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一件目『イフリクト:水の聖域』
04
しおりを挟むバタバタと暴れている私を余所に、二人の会話は続く。
『その力、父には言ったのか?』
「言わないよ。だって面倒だし?まぁ、あのクソ教祖は気付いてるっぽいけどね」
『面倒』
「僕の力はあいつ等に使う為にある訳じゃ無いからね。…小さいながらに気付いてたからさ、あいつらの愚行は」
苦虫を潰したような表情で吐き捨てるハイネさんに私はピタリ、と止まる。時折見せる真剣な表情に私は視線を逸らせないのだ。
誰よりも民を想い、彼等の幸せを考えている事を私は知っている。普段は飄々としているが、心の奥は情熱で溢れている人なのでは無いか、と想っていたりして。
ジッと見つめる私に気付いたハイネさんが優しく毛を梳いてくれた。
『だからずっと神力を誤魔化してたのか』
「そう言う事。まぁ、面倒ってのも本当だけどね?だって巡礼とか面倒じゃん?だったら力ずくで力を奪う方が早くない?」
『……』
「そんな怖い顔で睨まないでよ。…まぁ、イフリクトを騙していたのは謝るけど…僕の立場も分かって欲しいなぁ。ねー、ナツー」
「きゅ…」
そこで話を振らないで欲しい。何と言って良いか分からないではないか。
『ナツが困ってる』
「だね。…この眉毛さ、人間の眉毛と同じで困ったらちゃんと下がるんだよね。かーわいい」
溜息を吐いたハイネさんが、可愛いを連呼しながら肉付きの薄い頬で頬擦りする。髭が存在しない顎は、とてもキメが整っていて大理石のように美しかった。
もしも私が人型なら人として自信を無くすレベルだ。
『ハイネ。ナツがハイネを美しいと褒めているぞ』
「えぇー…照れるなぁ。ナツだって可愛くて美しくて天才で可愛くて可愛いのに」
「きゅ!?」
褒め返しだ。もう耳にたこが出来る程に聞いた可愛いに相変わらずドキドキしてしまう。こういう所はまだまだ人間なんだよなぁ。まぁ、私は形は違えど人間のつもりですけどね。
「イフリクトー、水の加護が終わってるなら次行っても良い?」
『良いが…。少しナツの魔法を見たいのだが良いか?』
「魔法?…ふふ、良いんじゃ無いかな?」
笑いを耐えたハイネさんが私の方へと視線を向ける。何だろう、このもやもやは。ねぇ、本当にハイネさん私の心読めないよね?
『…ハイネには分かっていない筈だが…』
はっきりと言えなくなってしまったのは、ハイネさんの実力を知ってしまったからだろう。もしもハイネさんが知っていたら恥ずかしすぎる。
「うん?僕がナツの事を読めていないかって?流石に読めないよ」
ははは、と笑うハイネさんをジッと見ていたクー様が頷く。嘘は吐いていない、と言う事だろう。
『人は嘘を吐くと心が黒くなる。それを見る事が出来るのが聖痕だ』
よろよろ、とクー様の後ろから聖痕達が出てくる。先程から様子がおかしいのは気のせいだろうか。いつもならこれでもかと言うくらいに纏わり付いてくるのに。
『恐らくハイネの神力に驚いているのだろう』
「きゅ」
成る程だ。確かにハイネさんの神力は莫大だ。でも本当にそれだけなのだろうか…。
話題の当人は興味が無いと言うかのように、私の身体を撫でている。
『で、ナツ。水の魔法は使えるな?』
「きゅ!」
そうだ。私はクー様に魔法を見せなければいけないのだ。ハイネさんの腕から降りる。水の中だからぷかぷかと浮かぶ。慣れるまで少し時間が掛かったが、何とかまともな姿勢で水の中に居る事が出来た。宇宙もこういう感じなのだろうか。
「きゅ…」
目を瞑り、水をイメージする。どぎゃーんとしていて、バーンとなるあれだ。
――古の泉に囚われし哀れな死人よ!眠りし力を与えたもう!ウォーターボール!
…
……
詠唱後に現れたものは小さな渦のみだった。
『……』
「……」
「……」
『古の…泉に…』
「きゅ!?きゅううう!!」
オリジナルの詠唱を復唱されそうになって、必死に鳴き声で誤魔化す。改めて言われたら恥ずかしいやつ!と言うか詠唱意味ないよね?だって今まで言ってなかったし。いや、理由があるのだ。詠唱したら強い魔法が出てくるかなって思って。
だって漫画や小説でも格好良い詠唱したら地殻変動レベルの魔法打ってるじゃない。
『古の泉に…』
「きゅうううう!!!」
だから止めてって!!てかハイネさん必死に耐えてるよね?肩震えてるし、ご尊顔が歪んでますよ。相変わらずイケメンですが。
『…こほん。聖域に入ると神力が増すのだが…。やはりナツの魔法はそれが限度だな』
「きゅ…」
ナチュラルに暴言吐きますね。いや、事実なのかも知れないが、もう少し強い魔法を願っていた私にはしんどい現実ですよ。
「まぁ、ナツが弱くても僕がいるから大丈夫だよ」
「きゅ…」
「ナツはずっと僕の傍に居る。ずっと護ってあげるからね」
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