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第一章
「触手プレイとは、さすがは邪妖精だな」
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スプリガンに抱きつき爆裂魔法の魔法石を発動させたアルベルトは、穏やかな気分で最期を迎えようとしていた。
手の中の魔法石が輝き、視界一面を光で埋め尽くされた後、爆裂魔法の炎が来るのを待つ。
しかし、その時はいつまで経っても訪れない。
<なぜだ?>
光が弱まる。
アルベルトが視界を取り戻して最初に目にしたのは、スプリガンの邪悪な笑みだった。
「まさか!」
アルベルトの表情が驚愕に歪む。
それはありえないはずだ。
「発動後の魔法石を制御したのか!?」
アルベルトはありえないはずの状況を理解した。
自爆は失敗したのだ。
アルベルトのように魔法の才能の無い者では魔法石握りしめ、自らの魔力を火種にして魔法を発動させるのがやっとだ。
だが、魔道士であれば遠距離でも制御できる。発動も、その規模や方向も思い通りだ。
だがそれでも、魔法が発動した後で魔法石を制御し、抑えることなど不可能なはずだった。
<マズイ!>
アルベルトがそう思った瞬間に、顔面にスプリガンの拳が飛んできた。
顔面に強い衝撃を感じ、スプリガンを抱きしめていた腕が緩るむ。
それでもアルベルトは振り解かれないように、必死に腕に力を込め直した。
<やられた!>
スプリガンは妖精。
戦闘狂の側面があるため肉弾戦を行うが、本来は魔法に長けた種族だ。
息をするように、魔法を使う。
その稀有な才能によって発動後の魔法石の制御を行い、爆炎魔法を抑えてしまったのだ。
妖精を人間の魔道士と同じように考えていた、アルベルトの失態だった。
不発に終わった爆炎魔法はスプリガンによって封じられ、その手の中に魔法石があるというのに、アルベルトでは再び発動させることはできない。
「クソ!」
アルベルトの罵倒の叫びが響くと、スプリガンは楽しそうに笑った。
その不気味な表情にアルベルトは恐怖を感じ、考えをまとめられない。
どうするべきか?打開策はあるのか?
必死に考えるが、良いアイデアは全く思いつかず、できることと言えばスプリガンから引き剥がされないように必死で首に回した腕に力を籠めるだけだ。
何ができるわけではないが、その腕が緩み、スプリガンに距離をとられてしまったらすべてが終わってしまう。
スプリガンの殴打は続く。顔面に打ち付けられる拳に耐え切れず、アルベルトはついに腕を緩めてしまい、吹っ飛ばされてしまった。
「アル兄ィ!!」
その様子を見ていた、少年少女から悲鳴が上がる。
その悲鳴は、むなしく響き渡るだけだった。
吹っ飛ばされたアルベルトは地面に打ち付けられ、跳ね上がり、転がる。
そこに追撃が入る。
スプリガンはアルベルト目掛けて魔法を放った。
初級魔法の風槌だったが、アルベルトは抵抗することはできない。
アルベルトの身体は、人形のように力なく宙を舞った。
「いやー!やめて!!」
惨状に、少女の叫びが響いた。
それが興味を引いたのか、スプリガンの目が初心者パーティーに向けられた。
赤く邪悪な瞳。
それは狂気の濁りを含んでいた。
四人の少年少女は背に冷たいものを感じ、その身を大きく震わせた。
それは単純な恐怖ではない。
自分たちもアルベルトのように、蹂躙され、最後は殺されるのだ。
それを悟り、恐怖し、絶望した。
スプリガンは地面に転がるアルベルトに近づくと、ニタリと笑う。
そして、ボールのようにアルベルトを蹴り飛ばす。
「てめぇ!!」
怒りの声を上げたのは初心者パーティーで一番血の気の多い剣士のモーリスだった。
怒りが恐怖に勝り、剣を構えてスプリガンに向かう。
感情だけで、身体を動かす。
「ダメ!」
ヴァネッサが慌てて止めようとするが、恐怖に竦んだ身体はうまく動かず手はむなしく空を切った。
「ネリー!強化!!」
「は……はい!」
モーリスの叫びに、ネリーは答える。それは訓練によって身体に染み込ませた反応だ。
混乱している頭の中で、条件反射が恐怖に勝っただけだった。彼女自身も今何をしているか理解できていないだろう。
ネリーは涙を流し続けながらも呪文を唱えモーリスに強化魔法を使う。
ただの条件反射で行使した魔法は正しく制御できておらず、ほとんど効果のないものだった。
不完全な状態でスプリガンに立ち向かったモーリスは、あっさりとスプリガンのハンマーに叩き飛ばされた。
「モーリス!」
ダンジョンの壁に打ち付けられようとしたモーリスをシモンが受け止めるが、その勢いは止まらず二人とも壁に打ち付けられた。
「なんで……どうして……」
ヴァネッサの小さな呟きに反応したのか、スプリガンの魔法がヴァネッサとネリーを襲った。
石弾の魔法が二人の身体を傷つける。
ただ、それは死ぬほどの傷ではない。見事に致命傷を避けていた。
スプリガンは、全員を殺さないように弄んでいるのだ。
スプリガンが舐めるように見つめる。痛みに身をかがめているモーリスとシモン、ヴァネッサとネリーを見て、嗜虐的感情に目を細める。
次の瞬間、彼らの足元に魔法陣が現れ、そこから黒い闇が噴出した。
闇の戒め。
闇属性の拘束魔法だ。
闇は触手となって初心者パーティー全員の身体に絡み付き、そして、身動きができなくなっているアルベルトも襲う。
「ぐっ……」
苦痛の呻きだけが響き渡った。
ぎゅふ、ぎゅふ、ぎゅふ。
異形の笑い声がスプリガンの歪んだ口から洩れた。
その不快な声に、初心者パーティーたちは耳を抑えたくなったが、四肢を拘束され僅かに顔をそむけることしかできなかった。
「……そいつらに……手を……出すな……」
アルベルトだけが、目をまっすぐにスプリガンに向けている。殴られたことで顔面が腫れ半ば塞ぎかけているが、その目はまだ死んではいない。
鼻の骨は折れ、血反吐を吐いて血に塗れになっているというのに、彼の心は折れていない。
すでに結果は出ている。
それでも最後の最後まで彼は諦めない。
スプリガンは喜びの感情を示した。
この状況になっても諦めないアルベルトを痛めつけることに、嗜虐的な喜びを覚えたのだ。
「やめろ!!」
アルベルトの必死の叫びは無視される。
スプリガンはアルベルトの目の前で、先に初心者パーティのメンバーたちを手にかけることにした。
それが、アルベルトの心を折る最善の手段だと、判断したのだ。
ぎゅふ、ぎゅふ、ぎゅふ。
笑い声とともに、スプリガンは鋭い爪を四人の少年少女に向けた。
「触手プレイとは、さすがは邪妖精だな」
やけに可愛らしい声がダンジョンに響いたのはその時だった。
手の中の魔法石が輝き、視界一面を光で埋め尽くされた後、爆裂魔法の炎が来るのを待つ。
しかし、その時はいつまで経っても訪れない。
<なぜだ?>
光が弱まる。
アルベルトが視界を取り戻して最初に目にしたのは、スプリガンの邪悪な笑みだった。
「まさか!」
アルベルトの表情が驚愕に歪む。
それはありえないはずだ。
「発動後の魔法石を制御したのか!?」
アルベルトはありえないはずの状況を理解した。
自爆は失敗したのだ。
アルベルトのように魔法の才能の無い者では魔法石握りしめ、自らの魔力を火種にして魔法を発動させるのがやっとだ。
だが、魔道士であれば遠距離でも制御できる。発動も、その規模や方向も思い通りだ。
だがそれでも、魔法が発動した後で魔法石を制御し、抑えることなど不可能なはずだった。
<マズイ!>
アルベルトがそう思った瞬間に、顔面にスプリガンの拳が飛んできた。
顔面に強い衝撃を感じ、スプリガンを抱きしめていた腕が緩るむ。
それでもアルベルトは振り解かれないように、必死に腕に力を込め直した。
<やられた!>
スプリガンは妖精。
戦闘狂の側面があるため肉弾戦を行うが、本来は魔法に長けた種族だ。
息をするように、魔法を使う。
その稀有な才能によって発動後の魔法石の制御を行い、爆炎魔法を抑えてしまったのだ。
妖精を人間の魔道士と同じように考えていた、アルベルトの失態だった。
不発に終わった爆炎魔法はスプリガンによって封じられ、その手の中に魔法石があるというのに、アルベルトでは再び発動させることはできない。
「クソ!」
アルベルトの罵倒の叫びが響くと、スプリガンは楽しそうに笑った。
その不気味な表情にアルベルトは恐怖を感じ、考えをまとめられない。
どうするべきか?打開策はあるのか?
必死に考えるが、良いアイデアは全く思いつかず、できることと言えばスプリガンから引き剥がされないように必死で首に回した腕に力を籠めるだけだ。
何ができるわけではないが、その腕が緩み、スプリガンに距離をとられてしまったらすべてが終わってしまう。
スプリガンの殴打は続く。顔面に打ち付けられる拳に耐え切れず、アルベルトはついに腕を緩めてしまい、吹っ飛ばされてしまった。
「アル兄ィ!!」
その様子を見ていた、少年少女から悲鳴が上がる。
その悲鳴は、むなしく響き渡るだけだった。
吹っ飛ばされたアルベルトは地面に打ち付けられ、跳ね上がり、転がる。
そこに追撃が入る。
スプリガンはアルベルト目掛けて魔法を放った。
初級魔法の風槌だったが、アルベルトは抵抗することはできない。
アルベルトの身体は、人形のように力なく宙を舞った。
「いやー!やめて!!」
惨状に、少女の叫びが響いた。
それが興味を引いたのか、スプリガンの目が初心者パーティーに向けられた。
赤く邪悪な瞳。
それは狂気の濁りを含んでいた。
四人の少年少女は背に冷たいものを感じ、その身を大きく震わせた。
それは単純な恐怖ではない。
自分たちもアルベルトのように、蹂躙され、最後は殺されるのだ。
それを悟り、恐怖し、絶望した。
スプリガンは地面に転がるアルベルトに近づくと、ニタリと笑う。
そして、ボールのようにアルベルトを蹴り飛ばす。
「てめぇ!!」
怒りの声を上げたのは初心者パーティーで一番血の気の多い剣士のモーリスだった。
怒りが恐怖に勝り、剣を構えてスプリガンに向かう。
感情だけで、身体を動かす。
「ダメ!」
ヴァネッサが慌てて止めようとするが、恐怖に竦んだ身体はうまく動かず手はむなしく空を切った。
「ネリー!強化!!」
「は……はい!」
モーリスの叫びに、ネリーは答える。それは訓練によって身体に染み込ませた反応だ。
混乱している頭の中で、条件反射が恐怖に勝っただけだった。彼女自身も今何をしているか理解できていないだろう。
ネリーは涙を流し続けながらも呪文を唱えモーリスに強化魔法を使う。
ただの条件反射で行使した魔法は正しく制御できておらず、ほとんど効果のないものだった。
不完全な状態でスプリガンに立ち向かったモーリスは、あっさりとスプリガンのハンマーに叩き飛ばされた。
「モーリス!」
ダンジョンの壁に打ち付けられようとしたモーリスをシモンが受け止めるが、その勢いは止まらず二人とも壁に打ち付けられた。
「なんで……どうして……」
ヴァネッサの小さな呟きに反応したのか、スプリガンの魔法がヴァネッサとネリーを襲った。
石弾の魔法が二人の身体を傷つける。
ただ、それは死ぬほどの傷ではない。見事に致命傷を避けていた。
スプリガンは、全員を殺さないように弄んでいるのだ。
スプリガンが舐めるように見つめる。痛みに身をかがめているモーリスとシモン、ヴァネッサとネリーを見て、嗜虐的感情に目を細める。
次の瞬間、彼らの足元に魔法陣が現れ、そこから黒い闇が噴出した。
闇の戒め。
闇属性の拘束魔法だ。
闇は触手となって初心者パーティー全員の身体に絡み付き、そして、身動きができなくなっているアルベルトも襲う。
「ぐっ……」
苦痛の呻きだけが響き渡った。
ぎゅふ、ぎゅふ、ぎゅふ。
異形の笑い声がスプリガンの歪んだ口から洩れた。
その不快な声に、初心者パーティーたちは耳を抑えたくなったが、四肢を拘束され僅かに顔をそむけることしかできなかった。
「……そいつらに……手を……出すな……」
アルベルトだけが、目をまっすぐにスプリガンに向けている。殴られたことで顔面が腫れ半ば塞ぎかけているが、その目はまだ死んではいない。
鼻の骨は折れ、血反吐を吐いて血に塗れになっているというのに、彼の心は折れていない。
すでに結果は出ている。
それでも最後の最後まで彼は諦めない。
スプリガンは喜びの感情を示した。
この状況になっても諦めないアルベルトを痛めつけることに、嗜虐的な喜びを覚えたのだ。
「やめろ!!」
アルベルトの必死の叫びは無視される。
スプリガンはアルベルトの目の前で、先に初心者パーティのメンバーたちを手にかけることにした。
それが、アルベルトの心を折る最善の手段だと、判断したのだ。
ぎゅふ、ぎゅふ、ぎゅふ。
笑い声とともに、スプリガンは鋭い爪を四人の少年少女に向けた。
「触手プレイとは、さすがは邪妖精だな」
やけに可愛らしい声がダンジョンに響いたのはその時だった。
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