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第二部
ポチタロウ、3回叩く。
しおりを挟むー ピクリ・・・。 ー
とうとう、尻尾が動いてしまった。わずかな動きではあったけれども、確かに動いた。それが自分でもわかった。
「・・・どうだった、サラ?」
今度こそ、いけたんじゃないか?
そんな手応えを感じながら、僕はサラにそう尋ねた。
「35.16秒だ!」
「超えた!?」
「あぁ! やったな、ポチ公!」
サラが「ニシシっ」って感じで笑った。まるで自分のことのように喜んでくれた。
それを見て、僕も嬉しくなった。思わず子供みたいに「うん!」と応えた。
・・・
・・・
・・・。
ー 手を使わずに、平静な時の位置で、尻尾を維持する。 ー
一旦、保留したこれに、僕は再び挑戦していた。
ー 次元を超えて、実体で、サラのところへたどり着く。 ー
自分の心と向き合ってみて、これが最終目標だったことがわかった。
ー 僕が君に会いに行く。 ー
サラにそう伝えて、了承を得られた。競争じゃなくなったので、妙な焦りもなくなった。
そんな今の僕ならば「平静な時の位置で、尻尾を維持すること」これにじっくりと取りかかれるんじゃないか? そう考えたのだ。
サラにタイムを計ってもらいながら、僕はそれを練習した。
あまり深刻になりすぎないようにと、目標タイムを30秒に設定した。
実際には、思ったほどにはうまくはいかなかった。何度も何度も練習することになった。でも、なんとか・・・ようやく、目標に定めた「30秒」を達成できた。
感無量だった。
達成するまでに、かなりの時間がかかった。そんな僕を支えてくれたサラには、感謝しかなかった。
「ありがとね、サラ」
僕はサラにそう伝えた。
左胸の辺りに右手を当てて、人差し指で、小さくマルを描いた。そうして自分を褒めてあげた。
「おぅ!」
サバサバしたイケメン口調で、サラがそう応えた。
ー 「はぐぅ」となる時と、ならない時。そこにどんな違いがあるんだろう? ー
僕は漠然と、そんなことを考えた。
マルを描いた人差し指で、そのまま「トントントン」と、左胸の辺りを3回、叩いた。
達成感を感じつつも「うぬぼれるなよ? ポチタロウ」と自身に言い聞かせた。
■■■■■■
□□□□□□
ポチタロウ、3回叩く。
■■■■■■
□□□□□□
ここでまた、少し時をさかのぼる。
ネオリスを強力ボンドでマットレスに貼り付けて・・・。
ひょっとしたら「マットレスごと、動けてしまうかもしれない」と思いついて・・・。
僕は「マットレスと床」もボンドで固定した。
ネオリスが、マットレスと。マットレスが床と。完全にベットリと貼り付いているのを確認した。
ー ボンドで貼り付けること ー
これに対してのハードルはとっても低くなっていた。
それでもかろうじて、ネオリスの頭髪にボンドがくっつかないようにだけは注意した。作業の途中にやっぱり、ネオリスの薄毛が少し気にかかった。これ以上それを減らすと、僕の毛髪まで薄くなるような気がした。
ボンドが乾いた後で、僕はネオリスに毛布をかけた。そうしてから(頭の中の)サラの空間へと戻った。
・・・
・・・
・・・。
サラはちょうど、机を片付けている最中だった。机が床に沈み込むようにして、消えていくのが見えた。
「ありがとね、サラ」
僕がそう声をかけると、サラは振り返って「おぅ!」と、気軽に答えた。(僕はそれを見て、やっぱり「イケメンだな」と、ちょっとキュンとしてしまった)
忘れないうちにと、さっそく僕は、タブレットのタイマーを3時間後にセットした。
もちろん。3時間後に、スーの体位を変えるためだ。
「体位」と言っても、エッチをする時の体位のことではない。
スーは今、頭の中にある、シルの空間で、授業の見直しを頑張ってくれているハズだ。そんなスーの体が、床ずれ状態にならないように、定期的に、体位変換をしてあげるつもりでいた。
エッチをする時の体位のことではない・・・とはお伝えしたけれども、僕がエッチなことを考えなかったか? といえば、そんなことはなかった。
「体位を変える」って言葉から、やっぱりちょっとエッチな妄想はしてしまった。どさくさにまぎれて、スーの体を正常位の体勢にしてみることを、一瞬考えてしまった><。
(情けない話ではあるけれども)これも事実なので、正直にお伝えしておきたいと思う。やっぱりすぐさま、自分で自分を叱りつけたことも、ちゃんと、お伝えしておきたいと思う。
・・・
・・・
・・・。
タイマーをセットした時点で、タブレットの時刻は、午後11時36分を示していた。
現実世界で、ネオリスとやり取りをしたり、スーをマットレスに寝かせたり、ネオリスをボンドで貼り付けたりしている間に、随分と時間が経ってしまった。
サラの空間に「戻って」くるまで、僕は気が気ではなかった。
現実世界では、サラの空間の10倍の速度で時間が進むのだ。現実世界で過ごすのは、効率が悪いことに感じていた。
サラの空間に戻って、タイマーをセットした後で、ようやく僕は一息吐いた。
(・・・戻る?)
一息吐いてから気づいた。
僕はいつの間にか、サラの空間に「行く」ことを「戻る」と捉えていた。
現実世界にいることを「時間がもったいない」と、感じていた。
それはそれで問題な気がしてきた。現実世界での時間を大切にできていないように思えた。
(うーん・・・)
深く考えるとまた、訳がわからなくなりそうな気がしたので、とりあえず「スーの授業をちゃんと聞けるようになるまで」は、なるべくサラの空間で過ごすことにした。
ーーーーーー
ー スーの授業をちゃんと聞く。 ー
尻尾を握っていようが何しようが、自分がそれを真剣にするだろうことは、すでにわかっていた。
でも、これをあともう少しだけ、やっておきたかった。せめて、スーが呆れてしまって授業を中断することがないようにだけは、しておきたかった。
タブレットで、スーから連絡があった後で考えたとおり、僕はまず「今後の計画を立てること」から始めることにした。
ー あまり深刻にならないように、無理のない計画を立てること。 ー
最初に、これを自分に言い聞かせた。
頑張りすぎた結果については、さすがにまだ覚えていた。尻尾をハリガネで、がんじがらめした時の不快感も、まだ、覚えていた。
でもその後すぐ、こんな軽口に近い思考が、頭の中に思い浮かんだ。
(わかってるって。旅の間、いつもしてきたことだし)
魔王を倒しに行く旅の道中、(一番最初期を除いて)ずっと毎日、無理が出ないようにと、計画を立ててきた。昔の自分の映像を観た後だったので、これを思い出したのだ。
冷静でいれるならば「計画を立てること」は、僕の得意分野だと思った。
計画通りにいかないことも含めて、毎日毎日、魔王の城へと少しずつ少しずつ、近づいていったのだ。そうして、魔王を倒してきたのだ。そんな自負が、まだ少し残っていた。
ー 魔王を倒したことくらいは、成果として数えよう。 ー
そう思ったのも、要因だったかもしれない。
とにかく、軽口的に「わかってるって」と思ったのは事実で、思ったすぐ後に、こんな光景を思い出したのも事実だ。
ー これで、わかったつもり、なら。まだ、わかって、ない! ー
ー びたーーーーーん! ー
(頭の中で)スーのビンタが、ネオリスに炸裂した。
「わかった」と応えたネオリスへの、スーからの答えは「全力ビンタ」だった。
僕はこれを思い出した。ガン○ムの冒頭で「人々が自らの行為に恐怖した」ように、僕は、自らの思考に恐怖した。
(油断は禁物だ・・・)
そう思い直した。
殴られたわけでもないのに、僕は思わず自分の右頬を右手で撫でていた。
・・・
・・・
・・・。
そうしながら、よくよく考えてみると、まだまだ自分は「できていないことだらけ」なのに気づいた。
ネオリスとの対話では、まんまと主導権を握られてしまったし、サラに教えてもらうまで「無知の知」って概念も忘れていた。
魔王討伐の「帰り道」にしてもそうだった。
ー エッチなこともしたい! ー
魔王討伐の帰り道の、ある日の夕暮れ。テンションの上がっていた僕は、勢い余って、みんなにそんなことまで告げてしまった><。
それについては、(ありがたいことに)みんな、同意してくれた。でも同意をもらった後の僕は、ひどいものだった。ついついペースが早くなってしまった><。競歩をしているかのごとく、僕の歩調は早くなった><。
ここらへんを思い出して、恥ずかしくなってきた><。
自己肯定感を持つのは(特に僕にとっては)大事なんだろうけれども「自分がまだまだだ」と知っておくのも必要なことに思えた。
(思うだけじゃなくて、実践だ!)
・・・と、ここで僕は「計画を立てること」から少し脱線した。
恥ずかしい過去を思い出したので、脱線してでも、今のうちに解決できるならばしておきたい。・・・そう思った。
ー「自分がまだまだだ」というのも、何かのルーティンで自分に刻めないか? ー
そう考えた。
ここからはまた、僕の「転機」についてのお話になる。
ーーーーーー
ー 自分はまだまだだ。 ー
これも新しいルーティンで、自分に刻むことにした。
恥ずかしい昔のことを思い出したところだったからか、それを振りほどこうとするかのごとく、僕の思考は、また加速していた。競歩を通り越して、思考は走り出していた。
(反則だろ!?)
「走り出した思考」に対して、自分にそうツッコんだけれども、そもそも僕は、競歩をしていたわけではなかった。
魔王を倒した帰り道の、自分の早歩きを思い出して、いつのまにか僕は「競歩」を連想していたらしい。競歩では「走る」のが「反則」なので、僕はそんなツッコミを入れてしまったらしい・・・。
思わずまた、ポカーンとした。
ポカーンとしながらも、思考は動いていた。
(ポカーンとしながらも)マルを描く際に「別の何かをついでにやること」を思いついた。「ついでにやること」として「指でタップすること」を思いついた。
元々、胸の辺りを指でトントンと叩いているうちに、ふっと思いついて「マルを描いた」のだ。動作として「トントンする」ことについては、元からやっていたことだった。
試しに、左胸の辺りで、トントンと右手の人差し指を動かしてみた。
ー トントントン・・・トントントントン・・・ ー
ー トントントントントントントントントントン・・・ ー
やっているうちに、なんだか止まらなくなった。やめ時がわからなくなった。
僕は「やめられない、とまらない」がキャッチフレーズの、カル○ー、かっぱ○びせんのことを思い出した。
(今は、かっ○えびせんのことを考えている時でもない。・・・本当にない! ポチタロウ!)
自分で自分にそうツッコんで、なんとかトントンを止めた。
(回数を決めよう・・・)
そう思った。
(3回にしよう・・・)
キリがいいので、3回にすることにした。
(ふぅ・・・)
ここまでを決めて、ようやく落ち着いた。
・・・
・・・
・・・。
ー 人差し指でマルを描いて、3回タップする。 ー
心が平静になった後で、実際にこれをやってみることにした。
まず左胸に、右手の人差し指でマルを描いた。そうして自分を「肯定」した。「頑張ってるぞ、ポチタロウ」そう自分を褒めてあげることができた。
次に、人差し指で、左胸を3回タップした。そうして「頑張ってるけど、まだまだ知らないこともあるぞ」と自分に言い聞かせた。
(なんか、うまくできたな・・・)
効果はてきめんだった。
自分を肯定しつつも「自分がまだまだだ」と、うまい具合に自分に教えることができたように思えた。
やけにあっさりと、ここまでが終わった。マルを描くまでとは違って、新しいルーティンを思いつくのは早かった。
簡単に出来上がったルーティンではあったけれども、ちょうど今の僕に必要なものだった。かっぱえびせ○に気をとられてしまって、気づくのが少し遅れてしまったけど、時間差がありながらも、そう思った。
パズルのピースが「カチリ」と、はまったような気がした。
(これはまた・・・いいものを見つけたかもしれない・・・)
後になって、ジワジワとそんな感触を味わった。
(おっと、これ以上はいけないぞ、ポチタロウ?)
ここで僕は、自分にそう言い聞かせた。2つの意味でそう言い聞かせた。
・調子に乗るとまたひどい目に遭うかもしれない。
・これ以上、ルーティンを増やしたら、目立つだろう。
そう考えたのだ。
一つ目については、何度も失敗をしてきた中での経験則だった。
二つ目については、これ以上、動作を増やすと今度こそ、プロ野球の監督か! ってサラにツッコまれてしまうかもしれない。そんな懸念を感じてのことだった。
・・・
・・・
・・・。
とにかくまあ・・・。
こうしてマルを描く動作に、3回タップすることが加わった。
マルを描いて「自分を肯定」しつつ、3回タップして「自分がまだまだだ」と、自分に気づかせる。
・・・
・・・
・・・。
僕は自分なりの、そんな新しいルーティンを手に入れた。
(たまには脱線するのも悪くないな・・・)
ー 旅を楽しめばいい ー
それを教えてくれたサラのことを思い出しながら、僕はそんなことを考えた。
サラはそんな僕を、ベッドであぐらを掻きながら、肘をついた姿勢でまた見ていた。
(あっ・・・!)
ここで僕はようやく気づいた。自分がまた、サラの空間にいるのを忘れて、一人で夢中になっていたことに気づいた><。
胸の辺りを、そのまま人差し指で3回タップした。
本当に「自分はまだまだだな」って思った。でも、そんなに悲観した気持ちにはならなかった。僕はまた一つ、新しい魔法を見つけた気分になっていた。
「えーっと、今のはね・・・」
僕はサラに「何をしていたか?」の説明を始めた。
ーーーーーー
ここからは余談になる。
後になって僕は、この「指で3回タップする」動作に「ポチタロウタップ」と名前を付けた。
もし上の文章を読んで、プッと吹き出してしまったのなら、その感覚は正しいと思う。少しでも笑ってもらえたならば、嬉しくも思う。「ポチタロウサークル」と同じで、今回のネーミングセンスについても、僕自身もまだ、疑問は残っている。
でも、名前はともかくとして「ポチタロウサークル」も「ポチタロウタップ」も、僕に簡単に気づきを与えてくれるので、(これを書いている)今でも気に入っているし、使っている。
ー マルを描いて、3回タップする。 ー
この一連の流れについては「ポチタロウルーティン」と名付けた。
実は、こっちの名前については「ちょっと格好いいな」と思っている。
少なくとも「ポチタロウサークル」や「ポチタロウタップ」よりは、マシなんじゃないか? そう思っている。
今のところ「プロ野球の監督か!」とツッコまれたことはないし、僕はプロ野球の監督になったこともない。
僕は今も「ポチタロウ」だ。
それはそれで、幸せなことだ。
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