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カルセイニア王国編
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ふぅ~⋯⋯扇で隠して溜め息をつくぐらいは許して欲しい。
「ねえ、聞いていますの?」
「ディスター侯爵様を紹介してくれとお願いしているだけですのよ?」
「わたくしは弟のウィルダー様でもよろしくてよ」
お互い淑女の仮面を被り、傍から見れば仲良く会話をしているように見えているでしょうけれど、内容はこんなものだ。
「兄と弟の紹介ですか⋯⋯困りましたわね」
「困ることはないですわよ」
「簡単ですわ。わたくし達を貴女のお友達だとお2人と会わせてくれればいいだけですのよ」
「「そうよ!そうよ!」」
もう何度目か分からない溜め息が出てしまう。
「紹介と仰れても⋯⋯皆様のお名前すら知りませんのに、どう紹介すればよろしいのかしら?」
そうなのだ。
この方たち、初対面にも関わらず名乗りもしていないのだ。
まあ、1度でも紹介してしまうと同じようなお願いは後を絶たなくなるのは確実だから聞く気はないけれどね。
「!!わたくし達を知りませんの?」
「失礼ですわよ!」
失礼なのはどっちだろう?
このような方たちを紹介するつもりはない。
紹介したところで、レックス兄様もウィルも彼女たちを選ぶことはないだろうね。
この王国の貴族名鑑に記載されている家門や家族構成なら既に記憶済みだ。
レフタルド王国いた当時なら名前さえ分かれば家同士のお付き合いすら拒否する失礼レベルだ。
何でこんなことになっているかと言えば⋯⋯
この卒業パーティーの開会の挨拶でお祝いの言葉を述べてくれたのは王太子殿下だった。
美貌のレックス兄様にエスコートされて、このホールに入場した時から令嬢たちの熱い視線はレックス兄様に向けられていたのには気付いていた。
そんな視線に慣れている兄様に言わせれば、『無表情で反応を示さなければ誰も近寄って来ない』と言っていたけれど⋯⋯若さ故と言うべきか、恐れ知らずと言うべきか、私とファーストダンスを踊り終えるなり、令嬢たちに囲まれた。
それでも経験の差かレックス兄様はウィルと違って令嬢たちに囲まれても捌くのが上手く私の傍を離れなかった。のだけれど⋯⋯ここで王太子殿下が暇をしていたのか私たちに声を掛けてきたのだ。
「やあ!君がレックスが誰よりも大切にしているベルティアーナ嬢だね」
誰よりもって⋯⋯
確かにレックス兄様にお付き合いしている女性は居ないと聞いていたけれど、私は妹だし家族を大切にするのは当然では?
「王太子殿下にご挨拶申し上げます。ベルティアーナ・ディスターと申します。お目にかかれて光栄でございます」
ラシード殿下の元婚約者候補だった時の教育で培ったカーテシーでご挨拶させていただいた。
「ああそんなに畏まらないでいいよ。それよりも私とも1曲踊ってくれないか?」
これは断れないやつだ。
「はい。喜んで」
こうしてレックス兄様から離れることに⋯⋯
さすが王族と言うべきかリードが上手くとても踊りやすかった。
「君はラシード王子に未練はないの?」
突然こんなことを聞かれた。
「はい。まったくございません」
「レフタルド王国の王妃になれたかもしれないのに?」
「私には務まりませんわ」
「そうか⋯⋯もう1つ聞いてもいいかな?」
「はい」
「君には気になる人はいるかい?」
「それは異性で、と言うことでしたらいません」
「⋯⋯そうか」
「私には結婚願望というものがありません。それに父も兄も無理に婚姻を押し付けることはないと言ってくれています」
「そうか⋯⋯まだ18歳だろ?これからの人生の方が長いんだ。この先好きな人が出来るかもしれないし、運命の出会いがあるかもしれない。⋯⋯その時は自分の気持ちに正直になればいいと思うよ」
「⋯⋯分かりましたわ」
こうしてダンスを踊り終えた途端、令嬢たちに取り囲まれたのだ。
「わたくし達とお話しませんか?」
「ディスター侯爵令嬢とお友達になりたいわ」
魂胆が見え見えだったけれど私も友達は欲しい。と、レックス兄様に目配せして彼女たちとの会話に臨んだのだ。
結局は無駄な時間になってしまったけれど、1人だけ心配そうに私を見つめる令嬢がいるのが目に入った。
「ねえ、聞いていますの?」
「ディスター侯爵様を紹介してくれとお願いしているだけですのよ?」
「わたくしは弟のウィルダー様でもよろしくてよ」
お互い淑女の仮面を被り、傍から見れば仲良く会話をしているように見えているでしょうけれど、内容はこんなものだ。
「兄と弟の紹介ですか⋯⋯困りましたわね」
「困ることはないですわよ」
「簡単ですわ。わたくし達を貴女のお友達だとお2人と会わせてくれればいいだけですのよ」
「「そうよ!そうよ!」」
もう何度目か分からない溜め息が出てしまう。
「紹介と仰れても⋯⋯皆様のお名前すら知りませんのに、どう紹介すればよろしいのかしら?」
そうなのだ。
この方たち、初対面にも関わらず名乗りもしていないのだ。
まあ、1度でも紹介してしまうと同じようなお願いは後を絶たなくなるのは確実だから聞く気はないけれどね。
「!!わたくし達を知りませんの?」
「失礼ですわよ!」
失礼なのはどっちだろう?
このような方たちを紹介するつもりはない。
紹介したところで、レックス兄様もウィルも彼女たちを選ぶことはないだろうね。
この王国の貴族名鑑に記載されている家門や家族構成なら既に記憶済みだ。
レフタルド王国いた当時なら名前さえ分かれば家同士のお付き合いすら拒否する失礼レベルだ。
何でこんなことになっているかと言えば⋯⋯
この卒業パーティーの開会の挨拶でお祝いの言葉を述べてくれたのは王太子殿下だった。
美貌のレックス兄様にエスコートされて、このホールに入場した時から令嬢たちの熱い視線はレックス兄様に向けられていたのには気付いていた。
そんな視線に慣れている兄様に言わせれば、『無表情で反応を示さなければ誰も近寄って来ない』と言っていたけれど⋯⋯若さ故と言うべきか、恐れ知らずと言うべきか、私とファーストダンスを踊り終えるなり、令嬢たちに囲まれた。
それでも経験の差かレックス兄様はウィルと違って令嬢たちに囲まれても捌くのが上手く私の傍を離れなかった。のだけれど⋯⋯ここで王太子殿下が暇をしていたのか私たちに声を掛けてきたのだ。
「やあ!君がレックスが誰よりも大切にしているベルティアーナ嬢だね」
誰よりもって⋯⋯
確かにレックス兄様にお付き合いしている女性は居ないと聞いていたけれど、私は妹だし家族を大切にするのは当然では?
「王太子殿下にご挨拶申し上げます。ベルティアーナ・ディスターと申します。お目にかかれて光栄でございます」
ラシード殿下の元婚約者候補だった時の教育で培ったカーテシーでご挨拶させていただいた。
「ああそんなに畏まらないでいいよ。それよりも私とも1曲踊ってくれないか?」
これは断れないやつだ。
「はい。喜んで」
こうしてレックス兄様から離れることに⋯⋯
さすが王族と言うべきかリードが上手くとても踊りやすかった。
「君はラシード王子に未練はないの?」
突然こんなことを聞かれた。
「はい。まったくございません」
「レフタルド王国の王妃になれたかもしれないのに?」
「私には務まりませんわ」
「そうか⋯⋯もう1つ聞いてもいいかな?」
「はい」
「君には気になる人はいるかい?」
「それは異性で、と言うことでしたらいません」
「⋯⋯そうか」
「私には結婚願望というものがありません。それに父も兄も無理に婚姻を押し付けることはないと言ってくれています」
「そうか⋯⋯まだ18歳だろ?これからの人生の方が長いんだ。この先好きな人が出来るかもしれないし、運命の出会いがあるかもしれない。⋯⋯その時は自分の気持ちに正直になればいいと思うよ」
「⋯⋯分かりましたわ」
こうしてダンスを踊り終えた途端、令嬢たちに取り囲まれたのだ。
「わたくし達とお話しませんか?」
「ディスター侯爵令嬢とお友達になりたいわ」
魂胆が見え見えだったけれど私も友達は欲しい。と、レックス兄様に目配せして彼女たちとの会話に臨んだのだ。
結局は無駄な時間になってしまったけれど、1人だけ心配そうに私を見つめる令嬢がいるのが目に入った。
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