転生者と忘れられた約束

悠十

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第八話

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 シュゼット達はジェルマンと話したその翌日、町を出て本神殿へと旅立った。
仲間であるジェルマンであれば、彼等も話をきちんと聞くだろうとシュゼットは安心して旅立った。しかし、別の土地で偶然再会したジェルマンから、その後のまさかの顛末を聞き、唖然とする羽目になるとは、夢にも思わなかったのだ。



   ***



 ジェルマンはシュゼットから話を聞き、ジャンに話があると言って呼び止めた。その場所は彼等元勇者パーティーがチームで借りている一軒家であり、ジェルマンはジャンのプライベートな話であったので、自室で話そうと言ったのだが、何故かアイリスがそれについて来ようとした。

「おい、アイリス。大切な話だから、ちょっと今は遠慮してくれ」
「何故? 良いではないですか、二人にとって大切な話なら、私にとってもきっと大切な話ですわ」

 ふわふわとした微笑みを浮かべながら、強請る様な上目遣いのオネガイに、ジャンは「仕方ないな」と言わんばかりに苦笑したが、ジェルマンは鬱陶しそうに目を細めただけだった。
 そんなジェルマンの反応に、アイリスは何故、と言わんばかりに不思議そうな顔をし、ジェルマンに体調が悪いのか、と尋ねてきたが、それに対してジェルマンは溜息を吐きそうになるのを堪えながら、大丈夫だ、と答えた。
 ジェルマンがどうにもイラッ、とする一つが、このアイリスの無意識の甘えだった。ジェルマンも最初のうちは気にならなかったのだが、アイリスは自分のオネダリがジェルマンに却下されたり、通用しなかったりすると、不思議そうな顔をして体調が悪いのか、何かあったのかと心配してくるのだ。恐らくはジェルマンの前世である護衛騎士はお姫様のそれに弱かったのだろうが、ジェルマンにとってジャンの恋人であるアイリスは恋愛対象外であり、何より好みのタイプで無かったため、スッパリ断る事が出来た。しかし、それが可笑しい、と言われ続ければ、段々とストレスが溜まってくる。
 そして、そんな反応をするのはアイリスだけでは無かった。他の仲間達もそうだったのだ。
前世の記憶が鮮明に有り、地続きの未来として前世を引きずって今世を生きる彼等にとっては、ジェルマンが変わってしまったように見えるのだろう。
 しかし、その変わってしまった、というのはその言葉通りなのだ。ジェルマンは、既に前世の護衛騎士の男ではなく、商家の五男坊として生まれたジェルマン・ヴァロという別人なのである。
 ジェルマンはもちろん仲間達にそれを言ったことがある。その時は確かにその通りだ、と頷き、謝罪された。しかし、しばらくすると、言葉には出さないものの、態度や雰囲気でジェルマンに前世の護衛騎士の振る舞いを求められているのを感じ取った。
 それで何度か仲間達と衝突したが、今日までどうにかパーティーを組んでいた。けれど、我慢してこのパーティーに居続ける気にもならなかった。故に、ジェルマンとしては近いうちに抜けようとも考えていた。
 最早、ジェルマンはジェルマンでしかないのた。死んでしまった護衛騎士の男を求められても困るのである。
 既に溜まりに溜まったストレスは、最近では前世の護衛騎士を求めるような些細な行動にもイラつく様になってしまっていた。
 それに、最近の仲間達の行動にもついて行けないものを感じていた。それは、シュゼット達の根も葉もないうわさを流した事である。
 確かに、今まで元勇者であるジャンに群がる女達を見てきた仲間達の感情も分かるのだ。しかし、後半はどうにも様子が変わり、周りの人間もどうにも訳ありに見える、と言って、話を自分が聞いてみようか、と気を使ってくる者まで出て来たのだ。これは今までの女達とは違うのではないか、とジェルマンも思い、仲間達にそれを言ってみたのだが、何故かその意見に返ってきたのは、人を見る目が無い、仲間を危険にさらす気か、裏切るのか、という罵声だった。
 女二人に何が出来る、少し話を聞くだけじゃないか、と言っても彼等はジェルマンの提案を馬鹿馬鹿しいと言って取り合わなかった。
 それから、何故か彼等はジェルマンに相談する事無くあの悪質な噂を流したのだ。
 ジェルマンがその妙な噂の発信源が己の仲間達からだと知ったのは、かなり後になってからだった。驚いたジェルマンは何故そんな事をしたのかと仲間達を問い詰め、その答えを聞き、失望した。

「周りの奴らもあの女の毒牙にかかって、近頃可笑しくなっている。なら、あの女に近づかない様情報操作すべきだ。どうせ碌でもない女達なんだ。嘘にはならないさ」

 彼等の言い分は、ジェルマンには理解し難いものだった。情報操作、って何だ。お前たちはいつお貴族様の様なお偉い人間になったというのか。碌に調べもせず、何が情報操作だ。やり過ぎだ、何という事をしたのだと言えば、あちらが悪いのだと言って話にならず、結局ジェルマンが噂を打ち消すために方々で事情を話し、謝罪して回った。しかし、広まった噂はそう簡単には消えはしない。おかげでジェルマンはここ最近、胃薬を常飲する羽目になっている。
 そうして、これ以上馬鹿な事を仕出かす前に彼女達の人となりを知るために観察し、無事に接触を果たしたのだ。
 そして、忘れ去られた約束の話を聞いたのだ。なんて事だと頭を抱え、早急にジャンに話さねばならないと思った。しかし、ジェルマンはまず先にジャンのみにこの話をしようと思っていた。何故なら、このシュゼットとの約束は、ジャンにとって忘れてしまったとはいえ、大事な記憶だと思えたからだ。
 故に、アイリスには遠慮してほしかった。確かにアイリスは無関係ではないが、彼女は感情の制御が下手だ。全てを話しきる前に、感情のままに嘘だと断じてジャンを引きずって行ってしまう可能性があった。
 ジェルマンとしては、こんな感情の制御が下手なオコチャマ姫が前世は姫君だったとか嘘だろ、と思っていたが、仲間達は仕方ないなぁ、とばかりに甘やかすので彼女は未だにオコチャマのままだ。何度か苦言を呈した事はあったが、上手くいかず、ジェルマンはパーティーを抜ける決意をしてからは、ジャンに一生面倒を見てもらえ、とばかりにオコチャマの矯正を放り投げた。
 そんなオコチャマ姫であるが故に、ジェルマンはジャンとの話し合いの同席は遠慮してくれと言ったのだが、アイリスはごねた。そして、そんなアイリスに甘いジャンも良いじゃないか、と言い、そんな三人の言い合いに何だ何だと他の仲間達も寄ってきて、最終的に皆の前で話せばいい、となってしまった。
 それじゃあ意味がない、ジャンとだけで話したいのだと言っても、仲間だろう、皆で話し合おう、と何故か善意の顔で言われ、ジェルマンは頭痛のする思いを味わった。
 なら今度で良い、と言って席を立とうとすれば、良いから話せと言って捕まり、話すまでは解放されないと悟った。
 そうして、最早どうにもならないと感じ取ったジェルマンは、盛大な溜息を吐いてシュゼットから聞いた話をする覚悟を決めた。
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