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9巻
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しおりを挟む第三十七話 続く非日常
東の地平線が白みを帯び始めている。夜の闇は紺色へと変わり、雲一つない光り輝く青空を予感させる。
夜明けが近い。
また、新しい一日が始まる。
光の気配に海鳥たちが目を覚ましたのだろう。短くひと鳴きすると羽音を響かせ始めた。
その音に、ロアはランプの灯りを頼りに読んでいた本から視線を上げた。
ロアが視線を向けた先にあるのは、大きく開かれた窓。夏の熱気がなくなり、過ごしやすい風が流れ込んでいる。
秋の始まりの空気だ。
いつもなら刈り取られて干された作物や、枯葉の乾いた香りが混じっている頃だが、この場所でそれらは感じられない。
潮の香り。この国は、どこに行っても海の匂いに満ちている。
ロアは海辺の国であるネレウス王国にいた。
ロアと従魔たち、そして冒険者パーティー『望郷』。彼らがこの国を訪れて、すでに一か月が過ぎようとしている。最初の滞在予定は二、三週間だったはずだ。
それなのに、気付けばそれだけの時間が経過していた。
この国にロアたちを護衛として伴って来た、商人のコラルドの滞在が延びたからだ。
いや、正しく言うなら、根本的な原因はロアにある。ロアのやらかしが発端となって、コラルドとロアたちは足止めを食らっているのだ。
一か月ほど前……。
ロアはとある事件に巻き込まれた。
その事件には、ネレウス王国の隣国であるアダド帝国が関係していた。
アダドの艦隊がネレウス王都近海に押し寄せ、そのどさくさに紛れてアダドの別働隊がロアを誘拐した。
さらに複雑怪奇な成り行きによって、ネレウス近海の海底火山が噴火した。
何がどうなれば艦隊襲来と誘拐で海底火山が噴火するのかと思うかもしれないが、当事者たちすら上手く説明ができない。偶然が重なったとしか言いようがない。
とにかく、ネレウス王国で海底火山が噴火し、国を揺るがす騒ぎとなった。
だが、ネレウス王国では今も以前と変わりのない日常が続いている。何事もなかったかのように、全ては終息していた。
その立役者が、ロアと従魔たちだ。
ロアと従魔たちが海底火山の噴火を抑え、全てを正常に戻したことで、コラルドが褒賞を受け取ることになったのだ。
なぜコラルドが? ……と思うかもしれないが、前述の通りに、ロアがコラルドに雇われている護衛だったからだ。雇われた者の手柄は、その主人の手柄であり、ロアがやったことは雇い主のコラルドの功績ということになるのだ。
もっともこれは、必要以上に目立ちたくないというロアたちと、ロアを目立たせたくないコラルドやネレウスの女王の意向を擦り合わせた結果でもある。裏で駆け引きもあり、表立っての褒賞はコラルドが受け取ることとなった。
国を海底火山の噴火という壊滅の危機から守ったのだから、当然のようにその褒賞は莫大なものになった。
その中には、ネレウス王国の都合でロアが誘拐されたことへの口止め料も含まれているのだろう。通常ではあり得ないものとなった。
交易船を一艘、自由に使える権利。
海路での交易は国家事業だ。交易船のような大型の船の開発も国家事業である。一般人には船の中を見ることすら叶わない。
それなのに一艘丸ごと自由に使える権利を与えられたのだから、商人であるコラルドにとって夢のような褒賞だった。
ネレウス王国でのコラルドの仕事は一気に増え、滞在期間が大幅に延長されることになったのである。
その間、ロアたちは望郷の一員であるコルネリアの姉が、養子に入った侯爵家に世話になっていた。
今ロアがいる部屋も、侯爵家の邸の中で宛がわれた部屋だ。座っている椅子も、本を置いている机も、ロアには勿体ないくらい豪華な装飾が施されている。
「もう少し、時間があるかな?」
ロアは窓に視線を向けたまま呟いた。
この国に来てからロアは、日の出と共に望郷のメンバーと剣の鍛錬をすることにしていた。地平線が白んできているものの、日の出まではまだ少しの時間がありそうだ。
ロアは読んでいた本に視線を戻した。
ロアの睡眠時間は短い。
いつも夜遅くまで起きていて、朝も夜明け前に起きている。
昔に睡眠時間を削って働く生活をしていたため、そのことが習い性になってしまっていた。それでも身体を壊したり思考が鈍ったりすることもないので、元々短い睡眠時間で大丈夫な体質だったのだろう。今でもその生活が続いている。
ロアは目を覚ましてから夜明けまでの時間を、本を読んで過ごすことが多い。従魔たちにも邪魔されない、ゆっくりできる時間だ。
ロアが読んでいる本は『魔獣考察』。
いかにも研究者が書いたと思わせる、素っ気ない書名の本だ。
ロアが視線を戻した頁には、このようなことが書かれていた……。
『……魔獣を深く知る前の予備知識として、ここでは民間にも広く知られている魔獣について書こうと思う。
まず、有名な魔獣と言えば、千年前に勇者と賢者の二人と協力して、魔王を倒した二体の神獣が挙がるだろう。
神獣は人類の危機に際して、魔獣でありながら神によって人類へと遣わされた存在だ。魔獣の代表とするには異論があるかもしれないが、ここでは有名であることに重点を置かせていただく。
真紅の炎を纏うフェニックス。
その巨大な翼を羽ばたかせると、目前の魔獣たちは全て炭と化したという。種族的な魔法適性は間違いなく炎の魔法だ。炎を纏うに相応しい尊大で苛烈な性格をしていたと伝えられ、勇者を背に乗せて最前線で戦ったと言われている。
もう一体は、海のごとく深い青の鱗を持つドラゴン。
その巨大な尾をわずかに振るうだけで津波が起き、地上の魔獣すら洗い流されたという。
また、戦いによって荒れた土地に魔法で森を作ったとも言われている。
その逸話から、種族的な魔法適性は水の魔法か、植物の魔法と推測できる。水の魔法でも植物を成長させることは可能なため、水の魔法の方である可能性が高い。理知的で戦いを好まず、賢者と共に後方支援で活躍したそうだ。
ドラゴンの王とも言われ、神獣が出現した後はドラゴン種族全体で人間に危害を加えることがなくなったと言われている。
実際、千年前から報復以外にドラゴンが人間に危害を加えたという記録は発見されていない。
神獣に支配されたドラゴンたちのように、現在は善性もしくは中立を示している魔獣も多い。
だが、魔獣の本質は悪だ。
次に挙げる魔獣は人間に対して悪意を持つことで有名な魔獣にしようと思う。
世の中には、三大害悪と言われる種族がある。
ひとつは、グリフォン。
言わずと知れた好戦的な魔獣の代表である。高位の魔獣は知能が高く理由もなしに攻撃してくることはないが、グリフォンだけは例外だ。
グリフォンは何の予兆もなく村や町、港などを潰しに来る最低最悪の魔獣であり、悪意の塊である。
襲撃された場所を後日調査しても、グリフォンに襲われた明確な理由が見つからないことが多い。目が合ったという理由で殴りかかってくる、理不尽なチンピラのような存在だ。見かけたら、全力で逃げるしかない。
知能は高いが交渉は不可能。むしろ嗜虐心を刺激して、より悲惨な死を迎えることになるだろう』
「へぇ、他のグリフォンってそんなに気性が荒いのかぁ」
ロアはそこまで読んで、思わず声を上げた。
ロアが知っているグリフォンは、従魔のグリおじさんと城塞迷宮に棲むグリフォンたちだけだ。種族全体の性格などは知らない。
「グリおじさんたちとは違うなぁ。グリおじさんはお話すれば分かってくれるし」
グリおじさんはたまに自分勝手なことをするけれど、言い聞かせればちゃんと分かってくれる。城塞迷宮のグリフォンたちも、最初は攻撃的だったが最後はビックリするぐらい腰が低かった。
ロアにとってグリフォンはたまに問題を起こすが従順で、話せば分かってくれる種族なのである。
ロアは珍しく腹立たしさを感じた。この本の著者はグリフォンに偏見を持っている気がする。
たぶん、グリおじさんが勇者パーティーの従魔として有名になる前に書かれた本なのだろう。グリおじさんが活躍したことを知ったなら……多くの人を助けたと知っていたら、こういった意見は出てこない。むしろロアの本拠地であるペルデュ王国では、好意的に見られているはずだ。……そう、ロアは考えた。
ただ、こういった意見を持つ人間はロアだけだろう。
もしこの本を読んでいるのが望郷のメンバーだったら……それどころか、グリおじさんの性格を知るロア以外の者たちだったら……皆、同じことを考えたかもしれない。
「書いてあることは、あの性悪グリフォンの性格そのまんまじゃないか!」と。
ロアはさらに本を読み進める。
『……次に、妖精。
人里近くに縄張りを作ることが多いため、一般人が被害を受けることが多い。
イタズラ好きで、農作物をダメにされるなど被害自体は軽微だが、その代わりに被害件数が多いため三大害悪に数えられている。質の悪い害虫のような種族である。
元々は人間の役に立つように錬金術師によって作り出された魔獣と言われている。そう言われる理由は、気に入られれば仕事を手伝ってくれるという伝説によるものだ。
ただしそれは、見た目が人間に近いため親近感を覚えて、善性を期待した結果だろう。そういった例を調べてみれば、どれも未熟な算術や記録違いから発生した勘違いだった。
所詮は魔獣である。友人になれるなどとは思わないように……』
「……そういえば……」
ロアはふと思い立ち、本を閉じた。閉じた本は立派な作りをしていた。
表紙と背表紙はやけに手触りの良い魔獣の革で装丁されている。ロアが見たこともない革だ。
その表面は型押しで立体感のある加工がされていて、表題などの文字部分には金箔が貼ってあった。要所要所に銀の飾り金具まで施されている。
ロアはじっと本を見つめる。
……やっぱり、手に入れた記憶がない本だ。
この本は、いつの間にかロアの荷物に交ざっていた。自分が興味を引かれて買いそうな内容ではあるのだが、買った記憶がまったくない。
何より、ロアは見た目よりも本の内容に魅力を感じる質だ。こういったしっかりとした本である必要はなく、よほどの事情がない限りは、写本で手に入れている。本自体の流通量が少ないし、写本の方が遥かに安いからだ。
だから、こんな本を買ったなら必ず記憶に残っているはずだった。
なのに、覚えがない。
「こういうの、妖精のイタズラって言うんだよね……?」
妖精が多くいる地域では、手に入れた記憶のない物が手元にあるとか、逆に絶対に手に入れたはずの物が見つからない場合など、「妖精にイタズラされた」と言うらしい。
ロアは妖精の項目を読んでいた時に、そのことを思い出したのだった。
「この国には、妖精がいるのかな?」
ロアは妖精を見たことがない。出現したという話くらいは聞いたことがあるが、実際に出会ったことはない。
それでも、妖精が物作りなどの仕事を手伝ってくれるという伝説は知っていた。日々色々な物を作っているロアとしては、ものすごく気になる魔獣だ。
グリフォンについて書かれている内容を考えると、とてもこの本の記述が正しいとは思えない。
ひょっとしたら、本当に手伝ってくれるのではないか。それなら、ぜひ妖精に会ってみたい。手伝ってもらえれば、きっと、今よりももっと色々な物が作れるだろう。
物作りに割いていた時間で鍛錬ができて、自分の理想の冒険者に今より早く近づけるかもしれない……。
……ロアがそんなことを考えていると、いつの間にか手元まで朝日が差し込んでいた。
「そろそろ行くかな」
視線を窓に向けると、朝日が眩しい。良い天気だ。
空気も清々しく、気持ち良く朝の鍛錬ができるだろう。ロアは本を閉じたままにして、立ち上がった。
ロアが部屋を出た後、残された本は机の上で朝日に照らされキラキラと輝いていた。
まるで本自体が輝きを放っているかのように。
空が高い。
どこまでも青く透き通り、眺めるだけで心すら晴れていくようだ。だが、虚ろな目で空を見上げる男の心は、暗く淀んでいた。
ここはネレウス王国の北東部。
ペルデュ王国との国境を監視するために作られた、砦の街だ。
あまり良好とは言えない関係のアダド帝国とも近い位置にあり、本来なら国家防衛の最前線となるはずの場所だった。
だが、街の雰囲気は穏やかだ。人が溢れ、砦の街というよりは街道の宿場街のような雰囲気がある。
今は戦争のない時代。国家間の均衡が保たれており、小競り合いはあるものの戦争にまでは発展しない。
しかし、この街がこれほどまでに平和なのは、それだけではなく先代領主と現領主のおかげでもあった。
この街の名は、ヴィルドシュヴァイン侯爵領。そして、領主の名はメルクリオ・ゲルト侯爵。
他国では貴族はその姓に領の名前を使っていることが多いが、ネレウス王国は姓に親の名を頂く。つまり、現領主の親であり先代領主であった男の名は、ゲルトということになる。
ゲルト。それは、ネレウス王国だけでなく他国にも知れ渡っている剣聖の名前であった。
ここを襲ったり大きな事件を起こしたりすれば、まだ健在な剣聖ゲルトが復讐に来る。そんな風に思われ、他国であってもこの街には安易に手出しができなくなっているのだった。
また、この街に勤めている騎士や兵士たちも、強者揃いだ。
剣聖を慕って集まって来た者たちがほとんどで、彼の目に留まるように日々研鑽を積んでいる。
そういった者たちが守っている地だからこそ、国境沿いでありながらネレウス王国随一の安全な街と言われていた。
このように先代領主である剣聖の影響が大きい街だが、もちろん、現領主のメルクリオも無能というわけではない。
メルクリオは知略の人だ。
腹黒侯爵、陰謀侯爵、冷血侯爵などと呼ばれ、彼もまた恐れられている人物だった。
剣聖の子供は正しく認知されているだけでも数十人……表に出て来ない者も含めれば百人単位でいるのではないかと噂されている。その中で知略だけで後継者の座を奪い取ったのだから、彼の有能さは察することができるだろう。
とにかく、そんな先代領主と現領主のおかげで、この街の平和は守られていた。
そんな平和な街の裏路地で、この街の不幸を一身に背負ったように男は膝を抱えて座っていた。
着ている服はボロボロ。いたるところが破れ、泥と垢に汚れている。それは彼がいかに過酷な環境にいたかを示していた。
「……クソ……」
男は小さく呟く。
淀んだ目を伏せると、排水が作った水溜まりに自身の姿が映っていた。
髪もブラシが通らないほどに汚れ、顔は泥だらけ。以前はキレイに整えていた髭は伸びまくって顔の大半を覆っている。
「クソっ……」
男は惨めな姿を映されるのが耐え切れず、水溜まりに小石を投げ付けた。
男の名は、ダウワース。
アダド帝国の第三皇子……だった男だ。公式には、彼は死んだことになっていた。
それを知ったのは、つい先ほど。彼はその話を聞いた瞬間に膝から崩れ落ち、この場から動けなくなっていた。
一か月ほど前、彼はネレウス王国に戦いを吹っ掛けた。最初は上手くいくと思っていた。だが、まったく上手くいかなかった。
ネレウス王国どころか、王国民ですらない人間に負けた。それも、子供にしか見えない者にだ。
負けて、死にかけた。
何とか生き延びることができたが、気付けば一人だった。
彼はどうにかしてアダド帝国に連絡を取ろうとした。最初はネレウスとアダドとの国境を目指そうとしたが、すぐに考え直してやめた。
自らが起こした戦いを切っ掛けに、両国の国境はどこも警戒されているだろう。そこに皇子が現れればすぐに捕らえられてしまう。ネレウスとアダドの国境は目指すべきではない。
ネレウス王国に入り込んでいる密偵に連絡を取るしかないと、彼は考えた。
しかし、彼が把握している密偵の潜入場所は限られている。その中から、第三皇子派閥の密偵が確実にいる場所を選び出し、さらに距離的に近い場所を考え……。
最終的に彼はこの街、ヴィルドシュヴァイン侯爵領を目指したのだった。
ヴィルドシュヴァイン侯爵領はペルデュ王国との国境の街だが、アダドにも近い。上手くすればそのままアダドに戻る手引きもしてもらえるかもしれない。……そう考えて選択した。
そして、ここに辿り着くまで一か月かかった。
最初は身に着けていた装飾品を売って金を作ったが、すぐに尽きた。贅沢をしていたわけではない。安い金額でしか売れなかったからだ。
皇子である彼の装飾品は一流。だが、買い取った商人に訳ありだと見抜かれて足元を見られた。
彼自身は警戒していたつもりだったが、服がいかにもアダドの軍人風で、訳ありの人間なのは商人でなくとも一目瞭然だった。
間の抜けた話である。
そのことに気付いたのは商人に指摘され、衣服の買い取りの提案と同時に変装のためのネレウス風の服を差し出された後だった。何もかも、遅過ぎた。
そして金が尽きた後は、宿にも泊まれず、野宿生活となった。
食べ物も自分で集めた。軍で食料に適した動物や魔獣、草木について教育されたことに感謝する日が来るとは思ってもみなかった。街の裏路地で残飯を漁ったこともある。
馬車にも乗れず、移動は徒歩だ。慈悲の心を持った旅人が馬車に乗せてくれたことがあったが、本当に極稀な出来事だった。
そうして、必死の思いでこの街に辿り着いた時には、今のようなボロボロの姿になっていた。
密偵に連絡が取れ、アダドに帰れば元の生活に戻れる。その希望だけを胸に抱き、ここまで来たのだった。
……その希望も、一瞬にして打ち砕かれる。
何とか出会うことに成功した密偵の言葉……。
『あんたはもう、死人なんだよ』
そう言われて、彼は意味が分からなかった。
自分は生きている。なのに、どうして死人なのか? すでに国から自分の死亡が発表され、葬式までしっかりと終わっているなどと誰が思いつくだろうか?
「…………」
石を投げ付けた水溜まりの波紋が収まり、再び彼の姿を映す。
第三皇子であることから分かる通り、彼には二人の兄がいた。全員母親が異なる腹違いの兄弟で、年齢もほとんど同じだった。皇族の血はかなり濃いらしく、母親が違うというのに三人共に顔も背格好も、他人には見分けが付かないほどにそっくりだった。
仲の良い兄弟であったら同じ見た目でも何も思わなかったのかもしれないが、彼らは兄弟同士で反目し合っていた。憎み合っていたと言ってもいい。
母親たちの実家を後ろ盾にして、次の皇帝の座を争っていた。
そのため、誰でも見分けられるように、自然と互いの見た目に差を付けるようになった。
服は軍服を着ていることが多く、皇子は戴帽の機会も多いため髪型で差をつけることも難しい。
結果的に、顔の表面。つまりは髭で差を付けるようになった。
第一皇子がキレイに髭を剃り落としていたので、残りの兄弟は髭を伸ばすようになった。第三皇子である彼は口髭だけにした。
そして。
「……クソっ……」
彼はまた水に映った自分の姿に向かって石を投げる。顔全体の髭を伸ばしているのは、第二皇子。苦難の連続で髭を剃ることもできなかった今の彼の見た目は、その第二皇子にそっくりだ。
『あんたは、第二皇子にハメられたんだ。ご愁傷様。情けで国には報告はしない。消えな』
密偵の言った言葉が、脳裏によみがえる。
そう言われて初めて、今回の自分の行動が第二皇子派閥の手の者たちに操られていたことに気が付いた。またもや、遅過ぎる気付きだった。
自分は第二皇子に騙されてネレウス王国に戦いを仕掛け、そして、全てを失ったのだ。
奥歯を噛み締め、彼は自らの無能さを悔やんだ。涙が溢れ、頬を伝った。喉から嗚咽が漏れる。情けなさに、声を殺して泣いた……。
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