最初からここに私の居場所はなかった

kana

文字の大きさ
69 / 73
オーギュスト王国編

69

しおりを挟む
「あ、あなた、な、何を言っていますの?」

ドドラー伯爵に問うビアンカの声は震えている。
そりゃあ、突然ビアンカ本人と娘のべティーを拒絶されたのだから当然か。

「私はお前など知らない。なぜお前が私の妻を装っている? お前は私に何をしたんだ? 私のとった言動はすべて記憶にある。私の自由と行動を奪ったのはお前だ!もう一度聞くお前は私に何をした?⋯⋯お前は何者なんだ?」

『どういうことだ?』

『洗脳でもされていたと言うのか?』

『確かにさっきまでのドドラー伯爵とは別人だわ』

周囲の注目のなか、ドドラー伯爵家劇場はまだまだ続きそうだ。いつ終わるのだろう?

「あ、あなた⋯⋯」

「やめろ!このっ、このっ、魔女めが!」

ビアンカが震えながら伸ばした手をドドラー伯爵は払いのけた。
今にもビアンカに殴りかかりそうだ。

「ひっ」

これ、本当にどうなるの? 新年の祝いどころじゃないのでは?

何とか言い逃れしようとするビアンカと、怒りの表情で怒鳴り続けるドドラー伯爵。べティーはキョロキョロと周囲を見渡し⋯⋯泣き真似をすることに決めたようだ。
ただ、そんなワザとらしいべティーに手を差し伸べる者はいない。

「ふっ、これで終わりだな」

ドドラー伯爵家劇場に見入っていた私は、隣にいるクロイツ殿下が何を呟いたのかは、よく聞き取れなかった。


そこへ⋯⋯


「何を騒いでいる」

陛下だ。私だけでなく会場にいる貴族のほとんどが、王族方の入場に気付かなかった。
慌てて臣下の礼をとる。

「⋯⋯ドドラー伯爵か。この騒ぎはなんだ?誰か説明しろ」

もう、何がなんだか原因が色々ありすぎて上手く説明出来るものはこの中にはいないのだろう。

「ドドラー伯爵よ申してみよ」

陛下に問われた伯爵は怒りは収まらないものの、何とか言葉を紡ぐが本人もよく分からない部分も多く、上手く説明ができないようだった。が、陛下は『魅了の魔法だな』と言い切った。

「ドドラー伯爵は聞き取りのため別室へ、その母娘は地下牢へ連れて行け」

それを聞いたべティーは逃げ出そうとホールを猿のように走り回り、ビアンカはヒステリーに叫んで暴れていた。
⋯⋯逃げられる訳がないのに。あまりにも必死なのが滑稽で申し訳ないけれど笑いが込み上げてくる。もちろん顔には出さないわよ。

結局、あっさりと捕まり騎士に引き摺られながら連れて行かれた。

やはり『魅了の魔法』だったのかとスッキリしたのと、彼女たちと二度と会うことはないと言う開放感と安心感からか体が軽くなった気がした。

⋯⋯前回、私が処刑されたのは『魅了の魔法』を使えるべティーが望んだから⋯⋯
だから私の処刑を喜んで見ていた皆んなは悪くなかったんだ⋯⋯なんて思わない。
だって痛みも屈辱も恐怖も忘れることが出来ないのだから。

静まり返るホール。

それでも陛下の言葉で新年の夜会が始まった。

ヒソヒソとさっきの出来事を話し合う人たちもいれば、ホールの中央で何事もなかったかのようにダンスを踊る人たちもいる。

⋯⋯でだ、いつクロイツ殿下は離れてくれるのだろうか?
てか、何しにこの国に来ているのだろうか?

「クロイツ殿下?そろそろ離して欲しいのですが?」

「⋯⋯」

「聞こえないふりはやめて下さい」

「ぷはっ⋯⋯リリーシアは相変わらず面白い顔をしてるな」

はあ!

「怒るなって、ほら踊るぞ」

私の返事を聞く前に、腰を抱かれたままホールの中央に移動させられた。
まあ、クロイツ殿下と踊るのは別にいい。
なんてったって、小さい頃から私のダンスの練習相手はクロイツ殿下だったから慣れたものだ。目を瞑っていても踊れる自信があるわね。

ただね⋯⋯気付かない振りをしていたけれど、クロイツ殿下が現れてからワーグナー先生の目が、クロイツ殿下から離れていない。
まさか、ワーグナー先生一目惚れしちゃった?

だからか、クロイツ殿下の隣にいる私は睨まれている。

確かにワーグナー先生なら年齢的にはつり合うと思うけれど、子爵家の令嬢では無理がある。
クロイツ殿下自身は身分の差など気にもしないだろうけれどね。

それでも、クロイツ殿下が選ぶ相手がワーグナー先生だったら嫌だな。と、なんとなく思ってしまった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をしてきた婚約者と私を嵌めた妹、そして助けてくれなかった人達に断罪を。

しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーで私は婚約者の第一王太子殿下に婚約破棄を言い渡される。 全て妹と、私を追い落としたい貴族に嵌められた所為である。 しかも、王妃も父親も助けてはくれない。 だから、私は……。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました

山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。 王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。 レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。 3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。 将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ! 「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」 ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている? 婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?

【完結済】25年目の厄災

恋愛
生まれてこの方、ずっと陽もささない地下牢に繋がれて、魔力を吸い出されている。どうやら生まれながらの罪人らしいが、自分に罪の記憶はない。 だが、明日……25歳の誕生日の朝には斬首されるのだそうだ。もう何もかもに疲れ果てた彼女に届いたのは…… 25周年記念に、サクッと思い付きで書いた短編なので、これまで以上に拙いものですが、お暇潰しにでも読んで頂けたら嬉しいです。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

比べないでください

わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」 「ビクトリアならそんなことは言わない」  前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。  もう、うんざりです。  そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……  

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

【改稿版】光を忘れたあなたに、永遠の後悔を

桜野なつみ
恋愛
幼き日より、王と王妃は固く結ばれていた。 政略ではなく、互いに慈しみ育んだ、真実の愛。 二人の間に生まれた双子は王国の希望であり、光だった。 だが国に流行病が蔓延したある日、ひとりの“聖女”が現れる。 聖女が癒やしの奇跡を見せたとされ、国中がその姿に熱狂する。 その熱狂の中、王は次第に聖女に惹かれていく。 やがて王は心を奪われ、王妃を遠ざけてゆく…… ーーーーーーーー 初作品です。 自分の読みたい要素をギュッと詰め込みました。

処理中です...