。
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