転生?憑依? 中身おっさんの俺は異世界で無双しない。ただし予想の斜め上は行く!

くすのき

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13歳編〜もっともっーと漬物〜

草と漬物

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 顔に手を当て、気持ちを落ち着かせる。 
 もしかしたら今が緊急事態である可能性も万に一つ、いや一億分の一にもあるのかもしれない。
 表面上は友好の仮面を装着し、心の内は荒ぶる猛犬を秘めたまま、電飾を見上げる。

「まぁーまぁ。じーじぃ」
「!?」

 驚き振り向けば、此処にいる筈のないホムンクルスがそこにいた。その短い手足を一生懸命動かし、俺達に近付いてくる。
 これはいったいどういう事だ。
 疑問を込めてイーザ・ナァミを再度見上げれば、予想外だったのか彼も動揺を露わにしていた。
 そこから察するにイーザ・ナァミの差し金ではないのだろう。
 強い緊張感が大波となって打ち寄せた。
 此処はイーザ・ナァミの作成した精神世界だ。この場でもしホムンクルスが暴れでもしたら――。
 俺は慌ててホムンクルスを抱き上げた。

 
「イーザ・ナァミ様、この子は」
「……驚いた。其方、いつロセッティの双子以外に子を成したのだ?」
「成してねーし、その予定もないわ!!」
「ホホッ。安心せい。聖獣ジョークじゃ」
 
「安心せい、峰打ちじゃ」みたいに言うの止めろや。
 脳内でガンジーが助走をつけて殴りかかる姿を想像しつつ、こめかみに浮かんだ筋を鎮めんと努力する。
 というか何故呑気にしてられるのか。自分に主導権があるが故の自信か、それとも一周回っておかしくなったか。
 するとイーザ・ナァミは無駄に洗練された無駄のない、無駄なポージングを決めた後、俯せになった。そして豪快に笑う。

「其奴は聖獣コノハナサクヤビの魂と力を混ぜた作られた存在じゃろう」
「知って、――はい。この子は蛇の手によって作られたホムンクルスだそうです」
「あ、ちょっ、」

 俺から降りたホムンクルスが、トテトテとイーザ・ナァミに近寄る。

「じぃーじ」
「……その姿でも儂を覚えているのじゃな」

 僅かに眉尻を下げたイーザ・ナァミに、ホムンクルスは嬉しそうにくっついた。

「もしや聖獣コノハナサクヤビは貴方のお孫さんで」
「いや……其方達の言葉で表現するなら親族、じゃろうな。其方の傍からコノハナサクヤビの気配を感じ、確認を取りたくてつい呼びつけてしまった。すまなんだ」

 胸の奥がキュッっと締めつけられる。今の彼の心境は察するにあまりある。

「この子とはどのような経緯で其方と巡り合ったのか訊いてもよいか?」

 擦りつくホムンクルスを優しく撫でるイーザ・ナァミの声は僅かに震えていた。

「はい。けど彼とは俺も昨日が初対面でして、あまり語れるほどの情報はないのですが……」
「構わぬ」
「分かりました」

 俺は学園での幽霊騒ぎも交えて、昨日の経緯を語った。

「――というのが俺の知る全てです」
「なるほどのぅ」
「あの、今度は俺から宜しいでしょうか。この子は何故俺を母親と見ているのでしょう。パエラトン先輩、聖騎士を父親認定しているのも」
「あぁ、それは恐らく其方が儂の祝福を受けたからじゃろうな。儂ら聖獣はな、太古の昔はもっと数が多くての。次代が生まれる度、近くの聖獣が養父母として成長を見守る風習があったのだ」
「ではパエラトン先輩も、そういう理由で」
「確約は出来ぬがな」
「なるほ……ん?」

 そうなると祝福元であるイーザ・ナァミこそ母親枠ではなかろうか。

「じーじ。じーじぃ」

 ホムンクルスが構えとばかりにイーザ・ナァミの頬袋を突く。

「いたたた。これ、あまり強う突くでない。……そうだ、其方。此奴を皇都の連中に預けると言うておったな。出来ればそれは辞めたおいた方が良い」
「どうしてですか?」
「我ら聖獣はな、この世界において楔の役割も果たしておるからじゃ」
「楔?」
「すまんがそれ以上は語れぬ。だが聞く限り、大量殺戮兵器なぞ入れられた現状、奴等は一時の安全の為に此奴の命を奪うじゃろう。それは最も愚策じゃ」

 完全体ホムンクルスといっても、中身は聖獣コノハナサクヤビ。

「大変じゃと思うが此奴を頼む」
「――少し考えさせて頂けませんか。今の俺ではこの子を守るだけの力はありませんし、その、先ほど話した通り、いまレイフィスト学園も絶対に安全という訳ではないんです」
「そうか……」
「ですので」
「ならばその幽霊騒ぎと殺人事件を解決すれば良いではないか」
「いやそうじゃなくて」

 それが出来たら苦労しない。

「安心せい。儂も力を貸す。受け取れ」

 そう言うとイーザ・ナァミは、俺の掌大の光の珠を生み出し渡してくる。

「これは?」
「其方に必要な物じゃ。目覚めたら食すが良い。……そろそろ時間じゃな」
「え、あ、おいっ!」
「名残惜しいがさらばだ。――お主も母の言う事をきき、健やかに過ごすのじゃぞ」
「う!」

 ねぇ、何で勝手に話を纏めるかな?
 突っ込もうとした刹那、視界全体が、ぐにゃりと歪み、暗転する。そして――



「「ラシェ!」」
「セウグ君!?」


 美形三人のドアップが俺を待っていた。
 目覚めた意識が一瞬で遠くなる。

「大丈夫か、ラシェ」
「だいじょば、です。聖獣様に呼ばれてまし……ん?」

 ふと右手に違和感を覚え、それを眼前に持ってくる。





 聖草
 聖獣イーザ・ナァミ産聖なる草
 栽培方法については考えてはいけない
 とても強い神聖な力が宿っている

 イーザ・ナァミの伝言:生食でいけ




 ……どうしよう。嫌な予感しかしない。


「あー……取り敢えず何があったか説明しますね」

 先程のやり取りを全員に共有した後、俺達は食卓を囲む事にした。
 激マズのサラダを生食した俺は膝上のトレーに手を伸ばす。
 置かれているのは、サンドイッチに果物、アッサムのミルクティーだ。

 新鮮な野菜とハムを挟んだサンドイッチを口に入れる。本来は上記の味がする筈だが、今俺の口内は独特かつ強烈な風味が居座り、それらを凌駕する。
 例えるならゴーヤとピーマンとケール、セロリそれにウドを配合した青汁だ。
 ぎり飲めなくはないも決して進んでは口にしたくない、そんな味。

 次は何味の回復薬になるのか。
 魔力草の前例もあり、俺はそう睨む。

「ラシェ。本当に大丈夫?」

 何を食べても苦そうにする俺に、フラウディオが優しく気遣う。

「そうですね……遠乗りに出掛けようとして危うく落馬しかけそうになったくらい、といった感じでしょうか」
「つまり駄目寄りのギリセーフってことじゃねーか! 洗面器持ってくっか?」
「大丈夫、です。おえっ。聖獣様が手を貸してくださった以上、恐らくこれが何らかの活路にはなるはず。なので」
「分かった。下で整腸剤もらってくっから待ってろ」
「兄さん、水も忘れずに。ラシェ、ちょっと背中擦るね」
「君は私の所へおいで」
「う!」

 普段生徒会の仕事以外馴れ合わない彼等+αが怒涛の勢いで連携をとる。
 普段もそれくらい仲良くしてもらいたいものだ。介抱を受けながらそんな祈りを捧げていると、丁度おつかいに出ていた影が姿を現す。

「遅くなってしまい申し訳ございません」
「何か分かりましたか?」
「ハッ。実は――」

 影曰く、ステイル含め狗の隊員の安否に問題はなく、彼らは忽然と消えたホムンクルスの捜索に出ていたらしい。
 学園内殺人事件の方は被害者は二人。一人は警備隊の人間だそうだ。それぞれ別の場所で発見されたが、殺害手口は同一とのこと。順番は騎士科一期生、警備隊で、付近には大型の獣の足跡らしい血痕スタンプが複数あり、何方もそれは周辺で途切れ無くなっていたのだそうだ。
 しかも最悪な事に殺害時刻、両方とも防犯カメラは機器の故障により、何も録画されていなかったらしい。

「なんだよ、それ」
「兄さん……」
「それが蛇である可能性はあるのか?」
「いえ、私の方でも調査して参りましたがそのような痕跡や魔力は何も」
「手掛かり無し、か」

 重苦しい沈黙が降り注ぎ、外の音、寮生達の騒ぐ声が響いてくる。

「あ、あの。こんな時になんなんですが、俺ちょっと調合室行ってきていいですか」

 室内に何とも言えない空気が流れる。

「ねぇ、ラシェ。さっきより顔色悪そうだけど本気なの?」
「そんなに酷いですか?」

 他面々(ホムンクルス除く)が一斉に頷く。
 フラウディオから差し出された手鏡を覗けば、完徹二日目の草臥れた俺がいた。

「もう少し休んだ方がいいのではないかい? 君が倒れでもしたら私は、いや私達も気が気じゃない」
「それは……すみません。でも」
「分かった。ならさ、一回だけ試しにって約束しようか。もちろん途中で駄目だって判断したら強制的に休息を取ってもらう。それでどう?」
「はい!」

 俺は一、二もなく飛びつく。
 そして朝食後、俺はフェルディナントから輸送してもらい、調合室へ訪れた。

「到着したぞ」
「……ソウデスネ」
「ラシェ?」
「イエ、ナンデモアリマセン。運んで頂いてありがとうございます」
「おう」

 なんて輝かしい笑顔だろう。
 俺は13歳に運ばれてメッチャクチャ恥ずかしかったけども。

「では少々お待ちを。パエラトン先輩はその子を窓側に連れていって貰えますか。その、作成中の臭いは強烈ですので」
「分かった。ラシェル君もくれぐれも無理だけはしないでくれ」

 優しさと気遣いが五臓六腑に染み渡る。

「うー」
「ごめんね。火を扱うから少しだけそこで待ってて」
「……あい」

 不服そうに了承したホムンクルスに微笑みかえし、用意した材料と器具に向き直ること暫し――



 【ラシェルのポーションVer4】

 回復量はややすくない
 解呪に特化した聖力が割と含有
 回復薬として期待してはいけない
 幸運値の上昇(最高7まで)

 味を選択してください
 →沢庵
  柴漬け
  ぶぶ漬け
  福神漬け NEW!


「……………………こう来たかぁ」
「どうした!?」
「説明は後で。すみません、一本と約束しましたが、あと800本作らせてください。たぶんコレ陛下の解呪薬です」
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