最初からここに私の居場所はなかった

kana

文字の大きさ
10 / 72

10

しおりを挟む
すりすり⋯⋯すりすり⋯⋯しっとりしてて柔らかくてすべすべで気持ちいい~
あまりの気持ち良さに嫌がらせのことはすっかり頭から抜けていた。けれど、時間が経てば冷静にもなる。ヨダレを擦り付けられているのにクロイツ殿下は文句どころかピクリとも動かないことに違和感が⋯⋯恐る恐る頬を離しクロイツ殿下を見ると⋯⋯

!!
か、顔が怒りで真っ赤になっているではないか!それほどまで怒らせてしまったのか!

「あ、あのリリーシア様⋯⋯そ、そのへんで⋯⋯」

そ、そうね。私も調子に乗りすぎたわ。

「ご、ごめんなしゃい」

うっ、反応しない⋯⋯
一応もう一度謝っておくか。

「ごめんなしゃい」

「⋯⋯あ、謝らなくていい。怒ってなどいない」

そ、そう?なら気にするのはやめるね。

「だが、罰として毎週ここ王宮に通うならには問わないとしよう」

「え?いや」

つい口から本音がポロリと溢れた。
そして、クロイツ殿下のこめかみに青筋が立った⋯⋯

「わかったな?」

「⋯⋯」

控えていた従者の方と王宮侍女に助けを求めても、首を振って拒否されてしまった⋯⋯

「わかったな?」

「あい~」

半泣きだよ!
必殺幼児の無垢な瞳でうるうると見つめてもクロイツ殿下には通じなかった⋯⋯
ふっ、と片口角が上がった彼が悪魔に見えた。

こうして問答無用で私の王宮通いが始まったのだ。
それがまさか、オーギュスト王国に帰る日まで続くとは、この時の私は知らない。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「リリーシアは王宮でクロイツ殿下と何をしているの?」

「おかちたべてる」

「それだけ?」

「おちゃものんでりゅ」

「⋯⋯それだけ?」

「あい」

本当にそれだけなんだよ。
毎回、王宮の馬車が迎えに来てくれて、到着するとクロイツ殿下が待っていて、抱っこされるんだよ。
お茶の席には、日によっては陛下や王妃様が居たり、王女様が居たりするしとても可愛がってくれているけれど、クロイツ殿下の膝の上が定位置なだけに動けないんだよね。

この間は一般に解放されている庭園を抱っこしたまま案内してくれたのよね。
ガルシア公爵家の庭園も手入れが行き届いていて素晴らしいけれど、やっぱり王宮はひと味もふた味も違ったわね。

あれ?もしかして⋯⋯私、王宮内を自力で歩いたことがない?
あ~もしかしなくてもそうだ。

次回からは自分で歩くって言おう。
私だっていつまでも幼児な訳じゃないもんね。
それに、クロイツ殿下に抱っこされた私へのお姉様方の視線が痛かった。
そりゃあそうだよね。
クロイツ殿下= 次期国王。
その伴侶に選ばれれば王妃の地位が約束されたも同然だもの、令嬢たちが狙わないわけがない。
今は婚約者がいないクロイツ殿下だけど、そろそろ相手を決めなきゃならないものね。

でも、お姉様方冷静になって?
私、幼児だよ?ライバルにもならないよ?
それに他国の令嬢だよ?
邪魔なんてしないから皆さん頑張って!

だいたいクロイツ殿下なんて腹黒、眼中に無いもの!

だから皆さん応援するよ!

そう思っていたのに⋯⋯
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

婚約解消したら後悔しました

せいめ
恋愛
 別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。  婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。  ご都合主義です。ゆるい設定です。  誤字脱字お許しください。  

全てがどうでもよくなった私は理想郷へ旅立つ

霜月満月
恋愛
「ああ、やっぱりあなたはまたそうして私を責めるのね‥‥」 ジュリア・タリアヴィーニは公爵令嬢。そして、婚約者は自国の王太子。 でも私が殿下と結婚することはない。だってあなたは他の人を選んだのだもの。『前』と変わらず━━ これはとある能力を持つ一族に産まれた令嬢と自身に掛けられた封印に縛られる王太子の遠回りな物語。 ※なろう様で投稿済みの作品です。 ※画像はジュリアの婚約披露の時のイメージです。

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。 婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。 そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!? え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!? ※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。 ※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

陛下を捨てた理由

甘糖むい
恋愛
美しく才能あふれる侯爵令嬢ジェニエルは、幼い頃から王子セオドールの婚約者として約束され、完璧な王妃教育を受けてきた。20歳で結婚した二人だったが、3年経っても子供に恵まれず、彼女には「問題がある」という噂が広がりはじめる始末。 そんな中、セオドールが「オリヴィア」という女性を王宮に連れてきたことで、夫婦の関係は一変し始める。 ※改定、追加や修正を予告なくする場合がございます。ご了承ください。

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

【完結済】25年目の厄災

恋愛
生まれてこの方、ずっと陽もささない地下牢に繋がれて、魔力を吸い出されている。どうやら生まれながらの罪人らしいが、自分に罪の記憶はない。 だが、明日……25歳の誕生日の朝には斬首されるのだそうだ。もう何もかもに疲れ果てた彼女に届いたのは…… 25周年記念に、サクッと思い付きで書いた短編なので、これまで以上に拙いものですが、お暇潰しにでも読んで頂けたら嬉しいです。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

愛は見えないものだから

豆狸
恋愛
愛は見えないものです。本当のことはだれにもわかりません。 わかりませんが……私が殿下に愛されていないのは確かだと思うのです。

処理中です...