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野良錬金術師
第十五話 洞窟1
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その後、ネモ達は無事にレッサードラゴンを倒した。
辺りを見渡し、レッサードラゴンの数を数えてみれば、なんと二十一体も居た。
「騒ぎに気付いて、途中で増えたからな」
「あー、たまにあるわよね。戦闘中の魔物の乱入」
小物なら逃げだすのだが、上位の魔物は漁夫の利を狙ってか、騒ぎに近付いて来ることがあるのだ。
「さて、これはどうする?」
「んー、ちょっと今は時間が無いし、時間停止のマジックバックに入れちゃいましょう。取り分の分配は――」
「ああ、いや、俺はいらない。君が持って行ってくれ」
レッサードラゴンの素材は高価だ。なので、それはどうかと思ったが、「そのぶん護衛料金をまけてくれ」と言われ、それならいいか、とありがたく貰っておくことにした。
レッサードラゴンをさっさとマジックバックにしまい、再び歩き出す。
「ねえ、嫌な予感がするんだけど……。もしかして、アースドラゴンの巣に向かってない?」
「そうだなぁ……。う~ん……」
ネモの質問に、アルスは曖昧な微笑みを浮かべ――そっと目を逸らした。
「やっぱり! これ、絶対アースドラゴンが待ち構えてるやつ! この事件の犯人、アースドラゴンを使役してるの!? とんでもないじゃないの‼」
ヤダー‼ と悲鳴を上げるネモに、ハハハ、とアルスが空々しい笑い声を上げる。
「無理! 絶対無理‼ これ、たった二人の人間の手に負える案件じゃないわよ! 撤退しましょうよ!」
「いやー、うーん……。しかしなぁ、せめてリリィさんとやらがこの事件に関わってしまったか否かだけでも知りたいしなぁ……」
そう言われ、ネモはぐっと言葉に詰まる。
「せめて、塒を覗くくらいはしたい。何かしらの痕跡が発見できるかもしれないからな」
そう言われ、ネモはあの日たった一晩の楽しい女同士のおしゃべりを思い出す。
たったそれだけの縁だ。……けれど、確かにあった縁だった。
ぐぬぬ、と悩み、渋い顔をして決断する。
「……ちょっと、……本当にちょっとだけ覗いてみて、撤退しましょう」
「ああ! そうしよう!」
輝く笑みを浮かべるアルスに対し、ネモは盛大な溜息をついた。
ネモ達は岩山を上り、程なくしてアースドラゴンが巣を作っているという洞窟の入り口へ辿り着いた。
「なんか、ピリピリするというか、ゾワゾワするというか……」
何とも言えぬ感覚がネモの本能を刺激する。その本能は、間違いなく生存本能だろう。
そんなネモの呟きを聞き、アルスもまた同意するように頷く。
「そうだな。これは、相当にまずいぞ。罪の気配もそうだが、魔素の濃さも異常だ。アースドラゴンが居るというだけの理由じゃないぞ」
アルスの言う通り、洞窟からは濃い魔素の気配を感じた。ネモの経験から言えば、それは召喚魔法を使う時に人為的に周囲から集めた魔力の濃さに似ている。
「これ、たぶん誰かが魔力を集めてるんだわ。魔力を集めるのはまだしも、一か所に留めておくなんて相当難しいわよ。しかも、この洞窟に近づくまで気付かなかった。つまり、外への影響がないという事だわ。そうじゃなきゃ、とっくにこの辺の魔物に影響が出て、魔物の氾濫スタンピードが起きてる筈だもの」
魔素とは、空気中に漂っている魔力のことだ。この世界では酸素や二酸化炭素などの原子と同じくくりに入り、それはこの世界の動植物は自らの体内で作り出しているものでもある。
その魔力でもって魔法などを使うわけだが、その魔力を作り出し、留めていられる量は個々によって差があり、魔導士を名乗る者と一般人との差は大きい。
そんな魔力であり、魔素であるものは実は一所に留めにくい性質を持っている。
体内で作られた魔力は一定量以上となると呼吸と共に抜けていくし、魔道具に使用されている魔石や魔核は質によっては時間経過と共に魔力が抜けていく。
その魔道具に使用されている魔石と魔核だが、魔石は魔力を蓄えた宝石で、魔核は魔物の心臓部だ。
魔石は長い年月をかけて魔素を自然と蓄えた宝石がそう呼ばれており、それは魔核よりも貴重だ。宝石としての価値もあるため、主に貴族などの富裕層が防御魔法を付与した装飾品として使われる。そして、魔物の魔核はそれ以外の魔道具の電池がわりに使われている。
そんな魔石や魔核のように、魔力を溜めておけるものを人為的に作り出そうとした試みは数えきれないほどあった。しかし、それが完全に成功した例は無い。
それは少量であったり、一時的に多量の魔力を溜めておけたが、時間が経てばやはり自然と抜けて行ってしまったりして実用化には至らなかった。
さて、そんなふうに人為的に魔力を溜めているのが難しいそれが、こんなにも濃い気配をさせているのだから、洞窟の奥にあると思われる装置を作った者の技術力の高さにうんざりする。アルスが言う『罪の気配』により、絶対にろくでもない物だからだ。
「ああー……、ホントに嫌だわ。ろくでもないモノがあるわよ、これ……」
「どうしたものか……」
アルスとしてはそれの正体を知りたかった。場合によっては撤退せず、突撃した方が良いかもしれないからだ。ネモには申し訳ないが、急を要するようならば、彼女を巻き込んで自爆覚悟でそれを破壊する必要がある。多くの国民の命と、自分たちの命ならば、アルスはどうしたって前者を取らねばならないのだ。
王族であるアルスはそれらを表に出さず、ただ促す。
「ここで悩んでいても仕方がない。それじゃあ、行こうか」
「ええぇ……」
アルスの思惑など知らず、ネモは嫌そうに呻きながら、洞窟へ足を踏み入れた。
辺りを見渡し、レッサードラゴンの数を数えてみれば、なんと二十一体も居た。
「騒ぎに気付いて、途中で増えたからな」
「あー、たまにあるわよね。戦闘中の魔物の乱入」
小物なら逃げだすのだが、上位の魔物は漁夫の利を狙ってか、騒ぎに近付いて来ることがあるのだ。
「さて、これはどうする?」
「んー、ちょっと今は時間が無いし、時間停止のマジックバックに入れちゃいましょう。取り分の分配は――」
「ああ、いや、俺はいらない。君が持って行ってくれ」
レッサードラゴンの素材は高価だ。なので、それはどうかと思ったが、「そのぶん護衛料金をまけてくれ」と言われ、それならいいか、とありがたく貰っておくことにした。
レッサードラゴンをさっさとマジックバックにしまい、再び歩き出す。
「ねえ、嫌な予感がするんだけど……。もしかして、アースドラゴンの巣に向かってない?」
「そうだなぁ……。う~ん……」
ネモの質問に、アルスは曖昧な微笑みを浮かべ――そっと目を逸らした。
「やっぱり! これ、絶対アースドラゴンが待ち構えてるやつ! この事件の犯人、アースドラゴンを使役してるの!? とんでもないじゃないの‼」
ヤダー‼ と悲鳴を上げるネモに、ハハハ、とアルスが空々しい笑い声を上げる。
「無理! 絶対無理‼ これ、たった二人の人間の手に負える案件じゃないわよ! 撤退しましょうよ!」
「いやー、うーん……。しかしなぁ、せめてリリィさんとやらがこの事件に関わってしまったか否かだけでも知りたいしなぁ……」
そう言われ、ネモはぐっと言葉に詰まる。
「せめて、塒を覗くくらいはしたい。何かしらの痕跡が発見できるかもしれないからな」
そう言われ、ネモはあの日たった一晩の楽しい女同士のおしゃべりを思い出す。
たったそれだけの縁だ。……けれど、確かにあった縁だった。
ぐぬぬ、と悩み、渋い顔をして決断する。
「……ちょっと、……本当にちょっとだけ覗いてみて、撤退しましょう」
「ああ! そうしよう!」
輝く笑みを浮かべるアルスに対し、ネモは盛大な溜息をついた。
ネモ達は岩山を上り、程なくしてアースドラゴンが巣を作っているという洞窟の入り口へ辿り着いた。
「なんか、ピリピリするというか、ゾワゾワするというか……」
何とも言えぬ感覚がネモの本能を刺激する。その本能は、間違いなく生存本能だろう。
そんなネモの呟きを聞き、アルスもまた同意するように頷く。
「そうだな。これは、相当にまずいぞ。罪の気配もそうだが、魔素の濃さも異常だ。アースドラゴンが居るというだけの理由じゃないぞ」
アルスの言う通り、洞窟からは濃い魔素の気配を感じた。ネモの経験から言えば、それは召喚魔法を使う時に人為的に周囲から集めた魔力の濃さに似ている。
「これ、たぶん誰かが魔力を集めてるんだわ。魔力を集めるのはまだしも、一か所に留めておくなんて相当難しいわよ。しかも、この洞窟に近づくまで気付かなかった。つまり、外への影響がないという事だわ。そうじゃなきゃ、とっくにこの辺の魔物に影響が出て、魔物の氾濫スタンピードが起きてる筈だもの」
魔素とは、空気中に漂っている魔力のことだ。この世界では酸素や二酸化炭素などの原子と同じくくりに入り、それはこの世界の動植物は自らの体内で作り出しているものでもある。
その魔力でもって魔法などを使うわけだが、その魔力を作り出し、留めていられる量は個々によって差があり、魔導士を名乗る者と一般人との差は大きい。
そんな魔力であり、魔素であるものは実は一所に留めにくい性質を持っている。
体内で作られた魔力は一定量以上となると呼吸と共に抜けていくし、魔道具に使用されている魔石や魔核は質によっては時間経過と共に魔力が抜けていく。
その魔道具に使用されている魔石と魔核だが、魔石は魔力を蓄えた宝石で、魔核は魔物の心臓部だ。
魔石は長い年月をかけて魔素を自然と蓄えた宝石がそう呼ばれており、それは魔核よりも貴重だ。宝石としての価値もあるため、主に貴族などの富裕層が防御魔法を付与した装飾品として使われる。そして、魔物の魔核はそれ以外の魔道具の電池がわりに使われている。
そんな魔石や魔核のように、魔力を溜めておけるものを人為的に作り出そうとした試みは数えきれないほどあった。しかし、それが完全に成功した例は無い。
それは少量であったり、一時的に多量の魔力を溜めておけたが、時間が経てばやはり自然と抜けて行ってしまったりして実用化には至らなかった。
さて、そんなふうに人為的に魔力を溜めているのが難しいそれが、こんなにも濃い気配をさせているのだから、洞窟の奥にあると思われる装置を作った者の技術力の高さにうんざりする。アルスが言う『罪の気配』により、絶対にろくでもない物だからだ。
「ああー……、ホントに嫌だわ。ろくでもないモノがあるわよ、これ……」
「どうしたものか……」
アルスとしてはそれの正体を知りたかった。場合によっては撤退せず、突撃した方が良いかもしれないからだ。ネモには申し訳ないが、急を要するようならば、彼女を巻き込んで自爆覚悟でそれを破壊する必要がある。多くの国民の命と、自分たちの命ならば、アルスはどうしたって前者を取らねばならないのだ。
王族であるアルスはそれらを表に出さず、ただ促す。
「ここで悩んでいても仕方がない。それじゃあ、行こうか」
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アルスの思惑など知らず、ネモは嫌そうに呻きながら、洞窟へ足を踏み入れた。
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