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二件目『ガーディニアス:木の聖域』

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ハイネさんに魔法を教えて貰ってから、小さいモンスターなら倒す事が出来るようになっていた。だが、自分よりも大きいものは無理。火力的に。
いつの日かハイネさんのような大きな魔法を撃てるようになるのかな。無理かな。何てったって神力ないし。そこはわかっている。

だが、どうしても諦めきれないのだ。だって、本来は魔法を使えないんだよ?なのに使える。しかも火・木・水・雷・光。五元全てだ。威力はお察しですけども。
雷に至っては静電気だったよ。少し痛い程度の。

そして内心、転生者なのだから…、と設定バグを期待していたのも本音で。けれど、違う意味で設定バグな事に気が付いた。そう。

「きゅ…」
「んー?どうしたの。そんな可愛い顔して。お腹すいたの?喉渇いたの?抱っこして欲しいの?ちゅーして欲しいの?何でも言ってご覧」
「……」

じと、とハイネさんを睨んだが通じなかった。
そう。彼の存在だ。彼がチートな存在である限り私は引き立て役なのでは無いかって。それこそ設定バグだ。だって転生した先に主人公よりも遙かに強いキャラクターが居る事ってある?私は見たこと無いよ。

まぁ、だからと言って諦めないのが私の良いところなのだけれど。

「きゅー!」

草むらに隠れていたモンスターを火の玉で焼き尽くす…イメージだ。実際は火傷してるだけなんだけど。
動きを制御して水の玉で窒息死させる。これが私のやり方だ。
いきなり水の玉だけでは相手を捕らえる事が出来ない為、火の玉で足止めさせる戦法。

他にも木属性の風や目潰しする為の光魔法を使ってみたけれど、前者は爽やかな風しか起きなかったし、後者は豆電球レベルだ。まともに戦闘に使える組み合わせがこれしか無かったのだった。

「凄い凄い!ナツは凄いねぇ!」
「きゅー!」

馬鹿みたいに褒める馬鹿飼い主を無視してモンスターの傍に向かう。これでも神獣だ。彼等が次の世界では幸せに慣れるように、と祈りを捧げるのだ。

出来る事なら無駄な殺生はしたくない。けれど、それだと此方が殺されてしまうのだ。そんな世界なのだ。ここ、アトラナは。

「最近冷たい…」

ハイネさんがぶちぶち言いながら祈りを捧げる私を見つめている。冷たいと言うか、親馬鹿っぷりに慣れたというか。うざいと言うか。いちいち反応しなくなったのだ。成長したと言って欲しい。

モンスターの身体から魂が抜け、天に還る。何度見ても不思議な光景だった。

「さて、そろそろ木の聖域に着くよ」
「きゅ!」

立ち直ったハイネさんの横に着き、短い足をせっせと動かす。巡礼を初めて大分体力が付いてきた気がする。ハイネさんの歩みについて行けるレベルだ。端から見たら私の足は残像になっていておかしい状況なのだろうけど。

「ほい、着いた」
「きゅ…?」

そう言ったハイネさんが生い茂った木を掻き分け、私を通す。すると目の前は大きな崖が広がっていた。好奇心で覗けば目眩がする。深淵だ。闇の深淵。まるで深淵に見つめられているようで、私は恐怖の余り数歩引き下がった。

こんなところが木の聖域と言うのか。この崖を降りろと?死ねと?

「聖域があるのはこの奥じゃ無くて、崖の岩場」
「きゅー!」

変わんねーよ!!岩場って崖の事だよね?この絶壁を下れと?魔法を使うと言っても自分を浮かせられる程の風魔法を扱う事は出来ない。浮かせられるのは小さな葉っぱ程度だ。

「本当はね。ここで木の主にお祈りして、力をくだせぇ…って頼みまくるんだけど…うん。面倒だから直接行こうか!」
「きゅ?」

は?この人なんて言った?私は口をあんぐりと開ける。そんな表情も可愛いね、と言いながらハイネさんは私の胴体を持ち上げ、片腕で抱きしめる。

「よいしょ」
「きゅ!!?」

何の前触れも無しに崖へと足を踏み入れるハイネさん。何かがひゅん、としたがとてもゆっくりと降りてくれた。てっきり猛スピードで下るのかと思い、ヒヤヒヤした。ハイネさんの方を見上げれば私を見つめながら怖くない?と声を掛けてくれる。
私が急降下が苦手なのを覚えていてくれたんだ。胸がほっこりと温かくなった。

「もうそろそろ、かな」

そうこうしているうちに、木の聖域に着いたようだ。降下を止め、空に浮かぶハイネさん。ぱっと見、何も見えないように見えるし普通の人や動物が触れても何も干渉しない。だが、神獣である私と、ハイネさんには分かる。足下に聖域があると。僅かに時空が歪んでいるのだ。

「木の主かぁ…」
「きゅ?」
「なーんでもない。さて。主に誘われてないから普通には入れないんだよね。聖域ってさ。だとしたらどうやって入れば良いと思う?」

そう言われても…と言う表情を作ったがハイネさんに伝わっただろうか。ハイネさんは踵で聖域を刺激する。まるでそこを壊すかのように。

いや、でも聖域を侵すのは禁忌なんだよね?万死に値するんだよね?ちょっと?ハイネさん?

「せーのっ」

――パリンッ!

まるでガラスが割れた音のようだった。そう言えば私が攫われた時もそんな音がした気がするってちょっと待って!今壊したよね!?

「壊して、直す」

ずずず、と聖域に潜った私達。ハイネさんがそう言いながら頭上に出来た穴に手を翳せば、聖域は元に戻った。

「きゅ…」

これって普通なのだろうか。否、絶対に普通じゃ無いよね?チート能力だよね?



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