ある日、私の頭に耳が生えました

巻乃

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ラーン・ビット国編

王太后とユーイとラーン・ビット国の人々1

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 魔馬車の中で、王太后様から言われたのです。

 私達がラーン・ビット国の王城に着いたら、私が挨拶をまずはする様にと。

 その理由は、私が王太子様達の番の叔母であり、ナーオ・ロウの次代王妃なのだからと。

 次代の王家同士を繋ぐ者なので、正式な王家からの祝いをするのにも最適なのだと懇々こんこんと説明されまして、魔馬車の中で、挨拶をする口上を考え、練習させられました…。

 王太后様って、スパルタだったのです、ね。ショウ様が言っていた、「お婆様にしてはユーイには親切丁寧に説明していたから、驚いたよ。」って言っていたのは、真実でしたか…。

 王妃教育って厳しいモノなのですね…。慣れたら、即興で挨拶をしましょうと力強いモノが背後に見える様な微笑で微笑まれましたが、その圧力に勝てず、思わず頷いていました。

 私があの技を使いこなせる日はいつになるでしょう…?と思う程の威力と謎の圧力がかかった微笑みでした。

 程なく、ラーン・ビット国の王城の正面玄関へ横付けして停車したナーオ・ロウ国の王家の魔馬車の中から、私と王太后様が現れると、私の目の前には、一糸乱れない整列をして騎士達が並び、その一番奥の方に、王族達がいらっしゃっているようでした。

 魔馬車からどうやって降りようかしら?と思っていると、横から好青年が現れました。

「はじめまして。私はラインハルトです。魔馬車から降りるお手伝いとエスコートを担います。お手をどうぞ、ユーイ王太子妃様。」

 ああ、この人が私の姪の番のお一人なのですか。たしか、第2王子で、王太子でしたっけ。

「はじめまして、ユーイと申します。ラインハルト王太子殿下、エスコートをお願い致します。」

 私の手を支えて、魔馬車から降りる手伝いをしてから、私の手を取って、エスコートして下さいました。

 私の後ろの方で、私と同じように、王太后様もアインハルトと名乗った第1王子に魔馬車を降りる手伝いをされて、エスコートされているようです。「若くして番が見付かって良かったですね。」と、ご機嫌な王太后様の声が聞こえましたもの。

「番がいるから、他国の方をエスコート出来るのです。番のいない独身の者では、王太子妃様をエスコート出来ませんからね。王太子妃様を見ていると、私達の番も将来さぞかし綺麗な女性になるのだと期待が持てます。」

 なーんて、エスコートしながら、ラインハルト王子にそんなお世辞も言われてしまいましたけれど。

 ラーン・ビット国の王城の王族と、ナーオ・ロウ国の王族との謁見は、王城の広間で行なわれました。

 ラーン・ビット国内の貴族を招いた中での口上、緊張でどうにかなりそうなのを微笑んで誤魔化して、何とか最後まで言い切れました。

 この広間中の視線を集めたので、緊張したんですけど、ね。チラリと王太后様を見ると、ニコニコしていたので、及第点はもらえたのでしょう。

 視線が外れたと思ったのに、何処からか舐めるようにこちらを見ている視線が幾つかありました。気持ち悪い視線です。ゾワゾワしますが、我慢です。

 私の専属護衛のロートが、その嫌な視線を私に向けていた方々にピリピリしているのが、何となく判りました。

 だから、我慢出来たのです。後で、私と王太后様に報告してくれるでしょう。王太后様曰く、この国を測る試金石だと。

 誰がどのような感情なのかを初見で感じ、調べて、滞在中に何にどのように気を付ければいいかを図るのだそうです。

 王太子妃だからこそ、王妃のいない今だからこそ、私がこの国を知る機会に恵まれたのだと魔馬車内でも言われていました。

 嫌な視線の他に、聖獣様が私を見る様な視線が幾つかと、こちらを利用するつもりなのか、私と王太后様を探る視線を幾つか、感じています。

 私達が探れない者は、クーちゃんから『あたいが突き止めるから安心しなさい。』とも言われています。

 そんな事も出来る聖獣様には憧れます。凄いです。私はまだ魔法でそこまでは出来ませんから。

 王太后様に聞いたら、「女性の秘密を暴いていいのは、夫だけなのよ。」とかわされて、逃げられて、本当の所を教えてもらえませんでしたっけ。

 何とか、私のボロが出ないうちに、謁見も終わり、客間に案内され、その後、王家の方達だけとのお茶会に誘われました。

 そのお茶会で、ラーン・ビット国の王妃にあたる方である、総侍女長のファネス様と、王女のシルビア様とその婚約者様。

 改めて、王であるアマデウス様と、第1王子アインハルト様、第2王子のラインハルト様、第3王子のベルナール様が名を名乗り自己紹介されました。

 私より位が高い王太后様が私よりも先に名乗り、私がその後に名乗りました。その時に、飼い猫であるクーちゃんと、私の専属護衛のロートを紹介しました。

 クーちゃんを紹介した時にファネス様とシルビア様が目を見開いていましたし、ロートを紹介した時に、アインハルト様が獰猛な微笑みを浮かべていました。

 そこで、王太后様が一言。

「ユーイの護衛がけがをしてしまったり、側を離れた隙に何かがあっては困ります。アインハルト殿のお眼鏡にかなう者が後から参りますので、その者との模擬試合をお願い致しますわ。」と。

「申し訳ありません。この国では、2つ名を持つ者との対戦が出来ないもので、ついつい先走ってしまい、無作法を致しました。

 王太后様のご配慮に感謝して、このアインハルトも時が満ちるのを楽しみにしております。」

 アインハルト王子は獰猛な笑みを子供の様な楽しそうな笑みに変えました。

「アインハルト殿だけでは申し訳ないですから、ラインハルト様のお相手を出来る者も後から訪問します。楽しみにして下さいませね。」と、王太后様が追加で言うと、

「アインハルトだけでなく、私にも過分にご配慮頂き、光栄至極に至ります。私、ラインハルトも、時を待ちましょう。」

 ラインハルト王子の優しい笑みが瞬時に変化し、冷徹な笑みをたたえていました。

「そうそう、ファネス様とシルビア殿とユーイと飼い猫とのお茶会を明日、行いたいと思いますの。お願い出来るかしら?
 そうそう、シルビア殿の婚約者もご心配でしょうから、お茶会をご一緒なさって下さいな。」

 ニッコリと微笑む王太后様に返事を返したのは、王女のシルビア様でした。

「…勿論、お茶会をするのは大いに歓迎でございますわ。ファネス母上様、いいですわよね?私、年の近い王族の女性とお知り合いになりたかったですの!

 私の婚約者もご一緒出来るなんて、とても嬉しいですわ!」

 シルビア様は満面の笑みで嬉しそうです。

「王太后様、我が国は現在、ガオン・ロードの近衛名誉団長殿が滞在しています。その方をお呼びしてもいいでしょうか?」と、ファネス様が問うと、

「その必要はありませんわ。私達がナーオ・ロウ国の代表として訪問したのは、ラーン・ビット国との為なのです。
 他国の、それも、が、女性だけの茶会に何の関係もないのに、入り込める隙も訳もありません。ご遠慮なさってもらいましょうか。」と、王太后様がその言葉にそう切り返したのでした。

「そうですね、2国間の事に他国の方が口出し出来る筈もありませんでしたわ。私、口が過ぎましたわ。申し訳ありません。」

「いいえ。この時期にここへ訪れて滞在しているガオン・ロード国の思惑の方を私は知りたいですわ。(ニッコリ)」

 即座に詫びたファネス様と、ファネス様をやんわりと庇う王太后様。高度なやり取りに感心するばかりです。

「アマデウス殿には後日、会わせたい方がいますので、お楽しみにしていて下さいませ。驚かせて差し上げましょう。」

 あー、もうこれ、王太后様の独壇場だわー。敵に回してはいけない方だとひしひしと実感しております。ショウ様に会いたいなぁ。

 シルビア様と話が出来ればいいんだけど、籍が微妙に離れているので、話がし難いのよね。

 それに、こちらをチラチラとずっと見ている風を装っている第3王子殿下のベルナール様の目線がただひたすらに気持ち悪い。蛇のようなまとわりつく視線で、ねっとりとこちらを観察しているのが解る。何か嫌だ。一緒に居たくない。

 アインハルト様とラインハルト様が私の両脇の席で良かったと思ってしまう位には。

 王族の一員として、王妃教育を受けている私は、微笑みを崩さないように、話題に適した相槌あいづちを打つだけだけど。お菓子やお茶は美味しいのだけれど、このソーサーに添えられている角砂糖に、思いっきし媚薬が浸み込んでいるのだけれど。

 どうして媚薬なのかが判ったのかと言うと、ショウ様に何度も飲まされているから。その匂いまで判りますとも!!

『んにゃ?(どうした?)』

 膝の上のクーちゃんが私に聞いてきた。どうやって答えようかと思ったけれど、クーちゃんを撫でながら、頭の中に思った事を思い浮かべてみた。

『にゃっ。(2人に伝える。)』

 ああ、お茶が美味しいけど、着いた早々これでは疲れるわ。
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