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一件目『イフリクト:水の聖域』

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それでも、彼等から感じる私に対する敵対心は消えなかった。正直言って怖い。けれど、ここで死ぬ訳にはいかなかった。
私は再度前足に力を入れて、身を屈める。威嚇しながらジリジリと間合いを詰めた。

『小さい』
『弱い』
「きゅ!?」

――一瞬の事だった。狼さんが私の身体をとん、と押す。早すぎて彼等の手が見えなかった。衝撃で私の身体がコロコロと転がる。

「きゅ!?」

そして、再度逆側から身体を押される。まるでサッカーボールのようだった。負けじと立とうとするも、足に力が入らなくてぽてん、と尻餅をついてしまう。この身体弱すぎじゃない?ちょっと小突かれただけでコレ?

彼等は私が転ぶのを見て楽しいのか、楽しそうに前足で器用に転がしてくる。右へ左へ。
段々苛ついてきた私は力を振り絞って体勢を整える。そして見よう見まねで前足パンチを繰り出すも、足が短すぎて届かない。全く届かない。素振りも良いところだ。

「きゅ!きゅー!!」

恥ずかしくて、やるせなくて地団駄を踏む。まるで駄々っ子のようだった。いかに自分が無力化を思い知らされる。私はハイネさんやクー様が居ないと何も出来ないんだ。

『元気出せ』
『木の実やる』

そんな私に同情したのか、今まで私を転がして遊んでいた狼さん達が私の頭を撫でながら木の実をくれた。

「あれ。仲良くなっちゃった感じ?」
『きゅ!?』

ガザガザ、と音を立てながら第三者の声がする。聞いた事の無い声に私の身体が跳ねる。恐る恐る振り向けば、そこにはこれまた格好良い男性が居た。

この世界にはイケメンしか居ないのか?と聞きたくなる。

「初めまして、へっぽこ神獣ちゃん」
「きゅ!?」

何という挨拶?確かにへっぽこかもしれないが、知らない人に言われる筋合いは無い。
そして、何だろう。この人、嫌な感じがする。言葉に出来ないけれど、とても嫌だ。大教祖様に似ている気がする。負のイメージが強い、と言うか。

「へぇ、喋れないって本当なんだ。ハイネも何でこんな使えない神獣選んだのかなぁ」
「…きゅ?」
「うん?ああ、こっちが何を言ってるか分かる訳ね」

そうかそうか、と言いながら私の首の柔らかいところをむんずと掴み、マジマジと間近で見つめられる。
ぞわぞわと恐怖が足下から襲い掛かる。嫌だ。この人、怖い!と本能が叫ぶ。
逃げようと必死に暴れるけれど、男性は笑うだけで離してくれない。

「きゅ!きゅ!!きゅー!」
「短い足だなぁ。届いてないよ?」

くすくす笑いながら私の攻撃を面白そうに見る男性。
あれ、誰かに似ている気がする。今の笑ったところ、誰かと被ったぞ?

「きゅ…?」

一旦動きを止め、じぃ、と男性を見つめる。私がいきなり見つめるものだから男性が気まずそうにしながらも見つめ返してくれて。さらさらの金髪に碧色の瞳。優しそうに見えるけれど、何処か影のある雰囲気……似ている。この人、ハイネさんに似ているんだ。

『カイン様。そいつカイン様の事をハイネ様に似ていると』
「へぇ?初めて言われたなぁ」

麒麟さんが男性――もとい、カインさんに耳打ちする。その言葉に、関心したような表情で再度私を見やる。

似ている。けれど根本的に違うのは――…やはり彼が纏う負のオーラだ。彼は真っ黒だ。道理で大教祖様に似ていると思った。彼もハイネさんに対する感情で真っ黒だったから。だとすると、カインさんもハイネさんに何かしら負の感情があるのだろうか。

だとすると、私ピンチでは無いだろうか。敵将に首根っこを掴まれている状況なのだから。

「きゅ!きゅ!!」

離せー!と再度暴れる。必死だ。だって本気で死ぬかもしれないから。死にたくない。死にたくないに決まってる。だってやり残した事いっぱいあるもの。

「お、また暴れ出したぞ」
『こいつ、神獣としては雑魚ですが勘は良いみたいですね』

あれ。麒麟さんってばいきなり毒吐きますね。さっきまで神獣の中では優しいと思ってたのにとんだ裏切りじゃないですか。

『相変わらずよく喋る』
「そうなの?俺も聞きたかったなぁ」

指でぷらーんぷらーんと弄びながら横目で私を見るカインさん。畜生。クー様とハイネさんに手料理をご馳走するまでは死ねないんだ!

私の中で怒りが沸騰する。これがキレるってやつなのだろうか。前世でも怒るような性格をしていなかったから何だか不思議な感覚だ。

――イメージする。
水。沢山の、水。全てを呑み込んでしまう程の、大地の恵みを。

『!!!まさか!カイン様!そいつを離してください!!』
「え?あ、ああ!」

私の僅かな神力を感じたのだろう。麒麟さんがたてがみを立てながらカインさんに指示する。言われた通りに手を離したカインさんの前に立ち塞がる麒麟さん。

でも、もう遅い。

『ま、まさか水の加護を…!?』
「きゅー!!」

そうだ!だがな、今回は違うぞ!改良版だ!水と木の魔法!!ハイブリッドだ!!

喰らえ!水と木の玉!!

……
………
…………
ピュッ!

「きゅー!!!」
『う、うわぁ……?』

やはり駄目だった。魔法を繰り出す事は出来たけれど、威力の弱い水鉄砲が足下に掛かり、花が咲いただけだった。

やっぱり神力が弱いからなのかな。クー様もこれ以上は望めないって言ってたのは本当なのかな。

私はずぅん、と肩を落とすが、目の前の彼等は違った。身体を震わせながら魔法…?と呟いている。
そうだよ、こんなへっぽこでも魔法だよ。水分補給くらいにはなるよ。


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