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眷属たちの宴 5
しおりを挟む優希の返答に、あたりの空気は一気に冷えた。
ガウルの表情も、快活な顔から、獣のような表情に変わった。
それと同時に、優希も警戒態勢に入る。一触即発の空気だが、上につりあがった目で睨みつけていたガウルは、口をこれでもかというほど開き、ギルド内に響くように大きな笑い声を放った。
「クハハハハハ!! ……こんな状況でも怖気付かないとは、ますます気に入った!」
まさかの反応に、周りのギルドメンバーだけでなく、他の黒プレートの奴らも反応に困っている。
何が何だか分からないが、これで一件落着となった。はずだったのだが……
「ジークさん、メアリー、大丈夫ですか!?」
突然荒々しく開けられた扉の音と高めの声に、その場にいた全員がそちらを向く。
そこには、焦っている西願寺と、その後ろに診療所にいるはずの古家たちが並んでいた。
優希はそれを見て、面倒くさいことになったと言わんばかりの深いため息をつく。
「ジーク、事情は皐月からから聞いたわ。助太刀するわよ!」
古家の先陣を切って、釘町、坊垣内、相須、最上、菊谷もそれぞれの武器を構える。
突然の乱入に、ガウルは弁解しようと突撃してくる古家たちの前に立ちはだかる。
「ちょっと待て! お前ら何か勘違いを――」
「問答無用!!」
「ぶぅは!?」
「「「「「マスタァァアアー!!!!」」」」」
魔導士杖をまさかの打撃武器として、古家はガウルの顔面を殴り飛ばした。
吹き飛ぶギルドマスターと騒ぎ立てるギルドメンバー。
「大丈夫ですかジークさん!?」
西願寺が優希の元に駆け寄り言う。優希は苦笑いを浮かべながら、
「大丈夫……だった」
「へ?」
********************
「「「「「「「すいませんでした!!」」」」」」」
7人の謝罪のセリフがギルドに響く。
完全に戦闘が始まる前に、優希が事情を説明したことで何とか戦闘はさけられた。ガウルが気のいい性格でよかったと、優希は安心とともに疲労感が増した。
「ジークさんを呼びに行こうとしてたら、ジークさんがそこの人についていくのが見えたんで、てっきりこの間の仕返しかと……」
優希を物陰から見ていたのは、西願寺だった。勘違いした西願寺は、急いで古家たちの元に行き、話を聞いた古家たちは急いでこちらに来たというわけだ。
その行為はこの場では迷惑だが、同時に優希の計画が順調に進んでいることを表していた。
「ま、まぁ勘違いは誰にでもあることよ」
ガウルは、腫れた顔を押さえながら笑って言う。その反応に古家たちは顔を赤らめる。
「それに、無理やり連れてきたのはこっちだ。もう仲間がいるなら仕方ねぇ。今日は帰んな」
そして、迷子の子を引き取るように、古家たちは優希とメアリーを連れて行った。
「おい、あいつの素性を調べておけ」
「え? マスター、あいつは諦めたんじゃ……」
「諦める? あいつはかなり強ぇ。簡単に諦められるかよ。“ティエラ”攻略のためにもな……」
ガウルは、去っていく優希を見て、不敵な笑みを浮かべた――
********************
「まったく、皐月ったら人騒がせなんだから」
「……ごめん」
小さな体を大きく動かして言う古家に、顔を赤らめめながら謝る西願寺。他のみんなは思わず笑ってしまっている。
「そういえば、礼を言ってなかったな。この間はありがと、勝ちゃん」
「……勝ちゃん?」
肩に手を乗せて言う釘町からの愛称に、優希は困惑する。
反応から考えを察したのか、釘町は愛称の由来を説明した。
「だって、ジークってドイツ語で勝利って意味だろ? だから勝ちゃん」
「お、それいいな。俺もそうしよ。ありがとな勝ちゃん」
坊垣内もその愛称を気に入り、優希のことをそう呼ぶ。優希は少し困った顔をすると、メアリーも顔を押さえて笑っている。何がそんなに面白いんだと優希は思った。そした、相須、最上、菊谷、古家だけでなく、西願寺までも、その呼び方をしてきた。まぁ、西願寺はその場のノリみたいだが。
「いいんじゃないか? ジークより、そっちの方が面白い。なぁ、勝ちゃん」
メアリーも、状況を楽しみながら愛称呼びした。
優希は会話から、このメンバーとの親密度を把握し、その上で話を持ち出す。
「なぁ、明日はダンジョンの50階層まで行ってみないか?」
50階層は、古家たちでは少々きつい階層だ。しかし、今回は優希とメアリーがいる。
二人の実力を知っている西願寺たちは、不安の表情など一つも見せずに、優希の提案に乗っかった。
優希の心の内も知らずに……
********************
「さー今日は、50階層まで行くわよ!」
「古家の奴、張り切ってんなー」
「そりゃ、これから今まで踏み込んだことのない領域に行くんだからテンションも上がるって」
「皐月、また昔みたいにテンパって味方に攻撃しないでよ」
「しないってば! もう最初とは違うんだから。燈こそ」
「私も今日は、弓も強化してきたから、少し楽しみだわ」
「頑張ろうな、テイミー」
「キュルルルゥ!」
それぞれ、準備は満タンなようだ。いつもより深く潜るので荷物は普段より多く、リュックは膨れている。これでも最低限度の荷物らしい。50階層以上の攻略になると二日はかかるので、荷物は多くなる。本来なら眷属15人と5人の荷物持ちがベストな形となっている。
それを知らない優希とメアリーは、いつも通りの荷物だ。最初は古家たちも驚いていたが、中で調達すると聞いて納得したらしい。何かあれば自分たちの分を分ければいいし、優希たちならという可能性を持っていたからだ。それほど、優希たちはこのパーティに馴染んでいた。と、少なくとも古家たちは思っている。
実際、中では優希たちがメインで戦っていた。今更力を抑える必要がないからだ。それに、優希は彼らに実力を見せつける必要があった。
30階層まではあっという間だ。優希は戦闘においてマナは使わないので、西願寺の回復スキルも必要としない。これほど、便利な人材はそういないだろう。
しかし、周りがついてこないので、一度休憩を取ることになった。
ダンジョンの中にある、教室と同じくらいある広い空間の中心に輪になって座っていた。
それぞれ、持ってきた非常食を、優希たちはダンジョンで倒したモンスターの肉を焼いて食べる。モンスターの肉は、基本的に有毒だが、中には食べられるものもある。高級食材とされるものもあるのだ。
そして、優希は温まったコーヒーを口に入れながら、ふたつの場所を観察する。
「あ、朝日、顔についてるよ。取ったげる」
「い、いいって」
「いいからいいから」
「……」
「フフ、テイミー餌だよー」
「キュルルルゥ」
「嬉しそうだなテイミー」
「キュゥゥ」
優希は、古家の元に行き、耳打ちするように話す。西願寺がこちらを見て曇って表情をしているが、優希は気にしていない。
「なあ、釘町と相須、最上と菊谷って付き合ってんの?」
「いいや、柑奈の見たところ、好きだけど告白できてないってところね。それと、燈ちゃんは健のことが好きみたいだけど、健は皐月が好きみたい。これが三角関係! 少女漫画みたいよね~」
なぜか楽しそうに話す古家。パーティ内の相関図が大体わかってきた。学校ではそんな素振り見せることがなかったため優希は知らなかった。
そして、今度は古家が優希に耳打ちする。そして、さらに西願寺の表情が曇った。もちろん優希は気にしていない。
「そんなことより、あんたは好きな人とかいないの?」
古家の発言に、優希の心は締め付けられるような感覚に陥り、思い出したくもない記憶がよみがえる。
優希は、決して入学当初からずっと一人だったわけではない。優希にも仲が良かった人たちがいる。
それが、古家たちだ。一人で休み時間にそわそわとしていた優希を古家が、グループに誘ったのだ。
優希はその時すごく嬉しかった。高校には中学の知り合いが一人もおらず、自分からガンガン行くタイプではなかったので、自然と組みあがっていくグループに入れなかったのだ。そこにきての古家の誘いは、おそらく高校生活で一番うれしかったと思う。
そして、放課後だけでなく、休日も遊ぶようになり、優希はかなりそのグループに溶け込んでいた。そんな日々で、優希の心も少しずつ変化があった。優希は弱気な自分とは対照的な、元気で常に自信に満ち溢れ、優希に楽しさを教えてくれた古家こいえ 柑奈かんなに惹かれていた。しかし、そんな日々は長くは続かなかった。竜崎たちに目をつけられたのだ。それに便乗するように他の人たちも優希に危害を加え始めた。優希は最初、みんなに迷惑をかけてはいけないと一人で耐えていたが、やはり、救いの手があればだれでも求めるもの。優希は古家たちに話そうと思った。しかし、そうしようと決心したときには遅かった。いや、時間など関係なかったのかもしれない。
優希は、その頃から古家たちに関わられることはなかった。
親友のように慕ってくれた釘町も、弱気な優希を慰めるようにしてくれていた坊垣内も、飼っているペットを触らせてくれるほど仲が良かった最上も、いたずらされたりしたが楽しい日々を送らせてくれた相須も、なんだかんだ気にかけてくれた菊谷も、どんなことがあっても優しく接してくれた西願寺も、そして、優希の恩人であり、見本であり、初恋の人であった古家までも優希を無視するようになった。
優希は、グループから外されたのだ。
優希はこみあげる激情を押し殺し、よみがえる記憶をかき消して、したくも無い笑みを浮かべて、
「いないよ」
この言葉が、優希にとってどれほど苦しい言葉だったか、誰も知らなかった――
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