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ざまぁされるのは、悪役令嬢とは限らない
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授業始めの鐘が鳴って、教室に入って来たのは、教科担当の教師ではなかった。
緊急事態が起きたため、授業は自習だと言う。ディランの件だろう。あれから彼はどうなったのか。少し不安はあったけど、バーノンの言葉を信じ、私は教科書を開いた。
しばらくしてスカーレットが、教室に戻ってきた。早々、私をにらみつけ、こちらへ突進してきた。
「……何したのよ!」
スカーレットが、バンと、机をたたく。クラスメイトの『またやってる』という、うんざり感の中、ルカだけが走ってきた。
「ロベリアに何かされたのか?」
「ロベリアの手下に襲われたの!」
「襲われた⁉」
「それなのに、ロベリアは何の罰もなし! 特権階級の圧力よ! 貴族の娘だからって、学校も忖度したに決まってるわ!」
ちなみに、すぐ側にいるルカも、ジョシュアも貴族の息子なんだけど。
「スカーレット、勝手なことを言わないで」
「何でよ⁉ あのおっさんは、あんたの家の召使いでしょ!」
「それは、あなたの思い込みじゃない。あの方は手下でも、うちの使用人でもないわ」
「嘘よ! そんなの、嘘に決まってるわ!」
そこで、教室のドアが開いて。
「何が嘘なんだ?」
その声とともに、教室に入ってきたのは、バーノンだった。「助けに来た」と、こちらへ歩いて来て、スカーレットと向き合った。
「あの男は、俺の護衛だ。もちろん、護衛の帯同は校長の承認を得てある。身元の保証もな」
「なんで?」
「ロベリアとお前が揉めていたので、一時的にロベリアを守るよう言っていたんだが。その護衛によると、先に手を出したのは、お前の方らしいな。ロベリアを突き飛ばし、さらには殴ろうとしていたとか」
「スカーレット⁉」
本当なのかと見返したルカに、
「し、知らないわ!」
スカーレットは、大きく首を振る。
「先日、お前が俺に言い寄ってきたのも、ロベリアへの嫌がらせだろう?」
バーノンのその言葉に、教室が再び、ざわついた。
「先生にも色目使ってるって」
「イケメンばっか、狙ってたしね」
「あの噂って、やっぱりホントなの?」
「マジかよ」
「一年の子をたぶらかして、貢がせてるんだって」
「聖属性の持ち主ってのも、嘘なんだろ」
教室中で、ひそひそと声がした。それは、SNSの炎上と似ていて、あっという間に広がっていく。
まるで不審者を見るみたいな眼差しに、あざ笑う声。それを振り払うように、
「嘘よ! 全部、嘘!」
スカーレットは、大きく叫んだ。
「嘘をついているのは、お前だろう。ロベリアが、俺の悪口を言っていた? ロベリアからいじめられている? ロベリアに嫌がらせをしているのは、お前の方じゃないのか?」
「う、嘘よ‼」
悲鳴に似た、一際、大きな声に、教室が静まり返った。
そこで「少し、いいかな?」と、ジョシュアが席を立って、スカーレットのところへ行った。
「ロベリアが僕のことを、プライドが高いだけの能無しナルシストだと言っていた。君は僕にそう言ったけど、どこでその悪口を聞いたんだい?」
「それは……」
スカーレットが言葉を詰まらせたすきに、
「私は言ってません!」
きっぱりと私は断言した。
すると、ジョシュアがこちらを振り向いて「うん」と、うなずいてくれる。
「よくよく思い返せば、僕は君とロベリアが一緒にいるところを、見たことがなかった」
「それは、その……ロベリアじゃなくて、別の誰かが言ってるのを、たまたま聞いたのよ!」
だったらと、私は教室を見回して、クラスの全員に問いかける。
「私がジョシュアの悪口を言っていたのを、聞いた人はいる?」
「噂でも、僕の悪口を聞いたことがある人は?」
ジョシュアも続けて尋ねた。
「聞いたことない」
「知らないわ」
「僕も」
あちこちから声がして、
「そんなの、誰もいないんじゃない?」
教室の後ろから、一際大きな声が上がる。そこには、以前から、スカーレットとは距離があったギャルのグループがたむろっていた。声を上げたのは、その中心人物。
「その子の言うことって、嘘ばっかでしょ!」
そう言って、彼女がクスクスと笑えば、一緒にいた子たちも笑い出した。
「ちやほやして欲しくてー、調子に乗ったんじゃない?」
「聖属性の持ち主だからって、ドヤ顔で転入してきたくせ、自分よりずっと優秀なロベリアがいたから焦ったんでしょ」
「ロベリアにばっかり、突っかかってたもんね~?」
グループで、どっと笑いが起きて。
「うるさい! モブは黙っててよ!」
スカーレットが、また机を叩いた。けれど、そんなことでギャルたちは、びくりともしない。
「モブ? 何それ、ひっどーい!」
一人が立ち上がれば、リーダー格の子は「フンッ」と、笑い飛ばした。
「私は、別に、通りすがりのモブで充分だけど? あんなやつの人生に、ガッツリ関わりたくもないし!」
「確かに~。スカーレットって、何かあった時は、全部、他人のせいにするしね~?」
「友達になったところで、何もかも押しつけられたんじゃ、たまったもんじゃないでしょ」
「ホント! 友達じゃなくてよかったわ」
キャハハハハと、笑う声が教室中に響き渡る。スカーレットは唇を噛んで、黙り込んだ。
このことがあって、スカーレットはすっかりおとなしくなった。ルカも他の男子も彼女からは離れ、スカーレットはクラスで完全に孤立した。
それからしばらくは、静かな日々が続いて。
そして、またも事件が起こった。
緊急事態が起きたため、授業は自習だと言う。ディランの件だろう。あれから彼はどうなったのか。少し不安はあったけど、バーノンの言葉を信じ、私は教科書を開いた。
しばらくしてスカーレットが、教室に戻ってきた。早々、私をにらみつけ、こちらへ突進してきた。
「……何したのよ!」
スカーレットが、バンと、机をたたく。クラスメイトの『またやってる』という、うんざり感の中、ルカだけが走ってきた。
「ロベリアに何かされたのか?」
「ロベリアの手下に襲われたの!」
「襲われた⁉」
「それなのに、ロベリアは何の罰もなし! 特権階級の圧力よ! 貴族の娘だからって、学校も忖度したに決まってるわ!」
ちなみに、すぐ側にいるルカも、ジョシュアも貴族の息子なんだけど。
「スカーレット、勝手なことを言わないで」
「何でよ⁉ あのおっさんは、あんたの家の召使いでしょ!」
「それは、あなたの思い込みじゃない。あの方は手下でも、うちの使用人でもないわ」
「嘘よ! そんなの、嘘に決まってるわ!」
そこで、教室のドアが開いて。
「何が嘘なんだ?」
その声とともに、教室に入ってきたのは、バーノンだった。「助けに来た」と、こちらへ歩いて来て、スカーレットと向き合った。
「あの男は、俺の護衛だ。もちろん、護衛の帯同は校長の承認を得てある。身元の保証もな」
「なんで?」
「ロベリアとお前が揉めていたので、一時的にロベリアを守るよう言っていたんだが。その護衛によると、先に手を出したのは、お前の方らしいな。ロベリアを突き飛ばし、さらには殴ろうとしていたとか」
「スカーレット⁉」
本当なのかと見返したルカに、
「し、知らないわ!」
スカーレットは、大きく首を振る。
「先日、お前が俺に言い寄ってきたのも、ロベリアへの嫌がらせだろう?」
バーノンのその言葉に、教室が再び、ざわついた。
「先生にも色目使ってるって」
「イケメンばっか、狙ってたしね」
「あの噂って、やっぱりホントなの?」
「マジかよ」
「一年の子をたぶらかして、貢がせてるんだって」
「聖属性の持ち主ってのも、嘘なんだろ」
教室中で、ひそひそと声がした。それは、SNSの炎上と似ていて、あっという間に広がっていく。
まるで不審者を見るみたいな眼差しに、あざ笑う声。それを振り払うように、
「嘘よ! 全部、嘘!」
スカーレットは、大きく叫んだ。
「嘘をついているのは、お前だろう。ロベリアが、俺の悪口を言っていた? ロベリアからいじめられている? ロベリアに嫌がらせをしているのは、お前の方じゃないのか?」
「う、嘘よ‼」
悲鳴に似た、一際、大きな声に、教室が静まり返った。
そこで「少し、いいかな?」と、ジョシュアが席を立って、スカーレットのところへ行った。
「ロベリアが僕のことを、プライドが高いだけの能無しナルシストだと言っていた。君は僕にそう言ったけど、どこでその悪口を聞いたんだい?」
「それは……」
スカーレットが言葉を詰まらせたすきに、
「私は言ってません!」
きっぱりと私は断言した。
すると、ジョシュアがこちらを振り向いて「うん」と、うなずいてくれる。
「よくよく思い返せば、僕は君とロベリアが一緒にいるところを、見たことがなかった」
「それは、その……ロベリアじゃなくて、別の誰かが言ってるのを、たまたま聞いたのよ!」
だったらと、私は教室を見回して、クラスの全員に問いかける。
「私がジョシュアの悪口を言っていたのを、聞いた人はいる?」
「噂でも、僕の悪口を聞いたことがある人は?」
ジョシュアも続けて尋ねた。
「聞いたことない」
「知らないわ」
「僕も」
あちこちから声がして、
「そんなの、誰もいないんじゃない?」
教室の後ろから、一際大きな声が上がる。そこには、以前から、スカーレットとは距離があったギャルのグループがたむろっていた。声を上げたのは、その中心人物。
「その子の言うことって、嘘ばっかでしょ!」
そう言って、彼女がクスクスと笑えば、一緒にいた子たちも笑い出した。
「ちやほやして欲しくてー、調子に乗ったんじゃない?」
「聖属性の持ち主だからって、ドヤ顔で転入してきたくせ、自分よりずっと優秀なロベリアがいたから焦ったんでしょ」
「ロベリアにばっかり、突っかかってたもんね~?」
グループで、どっと笑いが起きて。
「うるさい! モブは黙っててよ!」
スカーレットが、また机を叩いた。けれど、そんなことでギャルたちは、びくりともしない。
「モブ? 何それ、ひっどーい!」
一人が立ち上がれば、リーダー格の子は「フンッ」と、笑い飛ばした。
「私は、別に、通りすがりのモブで充分だけど? あんなやつの人生に、ガッツリ関わりたくもないし!」
「確かに~。スカーレットって、何かあった時は、全部、他人のせいにするしね~?」
「友達になったところで、何もかも押しつけられたんじゃ、たまったもんじゃないでしょ」
「ホント! 友達じゃなくてよかったわ」
キャハハハハと、笑う声が教室中に響き渡る。スカーレットは唇を噛んで、黙り込んだ。
このことがあって、スカーレットはすっかりおとなしくなった。ルカも他の男子も彼女からは離れ、スカーレットはクラスで完全に孤立した。
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そして、またも事件が起こった。
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