虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたのでとりあえず復讐することにした

野良子猫

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救済の狼煙 2

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 王城の一室から聞こえる笑い声は、その場の雰囲気を軽くしているようだ。
 
「フフフ……じゃあ、挨拶も済んだし、本題に入ろうか」

 ウィリアムの軽い笑みが、真剣な表情に変わる。その眼は話の重要性を告げ、漂う雰囲気は鬼気迫ることを教えている。
 先ほどまでのギャップに薫は冷や汗を隠せない。そして、ウィリアムは振り返り、背中越しに話す。

「君の噂は聞いている。そこで、君にお願いしたいことがあるんだ」

「お願い……ですか?」

「近日、帝国内でちょっとしたお祭りがあるのは知ってるかい?」

「はい、確かシルヴェール帝国の建国記念祭……でしたか?」

「あぁ。その行事で、皇帝陛下と姫殿下が挨拶をすることになっててね。それは良いことなんだが……一つ問題があってね」

「問題ですか?」

 ウィリアムが顔をこちらに向けたとき、そこには不安そうな表情が見て取れる。だが、その表情を見たとき、薫は疑問に思った。なぜ、自分なのかと。
 ウィリアムは帝国最強と言われている騎士だ。薫の職業上、依頼は戦闘関連によるものだろう。しかし、ウィリアムが困るほどの問題、新米眷属である薫に頼むとは思えない。それなら、黒プレートの眷属を数名雇う方が安全且確実だ。
 
「実は、姫殿下の護衛を任せたいんだ。皇帝陛下の方は僕が居るから大丈夫なんだけど……」

 大丈夫と言い切るあたり最強の名は伊達じゃないことを知る。しかし、そんな彼が不安に思うほどの事態。薫が何とかできるものだろうか。それは、後ろで話を聞いている海斗も思っていた。海斗の表情から依頼内容は初耳だということを知る。
 薫はその疑問を思考から言葉に変えた。

「でも、なぜ僕なんですか? 僕にはそんな重要な仕事を受けられる力など――」

「もちろん、今の君に任せるわけではないよ」

 薫が疑問を最後まで言い切る前に、重ねるようにウィリアムは言う。その言葉に、薫は首を傾ける。疑問が解答に至る前にさらに疑問が降り注ぐ。薫が引っかかっているのは「今の君」の部分だ。今の君と言うことは練度の話だろうと薫は思った。なら、余計に自分に依頼される意味が分からない。なぜなら、建国記念祭は今日含め7日後。どれだけ必死に練度上げしても、オリジナル取得の500には届かない。練度は上がれば上がるほど伸びが悪くなるからだ。

「いろいろな情報屋、ギルドを回って候補者をリストアップしたんだけど、その中にも気になる人物がいたんだ。それが君だ」

「僕……ですか?」

「そう。眷属になりたての君が候補に挙がるのは、不思議に思ってね、ここ数日メリィに頼んで身辺調査をしてもらっていたんだ」

「げっ!?」

 ウィリアムは、机の上に置いてあった紙束を手渡す。A4の紙が3センチくらいはある厚さの束だ。薫は中に目を通して、思わず絶句する。そこには身辺調査を超えた情報がぎっしりだ。行動は秒単位で刻まれており、その時の状況、表情、会話などこと細かく書かれている。たとえ自分が書くとしてもここまで細かくは書けないだろう。
 
「あ、これは余談だが、メリィは初めて異性の裸を見たらしい」

 ウィリアムの言っていることが本当なら、次からどんな顔でメリィに会えばいいのか分からなくなる薫だった。
 そして、ドン引きを超え狂気すら感じる資料に目を通していくと、気になる単語が目に入る。

「勇者の……素質?」

 薫はここに来てからの情報収集で戦闘における力は三つあるということが分かった。眷属になることで得られるマナを使い発動するスキル、武器に選ばれれば眷属でなくとも眷属に匹敵する力を得ることができる神の落とし物ディバインドロップ、そして、神との契約により代償を支払うことで契約者自身が力を得ることができる契約術だ。
 そのどれでもない力に薫は興味を持つ。
 そして、海斗が後ろから話、薫は顔をそちらに向ける。

「本来、練度上げに才能は関係ない。やっていることが同じなら同じように練度は上がる。だが、これは才能というより体質のようなものだ」

「体質?」

 海斗の説明にしっくり来てないのか、あまり良い表情をしない。そんな薫にウィリアムが言う。

「例えば、痩せることに努力はいるけど才能はいらないだろ? 食事を制限して、運動すればいい。けど、痩せる速度は人それぞれ。痩せやすい体質の人はすぐに痩せるし、太りやすい体質ならあまり変化は少ない。素質というのはそんな感じだ」

 ウィリアムの説明に納得した薫は、具体的に聞いた。

「勇者の素質は、練度の伸びが一定になるんだ。普通なら君ぐらいの練度になると相当強いモンスターを倒さないと、練度はあまり変わらない。けど、君の場合はプラスの経験値なら一定になるんだ。さっきのたとえで言うと練度が上がりやすい体質になるのかな」

「それって結構便利ですよね」

「そうだね。強いモンスターを倒せば練度はかなり上がるし、弱くても実力差が開きすぎてなかったら初期と同じくらいの速さで練度はあがる。今からなら4日後には練度500は超えるだろうね」

 抱いていた疑問が無くなった上、自分の恵まれた体質を知り思わず笑みがこぼれる薫。
 つまり、今から練度を上げて姫殿下護衛に努めてくれという依頼だ。もちろん、断る理由も無い薫は快く承諾した。
 話を終えた薫と海斗は部屋を出て、台座においてあるベルを鳴らす。すると、近くで待っていたのか数秒でメリィがやってきて、薫は資料を思い出し赤面してしまう。
 その後、2人はあまり来ることはない帝都を堪能し、宿のある街にに戻った。


 
 ******************** 



 街に戻ると、そこには茅原が待っていた。少し機嫌が悪い。一応心配をかけないため、書置きは置いていたのだが。

「どこに行ってたの?」

「えっと……っな!」

 薫は返答に困る。茅原は前から帝都に行きたがっていたため、自分だけ行っていたと知るとさらに機嫌が悪くなりそうだからだ。それゆえ、薫は無意識に海斗に振ってしまった。
 海斗は眼鏡を中指で直すと、笑顔で言った。その笑顔は単なる笑顔ではなくいたずらな笑顔で、薫は嫌な予感が止まらない。

「実は、隣の町で新しいカフェができてな、そこの店員がかわいいと噂で朝からナンパに――」

 薫の予想は的中し、海斗の口をとっさに塞ぐが、もう遅かったようだ。茅原は顔を下に向け、拳を握りしめて小刻みに震えている。朝からそんなことをやっていると知れば怒るのも無理はないだろう。茅原が怒っているのは別の理由だが。
 
(……終わったぁ)

 薫は嘘を訂正する間もなく吹き飛ばされた。それもスキルで。



 ********************



 勇者の素質は、聞いた時はあまり実感はなかったが、実際練度上げになると効果を意識した分強く感じる。
 依頼の詳しい話は実際に練度が500になったらということで、薫は練度上げに励む。
 もし、間に合わなければ他の人に頼むということらしいが、あれだけ期待されている以上答えたいと思った薫は、一時的にパーティを抜け、別行動することにした。そこは海斗の説明もあり、割と簡単に承諾してくれた。一人を除いては……

「えっと……ほんとについてくんの?」

「だって、薫一人じゃ心配だし」

 馬車にて移動する薫の横には茅原が座っている。心配してくれるのはうれしいが薫にとってはついてこられる方が心配だ。これから行く場所は今までと違いモンスターのレベルが上がる。茅原を守りながら戦えるかどうかも自信がない。けれど、茅原が一度決めたことを止めさせるのは骨が折れる。だからこうして連れているわけだが。

 そして、薫たちがいた街から東に数キロ、帝国内でも有名ギルドが集まる街、アルカトラへとついた。ここなら練度を上げやすい戦闘系の依頼を受けやすいからだ。
 ただ、戦闘系ギルドが多く存在する分、他の街より治安が悪いのが問題だ。薫が茅原を連れて行きたくなかった理由でもある。
 一見普通の街だが、通りには武器屋が多く並んでいる。そして、道の中心に何やら人だかりが出来ていた。薫と茅原はその人と人の間に出来た隙間から、何が起こっているのかその目で確認する。
 人ごみの中には、4人の男と、一人の少女、怪我をしている少年がいた。

「早くその子に謝りなさい!」

「あぁ!? そいつがぶつかってきたんだ。むしろこっちが謝ってほしいね」

「見ていたけど、少年は謝ってたじゃん。その上で蹴り飛ばしたんだから、早く謝りなさいよ!」

 一触即発の空気に周りも困惑している。助けに入ればいいものの、男の方は武器を持っており、簡単に手は出せない。衛兵が早くこればいいが、近くに見えない。まだ呼んでいないのか、ここから離れているのか分からないが、待ってはいられないようだ。

「このアマ……調子に乗りやがって!」

 一人の男が少年を庇っていた少女に殴りかかる。薫が割って入ろうとすると、目の前の光景に足を止めてしまっていた。

「はぁあ!」

「っぐは!?」

 男の拳は、少女に軽くかわされ、男の腹に掌底が繰り出される。少女の華奢な体で放たれたとは思えないほど、男は後ろに吹き飛び、残りの三人は所持していた武器で襲い掛かる。しかし、少女は長いオレンジ色の髪をなびかせて、スカートがめくれないよう最小の動きで舞うようによけ、背中に持っている槍を使うこと無く、素手ですかさずカウンターを決める。その強さの前に、4人の男たちが地面に膝をつくまで、数分しかかからなかった。
 
「っくそ……お前、一体何もんだ!」

 いかにも小物の相手が口にしそうな、質問に少女は先ほどの動きで散らかった髪を整え、質問した男にきれいな瞳を向ける。
 そして、

「私? 私は、マリン。通りすがりの眷属よ」

 マリンと名乗る少女は、男たちに無理やり謝らせ、強引だが迅速に場を収めた。

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