虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたのでとりあえず復讐することにした

野良子猫

文字の大きさ
12 / 31

眷属たちの宴 6

しおりを挟む

「さ、そろそろ行くわよー」

 古家の号令で他8人も立ち上がり、体を伸ばしたり、屈伸したりと各自体の調子を整える。
 今、優希たちがいる広場には、来た道を除いて、ふたつの道が続いている。右の道と左の道だ。
 ダンジョンにおいて、分かれ道は避けても通れない状況で、ここで生きてくるのが易者だが、このパーティには易者がいない。完全に勘でいくしかないのだ。しかし、ダンジョン、とくに30階層クラスになると、勘でいくのは命取りだ。不正解の道に入り、何もすることができず死んでいったという話も少なくはない。

 ただ、易者ではないがどっちの道が安全か分かる者がいた。メアリーだ。
 メアリーの風を操る力は意外と便利だ。大気の流れで建物の構造が分かるらしい。
 ここから先は、メアリーが言う道を進んでいった。もちろん、戦闘においては優希が主となっていたが。


「キィイイイイ!!」

「いやぁああああ!!」

 黒板を引っ掻いた時のような鳥肌が立つ奇声がダンジョンに響く。優希たちと同じくらいの大きさのカマキリモンスター“シザーマンティス”だ。見た目は普通のカマキリだが、鎌の部分の切れ味は一振りであらゆる物体を切断すると言われている。武器の素材としては上物だ。しかし、そのシザーマンティス以上の叫び声が優希の横から発せられ、とっさに優希は耳を塞いだ。その叫び声の主は最上だ。大の虫嫌いである最上は、シザーマンティス出現とともに、横にいた優希の後ろに隠れる。

「おい、引っ張るなよ」

「そんなこと言うなよ勝ちゃん! 俺ホント無理なんだよ~」

 顔を真っ青にしながら優希にしがみつく最上。優希は無理やり引きはがすと、シザーマンティスの前に歩き出た。シザーマンティスの強さは眷属の中でも有名だ。鋭い攻撃と素早い動きが特徴で、対策としてはシザーマンティスを上回る動きで、確実に攻撃を叩きこむ。しかし、これは金プレートでも練度が100はないとできない。故に、練度が7、それも鑑定士の優希が前に出たことで、パーティメンバーの間に不安が現れた。優希の実力を知っている西願寺たちも、30階層レベルは未知の世界だった。なので、実力差が図らないのだ。

 優希は少しづつ距離を詰める。対するシザーマンティスも優希の動きを図るように持ち前の鎌を強調する。そして、優希とシザーマンティスの距離が、お互いの攻撃圏に突入した途端、空を切る音が走った。
 西願寺たちの認識が光景に追いついた時、シザーマンティスの右鎌は左下に振り下ろされていた。そして、直立だった優希の体勢は、その斜めに振り下ろされた攻撃をかわすように傾いている。
 その後も、シザーマンティスは西願寺たちの認識を上回るほどの攻撃を連続で繰り出すが、優希は時間が飛んだように見える動きでかわす。しかし、優希も避けの一手だ。

(思ったより早い……少し上げないと――機能向上アップロード)

 優希の動きがまた一段階早くなる。シザーマンティスの動きを認識するので精いっぱいの西願寺たちの視界から、優希は消え去りシザーマンティスの背後に現れる。それと同時にシザーマンティスの頭部が無くなり、大量の血が噴き出す。まるで、赤い噴水だ。
 優希の右手には、先ほどまで胴体につながっていたはずのシザーマンティスの頭部が掴まれていた。

 優希は、持っている頭部を床に捨てて振り返ると、嬉しそうにしているメアリーと開いた口がふさがっていない西願寺たち。そして、虫嫌いの許容限界を超えたのか、倒れてしまっている最上が視界に映る。
 少しやりすぎたか? と心配になった優希だが、大丈夫なようだ。釘町は、笑顔になってこっちに近づいてくる。

「すげぇよ勝ちゃん! もう勝ちゃんがいれば50階層なんて余裕だな」

 なかなかグロテスクな光景。普通なら軽く引かれてもおかしくはない状況だが、彼らにはそれを受け入れるほどの仲間意識があった。それを知った優希は、嬉しさではなく怒りがこみ上げてくる。顔には出さないが、優希の心はかなり荒れている。それに気づいているのはメアリーだけのようだが。


 優希はその後も、基本一人で戦っていた。メアリーも風の力と神の落とし物ディバインドロップの短剣で援護はしていたが、優希の現段階の戦闘能力ではあまり援護をしている実感が沸かない。西願寺たちももはや罪悪感すら感じてしまっているほどだ。それでも、優希は50階層まで行く必要があった。あるモンスターを探しているためだ。そのモンスターは優希の記憶には鮮明に残っており、優希の計画には必須だった。

 とうとう、50階層に到達した。他の階層と違って緊張感が漂い、血が張り付き乾ききった壁と、ささやかれるように響く咆哮。たった9人で行く階層ではないことをダンジョン自身が教えているようだ。
 西願寺たちは、これ以上行くことを拒むかのように歩く速度が落ちるが、優希がどんどん先に進むため、それについていくしかなかった。ここで優希と離れれば完全に終わりだからだ。

 しかし、こみ上げる不安と恐怖も自然と彼らから消えていった。なぜなら、前を歩いている優希が次々とモンスターを倒しているからだ。血に染まった手と、瞳孔が開ききった目は、普段のけだるそうにしている優希とは完全に別物だった。古家たちは気にしていないが、西願寺の笑顔の裏には恐怖というものを感じていた。

 50階層にも入って1時間が経とうとしていた。優希が探しているモンスターは一向に現れない。さすがにこれ以上は物資がが足りなくなっているので引き上げることになった。優希も残念な気分にはなるが、ここで一人先走っても意味がないので、ここは古家たちと共に引き上げることにした。

 その帰り道のこと、50階層の入り口、49階層への階段が見えてきた時だ。来たときは一本だった道に脇道があった。坊垣内がその先を覗くと、体育館と同じくらいある大部屋があった。その中心には、人一人入れそうな宝箱があった。明らかに怪しい宝箱にその場の全員が警戒するが、

「大丈夫だ……この先には異変は感じない」

 メアリーの一言に、古家たちは走ってその宝箱に向かう。やはり、50階層のものには興味があるようだ。それは優希も例外ではない。優希も他のメンバーの後を追うように歩いていき、部屋に片足を踏み込んだ時、優希は振り返りざまに見えたメアリーの表情と仕草に何かを察知したように前にいた西願寺の腕を掴んで後ろに投げ飛ばす。

「きゃあ!?」

 いきなり投げられた西願寺は、驚きと困惑に陥りながら、メアリーの隣まで吹き飛ぶ。
 西願寺の声に反応した古家たちも入口を見るが、

「嘘……でしょ!?」

 そこは壁だった。入り口も出口も見えず、周辺は壁しかなかった。
 もしかしたら、宝箱に出る方法の何かがあるかもと開いた途端、その部屋の壁から、青い炎が広がり、部屋は青い明かりで照らされた。
 古家たちは恐怖とともに警戒し、武器を構える。そして、広がった炎から、モンスターが出てきた。
 それは2メートルをも超える身長に、脂肪など感じさせないほど鍛え抜かれた肉体、手には大剣から、斧、盾と片手剣など何種類かあり、血に染まった服と武器を纏ったその姿は死刑執行人といった感じだ。
 周囲からぞろぞろと出てくるモンスターの圧迫感と逃げ道の無い恐怖で古家たちは震えている。
 優希も中にはいるが、焦りや不安など一切感じていない。なぜなら、このモンスターは自分より弱いと判断したからだ。しかし、古家たちは別だ。彼女らがどれだけ必死に戦ったところで勝てるわけがない。

 そして、このモンスター“ブラッディオーガ”は、咆哮を上げながら襲い掛かる。

「いやぁああああ!!」

「うわぁああ!!」

 完全にパニックになった古家たちは、武器を振り回す。
 しかし、パワーが圧倒的に優れ、囲んで動きを取りづらくしているブラッディオーガに、古家たちは太刀打ちできない。
 悲鳴と咆哮が入り混じったその空間は、優希の心臓の鼓動を早くした。

「いやっ! こないで!!」

「危ない――っぐ!?」

「朝日? 嘘でしょ!? ねぇ!? いやぁああああ!!!!」

 ――なんだこの心の重みが消えていくような爽快感は

「くそったれぇぇええ!!」

「待って健後ろ!?」

「はぁ!? がぁあ!?」

 ――なんだこの湧き上がる高揚感は

「柑奈ぁあああーー!!」

「きゃあ!?……はる……き? ねぇちょっと、こんな時に冗談よしなさいよ? ねぇ、ねぇってば!!」

 ――そうか……これが……

「俺の求めていたもの……」

 釘町は相須を庇い、最上は菊谷に言われるまで背後の敵に気付かず、坊垣内は古家を守って、その行動の先にあるのは致命傷の深い傷と、広がっていく血の池。
 その光景を楽しみながら見ている優希は、襲いかかるブラッディオーガを軽くあしらいながら、思わず笑みを浮かべている。
 その光景を見たのか、古家が優希の足にしがみついていた。手には坊垣内の血がべったりとついていた。

「ねぇ! あんたならこの状況を何とかできるんでしょ? お願い! みんなを助けて!」

 これは仲間を思ってか、自分の安全のためか分からない。その必死な表情はこの場で頼れるのは優希しかいないことを表していた。優希はそんな彼女の手をそっと離し、

「例えば……君たちは、助けられる力があったら、助けてと願っている人を助けるかい?」

「こんな時に何を――っ!?」

 優希は、顔に手を当て姿を戻す。白かった髪と宝石のように赤い目は徐々に黒に変わっていき、それとともに古家の表情は混乱という言葉を具現化したように変わった。

「さくら……ぎ……」

 優希は、その表情を見て今まで溜めていた、怒りと憎悪を込めて彼女に言った。

「君たちは僕を救ってくれなかった……僕が君たちを救う気はない」

「あんた……もしかして、わざとここに……」

 ――どんな気分だ? 信頼していた仲間に裏切られるのは……

「いいや、ここに来たのは偶然だよ」

「わかった!今までのことは謝るから、早くみんなを――」

 ――どんな気分だ? 助けられる力がある仲間に、見捨てられるのは……

「過去は過去、謝ってもらっても過去は変わらない」

 優希は、思わず腹を押さえて笑ってしまう。偽りの自分に騙され、今までの感情がぶつけられた彼女らの姿に、優希は笑う。そして、一呼吸付き、

「ただ一つ、心残りなのは……」

 古家は魂を抜かれたように崩れ落ちて、優希を見る。

「君を惚れさせたかった」

 優希がここに来た理由、それは古家を惚れさせるためだ。惚れていた人に裏切られる気分を味わわせたかった。モンスターに危機にさらされた古家を優希が助けるといったシチュエーションだ。探していたモンスターは現れず、手順がくるってしまったが、もうどうでもいい。ここに来たのは本当に偶然だ。しかし、自分が用意しようとした状況が自然に出来たのにそれを利用しないのはもったいない。
 優希は、薄っすらと笑みを浮かべながら、抜け殻の彼女――古家 柑奈に言う。

「自力でなんとかするんだな。僕は自力で耐え抜いた。それが出来ないのなら、絶望と恐怖と不安と後悔をその記憶に、心に刻んで……死んでいけ!」

 これが、優希の彼女らへの復讐。優希は何もされなかった。だから、自分からは危害を加えない。彼女たちは何もしなかった。だから優希も何もしない。助けることなどしない。どうにかする力があっても何もしなかった彼らのように、助けを求めているのを知りながら、手を差し伸べなかった彼女らのように、優希は、ただただ見ていただけだった。

 彼女らがこの世から別れを告げ、あたりのモンスターを蹂躙し、部屋中に血と死体で埋め尽くされた時、優希は数分間笑いが止まらなかった――
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

処理中です...