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救済の狼煙 3
しおりを挟むちょっとした騒ぎは一人の少女によって収集され、周囲の人たちも自然と解散するようになった。
薫たちは、少年の手当てをしている少女、マリンを驚きと関心のあまり見入っていた。
その視線に気づいたのか、マリンもこちらを向き、にっこりと笑顔で返す。そして、少年と別れるとこちらにやってきた。
「あなた、人ごみの後ろで見てたよね」
「え、えっと、加勢できなくてごめんね。ちょっとびっくりしちゃって」
「いや、怒ってるわけじゃないんだけど……」
マリンに軽く詰め寄られ、思わず謝罪の言葉を口にする。だが、マリンの目的は別に助けなかったことへの文句ではなかった。
マリンは顔を赤らめてこちらを見る。その理由は突然耳に入った情けない音で理解した。
その音は誰もが聞いたことがあり、人に聞かれると恥ずかしくなる腹の音だった。
「ご飯奢ってぇ~」
涙目になりながら、マリンは薫にもたれかかった。
「いや……モグモグ……ほんとに助かっモグモグ、お金を落としちゃって、モグモグ」
「それは良いんだけど……とりあえず食べるかしゃべるかどっちかにしたら?」
料理を口にかきこみ、飲み込む前に声を発するマリンに、茅原は苦笑いで言う。マリンは綺麗な戦い方と違って意外に大雑把のようだ。
「ふ~ほんとにありがと。もう金袋を落とした時はどうしようかと思ったわ」
満足そうにお腹を撫でながら、薫たちにお礼する。
「そういえば名前聞いてなかったね。私はマリンよ。あなたたちは?」
「僕は薫、逢沢 薫だ」
「私は上垣 茅原よ」
薫たちが自己紹介すると、珍しいものでも見るような目でマリンは見る。
「アイザワ……カオル……ウエガキ……チハラ……あなたたちって転生者なの?」
「「転生者?」」
薫と茅原はマリンの言葉をそのまま口にする。そして、マリンは薫と茅原が知らないことを表情から察する。
「転生者は言葉の通り、違う世界から来た人たちのことよ。名前がちょっと違うから結構わかりやすいのよね」
違う世界から来たということは意外と知られていた。薫たちがここに来た時、好奇の目で見られながらも、騒ぎにはならなかった理由がこれだ。
「そういうことならそうだね。僕たちがここに来たのは3カ月くらい前かな」
「3カ月? 3年前じゃなくて?」
薫の言葉にマリンは困惑した。何故3年前が出たのか、それはその後に口にされたセリフで明らかになった。
「だってあなた、練度200はあるでしょ。私にはわかるんだから」
見透かすような目で、得意げな笑みでマリンは言う。マリンが言っていることは当たっており、薫は関心してしまう。
「なんでわかったの?」
だが、何故か茅原がその質問をする。それもそのはず、薫には心当たりがあり、茅原はそれを知らない。
「私、野生の素質があるんだよね。大雑把ではあるけど、相手の練度がどのくらいあるか分かるのよ。どう? すごいでしょ?」
薫の予想は的中。そして、薫は茅原に素質について説明する。
マリンの野生の素質は、簡単に言ううと野生の勘が鋭くなったようなものらしい。
「それで、どんな裏技使えばそんな短時間で練度が上がるわけ?」
「それがおかしいのよ。みんな練度の上りが遅くなるのに、薫だけは全然変わらないのよね」
「それは、僕も素質があるからなんだ」
「えぇ!?」
薫の初告白に、茅原は目を見開いて驚く。そして、何故それを隠していたのかを追求してきた。これはもう言い訳できないと判断した薫はすべてを正直に話した。
「……と、いうことで、姫殿下の護衛に努めることになって……」
すべてを話したら話したで、茅原は不満げな顔をする。かなり重要なことを隠していたのが原因だと、薫は今回に限り分かった。
そして、一通り成り行きを見ていたマリンが口を開く。
「軽く言ってるけど……自分がどんな素質を持ってるか分かってる?」
マリンは薫を指さして言う。そして、薫はきょとんとした顔で返し、マリンは深いため息をついた。
「あのね~勇者の素質の持ち主っていうのは、世界に二人もいない選ばれた人がもつ素質なの! つまり、悔しいけど私の素質なんかより数万倍凄いの! あなたはそれを理解してる?」
「は、はぁ……」
マリンは立ち上がっての鬼気迫る熱弁に、薫はあっけに取られてしまった。よく見ると周りの人もこちらを見ている。それに気づいたのマリンは赤面して席に座り縮こまっている。
「とりあえず……ここから出ようか?」
薫の提案にマリンはうなずき、三人は店を出た。
三人は、目的地もなく道を歩く。人が多く行き交うその道で、他の会話を耳にしながら薫は話す。
「ここらへんで、うまく練度上げが出来るとこはないかな?」
「んーなら、うちのギルドに来る? 奢ってくれたお礼に」
プレートを見せながらマリンは言う。その提案に薫たちは乗っかり、マリンについていくことにした。
********************
「ここよ」
ついた場所は、それほど大きくはないが、他の建造物よりなかなかの存在感を醸し出していた。
その建物の扉の上には、大きめにこう書かれていた。
――紅の猫
マリンの話によると、少数だが、この辺では信頼のあるギルドらしい。アルカトラには割とギルドが集まるのでその分信頼があるというのはなかなかいい場所だ。
少数精鋭で、マリンはその中でも一番新人らしく、マリン以外は全員金プレートのメンバーだ。
「さぁ中に入ろ。マスターには紹介してあげるから」
マリンはそう言って扉を押す。年季が入っているのか扉からはギイイイという耳に響く甲高い音が、このギルドの歴史を感じさせる。
中は、テーブルやイスが並べあり、一見普通のカフェのような感じだ。しかし、そこにもリクエストボードはあり、ここがギルドであることを証明する。
奥にはカウンターがあり、その中でグラスを拭いているバーテンダーの男の元にマリンは走る。
「マスターちょっと紹介……したい……人が……」
マリンはその男に近づくにつれ移動速度が落ちる。それもそのはず、バーテンダーの男は鬼の形相でマリンを見ていた。
「さっき、騎士団から連絡があった。なにやら喧嘩したらしいな」
「いや、それはあいつらが――」
「黙りなさい!!」
「いったぁあいいい!!」
マリンの脳天に容赦ない拳骨が叩き込まれ、薫と茅原は固まってしまった。
そんな二人に、バーテンダーの男は視線を向け、鬼の形相から天使の笑みに変わるが、さっきの光景を見てしまってはそれが逆に恐ろしいほどでもあった。
「マリン、彼らは?」
「ん? ああ私の恩人。ちょっとお願いがあるんだけど……」
マリンは涙目で頭を押さえながら事の成り行きを説明する。そして、バーテンダーの男は拭いていたグラスを棚に置くと、カウンター越しに薫たちに話しかけた。
「事情は分かった。練度上げのいい場所は知っている。ただし、そこは並みの眷属では危険だ。重役で、少しでも練度を上げておきたいのはわかるが、知り尽くしている狩場で地道に練度を上げることを進める。なんなら、その仕事はうちが受けよう」
ちゃっかりと依頼を取ろうとするバーテンダーの男は、カウンターから出て薫のもとに近づく。薫はバーテンダーの男の大きさに驚きながら、顔を上げる。ざっと190センチはあるだろう身長に、バーテンダーで目立たないがそれなりの筋肉。マスターという役職も相まって、その男の凄味が増す。
薫は冷や汗をかき、口の中がほのかに乾くが、そんなこと気にしていられないほどの緊張感が、バーテンダーの男から出ている。
マリンは後ろで、心配そうに見ている。茅原も薫の後ろで服の背中部分を強く握っており、薫の防衛本能が自然と出てしまったのか、茅原を守るように手を広げる。
「いや、別に取って食おうってわけじゃ……」
薫の反応にバーテンダーの男は両手を出してなだめる。
マリンは後ろで口を押えて笑っていた。
「すまない。私はウルド。このギルドのマスターで、職業は剣士だ」
そう言ってバーテンダーの男、ウルドは薫に握手を求める。先ほどまでの威圧が消え、薫もぎこちなく対応した。
「あ、はい、僕は薫と言います。こちらは茅原です」
薫の紹介に、茅原も軽く会釈する。
そして、薫は本題に切り出した。
「僕は、寄せられた期待と信頼には少しでも答えたいんです」
薫のまっすぐな目は、ウルドの心を刺激した。
「なら、試してやろう。ついてこい」
そう言って、ウルドは裏口の方に歩き出し外に出る。
外には、軽い運動をするには十分なスペースの広場があった。
「ここは、訓練所として使っている場所だ。まぁ、マリンのストレス発散所に変わり果ててるが」
よく見ると、粉々になった人形が散乱している。そうとう溜まっていたのだろうか。
ウルドは、立てかけている剣を握りしめ、広場の真ん中で仁王立ちする。薫を見る目はすでにさっき漂う獣の目に変わっていた。薫はその威圧感に額から汗が頬に伝い、そこにわずかな冷たさを感じながら、ゆっくりと足を前に出す。そして、ウルドと対峙すると薫は背中に携えていた剣を抜いて構える。
「いい構えだ……では、行くぞ!」
ウルドは、薫に向かって走り出した。巨体と相まってその突進は並みの眷属よりも圧迫感があり、薫は少し足を引いてしまう。
ウルドは、それを見逃さなかった。ウルドから叩き込まれた剣撃は、薫の体力を一瞬にして奪った。
なぜ、こうなったのか。薫はウルドの行動の意図を読み取れないまま剣を交えた。
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