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13歳編〜もっともっーと漬物〜
⑫
PM9:00。
ぶぶ漬けノルマを終え、膝にエェエを抱えた俺は正面に浮かぶ映像を眺める。
32型テレビほどはあろう空中照射型ディスプレイ。その中に汚いおっさんもとい、ブックルが映し出されている。
事情聴取の録画映像だ。
遅れて警官役、アルヴィスとその護衛騎士だろう音声も流れてくる。
それにジッと目と耳を傾け、精霊眼からの情報を読取る。
ブックル・ベイ・ゼルザア
大商人(40)
重度肥満
蛇の構成員
水質汚染の指示役
強姦魔
遅漏
18禁創作御用達モブ竿そのままの出で立ちに、本人もほぼそのままで俺は開いた口が塞がらない。
そっとエェエの視界を遮り、後方の仲間達へ向き直る。
「やはり彼が水源汚染の指示役であり、蛇の構成員です」
「そうなるとやはり別件逮捕して一度家宅捜索をかけてみるべきだな」
「であれば裏帳簿の捜索が一番妥当では」
六人の内の一人、フラウディオが淡々と意見する。
「セウグ君。そろそろエェエの抱っこを変わろう。君も今日は疲れただろう」
「あ、すみません」
ミカエラの好意に甘え、エェエを受け渡す。するとフェルディナントに預かってもらっていた従魔達が飛び乗ってくる。
ここのところエェエにお株を奪われていた反動なのか、二体は珍しく甘えたように喉を鳴らし、撫でろと腹と背中をみせる。
「なに、今日は甘えん坊だね」
「みにゃ」
「ピュイ」
「わり、ラシェ」
「いいえ。此方こそ面倒を見て頂いて有難うございます。――どうなりそうですかね」
「さーな。でもフラウもいるんだ。ゼッテー捕まえんだろ」
やがてどれだけの時間が経過したか。
フェルディナントが鼻提灯を割り、俺が従魔達の毛繕いを念入りに終えた頃、室内の空気が突如として冷え始めた。
「さむっ」
「暖房機器の故障?」
「いや待て。何か居る!」
ミカエラの声に弾かれ、その場にいた全員の視線が扉に移る。
「なんだありゃ」
「ゆ、幽霊?」
「……て……げ……に」
そこに居たのは足のない存在。
苦悶と悲壮、片言。それらが混ざり合った声が鼓膜を揺らす。
誰もが息を呑む。
幽霊の見た目が幼児化する前のエェエいやエフレンに驚くほど近く、雪のような真っ皿な色をしていた為だ。
白い幽霊はミカエラ、いやエェエにのみ視線を注ぎ、逃げろと繰り返す。
警戒態勢をとったミカエラが即座に光の盾を展開したものの、どうやらエフレン似の幽霊に攻撃の意思はないらしく、ただただエーちゃんに何かを伝えようと一生懸命言葉を紡ごうとしているようだ。
「先輩、エーちゃんを」
「ラシェ。あれが何か視える?」
「……駄目です。何も表示されません!」
「どうする? 前回と同じ奴なら魔法はほぼ効かねえぞ」
念のため俺達は一つに固まった。
隊列はミカエラ、その後ろに双子、アルヴィス、俺の順だ。
不気味なほどの静謐さが室内を満たし、俺なのか、フラウディオなのか、フェルディナントなのか、アルヴィスなのか、ミカエラなのか、それとも全員か。生唾を飲み込む音が鼓膜を揺らす。臨戦態勢に入っているのに、誰一人動けない。
やがて何かを伝えようとしていた幽霊が諦めたように口を閉ざす。
次は何をするのか。その一挙手一投足に六対の目が集中する中、肝心の幽霊は一度だけ緩く首を振った。縦ではなく横に。
そして気付く。
「体が透け始めてる!?」
幽霊の体は徐々に徐々に侵食を続け、やがて跡形もなくその姿を消す。
再び帰ってきた静寂に嫌なものを感じながら、それぞれが眉を顰めて全体を見渡した。そして危険はないと判断すると、誰ともなく肩の力を抜き――
「あ、いたいた」
談話室の扉が突如として開く。
その先にいたのは痩せぎすの青年。蜘蛛を思わせるフォルムをした、軽薄そうな雰囲気を漂わせた人だ。
その声に俺達は顔を見合わせる。
アイツ誰だ、と。
出で立ちは騎士とは程遠く、何条もの金属製の細帯が互いに重なりつつ編んだ鎖帷子の上に革鎧を纏った冒険者、戦士風の男だった。当然誰にも心当たりはない。
「誰だおま――」
「あーもう。なんで小さくなってんだよ。すげぇ探したんだぜー」
フェルディナントの言を遮った男は俺達など眼中にないようで、奴も幽霊同様、終始エェエから視線を外さない。
「貴様、何者だ! ここがレイフィスト学園教員寮と知っての狼藉か!」
「――はぁ? うっせーな雑魚」
怒鳴りつけた護衛に男は吐き捨てる。
「俺はねー、ソイツ迎えに来たの。大人しく引き渡してくれんなら……そうだな。お前は半殺しで見逃してやろーかな」
ようやっと男の目が俺達へ向いた。
だがその視線は纏わりつく蛇の如く、薄ら寒いものを感じさせる。
「っ、外の護衛は何をやっている!」
「あー呼んでも無駄無駄。面倒臭いから全員寝てて貰ってるんだよね。さ、お兄ちゃんと一緒に帰ろーぜ」
「……おにいちゃん?」
「や!」
通知音が鳴り、男の頭上に文字が浮かぶ。
シハルレイト
実験体No.4860110
種族:ホムンクルス
補足:ボブレを強姦した男
「……実験体ホムンクルス」
「――なんで知ってるわけ?」
「っ、」
「「ラシェ!」」
次の瞬間、シハルレイトなる男が縮地でも行ったように俺の目の前に立ちはだかった。
「どこで知ったのか教えてくれる~?」
言葉こそチャラい響きがあるものの、シハルレイトの瞳は冷たい光を宿している。
嘘を言ったら殺す。
そう言っているようだった。
「……その前に名乗るのが礼儀じゃないの」
「! く、あは、あはははは。良い、良いねぇ、その感じ。怖がってる癖して精一杯強がっちゃって――壊したくなる」
「っ、」
「させるか!」
シハルレイトの指が俺に触れると思われた時、アルヴィスの雷撃がそれを阻んだ。
「あっぶな!」
「ラシェ、こっち来い!」
「はっ、はい!」
「ん~。ラシェちゃんって言うんだぁ」
シハルレイトが飄々と笑う。
「残念。時間があれば遊びたかったけど――あ、でもこうすればいいじゃん!」
なにやら一人納得した彼が懐に手を入れて何かを取り出す。丸めた巻物だ。
「<転移門>」
言うやいなや俺達の前に、遊◯王カード裏面のような黒い渦が出現する。
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