ある日、私の頭に耳が生えました

巻乃

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虎の国、小国群編

魔馬車内での過ごし方4(側近達と…)

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 ロートと護衛を交代して、休憩に入った俺は、先王ご夫妻がくつろいで過ごしているのとは別の、イッチェンとショウが執務室として使って居る応接室へ入った。

 応接室のテーブルの上に、イッチェンと並んでイッチェンの立ち合いで、俺のブレスレットからユーイ様がイッチェン用に用意してくれた差し入れを出した。

 ショウの分はない。

 精々、指をくわえているといい。

「うわー!今日も美味しそうだなー!リヨウ。」

「俺も食べたけど、いつも通り、美味かったよー。イッチェンが残すようなら、俺が食べるからさ、安心していいよ。」

 ショウが苦虫を潰した様な顔で、こっちを見ているが、俺とイッチェンは気が付かない振りをする。貴族を相手に顔を無表情か、微笑んだ表情で固定するよりは断然、楽ちんだから。

「そうなったら、リヨウに頼むよ。(チラッとショウを見てから)

 いただきまーす。」と、イッチェンが美味そうに食べている。

 ショウに反省を促す為にも、イッチェンは見せびらかしながら、差し入れを食べているんだ。

 ショウ自体は差し入れが食べられないのを内心では萎れながら、外見上には、王太子なので一つも出さないようにしている。だが、ガッカリしているのが幼馴染の俺には分かる。

 イッチェンと俺は、ショウが見ていない時を狙って目配せをしている。ショウの様子を観察しているのだ。

「美味しいなぁ。」

 声に感情を乗せながら、ユーイ様からの差し入れを食べている。リヨウからの目配せで、【ショウにはまだ反省が足りないようだ。延長するか?】と伝えて来ている。

 私からは、【延長する。ユーイ様には話したか?】と目配せして伝えた。

 リヨウからは【話した。後でまた話そう。今日は一切れだけは分けてやるか?】と来た。

 差し入れを多く食べられるようにと、自分の身を守れるようにと、にぶった剣の腕を錆び付かせないようにと、剣の素振りと騎士達との鍛錬を魔馬車の移動中はしているのだった。

 まぁ、他国の王城で宰相補佐がおおっぴらに剣の鍛錬が出来ないからね。攻め込むつもりなのかとか、暗殺を計画しているのか等との誤解を招かないようにしないとならないから。

 ナーオ・ロウにいれば、毎朝の鍛錬も出来ていたんだけど、他国の王城では、ね。

 攻撃の魔法や防御の魔法の鍛錬も同じような理由で出来なかったから、それも込みでしているから、騎士並みに食べられるんだけど。私が食べきるにはいささか多いような量なんだよね。

 残せば、リヨウが食べ切ってくれるんだけど。少しだけは、ショウにも食べさせようとする幼馴染の気遣いだろうね。

 それにしても、美味しいな。あー、卵サンドが好物だから、嬉しい。この焼いた鳥肉も美味い。

 リヨウが茶だけをここにいる3人分を淹れてくれている。

 リヨウの淹れる茶は、美味いんだよなぁ。他の騎士達が淹れる茶は普通なんだけど、リヨウが淹れる茶は一味違うんだよ。茶のおかわりもマメに淹れてくれるから、毒の心配もなく、心おきなく食べていられる。

 ショウのジメッとした目付きも気にならないな。

 ふふふっ。羨ましかろう?とっとと反省して、ユーイ様に謝ればいいのに、変な意地を張って逃げているからこじれるんだぞ!

 …番が長い間、ショウの手元にいなかった反動でもあるんだが、な。あのジジイ達(ユーイを攫った祖父と攫うようにけしかけた獅子国宰相だった白角)のせいで、私達やショウ達がしなくていい苦労をさせられているんだ!畜生!!片方は勝手に寿命で死にやがって!もう片方は反省して蟄居しているんだって!今更だ!

 けどな、ショウ。

 ユーイ様にだって、言いたい事があるし、ユーイ様の考えもお気持ちもあるんだぞ。

 ショウの言いなりに出来る人形じゃないのは理解しているだろうに。はぁ。

 それなのに、自分の思う通りにしたくって、自分の思う通りに動いて欲しくって、ただただ意地を張っているんだろう?

 本当に馬鹿なんだからなぁ。今日は一切れだけしか分けてやれないな。

 リヨウに【一切れだけ分けて、反省を促す。】と目配せした。

【分かった。】と、リヨウからの目配せが来た。

「あー、今日は量が少し多かったかな。リヨウも食べてくれ。」

 幾つか残して、手を付けていない部分をリヨウの方へ渡した。

「いやぁ、今日は俺も食い過ぎたみたいでさ。どうしよっか?」

 ショウがそわそわしている。外見上は何でもなさそうにしているが。目がキラキラしている。

 ぶふっ、吹き出しそうになった。リヨウの方も下を向いたままで、身体全体が小刻みに震えている。

 私が笑わないように耐えているのに、リヨウは笑っているんか!

 …笑わないように耐えながら、「ショウ、残したら、ユーイ様がガッカリされるだろうから、内緒で食べてくれるか?内緒だぞ。」と言うと、

「…分かった。絶対に内緒にする。」と返事が返ってきた。

 ああ、駄目だ。このままじゃ、笑い転げそう。トイレに行く振りをして逃げよう!リヨウは護衛だから、ショウの側を離れられないが、私は宰相補佐だから!

「トイレに行ってくる!」と、執務室から足早に逃げ出した!

 イッチェンがトイレに小走りで行った。そんなに我慢が出来なかったのか。リヨウは下を向いたまま動かなくなったままだしな。

 早速、久しぶりに食べる事になったユーイの差し入れを噛みしめながら、美味しいとか、涙が出そうとか思いながら、少しづつ食べた。

 イッチェンのお残しだって、構うもんか!ユーイの作ったモノ!!ううっ、私は何でこんな目に遭っているんだろうか…と、後悔しきりだった。

 多分、私がユーイを笑った後から、ユーイの表情から感情が一切消えた無表情になったのだ。

 切っ掛けは、あの時だろうと思っている。

 ただ、ユーイが私と話さなくなったし、私を避け始めたのは、それだけが原因ではないのだと思っている。

 イッチェンにもリヨウにもどうしたらいいのかと尋ねたが、二人とも「ユーイ様と生きるのです。ご自分でお考え下さい。」と言って、私の話を聞くだけだ。

 ロートにも聞いたが、「ユーイ様のお気持ちを私は何も言えません。私がユーイ様の事を漏らせば、ユーイ様からの信頼を裏切った事になりますので。私は何も聞かれなかった事にしますので。」と、にべもなかった。

 それにしても、イッチェンは一番奥にあるトイレまで行ったのだろうか?あまりにも戻ってこないな?

 リヨウも下を向いたままで、震えているようだし。具合でも悪いのか?

「リヨウ、震えているのはトイレに行きたいからか?」

 リヨウがガバッっと顔を上げて「はい!漏れそうなんで!」と、走って出て行った。

 ま、この部屋の外には扉を守っている騎士がいるのだから。リヨウもイッチェンも食べ過ぎたのだろうか。

 ユーイの料理は美味いから、食べ過ぎてしまう気持ちも分かるからなぁ。

 王太后様おばあさまにでも、また今日も話を聞こうか。女性の気持ちが男の私では理解出来ないだろうから。

 女性とは、男とは違う理論で生きている生き物だと思う。今回の件で、それをつくづく実感している。

 …茶を何度か淹れて飲んでいるが、2人とも中々、戻ってこないな。

***** その頃の2人*****

 部屋から逃げた2人は、笑って涙まで流して、笑い転げていました。

 ひとしきり笑ってから、笑いが収まった2人は、何であの部屋から出たのかを話し始めました。

「ズルいよ!なんでイッチェンはあの部屋から逃げたのさ!笑い死ぬかと思ったよ!」

「リヨウが下を向いたまま、身体を震わせて笑っていたから、吹き出しそうになったんだよっ!危なかったんだって!余裕なんて無かったんだ!」

「俺なんて、ショウが食べ終わるまでは、と、あの部屋にいたんだぞ!」

「そ、それは、また、ぶはっ!あははははーーー!」

「な、何だ、よ!わははーー!!ショ、ショウのやつ、わはっ!涙を流さんばかりに、わははっ!ちみちみとっ!わはははははーーーー!!」

「」ひぃーっひっひーー!!そ、そんなの、に、耐えた、のか!あははははは!すげーリヨウ、すげーよ!あはははははーー!!」

 しばらくは、2人とも、執務室へ戻れませんでした。
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