ある日、私の頭に耳が生えました

巻乃

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ラーン・ビット国編

ナーオ・ロウ国では3 鑑賞会

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 ナーオ・ロウ国の王太子であるショウは、ユーイの身に着けているブローチから送られてきたあれやこれやの映像と音声に腹を立てていた。

 そのせいで、王太子であるショウの執務室は、ショウの怒りで体感温度が下がって来ていたのだが、イッチェンとリヨウの取り成しで、何とか仕事をしているギリギリだった…。

 それが、ユーイに催淫剤を入れた茶を飲ませようとした事と、ユーイの使う予定であった寝室へ第3王子だけしか入れなくする魔法を使ったのを見聞きして、ショウの魔力がだだ漏れてしまった所で、ショウは仕事をする気にならず、明日に回して片付けると決め、放り投げたーー。

「最低だな、王子の風上にも置けん。あんな王族の護衛をしたくはない。」とリヨウが言うと、

「うわっ!うちのカーナにこんな事をされたらと思うと、間違わなくてもすぐに相手を殺してしまうぞ。」と、イッチェンもそう答えた。

「ショウが、無言で冷え冷えした良い笑顔でいるな。目が笑っていない。

 あの第3王子はショウを敵に回したか。さて、ロートも聖獣様が転移させて来るだろうな。打ち合わせの準備をしておくか、宰相補佐殿に王太子様よ。」

「ああ。第1王子と第2王子の番はユーイ様の姪だから、番の王子達がどう出て来るだろうかねぇ?

 宰相補佐の私でも、今はその補償に充てる内容を考えられない程の愚かさで、開いた口が塞がらないんだよね。」

「ま、ユーイ様の身がわり人形でもさ、ショウにとっては許せないんだろうな。俺でも同じ立場なら、身代わり人形でも許せない。ショウの気持ちも理解出来る。」

「ま、私なら、処刑する前に各種の拷問フルコースをするかな。他国の王太子妃でショウの番でもある女性に、訪問した国の王族が訪問したその日に手を出しそうになった所とか、色々と悪手をしちゃっているし、ね。」

 日頃はショウが書類を片付けている側に護衛としているだけのリヨウも、ショウの表情からかイッチェンを手伝い、書類仕事をこなすのであった。

 重苦しい空気の執務室で、あらかたの仕事を終えたイッチェンとリヨウがそっと溜め息を吐いていた所、ロートが聖獣様によって転移をされたようで、王太子の執務室内へ唐突に現れたのだった。

「すんまへん、聖獣様に強制転移されましてん。」

 ロートが申し訳そうにショウ王太子へ告げると、

「いいや、鑑賞会をしてから、打ち合わせをしようかと思っていたのでね、助かったよ。」と、氷の微笑を浮かべたままのショウ王太子が答えた。

「うっ!ショウ様、威圧がキツイんですわ。ちーっとだけ、弱めてくれへんでしょうか。さすがに、このままずっとだと疲れて、ユーイ様の護衛に影響が出ますんで。頼んます。」

「分かった。」

 自分でも余裕が無さ過ぎだと理解していたので、1回だけ深呼吸をすると、威圧を弱めた。

 冷静にならなければ。ユーイが私を裏切った訳ではないし、ユーイの私に対する愛情を疑った訳ではないのだ。あの男を地獄へ送ってやろうと考える事と、あの男が人形相手に盛った所の鑑賞会をするのだと、自分に言い聞かせる。

「では、鑑賞会でこき下ろす為にも、各自、用意をする様に。」

「鑑賞会ですぅが、聖獣のクー様から要望がありましたん。1人、1部屋ずつ割り当てして観賞するようにと。」

「それはどうして?」

 ロート以外が皆、首をかしげていた。

「聖獣様が『あたいの腕の見せ所』ちゅうて、わいにも詳しくは教えてもらえんかったんですわ。」

「イッチェン、小部屋の用意を頼む。」

「あの王子も異変を悟られない様にと、動くのは夜中でしょうね。小部屋の用意をしておきます。」

 その日の真夜中頃まで、1人1部屋ずつ、防音盗聴防止をされた小部屋に入って待機をしていた。

 それも、ユーイへと用意された客室の寝室へ忍び込んだ者があると録画の起動スイッチが入る事になっていたのと同時に映像が流れるようになっていたのだが、ショウ王太子がユーイの寝室へ侵入した者が第3王子だと理解し、判明した途端、怒りで目の前が真っ赤になった。

 それぞれが待機していた小部屋にも、その映像と音声が流され始めたのであった。

 但し、ショウ王太子は、人形の顔に「へのへのもへじ」が書かれた夜着を着た身代わり人形を視た途端に怒りが解け、冷静になった。

 だが、聖獣様の粋な計らいにより、イッチェンには妻のカーナに似せた人形に、リヨウにはリヨウの妻に似せた人形に見える様になっていた。

 このような状況にしたのは、聖獣様のお茶目なイタズラであったが、どの小部屋でも、男達が息を呑んでいた。

 唯一、番がまだ見つかっていないロートには、ロート好みの美女が相手をしている様に見えた様であった。

 忍び込んだにしては、堂々と寝室へ入って来た男に、「こいつはどんだけ馬鹿なんだ…」と、ショウは一言、吐き捨てた。

 身がわり人形に徐々に近付いて行く男。その身がわり人形は、聖獣のクー様の神力を使い、クー様が動かしている。

 身代わり人形は、誰かが寝室へ入って来た事に気付き、今の状況が恥ずかしいので、近くに来ないでと震えて男を拒絶しているようだ。だが、薬のせいで、赤みの差した顔で、目が潤んでいる。

 へのへのもへじじゃ、ダジャレにしか見えないが。イッチェンとリヨウの小部屋では、その怒りが漏れていた。

 ばかがもっと近くへと動こうとした様で、身代わり人形に声をかけていた。人形と男はまだ2メートルは離れている。

「王太子妃様、私は第3王子です。私が貴女のうれいをはらいましょう。私に身を任せて下さい。」

 そう言って身代わり人形のいるベッドの方へ近付こうとしていた男の所へ、たどたどしく、ユーイとは違う女性の声がした。

「…はぁ、はぁ、それ、以上、近付いたら、舌を、噛み切って、自害、し、ます…。わ、たし、は、番のモノ…で、す。」

 自害すると言われた事で、身がわり人形に近付けなくなったばかは立ち止まって何かを考えているようだ。

 自分が誰なのかをバラしている時点で、王子としても、人間としても色々とアウトだろうに。ショウがそう思っていると、そのばかは焦っているようだ。

「私はこれ以上近付きません。お命を大事にして下さい。ですが、お身体がツラいでしょう。自分で慰めて下さい。

 そうすれば、多少はツラさが軽減されますし、水を多く飲んで、汗や涙などで、体外へ出す様にして頂ければ、朝には動けるようになります。」

 馬鹿か、あんなに濃い濃度の催淫剤が朝には動けるようになるまで、抜ける訳ないだろうに。使った事が無いのか。ユーイなら、よがり狂って可愛くてエロいままで、堪らないし、朝方まで抜かずに何度も私が出さないと納まらないのに。

 番のいない馬鹿には解らないだろうな。聖獣様がユーイの声で人形を喋らさないでいてくれているので、今は冷静にしていられる。私に配慮されたのだろうな。

 他の小部屋では、イッチェンには妻のカーナの声で、リヨウにはリヨウの妻の声で聞こえていたのだが、この時点では、ショウはまだ知らなかった。

 そのせいで、イッチェンとリヨウが怒りを露わにして叫んでいた。

「「この男を殺してやるっ!!」」と。

 ばかはズボンの前を膨らませて前かがみで立っている。それでも、人形が話すのを待っているようだ。

「…じ、ぶん、で?分か、ら、な…い。」女性の声が、何とかそう話して答えると、ばかの声がした。

「自分で、された事が無いと?!」ばかは驚いているようだ。後ろにのけった姿勢で驚いている。

 ユーイはそんな経験も知識も、私と経験スルまで知る事がなかったな、閨の知識が全くなかったのだ。当たり前だろうにと考え、ニンマリした。

「では、自分の手を番の触ってくれる手だと思って、身体を触ってみて下さい。」

 ばかが何かを期待したのか、ゴクリと喉を鳴らした。

「…嫌っ!無理っ!…」身代わり人形が水差しをおぼつかない手で掴んで、水を飲んでいる(ような動作をした)。上手く飲めないのか、人形だから。

 人形の胸元から零れた水で服が透けて、人形の肌に張り付いていくけれど、へのへのもへじ顔じゃ締まらないな。

 イッチェンとリヨウの部屋では小部屋の中の物が怒りで飛んで回っていた。ロートは、イケない映像を覗き見している気になっていた。

「仕事の気がせえへんわ…。」と、呟いていた。

 ばかがハァハァと荒い息を吐きながら、ズボンと下穿きを下へズラし、自身の手で性器をしごき始め、動かしている。すぐに白いモノが出たようだな。そんな他人の姿でも見たくなかったな…。

 早漏め。耐えて耐えて出す方が気持ちイイのだ。そんな事も知らないか…。娼館で娼婦しか相手にした事がないのだから。やれやれ、第3王子相手にイイ商売して儲けている店なんだろうな。確か、報告書には娼館へ贔屓にしている娼婦がいて、定期的に娼館へ通っていると書いてあったな。

 何度も何度も性器をしごくだけのばかの姿に、無意味過ぎて、何だか哀愁を感じてしまった…。

 だが、同情は出来ない。私のユーイを横取りしようとした大馬鹿者だから。

 さて、どのように仕返しをしてやろうか。イッチェンとリヨウとロートとまずは話し合おうかな。この映像の内容も記録されているから、もう寝ようか。

 映像の中のばかが白目をいて、床でピクピク痙攣しているから、丁度良いか。こんな無駄な映像を観させられた事にも何かしらの報復を考えよう。他国の王太子である自分の貴重な仕事時間を奪ったのだから。

 その頃、イッチェンのいた小部屋は魔力が多大に漏れたせいで、小部屋の中の物が半壊していた。

 リヨウのいた小部屋では、剣であちこちの壁やイスやテーブルが切られ、ズタズタになっていた。

 ロートは、「小心者やな。何も出来ひんかったようや。王太子妃はんを横取り出来る器じゃあらへんな。」と感想を述べただけであった。

 仮眠をとった面々、特にイッチェンとリヨウが、第3王子へのヘイトをつのらせて、翌朝の話し合いをしていたのであった。

 その頃、聖獣様は呟いていた。『…にぃにぃなんなんなぁあーー。(…白目をいて倒れていた姿が面白かったーー。)』と。

 メイド達は、白目を剝いた姿を「キモいっ!」「最低っ!」「あの部屋の床掃除を担当する者が可哀想っ!」等と感想を漏らしていたとかいないとか、定かではなかったが、メイド達から報告を受けた王太后様が苦笑いをしていたとショウ王太子に、のちに報告されたのであった。
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