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ウインティア王国編

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毎朝エリーの到着を待って、馬車から降りてくる笑顔のエリーと手を繋いで教室まで歩いて行く。
これが俺の日課になった。

移動教室の時なんかは、エリーの方から手を繋いでくる時もある。

俺たちはトイレ以外の移動は手を繋いでいるし一緒にいる。
もう学園の生徒たち公認の恋人みたいじゃないか?

遠巻きにエリーを見てコソコソと話していた令嬢たちも今はその数も減ってきた。
中にはまだエリーを睨む者もいるが、エリーはまったく気づいてもいない。



あれからも毎日エリーは弁当を作ってきてくれる。
アイツらの分までだがな!
エリー1人では持てない量だから、アランがほとんどを持っている。

エリーが持っているのは、俺とエリーの分だけだ。
俺がエリーの特別だと自惚れてしまいそうになる。


あの時、俺の思いを伝えて諦めると決めたはずなのに、エリーがまた俺の隣で笑ってくれている。
それが俺にとってどんなに嬉しくて幸せなことかエリーは思いもしないんだろうな。

もうエリーを諦めることは出来そうにない。

また告白してダメだったら・・・

それでも諦めるなんてことは出来ない。
何度でも思いを告げる。
必ずエリーを俺に振り向かせる。

ただ、告ようにもアラン、レイ、ガルザークがいつも側にいるんだよなあ。
学園でも、ウォルシュ家に訪問している時でも。



それなら王宮ならどうだ?
そうだ!エリーを王宮に誘えばいいんだ!
何で俺はそんな簡単なことも思いつかなかったんだ?
エリーなら誘ったら断ったりしないはずだ。




エリーの弁当も食べ終わり、レイがみんなにお茶を入れてくれる。
一息ついたところで切り出した。

「エリー、次の休みだが予定はあるのか?」

「何も予定は入っていないけど、どうしたの?」

「じゃあ王宮に遊びに来ないか?」

なんだ?みんな変な顔になっているぞ。

「・・・・・・・私、王宮への出入りを禁止されたの・・・忘れたの?ルフラン?」

ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ・・・忘れてた。
エリーのこめかみに青筋?

ゾルティーもアランも首を横に降っている。
俺を助ける気はなさそうだ。

「あ!あの時の令嬢はウォルシュ嬢だったのか!」

ガルザーク何うんうん頷いて1人でスッキリした顔をしてるんだよ!


「エ、エリー!ちょっと2人で話そうか」

エリーは眉間にシワが入っているが、席を立ってくれた。

今の状況に満足し過ぎていて忘れていた。
何て言えばいいんだ?

あの時の俺は素直になれなかったんだよな。
それでテンパって口から出た言葉が『お前なんか嫌いだ!2度と王宮に来るな』だった・・・過去の俺何やってんだよ!

おい!側近候補の2人もそんな目で俺を見るな!

エリーに手を差し出すと、口を尖らせながらも手を繋いでくれた。


俺がエリーを連れてきたのは、学園内にある王族専用の個室だ。
個室といってもかなり広い。
今までも雨の日などはここでランチを食べている。

とりあえずエリーをソファに座らせた。
まだエリーは口を尖らせている。
この顔も可愛いんだよな。
違う!今は見とれている場合じゃない。

「あ~・・・何を言っても言い訳になるのだが、あの時の俺はすでにエリーのことが好きで・・・何とかエリーに俺を見て欲しくて・・・それなのに緊張して上手く話せなくて・・・それで・・。エリーごめんなさい」
潔く頭を下げた。

何も言わないエリーが気になって顔を上げると、エリーが笑っていた。

笑うところなんてあったか?

「エ、エリーそれで出入り禁止は本気じゃなかったんだ。だから来てくれないだろうか?俺はエリーともっと一緒に過ごしたい」

ここだ!
もうここしかない!
俺の気持ちを伝える。

「俺は初めて会った時からずっとエリーが好きだったんだ。エリーじゃなきゃダメなんだよ。どんな事をしてでも必ず幸せにする。俺にはエリーが必要なんだ。エリーのことが本当に好きなんだ。俺と婚約して欲しい。そしてエリーの気持ちが俺に向いたら結婚して欲しい」

エリーが席を立って俺の前に立った。

「俺は何度エリーに断られても諦めないからな!何年でも待つからな!」

俺がエリーを見上げる形になる。
エリーが俺が勘違いしそうな、バーベキューの時のような目で見つめてくる。

「ルフラン、私もルフランが好きよ」

今のは聞き間違いか?

「アトラニア王国で貴方と過ごした3ヶ月間の思い出を大切に生涯生きていくつもりだったの」

本当に?エリーも俺を思ってくれていたのか?

「カトルズ公爵家に跡継ぎが生まれた時、1番最初に思ったことは、"あなたを諦めなくてもいいかもしれない"だったの、私はルフランあなたが好きよ」

そう言ったと思ったら、俺の瞼にキスをしてくれた。

「もう泣かないの」

困ったような顔で笑うエリー。

また俺はエリーの前で泣いてしまったのか?

でも仕方がないだろ?
何年も思い続けたエリーが、1度は諦めたエリーが、俺を好きだと言ってくれたんだ。
嬉しくて、嬉しくてどう表現していいのか分からない。

何も言えない俺をエリーが抱きしめてくれた。

「ルフランが私にだけ甘えるところも、あなたの温かい手も、表情は変わらないのに口の端が上がるところも大好きよ」

夢じゃない。
俺の顔は今、エリーの香りがする暖かくて柔らかなエリーの胸に包まれている。

エリーにまた会うことが叶って、当たり前に手を繋げられるようになって、また手料理まで食べることが出来て、こんな幸せはないと思っていたのに、それ以上の幸せがあるなんて俺は知らなかった。
これを何て言えばいいんだ。


「ルフランこっちを見て」

エリーを見上げると、ゆっくりと綺麗な顔が近づいてきて俺の唇にキスを落とした。
初めて知る柔らかい感触。


エリーが離れていく。
目の前には照れた顔で笑って「私の初めてのキスなんだからね。感謝してね」自然と手がエリーを抱き寄せた。「俺も初めてだ。もっと」と強請ってしまった。
何度も角度を変えて繰り返すキスに理解した。


「エリー愛している」

「私も・・・愛しているわルフラン」

それからもエリーと何度もキスをするうちに、自然と俺の舌がエリーの小さな唇の中に入っていく。一瞬エリーの身体が強ばった気がしたがエリーは受け入れてくれた。
もっと!もっと!と遠慮なく深くなる口付け。それに答えてくれるエリー。

なぜか俺の手はエリーの胸に自然と手が伸びていた。

「まだそこまでは許していないわ」

顔を赤くして怒った顔のエリーに頬を摘まれて我に返った。
男の本能って・・・

「ごめんなひゃい」

慌てて謝るが手に感触が残っている。

「これ以上はダメよ。私は結婚するまでは綺麗な身体でいたいんだからね」

「分かっている。卒業したらすぐに結婚しよう」

思いが通じ合ったんだ。
一日でも早くエリーを俺だけのものにしたい。

「私は浮気は許さないし、ルフランが他の誰かに触れるのも嫌なの。ルフランを私だけのものにしたいの。こんなに嫉妬深くてごめんなさい」

「浮気なんてする訳が無い。俺はキスもそれ以上も初めては全部エリーがいい。伽教育も本で説明を受けただけだ。生涯エリーだけだと誓うよ。だから結婚して?エリー愛しているんだ」

エリーを見つめて懇願する。

「そんな可愛い顔でお願いされたら断れないわ」

「ありがとう、エリー本当にありがとう」

嬉しすぎる!
思わずキツく抱きしめてしまった。

「まだ両親の了承も取っていないから婚約はまだ出来ないわよ?」

「大丈夫だ!俺が何とかする」

「来月には両親も帰ってくるからもう少し待っててね?・・・ルフラン待てるわよね?ランでも待てるわよ?」

ランでも待てるだと?
それを言われると無理を通せなくなるじゃないか。

「それでも俺の両親には伝えてもいいだろ?」

「ええ、反対されないといいのだけれど・・・」

珍しいエリーの自信のなさそうな顔も可愛くてまたキスしてしまう。

「安心してくれ。エリーほど王太子妃に相応しい令嬢はいないよ」

エリーと会話を続けながらも軽いキスと深いキスを繰り返す。

本当にこれからもずっとエリーといられる。

両親に早く知らせたくて早退しようとした俺にエリーの拳骨が頭に落とされた。

うん、分かったよ。
エリーは怒ると手が出るんだな。
もう怒らせない・・・と思う。

おかげで少し冷静になれたが、早く国中にエリーが俺の婚約者だと自慢したい。


ウォルシュ夫妻、早く帰ってきてくれ。
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