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災難も幸せも、すぐそこに転がっている。

ハッピーエンド

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その夜、私たちは同じベットで眠った。
初めて肌を合わせているのに、その温もりが心地よくて、溶けていくようだった。
何度も何度も求められ、「もー、無理」と言っても許してはくれない。

「やっと手に入れたんだ。止められるわけないだろう」
やっぱりボスは独占欲の塊。
いつも冷静ですました顔をしながら、欲しいものは必ず手に入れる。
そんな人だ。

私はとんでもない人に捕まったのかもしれない。
もう後戻りはできないと分ってはいても、この先を考えるのが怖い。

「この状況で考え事とは、随分余裕だね」
意地悪い顔。
「ちがっ」
言いかけた私は唇を塞がれた。

さんざん私を翻弄した後、チクリと体中に赤い印がつけられていく。

「お願い、もう・・・あぁ」
許してと言いたいのに、体が別の声を上げる。
「ククク。かわいい」
「意地悪」
「うん、知ってる」

そしてまた、私に沈んでいく。

「ああ・・・もう・・・・・副院長」
思わず出た言葉に、
ピタリ。
ボスの動きが止まった。

一旦体を起こし、私を見下ろすボス。
顔が怖いです。

「呼び方変えて」
「え、そんな、急に言われても・・・」
ずっと副院長って呼んできたのに、
「ちなみに、ボスも却下」
「し、知ってたの?」
ボスの前では言ってないつもりだった。
「時々もれてた」
はああ。

「真之介でいいよ」
いいよって、随分ハードルが高いんですけれど。

「真之介って呼んでくれるまで、俺はやめない」
「え、待って、」

再び始まったボスの攻撃。
自分の体の感覚がなくなるくらい、攻められた。

「もー無理。お願いやめて。し、真之介ー」
叫び声と共に何度目かの限界を迎え、私は意識を失った。

***

次に目が覚めると、朝日が差し込んでいた。

ん?
何時だろう。
体を起こそうとして、
「うぅっ」
全身の倦怠感。

「どうした?まだ、6時だぞ」
耳元で聞こえたボスの声に、ビクンと反応してしまった。

そうか、私はボスと・・・

「起きれるか?」
「うん。大丈・・・じゃ、ない」
力が入らない。
「馬鹿だなあ」
何もなかったかのようにベットから起き出したボスが、私の膝と背中に手をかけて抱き上げた。
ちょ、チョット。
「ジッとしてろ」

そのまま寝室を出て、ソファーに降ろされた。


「今日、休む?」
「え、私、退職届を」
「ああ、破いて捨てた」
はあぁ?
「無断欠勤になってるから、自分で謝るんだな」
「そんな・・」.
「大体、退職は1ヶ月前に連絡って常識だと思うぞ」
まあ、それはそうなんだけれど。
私にだって事情があったわけで。

「で、どうするの?今日は休む?」
「いえ、行きます」
帰ってきたからには、もう逃出さない。
すべてをあるがままに受け入れよう。

「じゃあ、何か食おう」
「私作ります」
「バーカ、動けないだろう」
確かに。
「トーストとコーヒーで我慢しろ」
1人キッチンに向かっていくボス。

ボスに食事の支度をしてもらうのって初めて。
なんだか新鮮だな。

***

朝。

「紙切れ一枚で何日も休むなんていい度胸だな」
「すみません」
「すみませんですめば、警察はいらない」

いつもは5分で終わる秘書課の朝礼が、今日は長い。
すべては私のせい。
先輩達の前で、私は課長から叱られた。
さすがの先輩達も、『かわいそう』って視線を私に向ける。
これで、今回の一件はなんとか収まるだろう。

「もういい。副院長が呼んでるから、戻りなさい」
10分以上続いた課長の説教が終わった。
「すみませんでした」
もう一度頭を下げ、私はボスの元に向かった。

***

「大丈夫?」
「ええ」
「緊張してる?」
「ハイ」
もちろん。

その日の午後、真之介と2人で院長室へ向かった。

「彼女と結婚します」
前置きもない一言。
もしかして反対されるのかな?
私なんかが相手では、きっと不満だと思う。

しかし、
「そうか、いいと思うぞ」
えええ?
意外にも賛成され、私の方が拍子抜けした。

後から聞いた話では、課長が事前に話をしてくれたらしい。
「あんな真之介は初めて。並木くんが来てから、真之介が人間らしくなった。あいつには彼女が必要なんです」と力説してくれていた。

週末には真之介の実家へお邪魔し、お母様やお姉さん夫婦と対面。
あれよあれよと私たちの結婚が決まっていく。

幸せで、幸せすぎて怖い。

「真之介、私あなたが好きです」
「俺も、茉穂を愛している」

これが私の、ハッピーエンド。

私は真之介の生涯のパートナーになった。
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