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9.魔術師、引っ越しをする
気付いてたの、とジャフィーが尋ねると、アリとミトの双子は顔を見合わせて、「「当たり前でしょう」」と声を揃えて言った。
「近衛では賭けになってました、貴方がいつ気づくのか気づかないのか。あ、ちなみに俺は『言われるまで気付かない』に賭けてたんで、儲けさせてもらいましたね。ありがとうございます」
「最悪すぎる情報だなそれ、俺にもマージンがあるべきじゃない?」
「勘弁してくださいよ、一番人気でほぼバックないんですから」
「より最悪な情報来た! ……ミトもまさか賭けてたとか言わないよね?」
「私はそもそも参加権を持ち合わせていなかったので。……賭けるなら、兄と同じところに賭けたと思いますが」
「……そういや君、気付いてるっぽいこと言ってたな……」
というか、王の恋路(?)を賭けの対象にする近衛って大丈夫なんだろうか。ルグレアもしかして舐められる? 全員シメないとダメなんじゃない? 不穏な方向に流れかけるジャフィーの思考を、アリの冷静な問いが遮る。
「それで、どうするんですか?」
「どうする、って?」
「これからですよ。後宮に引っ越してくるんですか?」
「そりゃまあ、そうするしかないよね。王命だし。従うしかないじゃん」
「子作りも?」
「そういうことになるのかなあ……。まあ、ルグレアが欲しいものなら、なんであってもあげたいし、俺は」
「……いいんですか、それで」
なんだか妙に食い下がるな、と、ジャフィーは軽く眉を寄せた。
「だから、いいもなにも、逆らえないんだって」
「いやだから、そうじゃなくて……流石に、なにかないんですか?」
「何かって?」
何を聞かれているのかわからない。少しばかり苛立った口調になるジャフィーに、『大丈夫かこいつ』という顔になってアリは尋ねた。
「十年来の付き合いの相手に告白されたんですよね? イエスとかノーとかあるんじゃないですか、普通は」
「……あー……」
なるほど、そういう視点か。ジャフィーは軽く頬を掻いた。
「俺、正直よくわかんないんだよね。好きとか嫌いとか。そもそも、性欲みたいなものがほとんどないから」
「……もしかして、愛のこと性欲だと思ってます?」
「いや、さすがにそれは違うと思うけど。でもまあ、性欲の宛先を選り好みするモノだとは思ってるかも?」
性欲がイコールで愛なら、娼館が蔓延る理由がわからなくなってしまう。けれども、性欲が愛のうちかなりの部分を占めるとも思っている。愛や恋っていうのはつまり、魔術師みたいに『生殖』に大義名分がないもののために、生殖と性欲をコーティングしたものだと思うから。
……なんて言ったらきっと、二人の視線は、より冷たいものになるのだろう。流石にそれぐらいはわかったので、ジャフィーはひらひら手を振って言った。
「ともかく、俺には性欲も愛もあんまり持ち合わせがないからさ。ルグレアがやりたいならいいんじゃない、としか言えないというか。嫌じゃなかったし。……それに、子どもを作るって話も、よく考えたら、俺にとって好都合な気がするし」
「好都合?」
ミトがすこし、警戒するような声を出す。『あなたの考えはまるで信用できない』と思っている声だ。そんなことないのになあ、と悲しくなりながらジャフィーは頷く。
そして言う。
「俺の望みは、たったひとつ。ルグレアの願いを叶えること。ルグレアに、『大陸統一』をさせることだよ」
それこそが、ルグレアの野望。ルグレアとジャフィーが二人で抱いた夢だ。
「帝国内の再統一は完了したから、残るは北方の二国だけだ。でも、今のルグレアは、積極的に仕掛けていく気はないみたいだから」
「……もしかして、あれ、わざとだったんですか? 戦を吹っ掛けられるために『竜殺しの剣』を取りに行ったって??」
「いやあ、あの剣が欲しかったのもほんとだよ? ……ついでに戦が起こってもいいとは思ってたけど」
「最悪すぎる……」
ミトが愕然とした声を出し、ジャフィーは『てへぺろ』みたいな顔で舌を出す。もちろん効果はない。ミトの批難するような視線を無視してジャフィーは続ける。
「でも、あれがルグレアに怒られたってことは、ルグレアは今は機じゃないと思ってるってことだから……じゃあ、国内の問題を片付けてからってことなのかなと思って。で、その問題の中には、当然、後継問題も含まれるでしょ? ひとりの跡継ぎも居ない状態で、ルグレアが戦で死んだなら──この国は、五年前のクーデターなんて比じゃない大混乱に陥るはずだ。それだけは避けたい。だから戦はできない。単純な理屈だ」
ルグレアが慎重になっていた理由がわからず、勝手に他国に喧嘩を売りに行くなんて無茶をしたりもしたが、原因が明らかになれば対処も可能だ。ジャフィーはあっさりと「だからさ」と笑った。
「ルグレアの大陸統一に子どもが必要で、ルグレアが俺にそれを産ませたいっていうなら、俺に断る理由はないよ。スペアも含めて二人は欲しいかな? 産んでやってもいいと思ってる」
にこにこ笑いながらそんなことを言うジャフィーに、アリとミトが『こいつなにもわかってないのでは』という顔を見合わせる。ジャフィーは別に構わないと思う。
別に――愛なんてわかってなくたって、子どもを作ることは、できるのだ。
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