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第三章
「この魔法陣はどうなっているのだ?」
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それから約一週間の時が過ぎた。
王城の謁見の間。
普段は煌びやかな調度品に囲まれ、鮮やかな衣装を着た貴族たちがいるなずの場所なのだが、今は地味な色のローブを纏った魔法使いたちがウロウロと歩き回っていた。
大理石の床の上には武骨な魔道具が置かれ、検査用の魔法の小さな魔法陣がいくつも輝いている。
「……なぜだ……」
呟いた男が見つめる先には、数メートルの大きな魔法陣が床の上で紅色に光っていた。
その中心には一本の魔剣が突き刺さっている。
彼の名はウーゴ・メラス伯爵。魔道騎士団装備部の部長である。
彼は謁見の間に突き刺さった魔剣の調査を任されていた。
しかし、一週間が過ぎようとしているいまだに調査どころか、近寄ることすらできていない。
魔剣から展開された魔法陣は鉄壁の結界を作り出し、まるで見えない壁に囲まれているかのように人間を近づけるどころか風や炎すら完全に防いでいた。
「この魔法陣はどうなっているのだ?」
展開されている魔法陣の分析も進んでいない。
その場に描かれ、読み取れる文字で書かれているものの、分析できないのだ。
決定的な知識不足。
それは同じ言葉を使っているのに、高い知識を有した人間が学問について話すのを、何の学もない人々が理解できない状況に似ていた。
「……これは、賢者様が組まれていた術式に似ている気がするのですが……」
「うるさい!!」
近くにいた魔法使いの一人が声をかけるが、ウーゴは激しく拒絶した。
<そんなことは分かっている!だが、認めることはできん!>
彼の額から汗が流れ落ちる。
ウーゴ自身もその魔法陣が賢者ブリアックが使っていた術式に近いものであることは気付いていた。
それは彼が長年かけても解明できなかったものだ。
コピーすることはできても、応用はできず、何より対抗策を見つけることができていない。
つまり、彼がこの魔法陣の術式が賢者ブリアックと同等かそれ以上のものと認めてしまうと、ウーゴには読み解けず、解除することなど到底不可能なものだと認めてしまうことになる。
それは彼の破滅を意味していた。
自信満々に、冒険者からダンジョンコアの魔剣を取り上げても問題ないと言ったのはウーゴだ。
王城に施された魔法封じは完璧で、このように魔法陣が展開されるなどありえないはずだった。
たとえダンジョンコアが作り出したものであっても、十分に対抗でき、封じられる見込みがあった。
この王城に施されている魔法封じは、この国が建国された昔に捕えられた妖精の力を利用している。
今も王城の地下で生きている妖精は、大妖精に匹敵する強力なものだった。
どんな魔法であっても、完全に封じてしまう……はずだったのだ。
だからこそ、国王に魔剣を取り上げ、分析し、国防を強化することを提案したのに、それが完全に裏目に出てしまっている。
このままでは、ウーゴが首を切られるどころか、国益に反したとして一族郎党まで処刑されかねない。
<なぜ……>
やはりダンジョンコアは人間の法則を超えた存在なのだろうか?
「第二王子たちにかかっている呪いも、通常の解呪の魔法ではまったく効果がありませんね」
助手の一人が報告書を手渡してきたが、彼はそれを一目見ただけで放り出してため息を漏らした。
第二王子たちにかかっている呪いも問題だ。
それは間違いなく、魔剣による呪いだった。
あの謁見の後に開かれた祝宴で、第二王子フリアンと、その婚約者の公爵令嬢ソニア、そして男爵令嬢ロレーナの様子がおかしくなった。
彼らは嘘が付けなくなってしまったのである。
幸いなことに、自白の魔法ほどの効果はないらしく、嘘をつこうとしなければ真実を話したりはしない。
黙秘していれば影響はない。
だが、王子や貴族令嬢という立場では、それは致命的でもあった。
さらにこの呪いは彼らだけに留まらず、王城で生活している者たちに段々と広がっていっている。
いずれは王城すべてで嘘がつくことが不可能になるだろうと考えられていた。
すでに多くの貴族は王城内で口を開かず、無言で行動している。
どれほど影響があるのかが分からないため、適当な理由を付けて登城すらしなくなったものも多い。
今は何とかなっているが、いずれは国政に影響が出始めるだろう。
「魔道騎士団の全員の力を合わせて、解呪を試してみますか?これ以上時間をかけるわけにいかないでしょう?全員分の魔力を使った力業なら、なんとかなるかもしれませんよ?」
「……」
魔剣の近くで平気で話しているところからして、助手は本心から助言しているのだろう。
たしかに、それしか手がないかもしれない。
時間をかければかけるほど、致命的な状況になっていく。
解呪に失敗したところで、魔道騎士団の全員が一時的に魔力不足に陥るだけだ。試してみる価値はあるかもしれない。
「……やってみるか」
ウーゴは迷いながらも弱々しく呟いたのだった。
王城の謁見の間。
普段は煌びやかな調度品に囲まれ、鮮やかな衣装を着た貴族たちがいるなずの場所なのだが、今は地味な色のローブを纏った魔法使いたちがウロウロと歩き回っていた。
大理石の床の上には武骨な魔道具が置かれ、検査用の魔法の小さな魔法陣がいくつも輝いている。
「……なぜだ……」
呟いた男が見つめる先には、数メートルの大きな魔法陣が床の上で紅色に光っていた。
その中心には一本の魔剣が突き刺さっている。
彼の名はウーゴ・メラス伯爵。魔道騎士団装備部の部長である。
彼は謁見の間に突き刺さった魔剣の調査を任されていた。
しかし、一週間が過ぎようとしているいまだに調査どころか、近寄ることすらできていない。
魔剣から展開された魔法陣は鉄壁の結界を作り出し、まるで見えない壁に囲まれているかのように人間を近づけるどころか風や炎すら完全に防いでいた。
「この魔法陣はどうなっているのだ?」
展開されている魔法陣の分析も進んでいない。
その場に描かれ、読み取れる文字で書かれているものの、分析できないのだ。
決定的な知識不足。
それは同じ言葉を使っているのに、高い知識を有した人間が学問について話すのを、何の学もない人々が理解できない状況に似ていた。
「……これは、賢者様が組まれていた術式に似ている気がするのですが……」
「うるさい!!」
近くにいた魔法使いの一人が声をかけるが、ウーゴは激しく拒絶した。
<そんなことは分かっている!だが、認めることはできん!>
彼の額から汗が流れ落ちる。
ウーゴ自身もその魔法陣が賢者ブリアックが使っていた術式に近いものであることは気付いていた。
それは彼が長年かけても解明できなかったものだ。
コピーすることはできても、応用はできず、何より対抗策を見つけることができていない。
つまり、彼がこの魔法陣の術式が賢者ブリアックと同等かそれ以上のものと認めてしまうと、ウーゴには読み解けず、解除することなど到底不可能なものだと認めてしまうことになる。
それは彼の破滅を意味していた。
自信満々に、冒険者からダンジョンコアの魔剣を取り上げても問題ないと言ったのはウーゴだ。
王城に施された魔法封じは完璧で、このように魔法陣が展開されるなどありえないはずだった。
たとえダンジョンコアが作り出したものであっても、十分に対抗でき、封じられる見込みがあった。
この王城に施されている魔法封じは、この国が建国された昔に捕えられた妖精の力を利用している。
今も王城の地下で生きている妖精は、大妖精に匹敵する強力なものだった。
どんな魔法であっても、完全に封じてしまう……はずだったのだ。
だからこそ、国王に魔剣を取り上げ、分析し、国防を強化することを提案したのに、それが完全に裏目に出てしまっている。
このままでは、ウーゴが首を切られるどころか、国益に反したとして一族郎党まで処刑されかねない。
<なぜ……>
やはりダンジョンコアは人間の法則を超えた存在なのだろうか?
「第二王子たちにかかっている呪いも、通常の解呪の魔法ではまったく効果がありませんね」
助手の一人が報告書を手渡してきたが、彼はそれを一目見ただけで放り出してため息を漏らした。
第二王子たちにかかっている呪いも問題だ。
それは間違いなく、魔剣による呪いだった。
あの謁見の後に開かれた祝宴で、第二王子フリアンと、その婚約者の公爵令嬢ソニア、そして男爵令嬢ロレーナの様子がおかしくなった。
彼らは嘘が付けなくなってしまったのである。
幸いなことに、自白の魔法ほどの効果はないらしく、嘘をつこうとしなければ真実を話したりはしない。
黙秘していれば影響はない。
だが、王子や貴族令嬢という立場では、それは致命的でもあった。
さらにこの呪いは彼らだけに留まらず、王城で生活している者たちに段々と広がっていっている。
いずれは王城すべてで嘘がつくことが不可能になるだろうと考えられていた。
すでに多くの貴族は王城内で口を開かず、無言で行動している。
どれほど影響があるのかが分からないため、適当な理由を付けて登城すらしなくなったものも多い。
今は何とかなっているが、いずれは国政に影響が出始めるだろう。
「魔道騎士団の全員の力を合わせて、解呪を試してみますか?これ以上時間をかけるわけにいかないでしょう?全員分の魔力を使った力業なら、なんとかなるかもしれませんよ?」
「……」
魔剣の近くで平気で話しているところからして、助手は本心から助言しているのだろう。
たしかに、それしか手がないかもしれない。
時間をかければかけるほど、致命的な状況になっていく。
解呪に失敗したところで、魔道騎士団の全員が一時的に魔力不足に陥るだけだ。試してみる価値はあるかもしれない。
「……やってみるか」
ウーゴは迷いながらも弱々しく呟いたのだった。
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