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二件目『ガーディニアス:木の聖域』
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しおりを挟む「あいたっ」
私はハイネさんの頭をひっぱたき、地面へと着陸した。
なんと情けない表情をしているのだろうか。私は鼻を鳴らしながらハイネさんから視線を外す。無視だ。紛うこと無き、無視というやつだ。
「ナ、ナツ…?」
震えた声が背後から聞こえるが私は反応しない。顔を逸らせ、ツーンとしてやる。人の努力を無碍にしやがって。私は怒った。怒ったのだ。
…でも、もしかしたら少し嫉妬も混じってるかもしれない。私が頑張っても倒せなかった先程のモンスターをいとも簡単に倒したハイネさん。分かっていたつもりだったけれど、こうやって自分の力と比べてみると何とも言いがたい感情が生まれてしまう。
ハイネさんの言う通り私は後ろに居て鼻でもほじってれば良いのだろうか。
――我が儘なのは分かっている。けれど、護られるだけじゃ嫌なんだ。私は彼の足手まといにはなりたくないのだ。
だから強くなりたいのだ。
「…ナツ」
「……」
弱々しい声が私の耳をふるり、と震わせる。
けれど、私はハイネさんにその想いを伝える術が無い。神力が弱いから、へっぽこだから。
「ナツ」
「…きゅ」
思わず返事をしてしまった。弱々しい声だった。
ハイネさんが私の身体を持ち上げ、優しく抱きしめてくれた。
「ナツ。強くなりたいんだよね。ありがとう。でもね、僕は嫌だな。ナツが強くなるのが嫌、とかじゃなくてさ…」
「きゅ…?」
言い淀むハイネさんにこてん、と首を傾げる。そんな私を見て、ハイネさんが絶叫した。
「だぁぁってさぁぁ!!ナツが強くなったら!!ナツが有名になったら!!!僕だけのナツじゃなくなっちゃうよ!!!」
「きゅ!?」
「ただでさえ可愛くてプリティーで可愛いのに!!人気が出ちゃう!僕だけが知ってるナツなのに!!僕のなのに!!!」
ウワァァァァ!!と言いながら私の頭に頬を擦り付ける。
どんどんハイネさんが壊れていく。おかしくなっていく。それって私のせいなのだろうか。
本気で涙を流しているハイネさんに呆れを通り越して笑えてくる。面白くってきゅっきゅっと笑えば、私をガン見して破顔した。
「かぁわいいぃぃ…さっきの威嚇した時も凄く可愛かった…。小さい身体でガルガル言ってさ、耳もイカさんになってさ…可愛いんだ…」
痛いくらいに頭を擦られ、私は溜息を吐きながらハイネさんに身体を委ねた。
*****
「強くなりたいなら僕が教えるよ」
その日の夜にハイネさんは名案だ、と言うように私に言葉を紡いだ。
「でも、巡礼が終わってからね。巡礼しながら特訓すると巡礼がおろそかになって神サマとやらに怒られちゃうかも、だからさ」
ハイネさんの言うことはご尤もだと思った。私達は今巡礼中なのだ。その中で特訓を始めてしまうとハイネさんの言うとおり適当な巡礼になってしまうかもしれない。
それはいけない。
私はハイネさんの言葉に何度も頷く。そこまで考えてくれたハイネさんに涙が出そうになる。
「代わりにナツでも使えるような応用魔法教えてあげるね」
そう言って私を抱いたハイネさんがぱちりと指を鳴らすと同時に風景が変わった。
「!!!!?」
「へへー」
にっこり笑うハイネさんに私は腰を抜かした。
間違い無く転移魔法だよね!?簡単に使えるものなの!?え、そもそも転移魔法使えたら…と言う野暮な話はよしておこう。
――私はそれ以上考える事を放棄した。
すん、とした表情にきゃあきゃあ言うハイネさんだったが、我に返って咳払いをする。
「コホン…。ナツは一度に複数の魔法を繰り出せるね?」
「きゅ!」
「じゃあまずは火をイメージして。…そう。で、そこに風を乗せる…こういうふうに」
ハイネさんが言葉にしながら実践する。小さな火が灯り、その火が風の魔法によって木へと打ち付けられた。
成る程。威力が弱い火の玉に風の魔法で補助する、と言う事か!
「じゃあやってみて」
「きゅ!」
言われた通りに火をイメージする。すると私の前に火が灯った。蝋燭の火のような小さい炎だが気にしない。その炎を維持しながら風を吹き込めば――…
「きゅー!」
炎は勢いを付け、近くの木へと打ち付けられる。ハイネさんの魔法よりも随分と威力は小さいけれど、十分だった。
私は感激の余り小躍りした。
「うん。上出来だね。後はもう少し早く魔法を発動出来ると良いかな。こうやって」
瞬時に魔法を繰り出していくハイネさんに私は圧倒された。指を鳴らす先、指す先に魔法が繰り出される。詠唱なんてしない。恐らく本能でイメージを一瞬にして創りあげているのだろう。
最後にぽん、と可愛らしい花を出してハイネさんのショーは終わった。
「例え一つ一つの威力が小さくても他で補えば良いんだよ。少しずつ練習していこうね」
そう言って花を私の頭に乗せてくれたハイネさんは今までで一番格好良かった。私が人間体なら惚れていた。何回惚れるんだって話だけれど、顔面が国宝級なのだからしょうがない。
「さて、今日はもう休もうか。ナツ、おいで」
腕を広げ、私を抱き留めてくれるハイネさん。優しくて格好良くて少しだけ変人なハイネさんに私はもう骨抜きだった。
これが飼い主への愛情なのだろうか。分からないけれど、胸がむずむずした。
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