【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana

文字の大きさ
11 / 30
カルセイニア王国編

11

しおりを挟む

カルセイニア国王、王太子殿下、王太子妃殿下、第2王子殿下。
今の王族はこの4人だ。
王妃様は今から6年前に亡くなったと聞いた。

お兄様は王太子殿下の後ろに控え、私と目が合うと無表情から一瞬だけ微笑んだ。その途端ホール中から令嬢たちの悲鳴が聞こえ、バタバタと倒れるような音も⋯⋯
そりゃあ黙って立っているだけで恐ろしいほどの美貌のお兄様の微笑みを見てしまえば、倒れる人が出ても仕方がない。
これ以上の被害が出る前にと失礼にならない程度の速さで挨拶を終わらせらた。

国王様の隣にいた一件穏やかそうに見える王太子殿下も、それだけの人ではないことは瞳を見ればわかる。その隣の妃殿下は外見は美しく優しそうに見えた。夫婦2人だけの時はまた違った顔をするのだろうと思う。

それと、第2王子殿下はよく分からない。⋯⋯眉間に皺を寄せてとっても不機嫌そうな顔をしていた。
確かまだ婚約者は決まっていないとか。
まあ、誰とも結婚する気のない私には関係ないこと。




私には結婚願望がない。

遠からずお兄様だって妻を迎える。ウィルだってそう。私は2人の幸せを心から願っている。
でも私だけは結婚しても幸せになれる未来が見えてこない⋯⋯それが何故だが分からないけれど確信がある。

「⋯⋯アーナ」

⋯⋯

「ベルティアーナ」

「え?ごめんなさい」

「体調でも悪い?」

「だ、大丈夫。少し考えごとしていただけ」

今考えることではなかった。
こんなところで隙を見せたらダメ。
足元をすくわれないように。
さあ、完壁な淑女の仮面を被りましょう。

「さすが王族の元婚約者候補だね。令嬢たちの目の色が変わった」

「それだけの教育は受けてきましたから」

そう、誰にも蔑まれないように、見下されたりもしないように、レフタルド王国ではウォール公爵家の名に恥じぬように、カルセイニア王国ではディスター侯爵家を継いだレックス兄様の顔に泥を塗らないように、その為ならはらは何枚でも仮面を被るわ。
本当の私を知るのは家族だけでいい。


それにしてもモルダー兄様と踊るのは安定感があって踊りやすい。

「楽しかった。また一緒に踊ろう」

あっという間に1曲目が終わった。
もう何時でも帰れる。そう思うより先に次の手が差し出された。
レックス兄様だ。

「レディ私とも1曲踊ってくれるかい?」

「もちろん!」

「こらこら仮面が剥がれているぞ」

危ない危ない。でもレックス兄様と踊るのなんて久しぶりだもの。仕方がないよ。
それにお兄様だっていつもは無表情が鉄板だってモルダー兄様が教えてくれたけれど、今は優しい眼差しになっていることに気付いている?

「ベルも大人の仲間入りだな」

「じゃあもう子供扱いしないでね」

「ん~それはまだ無理だな」

「え~」

「もっとベルを可愛がりたいからな」

もう!と怒ったふりをしたけれど、私だってレックス兄様にはもっと甘えたい。
やっと一緒に暮らせるようになったんだもの。

でも冷たい視線が一気に増えたように思う。
これは絶対に1人になったらダメなやつだ。

「ベル、この曲が終わったらモルダーと帰りなさい」

「ええ、分かっているわ」

このままここに居たら⋯⋯嫌な予感がするもの。

楽しい時間って早く過ぎちゃうのね。
もう終わってしまう。

それを見越してかモルダー兄様が近付いてきている。

「くれぐれも後は頼んだぞ」

「おう!任せとけ」

「レックスお兄様もお気を付け下さいね」

ジリジリと令嬢たちがお兄様を囲むように近付いてきているのが見えるもの。

でもそんなことは視界にも入らないようで、私に微笑んでからモルダー兄様に引き渡された。
退場するのに出口に向かって歩きだすと後ろか、女性の「キャッ」っていう悲鳴とグラスの割れる音が聞こえた。
巻き込まれたくはないので、聞こえなかった振りをしてホールをあとにした。

私とモルダー兄様が去ったあとには、濡れた衣装を着た男性に、冷たく見下ろされ、震える令嬢がいたとか⋯⋯
それを面白そうに見ている男たちがいたとかなんとか⋯⋯
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

素直になるのが遅すぎた

gacchi(がっち)
恋愛
王女はいらだっていた。幼馴染の公爵令息シャルルに。婚約者の子爵令嬢ローズマリーを侮辱し続けておきながら、実は大好きだとぬかす大馬鹿に。いい加減にしないと後悔するわよ、そう何度言っただろう。その忠告を聞かなかったことで、シャルルは後悔し続けることになる。

聖女が落ちてきたので、私は王太子妃を辞退いたしますね?

gacchi(がっち)
恋愛
あと半年もすれば婚約者である王太子と結婚して王太子妃になる予定だった公爵令嬢のセレスティナ。王太子と中庭を散策中に空から聖女様が落ちてきた。この国では聖女が落ちてきた時に一番近くにいた王族が聖女の運命の相手となり、結婚して保護するという聖女規定があった。「聖女様を王太子妃の部屋に!」「セレスティナ様!本当によろしいのですか!」「ええ。聖女様が王太子妃になるのですもの」女官たちに同情されながらも毅然として聖女の世話をし始めるセレスティナ。……セレスティナは無事に逃げ切れるのだろうか? 四年くらい前に書いたものが出て来たので投稿してみます。軽い気持ちで読んでください。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

婚約破棄の前日に

豆狸
恋愛
──お帰りください、側近の操り人形殿下。 私はもう、お人形遊びは卒業したのです。

処理中です...