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眷属たちの宴 6
しおりを挟む「さ、そろそろ行くわよー」
古家の号令で他8人も立ち上がり、体を伸ばしたり、屈伸したりと各自体の調子を整える。
今、優希たちがいる広場には、来た道を除いて、ふたつの道が続いている。右の道と左の道だ。
ダンジョンにおいて、分かれ道は避けても通れない状況で、ここで生きてくるのが易者だが、このパーティには易者がいない。完全に勘でいくしかないのだ。しかし、ダンジョン、とくに30階層クラスになると、勘でいくのは命取りだ。不正解の道に入り、何もすることができず死んでいったという話も少なくはない。
ただ、易者ではないがどっちの道が安全か分かる者がいた。メアリーだ。
メアリーの風を操る力は意外と便利だ。大気の流れで建物の構造が分かるらしい。
ここから先は、メアリーが言う道を進んでいった。もちろん、戦闘においては優希が主となっていたが。
「キィイイイイ!!」
「いやぁああああ!!」
黒板を引っ掻いた時のような鳥肌が立つ奇声がダンジョンに響く。優希たちと同じくらいの大きさのカマキリモンスター“シザーマンティス”だ。見た目は普通のカマキリだが、鎌の部分の切れ味は一振りであらゆる物体を切断すると言われている。武器の素材としては上物だ。しかし、そのシザーマンティス以上の叫び声が優希の横から発せられ、とっさに優希は耳を塞いだ。その叫び声の主は最上だ。大の虫嫌いである最上は、シザーマンティス出現とともに、横にいた優希の後ろに隠れる。
「おい、引っ張るなよ」
「そんなこと言うなよ勝ちゃん! 俺ホント無理なんだよ~」
顔を真っ青にしながら優希にしがみつく最上。優希は無理やり引きはがすと、シザーマンティスの前に歩き出た。シザーマンティスの強さは眷属の中でも有名だ。鋭い攻撃と素早い動きが特徴で、対策としてはシザーマンティスを上回る動きで、確実に攻撃を叩きこむ。しかし、これは金プレートでも練度が100はないとできない。故に、練度が7、それも鑑定士の優希が前に出たことで、パーティメンバーの間に不安が現れた。優希の実力を知っている西願寺たちも、30階層レベルは未知の世界だった。なので、実力差が図らないのだ。
優希は少しづつ距離を詰める。対するシザーマンティスも優希の動きを図るように持ち前の鎌を強調する。そして、優希とシザーマンティスの距離が、お互いの攻撃圏に突入した途端、空を切る音が走った。
西願寺たちの認識が光景に追いついた時、シザーマンティスの右鎌は左下に振り下ろされていた。そして、直立だった優希の体勢は、その斜めに振り下ろされた攻撃をかわすように傾いている。
その後も、シザーマンティスは西願寺たちの認識を上回るほどの攻撃を連続で繰り出すが、優希は時間が飛んだように見える動きでかわす。しかし、優希も避けの一手だ。
(思ったより早い……少し上げないと――機能向上アップロード)
優希の動きがまた一段階早くなる。シザーマンティスの動きを認識するので精いっぱいの西願寺たちの視界から、優希は消え去りシザーマンティスの背後に現れる。それと同時にシザーマンティスの頭部が無くなり、大量の血が噴き出す。まるで、赤い噴水だ。
優希の右手には、先ほどまで胴体につながっていたはずのシザーマンティスの頭部が掴まれていた。
優希は、持っている頭部を床に捨てて振り返ると、嬉しそうにしているメアリーと開いた口がふさがっていない西願寺たち。そして、虫嫌いの許容限界を超えたのか、倒れてしまっている最上が視界に映る。
少しやりすぎたか? と心配になった優希だが、大丈夫なようだ。釘町は、笑顔になってこっちに近づいてくる。
「すげぇよ勝ちゃん! もう勝ちゃんがいれば50階層なんて余裕だな」
なかなかグロテスクな光景。普通なら軽く引かれてもおかしくはない状況だが、彼らにはそれを受け入れるほどの仲間意識があった。それを知った優希は、嬉しさではなく怒りがこみ上げてくる。顔には出さないが、優希の心はかなり荒れている。それに気づいているのはメアリーだけのようだが。
優希はその後も、基本一人で戦っていた。メアリーも風の力と神の落とし物ディバインドロップの短剣で援護はしていたが、優希の現段階の戦闘能力ではあまり援護をしている実感が沸かない。西願寺たちももはや罪悪感すら感じてしまっているほどだ。それでも、優希は50階層まで行く必要があった。あるモンスターを探しているためだ。そのモンスターは優希の記憶には鮮明に残っており、優希の計画には必須だった。
とうとう、50階層に到達した。他の階層と違って緊張感が漂い、血が張り付き乾ききった壁と、ささやかれるように響く咆哮。たった9人で行く階層ではないことをダンジョン自身が教えているようだ。
西願寺たちは、これ以上行くことを拒むかのように歩く速度が落ちるが、優希がどんどん先に進むため、それについていくしかなかった。ここで優希と離れれば完全に終わりだからだ。
しかし、こみ上げる不安と恐怖も自然と彼らから消えていった。なぜなら、前を歩いている優希が次々とモンスターを倒しているからだ。血に染まった手と、瞳孔が開ききった目は、普段のけだるそうにしている優希とは完全に別物だった。古家たちは気にしていないが、西願寺の笑顔の裏には恐怖というものを感じていた。
50階層にも入って1時間が経とうとしていた。優希が探しているモンスターは一向に現れない。さすがにこれ以上は物資がが足りなくなっているので引き上げることになった。優希も残念な気分にはなるが、ここで一人先走っても意味がないので、ここは古家たちと共に引き上げることにした。
その帰り道のこと、50階層の入り口、49階層への階段が見えてきた時だ。来たときは一本だった道に脇道があった。坊垣内がその先を覗くと、体育館と同じくらいある大部屋があった。その中心には、人一人入れそうな宝箱があった。明らかに怪しい宝箱にその場の全員が警戒するが、
「大丈夫だ……この先には異変は感じない」
メアリーの一言に、古家たちは走ってその宝箱に向かう。やはり、50階層のものには興味があるようだ。それは優希も例外ではない。優希も他のメンバーの後を追うように歩いていき、部屋に片足を踏み込んだ時、優希は振り返りざまに見えたメアリーの表情と仕草に何かを察知したように前にいた西願寺の腕を掴んで後ろに投げ飛ばす。
「きゃあ!?」
いきなり投げられた西願寺は、驚きと困惑に陥りながら、メアリーの隣まで吹き飛ぶ。
西願寺の声に反応した古家たちも入口を見るが、
「嘘……でしょ!?」
そこは壁だった。入り口も出口も見えず、周辺は壁しかなかった。
もしかしたら、宝箱に出る方法の何かがあるかもと開いた途端、その部屋の壁から、青い炎が広がり、部屋は青い明かりで照らされた。
古家たちは恐怖とともに警戒し、武器を構える。そして、広がった炎から、モンスターが出てきた。
それは2メートルをも超える身長に、脂肪など感じさせないほど鍛え抜かれた肉体、手には大剣から、斧、盾と片手剣など何種類かあり、血に染まった服と武器を纏ったその姿は死刑執行人といった感じだ。
周囲からぞろぞろと出てくるモンスターの圧迫感と逃げ道の無い恐怖で古家たちは震えている。
優希も中にはいるが、焦りや不安など一切感じていない。なぜなら、このモンスターは自分より弱いと判断したからだ。しかし、古家たちは別だ。彼女らがどれだけ必死に戦ったところで勝てるわけがない。
そして、このモンスター“ブラッディオーガ”は、咆哮を上げながら襲い掛かる。
「いやぁああああ!!」
「うわぁああ!!」
完全にパニックになった古家たちは、武器を振り回す。
しかし、パワーが圧倒的に優れ、囲んで動きを取りづらくしているブラッディオーガに、古家たちは太刀打ちできない。
悲鳴と咆哮が入り混じったその空間は、優希の心臓の鼓動を早くした。
「いやっ! こないで!!」
「危ない――っぐ!?」
「朝日? 嘘でしょ!? ねぇ!? いやぁああああ!!!!」
――なんだこの心の重みが消えていくような爽快感は
「くそったれぇぇええ!!」
「待って健後ろ!?」
「はぁ!? がぁあ!?」
――なんだこの湧き上がる高揚感は
「柑奈ぁあああーー!!」
「きゃあ!?……はる……き? ねぇちょっと、こんな時に冗談よしなさいよ? ねぇ、ねぇってば!!」
――そうか……これが……
「俺の求めていたもの……」
釘町は相須を庇い、最上は菊谷に言われるまで背後の敵に気付かず、坊垣内は古家を守って、その行動の先にあるのは致命傷の深い傷と、広がっていく血の池。
その光景を楽しみながら見ている優希は、襲いかかるブラッディオーガを軽くあしらいながら、思わず笑みを浮かべている。
その光景を見たのか、古家が優希の足にしがみついていた。手には坊垣内の血がべったりとついていた。
「ねぇ! あんたならこの状況を何とかできるんでしょ? お願い! みんなを助けて!」
これは仲間を思ってか、自分の安全のためか分からない。その必死な表情はこの場で頼れるのは優希しかいないことを表していた。優希はそんな彼女の手をそっと離し、
「例えば……君たちは、助けられる力があったら、助けてと願っている人を助けるかい?」
「こんな時に何を――っ!?」
優希は、顔に手を当て姿を戻す。白かった髪と宝石のように赤い目は徐々に黒に変わっていき、それとともに古家の表情は混乱という言葉を具現化したように変わった。
「さくら……ぎ……」
優希は、その表情を見て今まで溜めていた、怒りと憎悪を込めて彼女に言った。
「君たちは僕を救ってくれなかった……僕が君たちを救う気はない」
「あんた……もしかして、わざとここに……」
――どんな気分だ? 信頼していた仲間に裏切られるのは……
「いいや、ここに来たのは偶然だよ」
「わかった!今までのことは謝るから、早くみんなを――」
――どんな気分だ? 助けられる力がある仲間に、見捨てられるのは……
「過去は過去、謝ってもらっても過去は変わらない」
優希は、思わず腹を押さえて笑ってしまう。偽りの自分に騙され、今までの感情がぶつけられた彼女らの姿に、優希は笑う。そして、一呼吸付き、
「ただ一つ、心残りなのは……」
古家は魂を抜かれたように崩れ落ちて、優希を見る。
「君を惚れさせたかった」
優希がここに来た理由、それは古家を惚れさせるためだ。惚れていた人に裏切られる気分を味わわせたかった。モンスターに危機にさらされた古家を優希が助けるといったシチュエーションだ。探していたモンスターは現れず、手順がくるってしまったが、もうどうでもいい。ここに来たのは本当に偶然だ。しかし、自分が用意しようとした状況が自然に出来たのにそれを利用しないのはもったいない。
優希は、薄っすらと笑みを浮かべながら、抜け殻の彼女――古家 柑奈に言う。
「自力でなんとかするんだな。僕は自力で耐え抜いた。それが出来ないのなら、絶望と恐怖と不安と後悔をその記憶に、心に刻んで……死んでいけ!」
これが、優希の彼女らへの復讐。優希は何もされなかった。だから、自分からは危害を加えない。彼女たちは何もしなかった。だから優希も何もしない。助けることなどしない。どうにかする力があっても何もしなかった彼らのように、助けを求めているのを知りながら、手を差し伸べなかった彼女らのように、優希は、ただただ見ていただけだった。
彼女らがこの世から別れを告げ、あたりのモンスターを蹂躙し、部屋中に血と死体で埋め尽くされた時、優希は数分間笑いが止まらなかった――
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