ある日、私の頭に耳が生えました

巻乃

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ナーオ・ロウ国編Ⅰ

男達の話し合い3

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 ユーイから無事に予知の巫女ではないと聞いて安心していたが、王太后様から元王妃のミュン様の婚姻届けをイッチェンが処理をするようにと、その書類が皇太后様から出されたのだ。

 たしか、一昨日に父上がいない間の審議で私が代理を務めた時に、ミュン様の離婚が成立したばかりで、今日の昼の茶会後に王城を出ていくと聞いていたが、その、あの、再婚までが早過ぎないか?と思った。

 王太后様の目の前で、イッチェンが再婚の書類手続きをしていたが。

 その書類を見せてもらった。あー、再婚相手はバルバドス殿か。なるほどね。

 王太后様の根回しがミュン様の離婚前に済んでいたから、王太后様の紹介で、父上が王命でミュン様に無茶ぶりをする前に再婚したのか。

 父上とミュン様は言葉を交わす事もなく、冷え切っていた。父上も嫌味と暴言だけしか言ってなかったし、今更、何で王が近寄って来たのかがミュン様には全く分からなかったし、伝わらなかったんだろうな。そのせいで嫌いな気持ちと義務で結婚した気持ちに無理だという気持ちが膨れ上がって、離婚に拍車がかかったとかあり得そうだな。

「手続きが終わりました。」
「ご苦労様。リンクス王と宰相が何か言ってきたら、私の所へいらっしゃいと伝えてね。しっかりと説教してあげるから。あなた達は年寄りの私の願いを叶えたって、王と宰相を突っぱねてちょうだい。」

「王太后様の仰せの通りに。」
「同じく、王太后様の為に動いたと伝えます。」
「良い子達ね。ありがとう。」

 王太后様は王城の離れで暮らしているが、滅多にこちらまで来ない。でも、ここぞという時は動かれて、それが最適な結果をもたらすので、誰も逆らえないんだが、今回は父が逆らいそうな予感がする。ただし、素面しらふではなく、酔っぱらった上での直談判をしそうだが。

 赤雪皇妃との茶会の何日か後に、「ミュンはリンクスの番である資格がなくなってしまった。その権利をもう今は有していない。それに、ミュンには番となる男が別にいるのだ。」と、女神からのお告げがあったのだ。

 それはもう、大臣の皆にも女神からのお告げがあった様で、父上の再々婚の相手に自分達の娘を勧め始めたのだ。

 それから逃げる為に父上は視察へ出たのだろうが、その隙にと王太后様から提案されたのは、ミュン様の離婚だった。王太后様はそれらを審議させ、大臣達もその意味を理解して、離婚を成立させたのだった。

 ミュン様もその間に、荷物や持ち物を仕分けして、寄付したり、売ったり処分したりして、王妃の部屋にはもうミュン様が使っていた家具ぐらいしかなく、ミュン様を思い出す物は、茶会前に最後の挨拶に伺った時にはもう、何一つ残っていなかった。

 装身具は、王家へ全て返還されていたし、ドレスや靴を売ったり寄付したりした明細金額も、その売買の記録も全て提出されていて、収支は明朗であった。

 まぁ、この年齢だから、母上がいなくなって寂しいとか言って幼子の様に泣く事はないが、先に進んでいく母上に、置いてきぼりにされたような気はしたけれど。

 その夜、父上と宰相殿が視察を切り上げて帰って来た。娘を王妃にしたい誰かが、父や宰相にミュン様が出ていった事を伝えたんだろうな。

 帰城した父上から呼び出されたであろう面々が、王の執務室にいた。ユーイとの時間を潰されるのが嫌で、渋々最後の方になって入った執務室の中を見た私は、誰がいるのかと見回した。

 リンクス王である父上、カッツェ宰相、イッチェン宰相補佐、総騎士団団長デッドリー殿、リヨウ近衛騎士団長がいた。再婚したばかりのバルバドス殿はいない。後は王太子である私と、騎士が何名かと文官がいただけだった。

「宰相の私が王との視察でいないうちに、ミュン様の離婚が成立していた。イッチェン宰相補佐、どういう事だ?」
「王太后様の願いを叶えただけでございます。」

 一瞬、ひるんだ表情をしたが、宰相殿はイッチェンの言葉を聞いて黙った。

「離婚の成立は大臣達に反対されなかったのか。答えよ、ショウ王太子。」

 王として聞いてきたか。仕方ない、王太子として答えるか。

「賛成多数に無効の方が数名いた位です。王太后様の推薦もありまして、すぐに可決されました。」

「と、止める者はいなかったのか?」
「いいえ。王太后様が提案した時点で、誰一人おりませんでした。」

 父上が、執務室を見回している。

「バルバドスがいない。どうしたのか。」
「陛下、私から答えましょう。」
「デッドリーか。」
「バルバドス殿は今日の昼から、7日間の番休暇をとっております。そこにいる副団長に当たるサブリーダーの8人うち、3名の者がバルバドス殿の代わりに代表として参加しております。」
「そうか。」

 うわわ、ミュン様が再婚したのも、その相手が誰なのかも知らないんだ。王太子教育の無表情を装うというのが、今、凄く、役立っている気がする。背中の冷汗は止まらないけどね。

「それは目出度い。ミュンを狙っていた者だからな。気になってな。」

 ドンドンドン!
「ショウ王太子様!ユーイ様が高熱で急に倒れました!王太子様の名を呼んでいるので、急いで下さい!」
「父上!私は護衛のリヨウを連れて、ユーイを見てきます!リヨウ!行くぞ!」
「はい!行きましょう!」

 王の執務室から急いで出て来たが、イッチェンが逃げれる理由はまだない。ユーイも心配だが、あの場から逃げられた安堵の方が大きい。

「ショウ、俺、あの場に居たらどうなっていたか分からない。」
「私もだ。デッドリー殿の報告で、寒気がしたよ。」

「女性をバッサリと気付かずに振っているデッドリー殿の評判は嘘や酔狂ではなく、事実だから。」
「騎士団では有名だったか。」

「俺も何度か告白の場に出くわしたが、デッドリー殿は自然体で、バッサリと振っていた。」

「ユーイが呼んでいるんだ、急ごう。」「ああ。」2人はユーイの部屋を目指して早足で歩いて行った。

 ユーイの部屋へ行くと、「今までの疲れが出たのでしょう。今夜一晩で熱は下がると思います。」と侍医に言われただけで済んだ。私は今夜、ユーイの側についているからと言って、リヨウは、そのまま帰宅してもらった。

*****(残されたイッチェン)*****

 私一人だけ?!逃げ出そうにもユーイ様の処へ行く理由がない…。

「王太后様からの伝言です。リンクス王と宰相殿が何か言いたいのなら、王太后様の所へ行く様にと伝えて欲しいと言われています。」

 もうこれしかないんだよ!

「王太后様の願いを叶えただけだとお伺い致しましたから、それは良い提案だと思われます。」

 王妃付きメイド長リルル殿の夫のボッド殿!助け船をありがとうございます!

「そうだな。陛下、王太后様のお話を聞いてから皆で話してもいいのではないでしょうか。」
「そうしよう。誰か、王太后様へ伝令係をしてくれないか?」
「はい!私が行きます。」

 すみません!父上!不甲斐無い息子は逃げます!

「では、イッチェン殿に頼もう。」
「すぐに伝えます。」と言って、王の執務室から出た。

 王太后様の所へ出来るだけ早く行き、どんな話でどんな流れだったのかを話した。王太后様はしばらく笑ってから、「デッドリーも小さい頃のまま、変わらずにいるのね。」と言ってから、「イッチェンもカーナ様が寂しがって泣いているわ。今すぐ帰りなさい。私の命令で帰ったと、あなたの母上に伝えておいて。」

「はい、すぐに帰って、母にも伝えます。」と家に帰った。そうしたら、屋敷の玄関で母に会ったので、王太后様からの言葉を伝えてから部屋に戻ると、泣き腫らしたカーナがいた。

「書いていたらね、いちに会いたくなって、寂しくて涙が止まらなかったの。帰ってきてくれて、ありがとう。」

 抱きしめたカーナが可愛いし、寄り添ってくれるのが嬉しいし、疲れが吹き飛ぶって、こういう時を言うんだろうな。

 王太后様、逃がしてくれた上に、カーナには感謝されました。幸せです!ありがとうございます。
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