ある日、私の頭に耳が生えました

巻乃

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ラーン・ビット国編

思惑に踊らせた人々と踊る人々

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 わらわの国のお客人の所へ、もう3度も面会の許可を求めてブラウス殿が訪れていると、ナーオ・ロウ国の王太子妃様と王太后様の客室前の護衛をしている近衛騎士達から、報告が上がって来ていた。

「あの馬鹿な熊男がっ!正式なお客人達に何をしているのだっ!

 うるさいし、迷惑な事しかしないから、早く自分の国へ帰って欲しいわっ!」と、報告に来た騎士が居なくなってから、わらわは怒りを滲ませて、文句を吐き捨てた。わらわの今の願い、それは熊男の帰国なのだ。

 だが、「帰国はまだ出来ない。まだこの国にてする事がある。私はここに滞在する。」と、今朝も帰国しなかった。

 わらわに求婚するつもりなのか、まだ我が国に滞在して粘るのかと思うと、面倒臭いな…と言う思いしか湧かなかった。あの熊男は帰国を促したわらわからの使いに、そんな返事をしてきたのだ!

 総侍女長として、この国の王子達の産みの母として、番がいるからと何十回目かの熊男から求婚を何日か前に断った直後であった!のに…!。早々に諦めて帰国して欲しいし、熊男が嘗め回すようにわらわを見る視線が気持ち悪くて近くへ来て欲しくないのだ。

 だが現状はどうだ、熊男は帰国しないし、諦めないのだと理解し、色々とガッカリしていたわらわの所へ、アマデウス陛下から、緊急で王家全員での内密な話し合いをしたいとの連絡が来たのだった。

 熊男が我が国に来る度、面倒臭いし迷惑なのだが、一向に諦めないのだ。

 今は国外から他国の王族が訪問されている最中だし、何か問題があれば、我が国だけでは済まされない。熊男の国も巻き込むのに…。

 あの熊男が帰国しないと粘るのなら、余計な事をしないといいのだけれど…。アマデウスも、緊急なんて、どうしたのだろうか?

 陛下の私室の1部屋である応接間に、第1王子アインハルト、第2王子ラインハルト、第1王女シルビアとその婚約者のラジル、そして、最後にわらわが揃った事で、陛下が私達に告げたのだった。

「第3王子ベルナールは今すぐに廃嫡とし、平民とする。そののち速やかに処刑する。あやつは今朝早くから、見張りを5人付けて、ベルナールの自室で監禁した。」

「それで、ここに第3王子であるベルナールがいないのですね。ベルのやつが何をしたんでしょうか?」

 アルの問いにアマデウス陛下が苦々しい表情で告げた事実に、王家の皆は驚いたのだ。

「昨日の王家との茶会でナーオ・ロウのユーイ王太子妃様の飲む茶にベルナールの手先の者が催淫剤を原液で紛れ込ませたのだ。

 …その事態を引き起こした理由とは、な、ベルナールが王太子妃様に横恋慕し、ベルナールが自身のモノにしようと画策した事なのだ。どうやら、昨夜は未遂で済んだようだが。

 手順としては、な、王太子妃様の滞在する寝室にベルナール以外が入り込めない様に魔法をかけ、その上で、真夜中に王太子妃様の部屋に忍び込み、あやつがそこで未遂ではあったが欲望を解放し、その場で失神。

 その後、ベルナールが自力で朝方に気が付き、自身の欲望の痕跡を残さない様に魔法で証拠隠滅を図り、部屋にかけていた魔法を解き、自室へ戻り、残った催淫剤を隠蔽し、痕跡を消そうとした所を押さえた。

 第3王子であるベルナールが王太子妃様の部屋から出て来る所を見かけたのに疑問を持った近衛騎士の報告を今朝一番に私が受けた直後に、な、そのベルナールが何をしたか映った記録映像が今朝早く、王太后様付きのメイドから届けられたのだ。

 その記録映像と、王太后様からの昨夜からの事情が書かれた手紙が届けられ、映像を見たのだが…。

 昨夜のうちに、ナーオ・ロウの王太后様から、「ラーン・ビット国内での一切の食物や飲み物の用意を辞退し、この国のメイドや侍女の立ち入りを禁止する。扉の外の護衛以外、何もしないでくれ。」との申し込みがあった。

 その申し込みをされた時点で、こちらの方で国賓への何かしらの手落ちがあったのだと思い、昨夜から調べていたのだが、その原因が分からなかったのだ。

 だが、な、王太后様から手紙には、催淫剤の件と茶会直後にガオン・ロード国のブラウス殿が尋ねてきた事、第3王子であるベルナールがそのすぐ後に訪れて来ていた事、その時にベルナールが王太子妃様の滞在する部屋へ魔法を仕掛けた件が書いてあったのだ。

 ブラウス殿の面会は、ナーオ・ロウの王太子から第3王子のベルナールへ、ユーイ王太子妃様に乗り換えて欲しいと願う為に来たのだろうと書いてあった。

 ファネス総侍女長の気持ちを自分に向けてもらう一環として、だな。

 今朝も、そのような馬鹿な事を言って、メイドを困惑させ、王太子妃様に面会の許可をしつこく求めて来ていて、断ったのだが…と、あったのだ。

 ナーオ・ロウ国としては、ラーン・ビット国の内部事情については無関係なので、その件でナーオ・ロウ国を巻き込むのは止めて欲しいと書いてあったのだ。

 ナーオ・ロウ本国からも正式な抗議を早々にガオン・ロード国へ申し入れるので、とも書いてあった。 

 …記録されたモノ、ファネスとシルビアには見せられない様な映像だ。アインハルトとラインハルトとラジル殿に映像の確認をしてもらいたい。…私では、涙でボヤけて、ハッキリと最後まで確認出来なかったのだ…。すまない。」

「…そんな馬鹿な、…あのブラウス殿は、今日だけでも3回、ユーイ王太子妃様へ面会の許可を求めて来たのだと私の方へ報告が来たばかりでした、昨夜も面会を求めていたとは。

 その報告の直後に、私も陛下に緊急で呼びだされ、ここへ来たばかりなのです。」

 アルとライとラジル殿が隣の部屋で記録された映像の確認をしている間に、シルビアとわらわで話し合い、あのブラウス、いや、大馬鹿な熊男を我が国へ二度と入らせられない様にと、女神さまへ直訴する事にした。

 その上で、あの熊男の願いを叶えないで欲しいとわらわが願わなくてはならない。どうせ、アマデウスとわらわでは寿命が違うから死に別れるだろうと鼻で笑い、熊男はその後のわらわを狙い、引退後の願いで、わらわと結ばれたいとの希望を言うだろう。

 今、映像確認をしている息子達と婿殿の話を聞いてから、あの息子の責任をわらわの命であがなわなければならないだろう…。アマデウスと生涯を過ごすと言うわらわの願いが叶えられなくなってしまったようだ…。

 番である相手とその番が引き離されることがあってはならない。女神さまの決められたこの世界の法律ルールだ。

 あのユーイ王太子妃様はナーオ・ロウ国で産まれた女神の愛し子様で、その番はナーオ・ロウ国のショウ王太子様なのだから。

 ユーイ様がナーオ・ロウ国へ戻られるまで、大変、お辛いお立場であった事を今代と次代の各国の聖獣ならば皆、知っているのだ。

 皆で、愛し子様に同情したのだ。「お気の毒だった。だからこそ、戻られたこの世界で幸せになって頂きたい。」と聖獣達で話していたのだ。

 その話を知っているからこそ、熊男の考えも気持ちも理解出来ぬ。あやつも、それを知っている筈なのだが。

 その上で、ベルナールは許されない罪を犯した。

 わらわが産んだ息子でも、その罪は許されない。それは聖獣でもこの世界の誰であっても、この世界に生きている者ならば逃れられる例外な者はいない。

 ユーイ王太子妃様は女神さまの愛し子であり、聖獣達が幸せを願った者なのだから。

 わらわが思案して、しばらくしてから、顔色を青くした息子達と顔色を白くした婿殿の3人が戻って来た。

「映像に映っていたのはベルでした。」とアルが告げた。

「…ベルナール殿でした。」婿で次代の聖獣でシルビアの番であるラジルが青を通り越して、白い顔で告げていた。

「ラジル殿が映像を観て「我が国は無くなるかもしれない」と呟いたのだが、理解出来なかった。」ライがそう話した。

「ラジル殿!何があったのですか?!」

 ラジルへ、わらわからの問いかけに反応がない。

 シルビアがラジルを支えて座らせた。アルもライもアマデウスも、椅子に座り、わらわを見ている。

「何があったのだ?」

 わらわの再度の問いかけに、やっと反応したラジルが、のろのろと答えた。

「…あの映像に映っていた女性は身代わり人形でしたが、ナーオ・ロウの聖獣様の神力で動いていました。

 あの記録映像も聖獣様が監修したモノでした…。どうしよう…。

 …映像の最後に、『クーちゃん、飼い猫を装ってユーイに付いてきたのに、つまらなーい。
 先々々代も王太后になってから、正式に王家の仕事をするユーイの付き添いで来たのに、その親友は未だに熊男に付きまとわれていて、ハッキリしていないし、王子の他に、そんな事にも巻き込まれてガッカリしたと言っていたーー。

 熊男だけでも早く国外追放して、二度と訪問出来ない様にここの国の方でも正式な処分をして欲しいってさ。

 ファネスにシルビアにラジルの聖獣が3人もいて、何をしているの?って溜め息をつきながら、残念そうに言ってたよ。』と、ありました。

『そうそう、今回の件は女神さまには報告済みだから。と言うよりも、今回の最初から視ていたって伝言があったから。』とも、ありました…。

 この国が終わるかもしれない…。」

「ああああああーーーーー!」

 ラジルが話し終えた途端、シルビアが叫び、気を失いました。ラジルもシルビアを支えているだけです。

 わらわが説明しなければ、でも、どこから?とわらわが考えていた、その思考をさえぎり、アマデウス陛下が話し始めました。

「アルにライ、我が王家の秘密を話す時が来たようだ。

 実は、な、ファネスは今代の聖獣様で、私の番なのだ。惚れてしまって、な、離れられなくて、その、な。」

「「ええええーーーー!!」」

 アルとライがハモって驚いた声を出していた。

 2人共、信じられないと目を見開いて、わらわを見ておる。仕方なく、白銀大兎の姿になった。

「その姿を久々に見たのう。綺麗だ。」

 どんな姿のわらわでも綺麗だと褒めてくれるアマデウス。

『わらわもアマデウスに聖獣である、この姿を見せたのは久々じゃな。』

「母上?!」「本当に母上ですか?!」

『そうじゃ、そなたらの母であるぞ。』

「で、では、私達は、人間ではないと?」

 人の姿に戻り、アルとライの疑問に答えるように話をした。

「いいや、王子達は人間だ。神力がない普通の人だぞ。」

「…王子達?…もしや、いや、もしかしてシルビアは?…」

「シルビアは、王子達が継がなかった神力を継いで産まれた。次代の聖獣であるラジル殿の番であり、次々代の聖獣を産む予定を女神さまに定められた者だ。」

「ち、父上、本当で、す、か?」

「ああ、事実だ。」

「そして、あの熊男は、番であるアマデウスと私を引き裂く機会を狙っている。わらわに横恋慕したガオン・ロード国の今代の聖獣だ。」

「まったく忌々しい。私の番であるファネスを狙っている大馬鹿者だ。早く諦めて欲しいのだよ。」

「…昨日、ユーイ王太子妃様が抱いていた飼い猫が、今代のナーオ・ロウの聖獣様で、王太后様が私の親友で、先々々代のナーオ・ロウの聖獣様から引退して人になった者だと知ったばかりだ。

 私も、まだこの事実で混乱しているが、女神さまがナーオ・ロウ国のお3方をこの国へ入った時から見守っていたらしい。

 だから、今回の報告をナーオ・ロウの今代様がしたが、その前から、女神さまは事実を見ておられたという事で、ラジルが白い顔をして、口走り、それを聞いたシルビアが気を失ったのだ。」

「ファネスの説明で、全体を理解出来たが、尚更、早々に、ベルナールの件をどうにかしなければ、いけないな。」

「…私がナーオ・ロウのお3方にお会いして、その意向を聞いて参りましょう。このラーン・ビットの陛下の妻として、ベルナールの母として。」

「私が不甲斐無いばかりに、ファネスには苦労を掛ける。申し訳ない。」

「いいえ、私が適任です。ただ、シルビアとラジル殿にも立ち会って頂かなければなりません。」

「…はい、今代様。私と番のシルビアも同席致します。」

 アルが、「義弟が次代様、妹がその番、熊男がガオン・ロード国の今代様…。」と、呟いて放心している。

 ライは、「ナーオ・ロウ国の今代様と、先々々代が人になった方、その方達に守護をされている王太子妃様…。女神さまにも、ベルの事が…。」と、悩んでいる。

 わらわも、親友であった者が人として生きている事を知らされてなかった件だけは、彼女に直接、追及出来るだろうが、それ以外では、誠心誠意の謝罪をするのと、ナーオ・ロウのお3方の意向を汲まなければならない。

 さて、どのようにすればいいだろうか…。
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