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零件目【終わりで始まり】
07【了】
しおりを挟むほらほらほらほら、子ども達も吃驚しちゃって声が上ずってるよ。良いの?皇子さま!
「この子はね、僕の大切な神獣ちゃんなんだ」
そう言ったハイネさんは、私を優しく抱え子ども達の目線にあわせた。優しいハイネさんの声が続く。
「でもね、凄く身体が弱い子だから、些細な事で倒れちゃうんだ。だから、この子の存在は絶対に内緒だよ?ママにもパパにも、だぁれにも言っちゃ駄目。内緒のシィ、出来るかな?」
「しぃー!出来るー!!」
子ども達がキラキラした瞳のまま、ハイネさんと私を見つめる。子どもは凄く純粋で眩しい。だからこそハイネさんは敢えて私を子ども達に見せたのだろう。
「うん、良い子だね。じゃあお礼に、はい」
ハイネさんが人差し指を軽く振る。すると指先からシャボン玉が沢山出て来た。子ども達は嬉しそうにその綺麗なシャボン玉を見ていた。
「…これは水と木の魔法。水に花の蜜を入れて、膨らますとこういう風になるんだ」
子ども達のはしゃぐ様子を優しい表情で見つめながら、私に教えてくれた。
この人は本当に優しい人なんだ。心から子ども達の事を想っている事が分かる。それに子ども達だってそうだ。純粋な彼等だからこそハイネさんを慕ってるのではないだろうか。
暫くして子ども達と別れたハイネさんは再び聖堂へと足を向ける。
「帰ったら一緒にクキン食べようか」
「きゅ!」
嬉しさの余り、まん丸の尻尾がピコピコと揺れる。ハイネさんはもう怒っていないようで、私の頭を撫でて、再びフードへと隠してくれた。
フードの中はボアのようなもので覆われていて、とても気持ち良い。きっとハイネさんも気を遣って歩いてくれているのか、心地よい揺れが睡魔を誘う。
そして私は睡魔に抗えず、眠りに落ちたのだった。
*****
――巡礼当日。
私は久しぶりの糖質に身体が蕩けてしまうのを感じた。
昨日、あのまま眠ってしまった私は朝まで起きる事は無かった。そんなだらしのない私にハイネさんは怒らず、頭を撫でながら耳を下げた私にクキンを一枚差し出してくれた。
「きゅ!きゅぅぅ…!!」
芳醇なバターの香りが鼻に抜ける。小麦と大量の砂糖の甘さが五臓六腑にしみわたる。
かりかりとクキンを楽しむ私の背中を撫でるハイネさんの表情も周りが蕩けそうな程に甘い表情をしている事に私は気が付かない。
「甘いもの、好きなんだね」
「きゅ!」
好きだ。大好きだ。でもお肉も野菜も好きだ。と言うか、食べ物全般が好きな食いしん坊女子だ。嫌いなものは特に無い。でも、木の実は暫く勘弁して欲しいかもしれない。
クキンを平らげた私はふとした事に気付く。
今から巡礼に出るのは分かっている。けれど、こんな身軽で良いのだろうか。私は犬だから良いけど、ハイネさんは人間だ。色々と必要な物があるのではないだろうか。
「ん?」
「きゅ!きゅ!」
必死でハイネさんに伝える。忘れ物をしていませんか?と。けれど、端から見れば盆踊りにしか見えないのは確かだ。
けれど、ハイネさんは気付いてくれた。
「嗚呼、荷物はサブスペースという荷物入れがあるんだ――…こういう風に、ね」
「きゅ!」
何も無いところが歪んだと思えば、ハイネさんは躊躇い無く手を突っ込み、何かを取り出す。首輪だ。
「これは僕の神力を少しだけ練り込んだ首輪。これをしてれば何も心配ないよ」
「きゅ?」
そう言って、ハイネさんと同じ瞳の色をした首輪を私に付けてくれる。神力が宿っているお陰か、仄かに温かい。…というかこれで少しだけ?禍々しい程に練り込まれてるんだけど…。流石チート巫女様だ。
「じゃあ行こうか。ナツの定位置はここね」
「きゅ!」
昨日と同じく再度フードに入れられる。顔くらいは出しても良いだろうか。オロオロしていたら、私の顔を優しく掴んで肩に乗せてくれた。
――こうして、天才ナチュラル巫女様と、へっぽこ可愛いだけが取り柄の神獣による二人きりの旅が始まったのだった。
Next stage→『水の聖域』
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