クリスマスイブ🔔

紅城真琴

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年下の彼

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日付が変わるころになって、やっとマンションへ帰ってきた。

残業したお陰で溜まった仕事はかなりさばけた。
これでいい年末が迎えられそうだけれど、すごく寂しいクリスマスになってしまったな。

結局、大河に返信することはできなかった。
すっかり家々の明かりもクリスマスイルミネーションも消え、街灯以外の明かりはない。

さあ帰って寝よう。
明日からまた忙しい毎日が待っている。
きっと年が明けるころには大河だって諦めてくれるだろうし、

ん?
唯一ついているマンション入り口の明かり。
その前に映る人影。

時間が時間だけに恐怖心で体が固まった。

え、ええ・・・

立ち止まった私に気づいたのか、立ち上がりこちらに向かってくる人影。
私はとっさに逃げ出そうとした。

「待って」
投げかけられた声の主を私は知っている。

私は背中を向けて駆け出した。

ごめんね大河。
でも、今は会わせる顔がない。

「日彩っ」
駆け足で車まで戻ろうとしたのに、追いかけてきた大河に背後からギュッと抱きしめられた。

***


「すぐに逃げ出すのは、日彩の悪い癖だぞ」
「・・・」
わかってる。私はかわいげのない女だから。

「俺はそんなに頼りにならないか?」
「・・・そんなことない」
大河はいつも私を守ってくれる。

「クリスマスイブは一緒に過ごすって約束しただろう?」
「だって・・・」

私は精一杯の力で彼を振り払った。
今流されてしまったら、すべてが元に戻ってしまう。
そしてまた同じことを繰り返すんだ。

「日彩?」
少し驚いたような顔をした彼が、私を見ている。

「もう無理なのよ。大河とは一緒にいられない。別れましょう」

不思議だな、心にもないことがこんなにすんなり口から出るなんて。
きっと今言わないと、この先ずっと大河を振り回すことになる。そう思ったから言えたんだろう。

「本気か?」

「ええ」

いつも穏やかな表情の大河が、じっと私を見据えている。
私も奥歯を噛み締めて、必死に見つめ返した。

「一度失ったものは、もう戻らないんだぞ」
「ええ」
覚悟の上。

大河には、綾香さんのような人がふさわしいに決まっている。
あなたの横を歩くのは私ではいけない。

***

「私、仕事が楽しいの。これ以上あなたに時間をとられたくない」
これは嘘。

大河が待っていてくれたから頑張ってこれた。
でも、これからは一人で頑張る。大河を自由にしてあげないといけないから。

「わかった。それが日彩の気持ちなんだな」
「・・・うん」

はじめて、大河の怒った顔を見た。
それはひどく冷徹な表情。
私は、捨てられたんだと感じた。

じゃあなと背中を向け、消えていく大河。

私は何度も声をかけそうになって、その声を必死に飲み込んだ。

ダメだ。今ここで我慢しなければ。
そう思っているのに涙が溢れだして、油断すると声が漏れそうになる。

大河。大河、私はあなたが好きだよ。
私が全てを捨ててあなたに飛び込んでいければ、どれだけ幸せだろう。
でも、私はそんなにかわいい女じゃない。
だから・・・

あぁ。

大河が角を曲がって、姿が見えなくなった。
その瞬間、私の足が無意識に動いてしまった。

嫌だ。
大河の側にいたい。
大河にために生きたい。

気が付けば、私は駆け出していた。

***

ドンッ。
何かにぶつかった衝撃。

姿の見えなくなった大河を追って走り出した私は、角を曲がったところで何かにぶつかった。

えっと・・・
今何が起きているんだっけ。

「やっと捕まえた」
頭の上から降ってきた大河の声。

ぶつかったはずの衝撃にそのまま吸収された私は、温かくやわらかな存在に包み込まれている。

そうか、私が大河を追いかけたんだ。
大河は追いかけてくるのがわかっていて、待っていたんだ。
結局、大河の思うつぼってことね。

「どんなに逃げても俺はあきらめない。俺は、日彩が好きだ」
「私も大河が好き」

この10日間は本当に無駄な抵抗だった。
どんなにあがいても、気持ちは止められないのに。

「今度連絡が取れなくなったら、病院へ直接かけるからな」
「はあ?」
そんな事すれば大騒ぎになる。

「それでも返信しないなら、『婚約者です』って押し掛ける」
「大河」
彼らしくもない発言に思わず顔を見上げた。

「日彩、これからも大変なことがたくさんあると思うけれど一緒に生きて行こう」
「・・・」
感動と驚きで返事ができない。

「母さんの言ったことは気にするな。俺が話をする。綾香のこともすまなかった」
「うん」
全部知っていたんだ。

「日彩、俺についてきてくれるか?」
静だけど、強い眼差しに大河の決意の強さを感じた。
「・・・はい」
私は素直に返事をした。

もう迷いはない。
どんな結果になっても、私は大河ともに生きていく。

この夜、私たちは今までで一番素敵なクリスマスを過ごすことになった。


fin
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