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カルセイニア王国編
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しおりを挟むカルセイニア国王、王太子殿下、王太子妃殿下、第2王子殿下。
今の王族はこの4人だ。
王妃様は今から6年前に亡くなったと聞いた。
お兄様は王太子殿下の後ろに控え、私と目が合うと無表情から一瞬だけ微笑んだ。その途端ホール中から令嬢たちの悲鳴が聞こえ、バタバタと倒れるような音も⋯⋯
そりゃあ黙って立っているだけで恐ろしいほどの美貌のお兄様の微笑みを見てしまえば、倒れる人が出ても仕方がない。
これ以上の被害が出る前にと失礼にならない程度の速さで挨拶を終わらせらた。
国王様の隣にいた一件穏やかそうに見える王太子殿下も、それだけの人ではないことは瞳を見ればわかる。その隣の妃殿下は外見は美しく優しそうに見えた。夫婦2人だけの時はまた違った顔をするのだろうと思う。
それと、第2王子殿下はよく分からない。⋯⋯眉間に皺を寄せてとっても不機嫌そうな顔をしていた。
確かまだ婚約者は決まっていないとか。
まあ、誰とも結婚する気のない私には関係ないこと。
私には結婚願望がない。
遠からずお兄様だって妻を迎える。ウィルだってそう。私は2人の幸せを心から願っている。
でも私だけは結婚しても幸せになれる未来が見えてこない⋯⋯それが何故だが分からないけれど確信がある。
「⋯⋯アーナ」
⋯⋯
「ベルティアーナ」
「え?ごめんなさい」
「体調でも悪い?」
「だ、大丈夫。少し考えごとしていただけ」
今考えることではなかった。
こんなところで隙を見せたらダメ。
足元をすくわれないように。
さあ、完壁な淑女の仮面を被りましょう。
「さすが王族の元婚約者候補だね。令嬢たちの目の色が変わった」
「それだけの教育は受けてきましたから」
そう、誰にも蔑まれないように、見下されたりもしないように、レフタルド王国ではウォール公爵家の名に恥じぬように、カルセイニア王国ではディスター侯爵家を継いだレックス兄様の顔に泥を塗らないように、その為ならはらは何枚でも仮面を被るわ。
本当の私を知るのは家族だけでいい。
それにしてもモルダー兄様と踊るのは安定感があって踊りやすい。
「楽しかった。また一緒に踊ろう」
あっという間に1曲目が終わった。
もう何時でも帰れる。そう思うより先に次の手が差し出された。
レックス兄様だ。
「レディ私とも1曲踊ってくれるかい?」
「もちろん!」
「こらこら仮面が剥がれているぞ」
危ない危ない。でもレックス兄様と踊るのなんて久しぶりだもの。仕方がないよ。
それにお兄様だっていつもは無表情が鉄板だってモルダー兄様が教えてくれたけれど、今は優しい眼差しになっていることに気付いている?
「ベルも大人の仲間入りだな」
「じゃあもう子供扱いしないでね」
「ん~それはまだ無理だな」
「え~」
「もっとベルを可愛がりたいからな」
もう!と怒ったふりをしたけれど、私だってレックス兄様にはもっと甘えたい。
やっと一緒に暮らせるようになったんだもの。
でも冷たい視線が一気に増えたように思う。
これは絶対に1人になったらダメなやつだ。
「ベル、この曲が終わったらモルダーと帰りなさい」
「ええ、分かっているわ」
このままここに居たら⋯⋯嫌な予感がするもの。
楽しい時間って早く過ぎちゃうのね。
もう終わってしまう。
それを見越してかモルダー兄様が近付いてきている。
「くれぐれも後は頼んだぞ」
「おう!任せとけ」
「レックスお兄様もお気を付け下さいね」
ジリジリと令嬢たちがお兄様を囲むように近付いてきているのが見えるもの。
でもそんなことは視界にも入らないようで、私に微笑んでからモルダー兄様に引き渡された。
退場するのに出口に向かって歩きだすと後ろか、女性の「キャッ」っていう悲鳴とグラスの割れる音が聞こえた。
巻き込まれたくはないので、聞こえなかった振りをしてホールをあとにした。
私とモルダー兄様が去ったあとには、濡れた衣装を着た男性に、冷たく見下ろされ、震える令嬢がいたとか⋯⋯
それを面白そうに見ている男たちがいたとかなんとか⋯⋯
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