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第二章

<もし、自分たちが初心者用ダンジョンを攻略していれば……>

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 初心者用であるゴブリンダンジョンの上層に彷徨える落とし穴が現れたことは、その日の内に冒険者たちに向けて告知された。

 王都の冒険者ギルドに報告が上がる前にダンジョンの守衛所によって対策をすすめられていたため、大きな混乱は起こっていない。
 調査団を送り込む計画も進んでおり、特にこれといった問題も発生していなかった。
 現在は調査団の編成とともに、王都にいるダンジョン研究家たちによる意見交換が行われていた。

 ダンジョン研究家たちの見解としては、この現象はダンジョンコアの意志によるものだろうということだ。
 長期間下層まで入ってくる人間がいなかったために、下層に人間を送り込むためにダンジョンコアが上層に出現させたのではないかと考えられていた。
 
 他のダンジョンでも難易度が高く、下層に人が入ってこない所ほど、上層に彷徨える落とし穴が現れる傾向にあり、それと同じような現象が起こったのだろうということだった。
 それは研究科たちが集めた資料からもしっかりとした傾向が出ており、疑う必要すらないだろう。
 それが事実であれば、今回アルベルトたちが攻略したことによって、元の状態に戻るのではないかと考えられていた。

 また、冒険者ギルドが過去の攻略記録を調べたところ、ゴブリンダンジョンはおおよそ八十年の間、攻略されていないことが判明した。

 これには冒険者たちだけではなく、調査を担当した冒険者ギルドの職員すら驚きを隠せなかった。
 中級冒険者であれば攻略可能なダンジョンのため、てっきり、数年毎に攻略されているものだと思い込んでいたのだ。
 八十年間攻略されていなかったダンジョンなど、未攻略のダンジョンを除けば最高難易度のダンジョンくらいしかない。完全な盲点だ。

 いかに彼らが思い込みで行動していたかという証拠だろう。

 今後は冒険者ギルドが定期的に依頼を出すことで、攻略させて安全を確保する方向で話が進んでいる。
 それと同時に、冒険者ギルドが管理しているダンジョン全てで同様のことが起こっていないかの調査も進めることになった。
 王都周辺の三つのダンジョンについては数日で調査が終わっており、その中のアニマルダンジョンと呼ばれている、猛獣系の魔獣が多く出現するダンジョンでは逆に上層に入る人間が少なくなっていることが判明していた。

 また、彷徨える落とし穴の話題だけでなく、同時に冒険者の中で広まった噂がある。

 お人好しで知られる剣士のアルベルトが、ゴブリンダンジョンを攻略した際に強力な魔剣を手に入れたという話だ。
 それは目利きの職員が一目見ただけで感嘆の声を上げるほどの逸品で、国宝にも匹敵するのではないかと言われていた。

 八十年間攻略されていなかったダンジョンから得たものというのが、その信ぴょう性を裏付けることになっていた。
 ダンジョンコアが長く願いをかなえなかったダンジョンほど、強い願いを叶えてくれる傾向にある。
 最高難易度のダンジョンに匹敵するほどの期間、魔力を蓄え続けたダンジョンコアなら、それ相応の願いを叶えてもおかしくないと考えるのは当然のことだろう。

 こうして、アルベルトは王都で話題の冒険者となったのだった。

 現在、冒険者たちが集まる場所では、彼の話題が尽きない。
 幸運がすぐ近くの、身近な場所にあったのだ。
 それを手に入れられなかったことで、冒険者たちは様々な反応を見せ、口々に意見を交わしている。

 <あいつは初心者の面倒をよく見ていたから神が与えたご褒美だろう>
 <実力があったからこそ手に入れられた幸運だ>

 こういった好意的な意見もあれば。

 <もし、自分たちが初心者用ダンジョンを攻略していれば……>
 <運がよかっただけだろ。オレたちは実力主義なんだ>

 などと、嫉妬にかられた意見を言う者たちもいた。
 いつの世も、どんな場所でもそういった後ろ暗い感情で行動する人間は尽きないのだった……。



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