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カルセイニア王国編
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「もう、いつまでもそんな顔しないでよ」
「⋯⋯」
「前科があるんだから拗ねてもダメだよ」
街にお出掛けすることは許されたけれど、条件がウィルの手を離さないことだなんて⋯⋯自由に動けない。
別にウィルと手を繋ぐのことはいいの。
ただ姉としての威厳がね?
お父様なんて今回も迷子になったらしばらく外出禁止だ~とか言うし、お兄様なんて腰にロープを付ける!なんて言うし⋯⋯
前回、前々回と心配かけてしまったから仕方がない。そのせいで護衛も増やされたし今回は自由に動くのを諦めるしかない。
「美味し~い!ウィルも食べてみて」
今日は今までに行ったことのない人気のカフェで1番人気のパンケーキを注文した。
それがまた、ふわふわしっとりで口の中で溶けてしまう。生クリームもチョコレートもたっぷり、そしてパンケーキの周りには小さくカットされた色とりどりの果物が!
普通のショートケーキを頼んだウィルにもお裾分けよ!
「はい!あ~ん」
「あ~ん」
ウィルがいつものように食べたると周りが騒がしくなった。気がする。
この店は女の子ばかりだから話が弾んで賑やかにもなるよね。
私はこの国に来るまでカフェなんて行ったこともなかった。
前の学園のクラスメイトたちとは仲良く出来ていたとは思うけれど、気軽に何でも話せるような親しい人はいなかったな。
でもあの当時は淑女の仮面を外せなかったから⋯⋯本来の私でいられたのは邸の中だけだった。
「姉上どこに行こうとしてるの?ダメだよ」
「ちょっとだけ」
「ダメ。今日はカフェだけって約束だよ」
匂いに釣られてフラフラと屋台に吸い寄せられているとウィルに手を引っ張られた⋯⋯
「あっ」
少し前のめりに転びそうになったところを誰かに支えられた。
「弟の言うことは聞いておいた方がいいぞ」
聞き覚えのある声はフードの男性だった。
彼はそれだけ言ってすぐに去って行った。
偶然?たまたま?これで3度目だ。
顔を隠すようにフードを目深かに被っていて一件怪しそうな雰囲気だけど悪い人のようには感じない。
一瞬すぎてまたお礼が言えなかった。
⋯⋯でも何故ウィルが私の弟だって知っていたのだろう?⋯⋯不思議ね。
でも次こそは必ずお礼を言う!
密かにそう心に誓った。
でも、街に出かけるたびに遭遇するのは偶然だよね?⋯⋯ね?
実際にお礼が言えたのは随分時間が経ってからだった。
「お兄様、今日も1日お疲れ様でした」
「ベルはウィルがいなくて退屈しなかったかい?」
「うん大丈夫」
そうなのだ。先月からウィルは学院に通うようになったのだ。朝登校したら帰ってくるのは夕方になる。
最近は友人も出来たみたいで嫌がらずに行くようになった。最初は私が学院に通わないものだから散々駄々を捏ねていたものね。
「それに、デビュタントの準備で忙しくて⋯⋯」
この国では17歳になると年に数回王宮で開かれる夜会で王族に挨拶をしなければならないらしい。
秋は間に合わないから冬に調整したけれど、それでも準備に忙しいのだ。
考えても仕方のないことだけれど、もしお母様が生きていたら一緒に準備ができたのかな?って思ってしまう。
でも伯母様が何かとアドバイスをしてくれるから助かっている。
レフタルド王国では第一王子殿下の婚約者候補だからと礼儀作法やマナー、他国の歴史に言語まで身につけた。
それらを身につけることは決して無駄にならないと思ったから文句もなかった。
元々学習することは苦ではなく、この国カルセイニア王国に移住することは私たち家族の中では決定事項だったから⋯⋯(物心ついた時には決まっていたと思う)
いつか婚約者候補を辞退するのが分かっていた私が見目麗しいからといってラシード殿下に惹かれることはなかった。
まあ⋯⋯恐ろしい程の美貌を持つお父様とお兄様を見て育てば、多少の美形には免疫ができていたと言うのが一番大きいかもしれない。
それに彼は私のことが嫌いだったのだと思う。
何故だか分からないけれど、私は昔から人の悪意に敏感だったから⋯⋯
「⋯⋯」
「前科があるんだから拗ねてもダメだよ」
街にお出掛けすることは許されたけれど、条件がウィルの手を離さないことだなんて⋯⋯自由に動けない。
別にウィルと手を繋ぐのことはいいの。
ただ姉としての威厳がね?
お父様なんて今回も迷子になったらしばらく外出禁止だ~とか言うし、お兄様なんて腰にロープを付ける!なんて言うし⋯⋯
前回、前々回と心配かけてしまったから仕方がない。そのせいで護衛も増やされたし今回は自由に動くのを諦めるしかない。
「美味し~い!ウィルも食べてみて」
今日は今までに行ったことのない人気のカフェで1番人気のパンケーキを注文した。
それがまた、ふわふわしっとりで口の中で溶けてしまう。生クリームもチョコレートもたっぷり、そしてパンケーキの周りには小さくカットされた色とりどりの果物が!
普通のショートケーキを頼んだウィルにもお裾分けよ!
「はい!あ~ん」
「あ~ん」
ウィルがいつものように食べたると周りが騒がしくなった。気がする。
この店は女の子ばかりだから話が弾んで賑やかにもなるよね。
私はこの国に来るまでカフェなんて行ったこともなかった。
前の学園のクラスメイトたちとは仲良く出来ていたとは思うけれど、気軽に何でも話せるような親しい人はいなかったな。
でもあの当時は淑女の仮面を外せなかったから⋯⋯本来の私でいられたのは邸の中だけだった。
「姉上どこに行こうとしてるの?ダメだよ」
「ちょっとだけ」
「ダメ。今日はカフェだけって約束だよ」
匂いに釣られてフラフラと屋台に吸い寄せられているとウィルに手を引っ張られた⋯⋯
「あっ」
少し前のめりに転びそうになったところを誰かに支えられた。
「弟の言うことは聞いておいた方がいいぞ」
聞き覚えのある声はフードの男性だった。
彼はそれだけ言ってすぐに去って行った。
偶然?たまたま?これで3度目だ。
顔を隠すようにフードを目深かに被っていて一件怪しそうな雰囲気だけど悪い人のようには感じない。
一瞬すぎてまたお礼が言えなかった。
⋯⋯でも何故ウィルが私の弟だって知っていたのだろう?⋯⋯不思議ね。
でも次こそは必ずお礼を言う!
密かにそう心に誓った。
でも、街に出かけるたびに遭遇するのは偶然だよね?⋯⋯ね?
実際にお礼が言えたのは随分時間が経ってからだった。
「お兄様、今日も1日お疲れ様でした」
「ベルはウィルがいなくて退屈しなかったかい?」
「うん大丈夫」
そうなのだ。先月からウィルは学院に通うようになったのだ。朝登校したら帰ってくるのは夕方になる。
最近は友人も出来たみたいで嫌がらずに行くようになった。最初は私が学院に通わないものだから散々駄々を捏ねていたものね。
「それに、デビュタントの準備で忙しくて⋯⋯」
この国では17歳になると年に数回王宮で開かれる夜会で王族に挨拶をしなければならないらしい。
秋は間に合わないから冬に調整したけれど、それでも準備に忙しいのだ。
考えても仕方のないことだけれど、もしお母様が生きていたら一緒に準備ができたのかな?って思ってしまう。
でも伯母様が何かとアドバイスをしてくれるから助かっている。
レフタルド王国では第一王子殿下の婚約者候補だからと礼儀作法やマナー、他国の歴史に言語まで身につけた。
それらを身につけることは決して無駄にならないと思ったから文句もなかった。
元々学習することは苦ではなく、この国カルセイニア王国に移住することは私たち家族の中では決定事項だったから⋯⋯(物心ついた時には決まっていたと思う)
いつか婚約者候補を辞退するのが分かっていた私が見目麗しいからといってラシード殿下に惹かれることはなかった。
まあ⋯⋯恐ろしい程の美貌を持つお父様とお兄様を見て育てば、多少の美形には免疫ができていたと言うのが一番大きいかもしれない。
それに彼は私のことが嫌いだったのだと思う。
何故だか分からないけれど、私は昔から人の悪意に敏感だったから⋯⋯
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