当方天才魔術師、推しを王にしたら、何故か溺愛監禁孕ませ展開になった件

逢坂常

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11. 魔術師、首輪をつけられる

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「ああ、そうだ、これ」

 と言ってルグレアが何かを投げてきたのは、ぐったりとしたジャフィーがどうにか体を起こしたときだった。
 金の鎖だ。
 繊細に編まれた鎖の先に、赤い宝石を中心にしていくつか宝石が並べられた、精巧な細工がついている。鎖も細工もあきらかに年代物で、宝石の純度と大きさから見ても、相当に値が張る代物であることがひと目でわかった。
 その宝石が、何らかの魔術──後宮と同じ、古く得体の知れない魔術を帯びているということも。
 
「……これ、もしかして……」
「流石に知ってたか。王妃のための装身具のうちひとつだよ」
「いやいやいや、なにさらっととんでもないこと言ってんの、なんでそんなもの投げてよこすの!?」
「なんでって……お前にやるからだよ。法改正に手間取りそうでな、正式にお前を王妃に迎えるのは、もう少し先になりそうだ。だからその詫びだよ、詫び」
「詫びって言われてもな……?」

 ジャフィーはそもそも『王妃になりたい』なんて爪の先ほども思っていないわけだし、詫びられる理由はひとつもない。それでなくてもこんな大層なもの、貰ったところでどうしろというのだ。ジャフィーは寝台の上に転がる首飾りをつんつん突いた。
 改めて見れば、見間違えようもない。結婚とともに王妃に贈られる冠・首飾り・指輪の三点のうちひとつ、紅玉の首飾りがこれだった。値が張るどころか、値がつけられないような代物である。ジャフィーはてのひらの上に首飾りを載せ、しげしげそれを眺めて顔を顰めた。
 
「……これ、普段はつけてなくてもいいんだよね?」
「なんでだよ。つけてろよ。前の王妃だってつけてただろ」
「いやだってこれ、見るからに曰く付きっていうか……魔術かかってるよこれ。気付いてる?」
 
 ジャフィーが言うと、ルグレアが笑う。

「知らねえわけねえだろ、王家の備品だぞ」
「備品……いやまあそうなんだけど……」
「てか、お前でもわかんねえの? 何の魔術がかかってるのか」
「ここまで古いと見ただけじゃ無理だよ」

 王妃のものなのだから、守護かなにかなんじゃないか、という予測ぐらいはたつが、根拠はない。呟きながら、中央の石がよく見えるように持ち上げる。
 金細工はずしりと重たく、一際大きな宝石は赤く、目に刺さるぐらいに鮮烈な色をしている。

「いいだろ、その赤」
「へ?」
「お前の色だ」

 ルグレアがジャフィーの髪を掬って、同時に、ジャフィーの瞼に唇を落とす。なるほどたしかに、ジャフィーの髪と瞳は赤色だが──と、ジャフィーは益々顔をしかめた。

「えー、こんな綺麗な色してないでしょ。もっと暗いよ俺の髪は」

 戦場で相対した相手などには『不吉な血の色だ』と称されることも多い、深い紅である。適当なことを言うなと憤慨すると、ルグレアはきょとんと首を傾げた。赤なら全部一緒とでも思っていそうな顔だ。
 
「そうか?」
「そうだよ。大雑把すぎ。赤って言っても千差万別でしょ。……この石は、どっちかというと」
 
 石を持ち上げる。
 光を受けて、色が変わる。赤と橙の間の色だと思う。鮮やかな、炎のような色だ。
 炎の赤。ジャフィーを、一番安心させてくれる色──……
 
「……、……まあ、」
 
 ジャフィーはきゅっと石を握った。
 この石の色は悪くない、とジャフィーはあっさりと思い直した。悪くない色だ。だから。
 
「……あんたが言うなら、貰っておいてもいいし、つけといてあげてもいいけど」
 
 へ、と、ルグレアが、拍子抜けしたみたいな顔をする。どう言いくるめるかを考えていたのかもしれない。ジャフィーはつんと唇を尖らせた。
 
「お詫び、なんでしょ。そういうものを受け取らないほど狭量じゃないよ」
「おお……そうか……? よし、じゃ、つけてやるから、外すなよ」
「ん」
 
 気が変わる前にとでも言いたげに、ルグレアはそそくさと金の鎖を手にとって、ジャフィーの首へと回しかける。ジャフィーの赤く長い髪を左右にわけて、小さな金具をぱちんと留める。
 首に、少しだけ重さがかかる。
 身につけてしまえば、首飾りに込められた魔術への違和感は、不思議なぐらいにするりと失われていった。寝台の脇の巨大な姿見へと己の姿を映す。その首元に赤い石が光っているのを見る。
 首輪みたいだな。
 そう思ったら勝手に言葉が出ていた。

「あのさ、ルグレア」
「なんだ?」
「俺はさ、ルグレアのものだよ」

 ジャフィーはここから出られなくて、だから、この首飾りをつけていたところで、見せる相手など誰もいない。王妃の証が本来持つ機能、貴族たちや他の愛妾たちに対する権威のみせつけみたいな役目は必要ないのだ。
 それなのにルグレアがこの首飾りを寄越した理由はなんだろう。そう考えたら、どうしてか、言っておかなければならないような気がしたのだ。

「結婚なんかしなくても、俺はずっと、ルグレアのものだよ。ルグレアの願いを叶えるものだ」
「……それは、俺を愛してるってことでいいか?」
「それはわかんないけど」

 アリあたりがこの会話を聞いていたら、『なんでそこで素直に頷く可愛げがないんですか』と呆れたかもしれない。あいにく『可愛げ』はジャフィーから最も遠くにあるものだ。大きな赤から視線を外し、ジャフィーは漆黒の男をまっすぐに見る。

「わかんないけど、ルグレア、ルグレアがそれを望むなら、俺はルグレアを『愛してる』ってことでもいいよ。ルグレアとするのは気持ちがいいし、ルグレアの子どもを産んだっていい。それを、ルグレアが望むなら」

 ジャフィーの言葉に、ルグレアは、わずかに目を細めた。

「……それは、俺が『王』だからか?」
「は?」
「お前は俺の願いを叶える。それはいい。それじゃあお前は俺に、お前の『王』に、一体何を望むんだ?」
「何、って」

 何を聞かれているのかわからかなった。だからジャフィーは、アリとミトに答えたままを繰り返す。

 
「俺が願うのはひとつだけだよ。ルグレアが、ルグレアの願いを――その大望を――大陸統一を、叶えることだけだ。あんなの願いが、俺の望みなんだよ」

 
 ルグレアがその願いを口にしてから、ジャフィーの世界を拓いてから、ジャフィーの願いはそれだけだ。ルグレアは「……そうか」と小さく、なにか諦めたみたいに呟いて、ぐりぐりとジャフィーの頭を撫でた。
 そのせいで、ルグレアの表情は見えなかった。
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