悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ

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推しが推しでなくなる日

 午前の授業が終わり、みんなで食堂へ向かっていると。

「ロベリア」

 突然、ジョシュアに声をかけられ、それはもう、びっくりした。ただ、以前のようにドキドキすることはなかった。

「話があるんだけど、少し、いいかい?」

 今さら、何なのだろう。不安に思いつつ、ティナたちには先に行ってもらった。二人っきりになったところで、改めて問いかける。

「どんな話でしょう?」
「スカーレットのことなんだけど、」
 
 その前置きに、話を聞く前から疲れた。
 このところ、騒ぎを起こさなくなったと思っていたら。今度は、ジョシュアを手駒にしたらしい。

「スカーレットが、君からひどい嫌がらせを受けていると、泣いていたよ」

 それにほだされて、わざわざ、私に話をしに来たようだ。
 ジョシュアは、完全にスカーレットの味方。こちらが何を言っても無駄。期待もしない。とっくに諦めはついていた。だからって何を言われても、平気なわけではなかった。
 きちんと話をすれば、彼の誤解も解けるのだろうか。そんな考えが、頭をよぎる。

「ロベリア……君はどうして、スカーレットをそこまで嫌う? スカーレットを仲間はずれにしたりして。君は、スカーレットをいじめて楽しいのか!」
「ジョシュア、私はスカーレットをいじめてなんて、」

 私は、もう一度だけ話をしようとした。でも。

「君の言い訳は聞きたくない!」

 少しも聞いてもらえず、切り捨てられた。
 これには呆れるというよりも、思わず、笑いそうになった。
 そう望んでいるのは、スカーレットの方なんですけど⁉
 いっそ、ぶちまけてやりたかった。けど、ジョシュアには、私の言葉なんて届かない。そう思えて。誤解を解こうと考えた自分が、途端にバカらしくなってしまった。

 そこへ。
 
「いいかげんになさって!」

 現れたのはティナだった。

「黙って聞いていれば。ジョシュア様。あなたこそ、ロベリアをいじめているではありませんか!」

 ティナがジョシュアに詰め寄って行く。一方のジョシュアは、ジリジリと後ずさった。

「ロベリアの言葉を聞こうともせず、一方的に責め立てて、それがロベリアを傷つけていると、どうして気がつかないんです!」
「えっ……」
「ジョシュア様は、ロベリアがスカーレットさんをいじめているところを、実際に見たのですか?」
「それは、ないけど……スカーレットがそう言ってるんだ」
「あなたは、自分の目で見てきたロベリアよりも、スカーレットさんの言うことを、信じるのですか? それでは、言いなりではありませんか!」

 ティナは強い口調で言うと、とうとう、ジョシュアを壁際まで追いやった。

「そんな。僕は……」

 ジョシュアは、いつもとは違うティナに、まばたきをくり返している。

「ティナ。もういいの」

 食堂に行こうと、私はティナの腕を掴んだ。その手の上にティナが手を重ねてくる。

「いいわけがありません。友達が散々に言われているのに、わたくしだって、黙っていられませんわ!」

 ティナは私の手を離すと、再び、ジョシュアに詰め寄った。それは、もう、犯人を追い詰める刑事のように。

「そもそも、スカーレットさんは、自分で財布を落としたくせに、ロベリアに盗まれたなんて、平然と嘘をつく方ですのよ?」
「いや、あれは勘違いだったと、スカーレットは……」
「でしたら、トイレに閉じ込められたのも、悪口の手紙も、全部、勘違いだったと? ただの勘違いで、何の関係もないロベリアを、散々、犯人扱いしたと言うのですか? そんな人間を、ジョシュア様は信じるのですか!」
「でも、スカーレットが、」
「スカーレットの話では、ありません! あなた自身の話です‼」
「だけど……」
「言い訳は、もう結構。見損ないましたわ!」

 ぴしゃりと、ティナは言って、私の腕を引っ張った。そのまま、ずんずんずんずん、歩いて行って、かと思えば、ふと立ち止まった。

「ロベリア、大丈夫?」
「大丈夫。ありがとう、ティナ」

 でもと、ティナは声を小さくする。

「ロベリアは、ジョシュア様のこと、」

 好きなのでしょう。そう言いたげに覗き込んできたティナに首を振った。

「実を言えば、今はもう、なんとも思ってないの」

 これは本当のこと。
 ジョシュアがそこにいてくれるだけで、幸せだった。なんだったら、スカーレットとくっついても、彼が幸せならそれでよかった……でも、それは以前の話。
 ちらりと振り返れば、ジョシュアはまだあの場所でぽつんと突っ立っていた。
 
「ティナがあそこまで言ってくれて、スカッとした」

 これも本当のこと。
 ジョシュアと話している最中は、ずしりと重かった気分も、今はスッキリと清々しかった。ティナに詰め寄られてオロオロしていたジョシュアの顔も、思い出せば、ちょっと笑える。
 最推しだったジョシュアに嫌われた時は、本当に、人生が終わったと思えるほどだったけど。

「もう、大丈夫」

 私は、ティナの手を握り返して、食堂へ向かった。

 しかし。
 これで終わりではなかった。この一件には、意外な展開が待ち構えていたのだ。

 次の日。朝一番で、ジョシュアから謝罪があった。今までのことも含めて謝りたいと。ジョシュア曰く『ティナの言葉で目が覚めた』らしい。彼女の剣幕には、幼なじみの私でさえビビったけど。ジョシュアにはそれ以上の衝撃だったようだ。同時に、彼はスカーレットとも距離を置き始めた。

 そして、スカーレットから呼び出されたのは、この数日後のことだった。

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