虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたのでとりあえず復讐することにした

野良子猫

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茜色の泉 9

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 声を出せば響き、その中に水滴が落ちる音が混じる。
 洞窟は少しずつだが下に向かい、その道は曲がりくねっているが一本道。皐月のスキルで洞窟内を照らし、優希たちは、ひたすら続く道を歩く。今のところ特にモンスターなどは襲ってきてはいない。その状況はこの世界に来たばかりの頃を思い出す。竜崎たちに見捨てられたあの頃を。

「何も……来ないな」

 さすがの鬼一も感じた違和感を口に出す。かれこれ一時間は歩いているだろうか、そろそろ休憩しようと花江のが言ったことでひとまず休憩を取ることにした。
 地面に腰を掛けるも少し湿っているためあまり居心地は良くない。

「結構深くまで来たでござるが、モンスターが出てこないなんてあるものでござるか?」

 ある。と言いたいが、他が言わないので優希は黙った。優希自身もこんな状況は一度しかなかったため、確証も無いことは言うのも疲れる。

「まぁ、戦わずに進めるのは良いことだろ。気にせず行こうぜ」

 体を伸ばしながら日向はそう言って立ち上がる。それにつられるように皆も立ち上がり、それぞれ出発の準備を整えた。優希も地面と接触し、湿った服をメアリーに乾かしてもらい、気付けば歩き出している皆の後ろに続いた。

 やはりあの時同様レベルが違うモンスターがいるところには、他のモンスターは少ないのだろうか。ましてや今回は神。もしかしたら、このまま一体も出現することなく海帝の元に辿り着くかもしれない。
 しかし、そんな浅い考えは見事の崩された。

「な、なんだ!?」

 突然の揺れに、全員身構えた。揺れは激しく、元の世界ならタンスなどは簡単に倒れているだろう。水溜まりは波紋を作り、洞窟の天井から小石サイズに岩が欠け落ちる。男子勢は足を広げバランスを取り、花江はリーナと支えあい、布谷は壁に手をつく。そんな状況でも平然と立っているメアリーに皐月はしがみついている。
 そして、ピシッと立っている地面にひびが入った。そのひびは徐々に広がりそして、

「うわっ!?」

「何でござるか!?」

「「きゃあ!!」」
 
 地面は見事に割れ、全員が暗闇の底に落とされた。



 ********************



「みんなー無事かー」 

 突然のことで皐月も無意識にスキルを解いてしまい、真っ暗で何も見ることは出来ない。そんな中でも、鬼一の呼びかけにそれぞれ反応。安否を確認した後、皐月は再び灯りを灯す。

「輝球《シャイニング》」

 白銀の光があたりを照らす。突然の光に全員が腕で目を隠すが、慣れてくればその目を開く。

「すっげぇ……」

「これは見事な……」

「幻想的……」

 そこにはとてつもなく広い空間に、青く光っている水が岩壁の隙間から流れ落ち、その水が行きつく先は中央にある泉だ。一切の汚れも濁りも感じさせない泉は、都会暮らしの召喚組はもちろん、リーナたちも見とれていた。
 その中で、メアリーはなぜか構えている。その行動の意図を察せたのは、この中でも優希だけだ。
 優希は中央の泉に意識を集中させる。特におかしい点はない。泉は透き通って底までしっかり見えるため、隠れてもいないのが分かる。
 そんな状況下でも、優希の理性的危機感知はしっかりと警笛を鳴らしている。

「メアリー、何か感じたか?」

 優希は小声でメアリーに尋ねた。メアリーは普段なら直立で状況を楽しんでいるが、今回はいつでも迎撃できるように肩幅程度に足を広げ、視線を上や横にと移動している。そして、優希の質問には軽く頷いて対応。

「ジークさん!」

「――!?」

 優希がメアリーに視線を移動したほんの一瞬、泉から無数の水滴が、空中で槍状の変化し襲い掛かった。皐月が声を上げなければ気付きさえもしなかった。いくら視線を逸らしたとはいえ警戒を怠ったわけではない。それでも優希は気付かなかった。その事実は、いきなり精神的にも肉体的にも優希にダメージを与えた。

「大丈夫ですか!?」

 皐月は何滴かの水槍が体の肩や腹、腕足などを射抜き、射抜かれたところはじわじわと血が服を滲ませる。
 駆け寄って急いで治癒する皐月だが、痛みを感じない優希にとっては無駄である。
 その奇襲に合わせ、全員が警戒態勢を取る。事前に打ち合わせした配列で固まり、全員の視線は優希が奇襲を受けた泉に合わせる。

「どういうことだよ! 中には何もいなかったぜ!」

 ダガーを構えたリーナは、動揺しているのか空間に響くほどの声で言った。いきなりの緊張に皆呼吸を整える。しかし、落ち着かせた鼓動を再び強い刺激を与えるような、低音の声が聞こえた。

 ――パンドラ以外のものは……ここから立ち去れ……

 広間の壁を反響させて聞こえるその声は、一切の位置を掴ませることなく、優希たちに伝えた。しかし、その言葉を理解できるのはこの場で二人だけだ。
 
「パンドラ……何のことだ?」

 柄に手を当て、抜刀の構えを取りながら、声の主に問いかけるように呟く。
 そして、数秒の沈黙が広間を包んだその時、泉の中から直径二十メートルはあろう球状の水塊が現れた。全員その水塊に釘付けになっていると、それはシャボン玉のように弾け、水が人の形をとどめながら、残りの部分は泉へと落下し大きな飛沫を上げる。

「でけぇ……」

 水塊の大きさ同様、その人型に固まった水もまた大きかった。
 そして、皐月の輝球を反射させたその水は、徐々に色が宿っていく。
 少し癖のある水色の髪は腰あたりまで伸び、上々の布でできた水色の生地に文字やら絵やら刺繍された腰巻、ダボ着いたパンツに金属でできたブーツ状の鎧。上半身は裸だが、引き締まり、がっしりとした筋肉は、半裸状態でも違和感は感じさせない。
 右手には金色の槍を持ち、男は宙を浮いた状態で優希たちを見下ろす。

「あれが……海帝」

 失った言葉をかき集めて鬼一は呟く。あのライガですらも呼吸を忘れ瞳を震わせているくらいだ。
 
 ――聞こえなかったのか……去れと言った……三度目はない……

 海帝は口を開かずとも、声を発している。まるで脳に直接伝えるように。

「さすがに無理よ……」

 布谷が後ずさりして呟くと、無意識に判断したのか他全員も諦めるように逃げの姿勢を取り始めた。
 
 ――パンドラは……残れ……

 海帝の言葉に、鬼一は勇気を振り絞って、

「だからパンドラって何なんだよ!!」

 鬼一の怒号が広間に響く。大声を出したことで吹っ切れたのか、先ほどまでの動揺が少し薄れているように思えた。
 そして、心から絞り出した質問に、海帝は鬼一と視線を合わせて答えた。

 ――そこにいる銀――

 海帝の返答は言い終わる前に途切れた。
 そして、言葉の途切れとほぼ同時に、海帝は槍を構え、鈍い音が広がった。海帝はわずかだが反動で後ろに下がり、大きすぎる金色の槍には、鬼一たちの場所から出は視認できるかもわからないほどの小さな後が残っている。

 ――何者だ? ……

 何が起こったのか分からなかった。だが、皐月が気付いた時には優希はその場から消えていた。
 そして、皐月は海帝の方に目をやると、コートをなびかせて彼はそこにいた。
 まるで、海帝の言葉を言わせないかのように。

「ちょっと、ジーク!?」

 いきなりの奇襲に、鬼一は目を見開く。

 そして、優希は地面へと着地し、海帝を睨みつけた。
 海帝は、槍に目をやる。そこにはくっきりと拳の後が残っていた。

 ――驚いた……生身でこの槍に傷をつけるとは……この力は最早神の領域……貴様、パンドラの――

「黙れ……それ以上言うと――」

 優希は、赤い眼光を海帝の瞳の無い目に向けながら、

「殺すぞ」

 海帝は槍を構え、優希は恐れることなく指の骨を鳴らし、睨み合っている。
 今から始まる戦いに、果たしてついていけるのだろうかと言う不安が鬼一たちによぎる中、皐月はあの頃を思い出していた。古家たちとダンジョンにいた時、突き進み殺意に身を委ねた優希の姿を。

「メアリー、短剣一本よこせ」

 メアリーは装備していた神の落とし物ディバインドロップの片方を手渡した。
 
 ――それは……それは貴様が扱えるものではない

 やはり神と言うだけあって、この短剣を知っているようだ。
 しかし、神の落とし物ディバインドロップとしての機能はともかく、優希にしては剣としか見ていない。

「別に、お前を少しでも下に落とせればいいだけだ。ヘヴィーワールド!」

 海帝に何十倍もの重力がのしかかっている。はずなのだが、一向に下に下がる気配はない。
 
 ――無駄だ……それは所詮、不完全な玩具にすぎん……故に落とし物と言われている

 つまり、神が作ったものは神には聞かないということだろうか。
 優希は短剣を地面に落とし、指を一本一本畳んで拳を握る。

「じゃあ、こいつで行くしかねぇな」

 優希が言うと、海帝は楽しそうに笑う。余裕の笑みと言うやつだ。彼にとっては優希の言葉などただの妄言にしかならない。

 ――フハハハハハ……笑わしてくれるわ……

 優希は腰を下げ、足に踏ん張りを聞かせると、バネがはじけたように飛びかかる。
 対する海帝は迫りくる優希に、体に見合った巨大な槍を、魚を指すかのように一突き。その大きさからは考えられないほどの速さで、金色の槍が優希に迫る。
 二人の戦いに、他は目を奪われていた。
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