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悪夢編
第三話 洋館3
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その後、食器を回収しに来たアンナにシレッとお礼を言い、見事な面の皮の厚さを発揮した。長く生きたぶん、ネモの面の皮の厚みは恐ろしいものがある。
「ありがとうございました。お陰で体が温まりました」
決して美味しかったとは言わないネモである。しかし、あの味を作るコックを雇うとは、この家は本当に困窮しているのだろう。
「それは良かったです。温かくしてお休みくださいね」
「ええ、ありがとう」
そう言ってアンナはにっこり微笑み、皿を回収して去って行った。
そして、ネモは部屋で食後のお茶を飲みつつ、アイテムの確認を行い、ウエストポーチに詰めていた。
「前回の悪魔とのアレは痛かったわね……」
精霊を生み出す攻撃アイテムは使い勝手が良かったのだが、悪魔と派手に戦りあったせいで底をついてしまった。他の攻撃アイテムの数も少し心もとない。どこかの町で長期間滞在し、集中的に生産する必要があるだろう。
「うーん……。あ、そういえば、この王都でもうすぐお祭りがあったような……?」
大きな町であれば、錬金術師ギルドが工房を貸し出している事がある。それはネモのような世界中を旅して回る野良錬金術師のためのものであり、ネモは冬を越す為に使ったり、アイテムを作る際に借りることが多い。
「アイテムを作りつつ、お祭りに露店を出すのも良いわね」
そんなことをウキウキしながら考えていると、何がそんなに楽しいの? とばかりにあっくんが首を傾げているのに気づき、ネモは微笑む。
「あっくん。実はね、この国の王都で大きなお祭りがあるのよ。そこで露店を出してお金を稼いで、その後で露店巡りをしない? 美味しいものがいっぱいあると思うの」
「きゅいっ!」
あっくんは嬉しそうに瞳を輝かせた。
「よし、それじゃあ、決まりね! 次の目的地は王都!」
「きゅきゅいっ!」
ネモとあっくんは楽しげに笑い合った。
そして、完全に陽が落ち、遠くから時計が夜の八時を告げる音を鳴らすのが聞こえた。ネモ達は疲れていたため、早々にベッドに入って就寝した。
***
ネモが目を覚ましたのは、深夜だった。
何故目を覚ましたかと言うと――
「んー……、トイレ……」
そういうことである。
夜には部屋の外をうろつくなと言われたが、トイレは客室内には無い。そのため、ネモは部屋から出てトイレへ向かう。
「少し冷えるわね……。なにか羽織るものを持ってくればよかった……」
そんなことを呟きながらトイレへ向かう途中、ネモは見た。
「ん? あれは……」
廊下の角で、執事のベンが窓の外を見ていた。
「こんな時間なのに、まだ仕事中なのかしら?」
ベンは、まだ執事服を着ていた。外を見ているということは、もしかすると、嵐が心配なのかもしれない。
ネモは寝ぼけ眼をこすりながら、それから目を離し、トイレへ行く。そこから部屋へ戻る時、ベンが居たところを見てみたが、そこにはもう彼は居なかった。
***
翌朝、ネモは風の音で目を覚ました。嵐はまだ去っていないようだ。
窓ガラスに激しく雨粒が打ち付けられる様子を見て、ネモは溜息をつく。この天気の中を再び歩かなければならないと思うと、げんなりする。
恨めしく思いながら身支度をしていると、不意にドアがノックされた。
「はーい」
そう言ってドアを開ければ、そこには銀髪金目の十二、三歳くらいの美少年が居た。
「朝早くに申し訳ありません。僕はこの屋敷の使用人のサミュエルといいます。誠に申し訳ございませんが、奥様がお呼びですので、一緒に来ていただいてもよろしいでしょうか?」
「あら、なにかしら? まあ、大丈夫だけど、身支度の途中なんで、ちょっと待ってもらっても?」
「はい、大丈夫です」
サミュエルが頷いたのを確認し、ネモは一度ドアを閉めて急いで身支度を終える。そして、あっくんを肩に乗せ、ドアを開けた。
「お待たせしました」
「はい。お手数をおかけして申し訳ありません。ご案内いたします」
そう言って、サミュエルはネモを先導して歩き出す。ネモはそれに大人しくついて行くと、辿り着いた先は食堂だった。
「ありがとうございました。お陰で体が温まりました」
決して美味しかったとは言わないネモである。しかし、あの味を作るコックを雇うとは、この家は本当に困窮しているのだろう。
「それは良かったです。温かくしてお休みくださいね」
「ええ、ありがとう」
そう言ってアンナはにっこり微笑み、皿を回収して去って行った。
そして、ネモは部屋で食後のお茶を飲みつつ、アイテムの確認を行い、ウエストポーチに詰めていた。
「前回の悪魔とのアレは痛かったわね……」
精霊を生み出す攻撃アイテムは使い勝手が良かったのだが、悪魔と派手に戦りあったせいで底をついてしまった。他の攻撃アイテムの数も少し心もとない。どこかの町で長期間滞在し、集中的に生産する必要があるだろう。
「うーん……。あ、そういえば、この王都でもうすぐお祭りがあったような……?」
大きな町であれば、錬金術師ギルドが工房を貸し出している事がある。それはネモのような世界中を旅して回る野良錬金術師のためのものであり、ネモは冬を越す為に使ったり、アイテムを作る際に借りることが多い。
「アイテムを作りつつ、お祭りに露店を出すのも良いわね」
そんなことをウキウキしながら考えていると、何がそんなに楽しいの? とばかりにあっくんが首を傾げているのに気づき、ネモは微笑む。
「あっくん。実はね、この国の王都で大きなお祭りがあるのよ。そこで露店を出してお金を稼いで、その後で露店巡りをしない? 美味しいものがいっぱいあると思うの」
「きゅいっ!」
あっくんは嬉しそうに瞳を輝かせた。
「よし、それじゃあ、決まりね! 次の目的地は王都!」
「きゅきゅいっ!」
ネモとあっくんは楽しげに笑い合った。
そして、完全に陽が落ち、遠くから時計が夜の八時を告げる音を鳴らすのが聞こえた。ネモ達は疲れていたため、早々にベッドに入って就寝した。
***
ネモが目を覚ましたのは、深夜だった。
何故目を覚ましたかと言うと――
「んー……、トイレ……」
そういうことである。
夜には部屋の外をうろつくなと言われたが、トイレは客室内には無い。そのため、ネモは部屋から出てトイレへ向かう。
「少し冷えるわね……。なにか羽織るものを持ってくればよかった……」
そんなことを呟きながらトイレへ向かう途中、ネモは見た。
「ん? あれは……」
廊下の角で、執事のベンが窓の外を見ていた。
「こんな時間なのに、まだ仕事中なのかしら?」
ベンは、まだ執事服を着ていた。外を見ているということは、もしかすると、嵐が心配なのかもしれない。
ネモは寝ぼけ眼をこすりながら、それから目を離し、トイレへ行く。そこから部屋へ戻る時、ベンが居たところを見てみたが、そこにはもう彼は居なかった。
***
翌朝、ネモは風の音で目を覚ました。嵐はまだ去っていないようだ。
窓ガラスに激しく雨粒が打ち付けられる様子を見て、ネモは溜息をつく。この天気の中を再び歩かなければならないと思うと、げんなりする。
恨めしく思いながら身支度をしていると、不意にドアがノックされた。
「はーい」
そう言ってドアを開ければ、そこには銀髪金目の十二、三歳くらいの美少年が居た。
「朝早くに申し訳ありません。僕はこの屋敷の使用人のサミュエルといいます。誠に申し訳ございませんが、奥様がお呼びですので、一緒に来ていただいてもよろしいでしょうか?」
「あら、なにかしら? まあ、大丈夫だけど、身支度の途中なんで、ちょっと待ってもらっても?」
「はい、大丈夫です」
サミュエルが頷いたのを確認し、ネモは一度ドアを閉めて急いで身支度を終える。そして、あっくんを肩に乗せ、ドアを開けた。
「お待たせしました」
「はい。お手数をおかけして申し訳ありません。ご案内いたします」
そう言って、サミュエルはネモを先導して歩き出す。ネモはそれに大人しくついて行くと、辿り着いた先は食堂だった。
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