ある日、私の頭に耳が生えました

巻乃

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ナーオ・ロウ国編Ⅱ

カーナの出産

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 城に勤めている私と宰相である父の元へ、最近領地から家に戻ってきた母と愛しい妻であるカーナのいる家から、急ぎだと、我が家に仕えている執事がやって来たのだ。

 その執事が言うには、「カーナ様の陣痛が始まったので、大奥様から城にいる大旦那様と若様へスグに知らせるようにと言われ、私が知らせに参りました。」と、陛下のいる所で言うので、我が家の私事を開示する訳にはいかないと、父と私は陛下の前からした。


 場所を変えて話し始めた執事が言った事は、カーナの事であった。

「カーナ様の陣痛が始まりました。
 カーナ様のかかりつけである女性の医者と女性治癒魔法師の手配は既に済んでおります。
 ただ、カーナ様は初産ですが、多胎であられるので、医師であったイッチェン様に立ち会って欲しいとカーナ様自身がおっしゃっているとの事で、「息子だけでも至急、帰宅する様に。」と大奥様から伝言されております。」

「カーナからか、分かった。他には?」
「わ、私の孫は?」

「「家にいてもいなくても役に立たないので、息子の分の仕事をこなして、息子がカーナに付いて休めるようにしてからご帰宅されますよう、切に願っておりますわ。」と、大奥様から伝言されております。」

 父上の顔色が悪い。

「「どうせ、カーナよりも、「孫は?」と聞いてくるのだわ。だから、夫がそう聞いてきたら、この言葉を伝える様に。」と言われておりましたが、大奥様の仰る通りでした…。」

「…母上の言う通りだ。
 私の妻の身体の心配よりも、自分の孫の方の心配が先だとは思わなかったですよ、情けない。カーナが無事でいなければ、孫だって無事に済まないと想像出来ないのですか!!

 私が休めるように、父上、お仕事をここで沢山こなして下さい、くれぐれも、私を呼びだす事が無いようにお願い致しますね!!」

「大旦那様、大奥様からは、孫よりもカーナ様の事を聞かれた場合の伝言もございました。
 それでは、私はイッチェン様と屋敷へ戻ります。」

 城から出ようとしている私と執事の遥か後ろで、父が固まったままで、立ち尽くしていたが、母上の言う通りだと思ったし、母上から沢山、仕事をする様にと言われた父上は、仕事を頑張るだろう。

 だから、仕事の心配はないのだろう。だが、執事が父上に言った事が気になったので、聞いてみたのだ。

「なぁ、父上が先にカーナの心配をしたらどんな伝言だったんだ?」と。

 執事は素っ気なく、私と家に帰る馬車の中で答えますと言うので、馬車に乗ってから、もう一度、聞いてみた。

「大旦那様には内緒ですよ。
 もし、カーナ様の事を先に心配されていたらですね、「さすがだわ。少しは反省出来たのね。家に仕事を持ち帰って、カーナの産後に休暇をとって、仕事が出来なくなる息子の代わりに頑張って欲しいの。
 勿論、あなたの好物を張り切って作るわ。」と言うようにと言伝されていたのです。

 大奥様みずから、大旦那様の好物の下拵えも既に終えられていましたが…、イッチェン様お一人でお屋敷にご帰宅されたら、大旦那様が何と言ったのかを大奥様がご理解されると思います。」

「で、父上は、城で仕事の合間に好物の差し入れをされるだけで、放っておかれるんだ、ね…。」

「はい。それに、孫が産まれても、カッツェ様にだけはすぐに知らせない様にとも言われております。」

「それはまた…、父上が何かしたのか?」

「はい。

 イッチェン様が産まれてすぐ、先代であられたイッチェン様の祖父母がカッツェ様よりも先に、大奥様の産後の部屋へ産後すぐに飛び込んで、大奥様の産後のケアをする邪魔をしたのだと聞いております。

 その上、産後のケアをするのでと大奥様と産まれたばかりのイッチェン様のいる部屋からお二人を出したら、何故出すのかと言いがかりに近い文句を医師と治癒師に言いたい放題だったそうでございます。

 その場面で家に帰宅されたカッツェ様も、その話に同意されたのだとか。

 そこから、先代ご夫婦様とご当主様の3人に医師や治癒師が説明と言う名の説教をするまで、大奥様とイッチェン様のいる部屋に居座っていたのでございます。

 翌日になってすぐ、大奥様のご実家からご当主が迎えに来て、お屋敷から大奥様と若君のお二人が家から出られました。

 大奥様とイッチェン様は、イッチェン様が産まれて1年が経つまで、ご実家に帰られていましたから。

 お二人を祖父母様とカッツェ様の3人で何度か家に連れ帰ろうとしたのでございますが、大奥様が出産した知らせを大奥様のご実家にも寄越さず、本人から助けて欲しいと言われて、娘の出産した事を知ったのだと、大奥様のご実家のご当主に言われ、すごすごと何度も帰らされたそうでございます。

 私もまだ、執事になったばかりで、何人かで分担して屋敷の中の仕事をしていた頃でしたので、同じ執事仲間から話を聞いたり、自分で見たりしたので、この事を知っているのでございます。」

「…目も当てられない程だな、父上は…。」

「ですから、カーナ様にはご自分が遭ったような事に出会わないようにしたいと仰っていまして、カッツェ様には遅れて知らせる様にと。

 勿論、領地の別邸におられる先代であらせられるご祖父母様にも、1月ほど後になってから知らせる様にする手筈を調えてありますので。

 イッチェン様からも不要な連絡をして、カーナ様のご負担を増やさない様にと、その説明をご帰宅の馬車内で私から説明するようにと、大奥様から仰せつかっておりました。」

「あー、分かった。カーナと子供達との貴重な時間を、あの思い込みが激しい祖父母に私も邪魔されたくはないからな。」

 帰宅する馬車内で、父上や祖父母の起こしたアレコレを聞かされているうちに、屋敷に着いたのであった。

 玄関先には母上が迎えに来ていて、馬車から降りて来るのが私一人だったのを見て、大きな溜め息をついたのだ。

「只今帰りました。母上。カーナは今、どのぐらいでしょうか?」

「おかえりなさい、イッチェン。まだ、陣痛の合間の時間は、20分位ね。」

「カーナに飲み物と軽食の用意は?」

「医師や治癒師にも用意してあるわ。イッチェンは夕飯もまだでしょう?

 イッチェンの夕飯中に、色々、軽食と一緒に用意する様に手配しておくわ。
 夕飯を食べて湯を使って、着替えておいて。何かあれば、すぐに伝えるわ。」

「カーナには私が帰宅して、夕飯もまだだと伝えておいて下さい。用意をしたら、必ず付き添うからと。」

「息子がマトモで良かったわ。」

「あー、反面教師として色々聞きました。私も気を付けます。」

「馬車内で、聞いたのね。」

「はい。アレコレの内容が、聞いただけでも凄まじかったです。

 母上のおかげで、私がマトモで居られて良かったです。母上、ありがとうございます。」

「カーナさんは幸せになれなくちゃ、ね。苦労してばかりで大変だったんですもの。

 それに、息子と結婚して娘になってくれたのです。もっと幸せになってもらわなくては。」

「それでは、失礼します。」

 母上の気遣いが嬉しかった。

 カーナの家は親が上昇志向が強く、娘であったカーナも政略結婚に使える良い駒であっただけで、寂しい幼少時を過ごしていたのだ。

 カーナの父が不正を行っていたとして、公爵であった家格を下げられて伯爵になった。カーナの母は湯水の如く金を使うので、カーナの父が不正に手を染めたそうだが。

 結局、カーナの両親は生涯幽閉になり、その後をカーナの兄であった者が家を継いだだけだ。

 カーナの兄は、まだ後継ぎとして価値があったのか、妹であったカーナとは離されて育ったし、家からの期待もあったので真面目に生きていたらしく、家を継いでからは伯爵家として頑張ってはいるが、妹のカーナには連絡一つもないのだ。

 ただ、結婚したとか、妊娠したとかの最低限の連絡は、最低限の常識として、こちらからはしているのだが、それに返答もない。

 夕食を済ませ、湯を使い、楽な服装に着替え、滅菌消毒をした白衣を着て、カーナに付き添った。

 陣痛が5分間隔になってからは、子宮口が全開になるのが早かった。

 我が子達は、母になるカーナの負担を減らそうと努力してくれているらしい。つたない魔法で、「「「とーさま、かーさま、あいたい」」」と、私とカーナに伝えてくるのだ。

 カーナも私も声に出して、「母様も会いたいわ。」「父様も待っているぞ。」と何度も伝えている。

 その甲斐があったのか、朝方になってから、男の子が2人と女の子が1人、産まれたのだ。

 カーナも私も母上には感謝をしているので、産後の妊婦の後産の処理をして、子供達は産湯を使ってキレイにしてから、母上を呼んでもらったのだ。

 私達が抱いた後だが、母上にも初孫を抱いてもらったのだ。母上が孫を抱きながら、喜びながら涙を流していた。

「3人も孫が出来て嬉しいわ。女の子も男の子も両方だなんて、凄い贅沢ね。
 カーナ、ありがとう。イッチェン、カーナ、おめでとう。」

「大奥様、大旦那様は着替えと消毒を済ませておりますが…。」

「2人共、いいかしら?」

「ええ。」
「カーナが良いのなら。」

「ですって。孫に会う為に徹夜で仕事をしたんでしょう。」

 父上は母上が居ないとダメだな。おずおずと私達がいる部屋の中に入って来た父上。宰相をしている姿を想像できない程の弱腰だ。

「…2人共、おめでとう。」

「お義父様、孫を抱いて下さい。祝って下さい。」

「ああ。」

 父が孫を一人ずつ抱いて、当主として言祝ことほぐ。

 長男のマスタには「宰相に相応しくなるように。兄弟で仲良く協力する様に。」と。

 長女のカナンには「優しく芯の強い女性になるように。」と。

 次男のロウンには「宰相に相応しくなるように。兄弟で仲良く協力する様に。」と。

 宰相も、家に生まれた男児の数で2人体制になったり、3人体制になったりしてきた過去があるので、兄弟2人で分担してくれるだろう未来を思い描いたのだった。

 子供達の名は、母上と父上で考えた名前の中から、カーナと私が選んだ名を子供達に名付けたのだった。

 屋敷の者達には、産まれて7日後に、家の者だけの内輪のお披露目をしたのだが、感極まって泣いた者がいた事をしるしておく。

 それまでに、子供達の安全を考え、子供達が連れ去られても、追跡出来る様にと、物理と魔法の悪意あるモノを反射して反撃する魔法など複数の魔法をかけてあるが。

 生まれて一月後、王城の戸籍に出生届を出したので、私達の子供が生まれた事が広まって、お祝いが届き始めたのだが、お返しが大変であった。何せ、普通なら1人分で済む所、3人、それも男女両方なので、嬉しい半面、大変さも3倍であった。

 父上にも母上にも孫をもっと抱いてもらえるように、カーナと子供を作る過程も含めて、沢山頑張るつもりでいるのだが、産後すぐに男性側から次の子供の話をするのは、女性にとってはタブーだと母上から止められている。

 しばらくは、育児を出来るだけ手伝い、カーナの負担を減らす努力をするつもりである。

 宰相補佐の仕事も、父上が減らしてくれるそうだ。先代の宰相である祖父を手伝いにさせると。祖母は、領地で意地を張って、今回は来なかった。

 仕事の手伝いを沢山すると、ひ孫たちがいつもより多く笑ってくれるのだと、張り切って手伝いをしてくれる祖父は、私の中にあった祖父の姿とは違ったのだ。

 多分、祖父も祖母の底意地の悪さに引きずられていたのであろう。今の所、母上と祖父の間にはいさかいは見えない。母上も、祖母がいないので、助かっているのだろう。
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