野良錬金術師ネモの異世界転生放浪録(旧題:野良錬金術師は頭のネジを投げ捨てた!)

悠十

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野良錬金術師

第七話 出発

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 早朝。
 ネモは早々に宿を引き払い、町を出た。
 『夕焼け亭』一家は心配そうに見送ってくれたが、ネモも長く旅をし、あらゆるトラブルを乗り越えてきたのだ。そう簡単に捕まり、利用されるつもりは無いので笑顔を浮かべて彼等と別れた。
 隣国のワイス王国へ安全を確保して行くなら王都から延びる大街道を使った方が良い。そこは多くの旅人が使う街道で、人通りが多い分安全だ。
 一刻も早くワイス王国へ行くなら、この町の東門から延びる街道を使うのだが、そこは難所がいくつかある。
 ワイス王国へ行くまでに村々が点在するのだが、そこへ行くには何度か森の中を抜けなければならず、魔物に襲われる可能性があった。また、丁度中間地点で緑の乏しい山岳地帯があり、そのどこかにアースドラゴンが塒を作っているという。
 アースドラゴンは比較的大人しい性格のドラゴンなので、刺激しなければ恐れる必要はない。しかし、そのアースドラゴンから漏れ出る魔力を受けて、レッサードラゴンが大繁殖している可能性があるため注意が必要である。
 そう言った注意事項を踏まえて、ネモは東門から町を出た。魔物など、ドラゴンなど恐るるに足らず。さっさとワイス王国へ行く事を選んだ。

「王都の麦穂亭のミートパイが食べられないのは残念だけど、ワイス王国のセノの町はお魚が美味しいから、そこでお魚料理を食べようね、あっくん」
「きゅーい!」

 セノの町は大河が流れる町だ。そのため漁業が盛んで、ワイス王国の観光地となっている。そんな町だから魚料理は絶品だ。

「焼き魚~、煮魚~、魚のパイに、魚のフライ~」
「きゅっきゅ~い!」

 一人と一匹の頭の中は魚の事でいっぱいだ。一応観光地なので、それなりに旅先で異性との出会いというものがあったりするのだが、それが思考の端に過りもしない。流石は親に「誰かイイ人は居ないの?」と聞かれて、「『不老の秘薬』を飲んだからいつかは出来る」と返して親を泣かせた女である。色気が皆無だ。
 そんな実績を持つ親不孝者は、森へと入っていく。
 森を横切る道には、たまにキラーラビットなどの小さな魔物が飛び出して来たが、大きな魔物は出てこなかった。
 休憩を挟みながら無事に森を抜け、日が落ち始めたあたりで小さな村に着いた。
 村は閑散としており、小さな民家がチラホラと見える。
 森と森の狭間にある村であるが故、農地が狭い。その為、住める人間も限られてくるのだ。
 ネモは村の農夫を捕まえ、宿屋があるか尋ねたが、宿屋は残念ながら一年ほど前に廃業してしまったらしい。村には小さな教会があり、そこでなら泊めてくれるだろうと教えてもらった。
 この世界の教会のシンボルマークは、十字に輪がかかっているものだ。十字が楔、輪が世界を表しているのだとか。
 そのマークが掲げられている白い家が教会だ。
 ネモは扉へ近づき、ノックする。

「すみません、どなたかいらっしゃいませんか?」

 声を掛ければ、扉の向こうからくぐもった声が聞こえてきた。
 人が近づいてくる気配を感じ、扉から一歩離れて待てば、すぐに扉が開かれた。

「はい、何か御用でしょうか?」

 扉の向こうから顔を出したのは、下級神官服に身を包んだ美しい女性だった。
 白金の長い髪を三つ編みにして一つにくくり、緑の瞳は宝石のように輝いている。チラ、と見えた耳がとがっていた。純血のエルフの耳は笹の葉のように長くとがっているが、彼女の耳はそれほど長くなく、ハーフエルフあたりだろうと推測できた。

「すみません、旅をしている者なのですが、一晩だけ泊めていただけないでしょうか?」
「まあ、そうでしたか。宿屋は廃業してしまいましたものね。ええ、大丈夫ですよ。どうぞこちらへ……」

 そう言われ入った先にあったのは、前世でもよく見た教会の内部によく似ていた。
 部屋の左右に長椅子が三列置かれており、ステンドグラスの下には神像が祀られている。
 この世界では小さな教会であれば創造神が祀られていることが多く、この教会でもそうだった。
 神像は男とも女ともとれる容姿をしており、不思議と威厳が感じられるものだった。
 教会を訪ねた者として、神に挨拶と祈りを捧げ、女性に奥へと案内される。

「宿屋が廃業してから教会に旅人さんをお泊めする事が多くなって部屋を一つ空けたのですが、元は物置だったので……」

 狭くて申し訳ないのですが、と案内された部屋は確かに狭かった。
 小さな窓に、二段ベッドがあるだけの部屋で、椅子すら入らないだろう狭さだ。
 しかし、宿屋だって安い所ならこんな部屋は珍しくなく、旅をしていれば屋根があるだけありがたく感じるものだ。

「いえ、ベッドを貸していただけるなんてありがたいです。ありがとうございます」

 そう言えば女性は軽く微笑んで、夕食はもう摂ったか聞いてきた。

「いいえ、まだです」
「では、ご一緒にいかがでしょうか? ただ、あまり良いものはお出しできないのですが……」

 ネモは返答に少し困った。ネモだけなら喜んで頷くのだが、問題はあっくんだ。あっくんの食べる量はかなり多く、この小さな教会には迷惑をかけてしまうだろう。

「あの、すみません。ありがたいお誘いなのですが、実は私の連れが兎に角よく食べる子で……」

 チラ、と視線を肩口のあっくんの方へ向ければ、あっくんはキャッ、と恥ずかしそうに顔を隠した。
 その可愛らしい仕草に、あらまあ、と女性は微笑む。
食事の準備はもう終わってるか尋ねれば、まだだと言われた。

「差し支えなければ、食料の提供と、食事の準備のお手伝いをさせていただけないでしょうか?」
「まあ、よろしいんですか?」

 是非、と言えば、女性は嬉しそうに笑みを深める。

「あ、自己紹介がまだでしたね。わたくし、この教会で下級神官を務めるリリィ・トルキスと申します」
「私はネモフィラ・ペンタスです。この子はあっくん。私このことはネモ、って呼んでください」

 二人は握手を交わし、早速厨房へ向かった。
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